ローマ人の物語 (14) パクス・ロマーナ(上) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181646

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  • 共和制から帝政移行後のAugustusについて、である。

    冒頭に記載されている通り大規模な戦争や、手に汗握る戦闘シーンはない。
    本巻や前巻を読むと、Augustusは決して戦闘の天才でなければ、偉大なカリスマ性を有しているわけでもない、というのがわかる。ただ彼には現状を認識する力が優れいていた。
    つまり自分の得手不得手を認識し、戦争ならAgrippaに任せ、政治も元老院との直接対決をできるだけ避け、巧みな根回しによって目的を達成する。
    この意味で、今までの執政官の誰とも違う新しいタイプのリーダーであると思う。

  • カエサルの後継者になったオクタビアヌス。まだ若かっただけにじっくり焦らず天下を手中にしていく。大きく変わる時代の趨勢がこの若者にだけは見えていたのか。繰り返し出てくる「人は見たいと欲する現実しか見ていない」というカエサルの残したフレーズが印象的。

  • 「ー」

    アウグストゥスの統治。少しずつ、各施策を集めれば帝政へ進む姿は素晴らしい。

  • 後の世で帝国を創造したとされる人物が内乱の勝者となってから最初に成した事は、共和政への復帰宣言であった。

    現代で見られる皇帝の描写といえば、ただ一人の国の所有者であり、その命に逆らえば処刑も免れない絶対的な君主だが、歴史上の『皇帝』の権威と権力は時と場所によってそれぞれだ。

    共和政復帰宣言の見返りにオクタヴィアヌスに贈られた称号は、神聖で崇敬さるべきであるという意味の『アウグストゥス』だった。それに内戦時から持っていた軍団勝利者に呼びかけられる『インペラートル』の名と大叔父から授かった『シーザー』の名。現代ではどれもが『皇帝』と訳されるような名であるが、当時においては象徴的な称号であり、具体的な権力を意味するものではなかった。そこに、誰にも気付かれないよう、名と力を結びつけたのが、史上初の『皇帝』の最初の成果であった。そう、王の権力が神から与えられたものだったとしても、皇帝の権力は人から与えられるものとしてここに定義されたのだ。

    そして皇帝の仕事とは権力を傘に贅と悪虐を貫く事ではなく、言語も文化も全く違う超大な領土を一つとして扱うためのシステム構築であった。属州ごとに統治方法を変え、税の徴収機構を統一し、自由都市の独自通貨を許しつつ通貨価値を維持する。国家が機能する必要最低限の軍事・徴税・通商に関わる部分のみを統制し、言語・宗教・文化はそれぞれの地域に任せる統治方法は、後世に誕生する多くの大国家に共通するが、アウグストゥスは何を参考にするでもなく、この帝国のあるべき姿を紀元前に築き上げることに成功した。

    カエサルは乱世の英雄であり、彼の人生の前半がそうであったように、機会に恵まれなければ混乱を制圧するその能力を発揮できることはなかったかもしれない。だが、長い時間をかけ、新たな体制を、国家を超えたシステムを構築できるアウグストゥスの能力は、いつの時代であっても史上にその名を残したことだろう。
    カエサルが共和政ローマを破壊し、アウグストゥスがローマ帝国を創った。しかしその帝国も、今はもう残っていない。帝国崩壊の萌芽をここに見出すことは出来るのか。次巻に続く。

  • 政治、制度の話が続くので読むスピードが落ちたのは事実。しかし丁寧に読んでいくと面白い。

  • ユリウス・カエサルが暗殺されてから十五年。彼 の養子オクタヴィアヌスは、養父の遺志に逆らう ように共和政への復帰を宣言する。これに感謝し た元老院は「アウグストゥス」の尊称を贈り、 ローマの「第一人者」としての地位を認めた。し かしこの復帰宣言は、カエサルの理想であった 「帝政」への巧妙な布石であった──。天才カエ サルの構想を実現した初代皇帝の生涯を通じて、 帝政の成り立ちを明らかにする。

  • ユリウス・カエサルが暗殺されてから十五年。彼の養子オクタヴィアヌスは、養父の意思に逆らうように共和政への復帰を宣言する。これに感謝した元老院は「アウグストゥス」の尊称を贈り、ローマの「第一人者」としての地位を認めた。しかしこの復帰宣言は、カエサルの理想であった「帝政」への巧妙な布石であったー。天才カエサルの構想を実現した初代皇帝の生涯を通じて、帝政の成り立ちを明らかにする。

  • 寛容のカエサルと復讐のオクタヴィアヌス。対象的な二人を投影しながら、ローマの政治は、舵をきっていく。カエサルに心酔していた僕は、当時のローマ人同様オクタヴィアヌスにカエサルを投影し、幻想をいだいてしまった。そして、庇護者でもあり、政敵であったキケロに対する接し方の違いを知ったとき、その衝撃に読む手を止めてしまった。そして、しばらく夢にうなされました。

  • アウグストゥスは用意周到で、自分の実現したい目標に向かって、淡々と実行する印象を受ける。目標の為には、人を欺く事も厭わない。 人々が気づいた時には、世界が変わっていた感じなのかな。普通は焦ると思うけど、だからアウグストゥスをカエサルが選んだのか。

  •  内乱を勝ち抜き,ただ一人の勝利者となったオクタヴィアヌスが,共和制という外観を維持しながら,帝政への移行を着実に進めて行く時期の物語です。毛沢東の「政治は血を流さない戦争であり,戦争は血を流す政治である」という言葉を参考にすれば,共和政主義者を欺きながら帝政を樹立するというアウグストゥス帝の「血を流さない戦争」の物語ととらえることができると思います。ローマにおける帝政への移行という「創作」は「血を流さない戦争」にも勝利を収めなければ確立することができませんでした。
     この「血を流さない戦争」に対するアウグストゥス帝の深謀遠慮や着実な進め方には感心させられます。この冷静な自己制御を常に維持しつつ,目標に向かって着実に進め,カエサルという「天才が到達できなかった目標に達する」プロセスを追って行く物語により,アウグストゥス帝の魅力に触れることができると考えています。

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