一千一秒物語 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101086019

感想・レビュー・書評

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  • 稲垣足穂(1900~77年)氏は、大阪市生まれ、神戸市育ち、中学卒業後飛行士を目指して上京するが、強度の近視のために叶わず、高校卒業後、佐藤春夫の弟子となり、1923年に『一千一秒物語』を出版。その後も、天体や科学文明の利器を題材にした超現実派(シュルレアリスム)的な異色の作風が、モダニズムの最先端として注目を浴びたが、まもなくアルコール、ニコチン中毒で創作不能となり、貧窮、無頼の生活を続けた。第二次世界大戦後、創作を再開すると、自伝的・哲学的な傾向を強め、少年愛のテーマを扱った『少年愛の美学』で日本文学大賞(1968年)を受賞し、若者たちの間でタルホ・ブームとなった。師の佐藤春夫のほか、芥川龍之介、星新一、伊藤整、三島由紀夫ら、幅広い文壇人から評価される、近代日本文学史上、稀な存在である。また、松岡正剛は、書評サイト「千夜千冊」で『一千一秒物語』を取り上げ、「ぼくの青春時代の終わりに最大の影響を与えた」と、最大級の賛辞を送っている。
    私が稲垣足穂の名前を知ったのは、20年近く前に、書評家・岡崎武志の『読書の腕前』で引用されていた、三省堂編集部編『本と私』に収められた、画家/装幀家・司修の一編を読んだときである。そこには、司が若き日に桃源社(出版社)の会計係のおばさんと交わした、おばさん「『ユリイカ』という雑誌、読んだことある?」、司「いいえ」、お「古本屋で見つけて読んでごらんなさい。きっと好きになる人がいますよ」、司「そうですか」、お「稲垣足穂は?」、司「知りません」、お「きっと好きになりますよ」という、おばさんの「しびれるような伝導ぶり」が書かれている。それ以降、足穂のことはずっと気になっていたのだが、基本的に新書やノンフィクションを好む嗜好性から、手に取ることはなく、今般読んでみた。
    表題作は、数行~数ページの超短編小説・詩のような作品70編を自選した作品集で、大半は人と月や星を巡る、無機質でシュールなものである。当時、異色の作品として注目されたのは頷けるが、正直なところ私には強く惹かれるものはなかった。
    本書には、表題作のほか、「黄漠奇聞」(1923年)、「チョコレット」(1922年)、「星を売る店」(1923年)というファンタジック(この場合、「シュール」との区別は微妙である)な作品、「天体嗜好性」(1926年)、「弥勒」(1940年)、「美のはかなさ」(1952年)という自伝風の作品、「彼等」(1946年)、「A感覚とV感覚」(1954年)というエロティシズムを扱った作品の全9編が収められているが、私が面白いと感じたのは、エキゾティックな「黄漠奇聞」と小洒落た「星を売る店」の2編である。(途中で読むのを止めた作品もある)
    私は(上述の通り)基本的にノンフィクションを好むため、小説でも、現実からの乖離が大きいものの面白さがあまり感じられないのだが、足穂の作品の多くは、その「超現実性」に魅力があると言われている以上、残念ながら合わなくて仕方がないのかも知れない。
    好みの分かれる作家・作品と思われる。
    (2023年3月了)

  • 標題作の一千一秒物語は、ぽんぽんと浮かんできたものがそのままあるような。尻切れトンボのような話も多いが、それが余韻を感じさせてくれるようですごくいい。ビールの話や月を掲げる話が特に好き。
    後の話は標題作を説明しているみたいだけど、文学的読解力はないので、正直よくわからない。

  • 「一千一秒物語」は素直に感動した。何というか、安部公房的では全然ないんだけど、僕の中で2人はかなり特殊な位置付けにいる、という点では似てるかもしれない。というか僕が詠む短歌の目指すテイストは既に「一千一秒物語」の中で完結しているのかもしれない。

    「黄漠奇聞」はボルヘスの『アレフ』に入っていてもまったく違和感のないくらい、非日本文学的というか、国内には他に類を見ない作風。ボルヘスのことは知っていたのだろうか?もしかしたらこの2人も近い場所を目指したのかもしれない。

    「チョコレット」が最高。ムーミンっぽさもあるなあ。上の作品たちもそうだけど、「詩の言葉」で小説が紡がれてる。この感覚が気持ちいいという点では村上春樹的なのかなあ。もし僕が同じ設定で「チョコレット」の物語を書くなら、グッドフェロウが変身したチョコレットのようなものを主人公に食べさせていたと思う。

    「星を売る店」も魅力的ではある。だけど実はこの辺から文章が難しくなってきて、ちゃんと小説らしい小説の文体になってしまったから少し残念だった。この話に出てくるようなコンペイ糖を口に入れたらたちまち理解できるようになるのか知ら。でもそれじゃ魅力が消えてしまうかも。

    「弥勒」は、五十六億年後の未来都市に弥勒菩薩が下生する話かと思ったら、ぜんぜんそうではなかった。登場人物も入り組み始めてくる。

    「美のはかなさについて」と「A感覚とV感覚」なんかは、(特に後者は)文は読めても彼の思想が分かることは正直なかった。だけど、彼なりの美学や理念みたいなことが熱を持って語られているのは良かった。そういう強い考えみたいなのがないと、ここまでの文章は綴れないと思う。

  • なんたる世界!言葉の無限の可能性。
    どこかで宇宙と繋がってる。

  • 短編9つ。「一千一秒物語」ショートショート。月が頻繁に出てくる。アンデルセンの「絵のない絵本」を思い出した。哲学的な内容が多く、文章も読みづらく何度か挫折しかけた。2021.6.7

  • 稲垣足穂 「 一千一秒物語 」表題ほか短編集。

    読み手の時間感覚を解放するのがうまい。時系列より永劫回帰(同一の状態を永遠に反復) を重視している〜一つのシーンで 一人の人間の現在と幾世紀後の姿を描いたりする。


    著者が「六月の夜の都会の空」と表現した 宇宙的郷愁(都会的、世紀末的、未来的な情緒)が 時間感覚の解放に役立っている。

    理解できたか不明だが、短編小説「弥勒」 エッセイ「美のはかなさ」は 面白い。有名な「一千一秒物語」は 擬人化した月や星をどう捉えるのか わからなかった。


    弥勒は 著者の自伝的要素(貧乏地獄経験と終末思想)が面白い。貧乏地獄に耐えるための名言も多い。美のはかなさは 美の壊れやすさをテーマとしたエッセイ。


    名言「美は一切か無かの性格を持つ〜完成されたものは さらに手を加えると 元も子もなくなる際どさを持ち〜積み上げでなく不可解な創造的飛躍によって出来ている」




    貧乏地獄に耐える名言
    *手段が尽き果てた時こそ 人間は最もよく生きている
    *物質、精神とも 常に最少限度にとどめる習慣をつけること。とどめるべく絶えず念じる



    美の はかなさ
    美的なもの=はかなさ+虚無性
    *美的なものの壊れやすさ
    *美的なるものは 極端に傷つきやすい瞬間的な体験の中にある
    *美しきものは 全く現象である

    一千一秒物語の世界
    *「月から出た人」から 始まる創世記のような童話
    *物語が 目的や時間感覚を持たない カオスな構造
    *人間の理想としての 擬人化した月や星
    *宇宙の原理に支配された人間

    六月の夜の都会の空とは
    *宇宙的郷愁、永遠癖、奇異な郷愁的翳り
    *都会的、世紀末的、未来的な情緒
    *ここにいることは実は昔では?
    *一瞬に幾世紀を飛び越えて 未来にいるのでは?
    *ここは地球でなく 他の星では?

    ★六月の夜の都会の空
    *飛行士を目指して上京した最後に見た夜景。どこでもない所へ遠ざかりつつある大都の夜の雰囲気

    *全ての事物と自分が 無関心の中に沈みこんで 何もかもが 何処でもない所へ遠去かりつつある雰囲気

    *構築物も群衆も自動車の列もすでに無限へと拡大し、吾人の観たる夜の都会は透明にして、只エーテルが立体的存在の虚空に投影せる七色のファンタジーのみ








  • この小説は9つの話が書かれてます。中には難解なのもあってなかなか読み進められなかった。 特に楽しく読めたのは黄漠奇聞、チョコレット、星を売る店。美のはかなさは難解だったが、芸術に対して、なるほどと思う箇所有り。 A感覚とV感覚に関しては読む前から何となく卑猥な感じが有り、まさに予想的中(笑) 他の作品は印象に残らなかった。 全体的には面白いと思うので、更なる理解を深めるために、また再読したい小説ではあります。 この小説自体が文字も含めて芸術のような感じがした。小説という概念は捨てた方が良いです。(笑) 難解だった面もあって☆3つにしました。

  • 先日林海象氏の「彌勒 MIROKU」を観て、原作も読みたくなったので図書館にて拝借。うわぁ難解!でも映画のおかげでイメージのみで読み進めました。

  • 童話的な作風の中に男性っぽいぶっきらぼうさがある。塀から身を乗り出して星を盗んでいたら肩を叩かれて、振り向いたら月が睨んでいた、とかそういうの。星と花とリボンもいいけれど、酒場で月と取っ組み合って喧嘩するのもロマンのひとつ。

  • 『草子ブックガイド』でこの本が出ていて、古書店で入手。
    昭和四十五年の三刷。
    今手に入る新潮文庫とは、表紙も違う。
    何よりも、活字が小さい!

    それはさておき、初めてのタルホ・ワールド。
    「一千一秒物語」「黄漠奇聞」から「星を売る店」あたりまでは、ファンタジーとして楽しく読んだ。
    昭和初期のエキゾチックなモダン文学の雰囲気を堪能した。

    しかし、「弥勒」の途中あたりから、ページ数でいうと200ページあたりから、ちっとも前に進まなくなった。
    同じところばかりを気づかずに読んでいたり・・・
    正直言うと、しんどかった。

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著者プロフィール

稲垣足穂(1900・12・26~1977・10・25) 小説家。大阪市船場生まれ。幼少期に兵庫・明石に移り、神戸で育つ。関西学院中学部卒業後、上京。飛行家、画家を志すが、佐藤春夫の知己を得て小説作品を発表。1923年、『一千一秒物語』を著す。新感覚派の一人として迎えらたが、30年代以降は不遇を託つ。戦後、『弥勒』『ヰタ・マキニカリス』『A感覚とV感覚』などを発表し、注目を集める。50年に結婚、京都に移り、同人誌『作家』を主戦場に自作の改稿とエッセイを中心に旺盛に活動し始める。69年、『少年愛の美学』で第1回日本文学大賞受賞、『稲垣足穂大全』全6巻が刊行されるなど「タルホ・ブーム」が起こる。

「2020年 『稲垣足穂詩文集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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