海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 1 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181325

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  • 塩野七生のヴェネチア史である。全6巻、本巻はヴェネチアの誕生、アドリア海をつなぐ「海の高速道路」の完成、第四次十字軍の顛末とヴェネチアが得たリターンである。西暦452にアッティラの略奪を避けるために、ラグーナに逃げたのがヴェネチアの始まりで、その後、ロンゴヴァルドやフランク王国ピピンなどが攻撃してきた。フランクとの戦いでは、航行可能な水路を示す杭を引き抜き、座礁した敵船を襲うという戦法で勝利したが、ヴェネチア人はこの戦闘を教訓にそれまでのマラモロッコからラグーナ深奥のリアルトに国家中枢を移し、そこに落ち着く(800年頃)。この建設過程、杭をうちこみ基盤をつくり、石で海水をふせぐという土木建築、また、雨水を利用した取水なども書いてある。991年から元首(ドージェ)ピエトロ・オルセオロが、東ローマからアドリア海の「警察」をひきうけることで、コンスタンティノーブルにおける特権を獲得した。そして、アドリア海の海賊を掃討、基地港をアドリア海に数珠つなぎに建設することに成功した。1202年、第四次十字軍の運送に携わることになったが、ヴェネチアは4500の人と馬、2万の歩兵からなる軍隊を輸送する船舶・糧食を準備したのに、十字軍に参集した戦力は3分の1にしかならなかった。また、十字軍は代金も払えない状態で出発が3ヶ月も延び、最初の目的地は、ハンガリーが占領したアドリア海の都市ボーラ攻略だった。ボーラ奪還はなるが、そこに神聖ローマの権力闘争ではじきだされた皇子が助けを求めにきて、皇子に肩入れしてコンスタンティノープルを攻略することになる。いろいろあって、コンスタンティノープルが陥落、3日間の略奪が行われた。結局、ヴェネチアの元首は東ローマの八分の三をもつことになり、エーゲ海を制覇、東地中海に君臨する。ヴェネチアは領土的野心を持たず、海岸の拠点確保だけに終始した。ローマ教皇はボーラ攻略時に第四次十字軍を「破門」した。フランス騎士たちは破門を避けるため、釈明に奔走するも、ヴァネチア人は「破門」されても釈明もしなかった。基本的には「はじめに商売ありき」で、「まずヴェネチア人、次いでキリスト教徒」であった。ヴェネチアは共和国で、アンチヒーローの国柄であって、フィレンチェとはこの点がちがうらしい。なお、塩野氏によれば、「現実主義」とは「現実と妥協する」ことではなく、「現実と戦う」ことだそうだ。

  •  「はじめに、商売ありき」の合理的な考え方をもっている、ヴェネツィア共和国の1000年に及ぶ歴史について描かれた本。初めに描かれていた第4次十字軍の話はとっても面白かった。自分たちの利益を最大限になるように考えつつ、大国の力をうまく利用していくところがとても面白かった。

     海洋都市であった4国家の比較も面白かった。これにより、ヴェネツィアの異質性がよくわかった。また、ジェノヴァとの戦いは熱いものをかんじた。ヴェネツィアの政治制度であるドージェや十人委員会および国会による権力分立制度はとっても素晴らしいものであり、日本も見習うべきだとは思ったが、この制度が維持できたのはヴェネツィア人の性格があってこそだろう。なぜならば、今の日本の政治家では、このヴェネツィアの方々のように国を想う気持ちはほとんどないだろうから。

     さらに、ヴェネツィアの商魂には驚かされた。トルコとの戦いでの大損を取り返そうと和平条約を締結した際にすぐ大使をコンスタンティノープルに派遣し、そのつなぎに捕虜となっていたヴェネツィア人を使うところもさすがだと感じた。このようにチャンスを逃さない姿勢が1000年繁栄できた要因なんだろう。

     この後、経済的発展に伴って、政治的・文化的に成熟していき、衰退していく。という人の一生だったら充実してやまないような一生だろう。奢れるものというより、平和でありすぎた故の外交感覚のマヒ。今の日本を見ているような気もした。

  • いつか読みたいと思っていたシリーズ。
    ヴェネツィアの成り立ちから、船の発達、第4次十字軍。歴史の合間にヴェネツィア特有の事象の説明があり、また歴史へ。水の都として今も残るヴェネツィアの歴史が巧みに紐解かれていている。

  • ベネツィアの誕生から、第四次十字軍まで。

    一気に「読ませる」文章力は相変わらず。イタリアに対する贔屓っぷりも相変わらず。
    第四次十字軍に対する擁護は滑稽ですらある。「モラリストぶる」(235頁)必要がないならここまで必死に擁護しなくてもよいのでは、と思ってしまうが。

  • 中世においてさえ、キリスト教の教義よりも自国の利益を優先させていたヴェネツィアだが、トランプ大統領の“アメリカ・ファースト”みたいな傲慢さが感じられないのは、資源に乏しく人口も十分でない中、生き残る為には大国相手の外交努力を怠らず、いざ戦争となったら、国を挙げて戦わざるを得なかったから、か。

  • ローマ人の物語を読み、この本と並走する十字軍を読んだら
    やっぱりもう一度最初から読みたくなってしまいました、海の都の物語。

    ローマ滅亡や十字軍の背景があるとより一層、リアルにヴェネツィアの歴史を感じ取る事ができます。

    また、塩野七生独特の語り口が

    では現代の我々はここから何を学びとる?

    と常に問いかけます。

    ロシアのウクライナ侵攻、台頭する中国。
    通商国家として生きたヴェネツィアの末期に、似ています。
    読み直すとしたら、、
    やっぱり全部読んでください。
    前回、印象に残らなかった箇所も、今回は響くところが多いはずです。

  • 本書はヴェネツィアの歴史を紐解いた書籍の第1巻に当たりますが、おもにヴェネツィアの生い立ちから第四次十字軍遠征でのヴェネツィアの役割までが明確に記載されています。塩野氏の本はいつも思うのですが物語的トーンと叙述的トーンがうまい具合に合わさっていて、どちらかのウェイトが大きいと退屈すぎるか、胡散臭くなってしまうのだが、そうならず読者を飽きさせない記述になっています。下手なガイドブックを読むよりはこの本を読んでからヴェネツィア観光したほうがよっぽど感慨深いだろうなと思いました。
    キリスト世界でもなくイスラム世界でもない日本の塩野氏が描くヴェネツィア像はある意味世界的に見ても中立的に書かれているのだろうかと思いながら読みました。お勧めです。

  •  塩野七生さんの「ローマ人の物語」は、とてもとても良かったので、こちらも期待して読んだ。
     時系列としてはローマ帝国滅亡後の歴史だが、書かれたのは「ローマ人の物語」よりこちらが先。

     「ローマ人の〜」と比べるとやや学術的で、肉薄するような描写に欠けると感じた。残っている資料や研究量、それと筆者の筆力の成熟度の差によるのかもしれない。

     ヴェネツィア人の徹底した合理主義、宗教と政治に一線を置くスタイルは、亡きローマ帝国のスピリッツが、ここヴェネツィアに脈絡と受け継がれていると感じた。

  • ソースが曖昧なドキュメンタリーの光景をヴェネツィア共和国一千年の冒頭にもってくるか。中世奴隷貿易の買い手よりも簡単に調べられるような気がする。

  • 完結6巻まで読了。

    ヴェネツィア共和国の一千年にも及ぶ栄枯盛衰を、丹念に追いかけた歴史小説。
    『ローマ人の物語』のときもそうだったけれど、人々が合理的、理性的であるときの姿が特に生き生きと描かれており、読んでて小気味良い。
    後半、トルコが台頭してからは、ヴェネツィアの立場の苦しさに、常に何処かもどかしさや息苦しさを感じるような感覚が伝わってきたけれど、国の一生を描く以上、小気味良さだけではもちろん終われないのだろうとも思う。

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