沈黙 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123158

感想・レビュー・書評

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  • 自分がクリスチャンになる前と後で読み方が大きく変わった小説。伝道のために日本に来たはずなのに、自分がそうしたせいで民が拷問に遭うという矛盾の中で生じた、沈黙する神の存在への疑問。何もかも否定され、奪われ剥ぎ取られて味わう惨めさの遥か先にあるのは、現代の日本に生きる私たちにとってはとても身近でありながら、沈黙してみなければ見えてこない「何か」なのかもしれない。

  •  読書力養成読書10冊目。

     なんだこれ、めっちゃくちゃおもしろい! 名作と言われるものはおもしろいからこそ読み継がれるのだと、実感できた一冊です。

     舞台は、島原の乱後、キリスト教徒たちが厳しい弾圧を受けている真っ最中の日本。二十数年間日本で宣教を続けていたフェレイラ教父が、長崎で拷問に負け棄教したという信じられない不名誉な知らせが、ローマ教会に届きます。そこで、フェレイラ教父の教え子だった3人の若い司祭たちが真相を確かめようと、ポルトガルから日本へ向かいます。物語は、その司祭たちのひとり、セバスチァン・ロドリゴの書簡から始まります。

     なんと苦しい葛藤でしょうか。〈神のなし給うことはすべて善きこと〉と信じ、命をかけ、使命と誇りをもって、キリスト教の布教活動をする宣教師たち。でもそのせいで、信徒となった日本人たちが目の前で拷問に苦しんでいる。

    「なんのため、こげん責苦ばデウスさまは与えられるとか。パードレ、わしらはなんにも悪いことばしとらんとに」と信徒に言われても、返す言葉もなく、ただ祈りを唱えることしかできない。あまりの苦悩に、ロドリゴは〈主よ、あなたは何故、黙っておられるのです〉とつぶやきます。

     本書では、基本的には宣教師の立場から見た当時の日本の禁教の厳しさが描かれていますが、同時にそれを行う日本の役人たちのつらさも書かれています。ただ厳しく踏絵や拷問を強いているわけではない、したくてしているわけではないという気持ちで、日本の役人たちもギリギリのところまで信徒や宣教師に説得を続けるのです。

    「仁慈の道とは畢竟、我を棄てること。我とはな、徒に宗派の別にこだわることであろう。人のために尽すには仏の道も切支丹も変りはあるまいて。肝心なことは道を行うか行わぬかだ」という通辞の言葉に、私は深く共感します。

  • 自分は無宗教であるが、神について、宗教についていろいろ考えるようになった。実話を元に書かれているので、当時の歴史を学べたのも楽しかった。この本を読んで私が感じた事は、神は存在しないのでは、、という事だった。

  • 人生2回目の沈黙。

    キリスト教が禁止された鎖国時代の日本において、布教のために若き魂を燃やすポルトガル人司祭の苦難と苦悩を描いた本作。

    鎖国時代の日本のキリスト教徒への弾圧は苛烈で、拷問や虐殺といったことが当たり前に行われていたが、そうした信者の受難に対して神はなぜ沈黙しているの、それが本書のテーマ。

    キリスト教は今や日本でも一般的な宗教ではあるが、どうしてもその信仰心の本質は理解できておらず、またどこか遠い国のものという思いがあった。

    それが日本をテーマにした小説で描かれると、非常に親近感を持って理解ができる。また遠藤周作の文章は非常に美しいため、読んでいて惚れ惚れとする。

    本作を名作と言わずして何を名作というのか、というレベルの作品。2回目も心から楽しめた。

  • キリスト教が禁止された江戸時代に布教のため密入国したポルトガル人司祭の半生を描いた実話ベースの作品。
    信者が拷問を受け、それでも沈黙を貫く神の存在に司祭は疑問を抱き始める。
    背教に立たせれ、信者の命と神への信仰の2択を迫られた司祭の決断とは。

    日本人が書いたとは思えない、挑戦的な宗教的小説である(このご時世国籍云々はナンセンスだと思うが)。まして、著者の遠藤周作はキリシタンであるから、吃驚に拍車がかかる。

    我々日本人にとって、キリスト教圏と比較すれば神は神聖不可侵なものでなく、崇拝するような存在ではない。なんとなく概念としてあるように感じる程度のものだ。しかし、日本人には理解しにくい神と人間との関係を、ポルトガル人司祭の手記や客観的観点から生々しく、臨場感をもって描く本作と著者には畏怖せざるを得ない。

    マーティンスコセッシによって映画化されているようなので、それも観たい。

  • 私の中の宗教に対する個人的なモヤモヤをそのまま描かれているような気がして、そうだよなあ、うーん、わかんないよ、わたしも、、となりました。
    他の作品も読んでみようかな〜

  • 私にとってはじめての遠藤周作さんの純文学。
    とても肌に合った。
    先の見えない展開と、差し迫る命の危険、宣教師として救いたい思いが交錯し先が気になる展開。
    最後のあたり読み解くのに読解力がいるので、私の弱いそれでは理解がしきれていないと思う。

  • 深くて一度読んだだけでは理解できない部分もあったにもかかわらず、話に引き込まれてしまう素晴らしい小説でした。キリスト教とは、仏教や神道との違い、宗教とは、について深く考えさせられました。

  • 2022/1.30
    P31「神のなし給うことはすべて善きこと」
    この考えは好きじゃない。
    神という絶対的な存在に依存することは、危うさもあると考える。支えがなくなると崩れてしまう。
    嫌なことがあっても、自分で切り替えること、他の拠り所でカバーすることで、乗り越えられる人が強いと思う。
    →自分は楽観的すぎる気質もある。仕事においては慎重に。

    P83「パレード 、おらたちあ、なあんもわるかことば、しとらんとに」
    鎖国下の日本で弾圧されるキリスト教徒。
    →なぜ、この国の日本人は多様性を受け入れられなかったのか。弾圧した理由は?西洋に国が乗っとられると思った?怖かった?

    P119
    苦しい時にしきりに神の言葉を思い返す主人公を見て
    →自分の考えがブレないように、心の教科書、正しいと思う考えを言語化したいね。そのためにも本、考え方を知ることは大事。

  • 卒論の研究のために熟読しました!
    主にキリスト教と日本人の考え方の違いと、ふたつが共存する術についてを問われている感じがしました。特に最後のイエスのシーンは、読者がキリシタンかそうじゃないかで、解釈が違ってくると思います。
    弱い精神の日本人が描かれていて、自身はどういう精神性なのか、考えさせられます。

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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