- Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101109541
作品紹介・あらすじ
元子を恨む波子は楢林と別れ、大物総会屋をパトロンにクラブを開く。政治家秘書の安島を通じ、医大の裏口入学者のリストを手中にした元子は、橋田をおどし、一流クラブ、ルダン買取りの仮契約を結ぶ。しかし橋田、安島らの仕組んだ罠が元子を待ち受ける。安島との一夜での妊娠の不安に怯える元子の前には黒服の男たちが…。夜の世界に生きる女の野望を描くサスペンス長編。
感想・レビュー・書評
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横領、恐喝、、黒革の手帖が1つ2つと、、
3つ目の黒革の手帖へと。。
やり手の医学予備校の理事、亡くなった議員の跡目を探る秘書、
嵌められた者、裏切られた者たちが。。あらゆる欲にまみれていく。
結末に向かう仕掛けが目まぐるしく、そして引き込まれる。
悪いことはなかなか上手くいかない。その道のプロにならなければ。。 -
結末に向かって吸い込まれるように読んでしまいました。
ドラマより断然面白かったです。
女が1人で悪事に手を染め、生き抜いていくことは
今も昔も非常に難しいことですね。
最後の最後、元子があそこに行くことになるのも偶然?誰かの指図?
いずれにしても、どこも混んでいる中あそこが空いているのは、元子のせいってことかな。
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最近、松本清張の作品を良く読む。
本当は、もっと若い時分に読んでおけば良かったとも思うが、そうそう暇があったわけでもないので、まあ仕方がないかなと思う。
作品を読むうちに、女一人でのし上がっていこうとする主人公を応援していたりするが、世の中、そうそう甘くはないようです。 -
元子はどこまで黒い世を渡っていくのだろう。
血も涙もなく、計算高い人間ならば、裏の手を使って人を脅してでも成功をつかめるものなのだろうか。
現状に決して満足をしない彼女は、次々に利用する標的を探していきます。
なにかもう取り付かれたよう。
家族を持たず、守るべきものは一切無い彼女をそこまで動かすものは何なのか。
この作品では、そういったセンチメンタルな情緒は皆無であるため、彼女の本当の思惑についてはわかりません。
おそらく著者は、ヒロインの動機付けには興味が無く、とにかく計算づくでダークな世間を動かそうとする、欲深い一人の女性を描きたかったのでしょう。
それでもやはり、彼女の暗躍に限界はありました。
好意を抱いた男性の登場で、ようやく彼女の人間らしく、女らしい側面が引きだされるかと思いましたが、愛らしさや幸せではなく嫉妬や焦りといった負の感情が書き込まれています。
とことん、作品に明るさや安定を入れないことにしているようです。
結局その男にも裏切られ、脅すつもりの男に脅され、八方塞となった彼女。
女同士の罵り合いのひどさには目を覆いたくなりました。
「パン助」なんて侮蔑語に、時代を感じます。
一番ぞ~っとしたシーンで、突然のように物語は終了。
これで終わり?と、納得できずに、巻末の新刊宣伝ページまでくくって確認しました。
なんて恐ろしいエンディングでしょう。血の気が引きます。
それでも、最後まで共感できなかったヒロインには、因果応報や自業自得という言葉しか浮かびません。
人を陥れて自分がのし上がろうとする人は、手痛い報復を受けるという命題が、ラストシーンで浮かび上がりました。
強欲まみれの人々の織りなすどろどろの闇の世界。
救いがありません。
自分に見合った人生を、殺意や恨みをかうことなく送るのが、人にとって一番幸せなことでしょう。
元子にしてやられ、制裁しようとする男たちも、明日は彼女と同じ立場になるかもしれないのです。
彼女のように欲深く、きらびやかな世界の裏で騙し騙されながら生きている人は、実際にいるのだろうと思えるほどの、迫力に満ちた物語でした。 -
恐喝で大金をせしめ更なるランクアップを図るべく暗躍する女の末路を描いたサスペンス。
怒涛ともいうべき後半が恐ろしい。自業自得とはいえ容赦が全く無い作風というかリアリズムに震えてしまう。特に最後のページはゾッとさせられた。人によって受け取り方は違うだろうけど自分的にはホラーとして逸品。 -
欲深い女性の手段を選ばず成り上がっていくところや裏切られて落ちぶれるさま、そして再び成り上がったかと思いきや…と、ドキドキハラハラされっぱなしでとっても面白かった!人間の欲望などがものの見事に描かれているところなどもよかった!
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清張76歳、1976(昭和51)年に刊行された作品で、後期のものである。
読んでみると、50歳前後に書かれた短編小説の濃密な文学的表現は、ここではやや抑制されており、文体はよりシンプルである。
銀行員から銀行の金を横領して転身、銀座にバー(キャバクラのような感じか)を開き、さらに経済的勢力を拡充するべく、病院や大学の不正を見つけて恐喝し、莫大な金を得ようとする。
この欲望の疾駆はむしろ透明である。清張は主人公の金への欲望を心理描写で緻密に描くようなことはせず、やはりいつものように最小限の(しかし的確で文学的な)心理描写しかしないが、次々と繰り出す主人公の行動が、プロットをぐんぐん進めてゆく。本格推理小説に属する『ゼロの焦点』のように、ここでもやはり、視点となっている主人公の心理はむしろ透明なのだ。そのため読んでいて、プロットは面白いけれども、なんとなく物足りないような気がした。
見方を変えるなら、細かな心理の動きをあまり追わずに行動だけが確かに展開されてゆくこの物語ストリームは、寝ている時に見る「夢」にどこか似ていて、取り返しの付かないような行動を繰り返す自分をぼんやりと眺めているもう一人の自分がいるかのような、そんな隔絶が、このディスクールに構造化されている。
だから、この物語は、銀行員として出世も何も見込めず周囲の同僚から好かれることもなく黙々と仕事に打ち込む女性が、「もし金を得て銀座に飲み屋を開いたら・・・」とあらぬ妄想に浸っているような、その「夢」の物語なのである。
今年やたらに「夜の街」と呼称されるようになったこの世界では、やはり金銭欲と愛欲の絡み合いが描かれているが、主人公は決して誰か男性を愛することはなく、彼女は容貌があまり優れないという設定だから、裕福な男性客に拾われて経済的成功を勝ち取るという一般的な「夜の女」の成功パターンは望めないので、金銭的成功を求めるためには恐喝という手段に走る他ない。
ただし一度だけ、男性客と寝る場面があって、「性に不慣れな女」である彼女は男のことを全く好きではないが、また抱かれたいという身体的とも言える欲求が理知とは裏腹に湧いてくる。その微妙な心理が描かれているところは印象的だった。
横領と恐喝という犯罪的行為でのし上がろうとした女は、やはり最後は罰せられなければならないというのか、途中から物語は「急降下」に向かい、騙されさげすまれて、破滅へと突き進む。この最後の部分は読んでいて身が引き裂かれるような苦痛が湧き起こり、凄まじい地獄めいた悪夢のクライマックスに心奪われる。主人公の主体があまりに透明であるためにどこか物足りないような気がして読んでいたが、最後の方は苦痛に痺れながら一気に読み通した。この最後の部分の凄まじさゆえに、この作品の評価を一段高くした。
後味の非常に良くない、さすが「イヤな感じ大王」松本清張の作品である。
もっとも、主体の透明さの持続が、長い小説ではやや薄味で心許ないようにも思われるので、この作家の最良のものは、やはり短編小説なのではないかと思う。