橋ものがたり (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101247052

感想・レビュー・書評

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  • 思い違いが好き。なんてことない思い違いだけれど、それでもかまわないって思えるようなあの男気が素敵。

  • まったり読める短編集。江戸市井モノ。さまざまな事情を抱えた主人公たち、江戸の重要交通ポイントである『橋』を中心に話が進みます。とても綺麗なお話ですよ。

  • 素敵。
    藤沢周平は初挑戦でしたが、はまりそう。
    温かくてすごく切ない。

  • 橋にまつわる短編集
    約束が一番すきやなぁ

  • 「藤沢周平」の短篇時代小説集『橋ものがたり』を読みました。

    『消えた女―彫師伊之助捕物覚え―』、『漆黒の霧の中で―彫師伊之助捕物覚え―』に続き、「藤沢周平」作品です。

    -----story-------------
    橋の上で人びとは出会い、そうして「物語」が始まる――。
    橋にまつわる10の短篇。

    幼な馴染の「お蝶」が、仕事場に「幸助」を訪ねてきた。
    奉公に出るからもう会えないと、別れを告げるために。
    「五年経ったら、二人でまた会おう」年季の明けた今、「幸助」は萬年橋の袂で「お蝶」を待つが……。(『約束』)
    様々な人間が日毎行き交う江戸の橋を舞台に演じられる、出会いと別れ。
    市井の男女の喜怒哀楽の表情を瑞々しい筆致に描いて、絶賛を浴びた傑作時代小説。
    -----------------------

    橋にまつわる10篇から成る連作短篇で、1980年(昭和55年)に刊行された作品です、、、

    市井の人々の生活… 橋で出会い橋で別れ、人生の様々な喜怒哀楽が展開する様が瑞々しく描かれていて、江戸の時代の江戸の町に入り込んでいるような錯覚を感じながら読みました。

    人情の機微の描き方が本当に巧い… 佳作の10連発ですねー ホントに良かった。

     ■約束
     ■小ぬか雨
     ■思い違い
     ■赤い夕日
     ■小さな橋で
     ■氷雨降る
     ■殺すな
     ■まぼろしの橋
     ■吹く風は秋
     ■川霧
     ■解説 井上ひさし


    『約束』は、錺(かざり)職人の修業に励んでいた21歳の「幸助」が、年季奉公が明けて実家に戻ってきた日、期待と不安の入り交じる気持ちで5年前に再会を約束した18歳の「お蝶」を萬年橋で待つという物語、、、

    5年前、奉公先の「幸助」を訪ねてきた「お蝶」は、料理屋へ奉公に出ることになったことを告げる… お互いの気持ちに気付いた「幸助」は5年後の七ツ半(午後5時)に萬年橋で会うことを約束した。

    「幸助」は、約束の時間の一刻(2時間)前から萬年橋で待つが、七ツ半(午後5時)を過ぎても「お蝶」は現われない… 「幸助」は5年間に経験したことを回想しながら「お蝶」を待ち続ける、、、

    「お蝶」の方も、この5年間のことを回想しながら、萬年橋に行くかどうかを逡巡していた… 良い物語でしたね、二人の気持ちは通じ合い、二人の長い長い旅は終着点に辿り着きましたね。


    『小ぬか雨』は、一人暮らしで親爺橋近くで履き物の店を営む独り身の「おすみ」のところに、誰かから追われている男が逃げ込んできて、その男を匿ううちに、二人の心が通じ合う物語、、、

    「すみません、お嬢さん。声をたてないでください」、「追われてるんです。すぐに出ますから」と入ってきた見知らぬ男は、きちんとした言葉で「おすみ」に話しかけた… 「おすみ」の近くに住む男たちは口が汚いし、許婚で下駄職人の「勝蔵」は野卑な人物で、彼のようなきちんとした言葉を使う若者のことは知らない。

    「おすみ」は、彼を数日間匿うことにする… 粗雑な「勝蔵」とはまったく違うそのやさしい様子に、「おすみ」は、いつしか心惹かれていく、、、

    5日目の夕方、奉行所の者だと名乗る「安五郎」という男が「おすみ」を訪ねてきて、男の名前は「新七」で、女を殺して逃げて来たことを知らされる… その数日後、小ぬか雨の降る夜に「新七」を逃がすために、「おすみ」は「新七」を思案橋まで送るが、そこに「勝蔵」が現われ、「新七」ともみ合いになる。

    「おすみ」にとって、「新七」との数日間の生活は生涯忘れることのできない思い出になったんでしょうね… その想いを胸に刻み込みつつ、現実に戻っていく「おすみ」の気持ちに共感しちゃいましたね。


    『思い違い』は、指物職人の「源作」が、勤め先への行き帰りの両国橋ですれ違う女性「おゆう」に恋心を抱く物語、、、

    23歳の「源作」は、女達が自分を見るとき二の足を踏むような表情をみせるほどの醜男で、そのため女性に対して積極的になれず、「おゆう」のことが気になるものの、話しかけることもできなかった… そんなある日、「おゆう」が二人の男に絡まれているところを助けてやり、それが縁で「おゆう」と話しができる関係となる。

    そんな中、仕事の腕が親方に認められ、親方の放蕩娘「おきく」との縁談が持ち上がる… しかし、「源作」は「おゆう」のことが頭から離れず、その縁談を受けるべきかどうか迷う、、、

    そして、「おゆう」が働いていると言った蕎麦屋を訪ねるが、蕎麦屋の主人は「おゆう」という娘は知らないと言う… 「おゆう」は、川向うに家があって、朝夕、通い勤めで橋を渡ってくるのだろうと思っていたのだが、それは「源作」の"思い違い"だった。

    「おゆう」の実生活を知った「源作」の判断は!? これも良い物語だったなぁ。


    『赤い夕日』は、夫「新太郎」に女がいるらしいと手代の「七蔵」に囁かれた呉服屋の嫁である「おもん」が、或る事件を通じて夫婦の絆を確かめる物語、、、

    若狭屋のおかみをしている23歳の「おもん」は、何不自由ない生活を送っているが、夫の「新太郎」が女を囲っているという噂を耳にして不安になる… ある時、「兼吉」という若い男が訪ねて来て、「「斧次郎」は病気で、ひと眼おもんさんに会いたいと言っております」と告げる。

    「斧次郎」は、背中におぶさって見た赤い夕日の幼いときの記憶がある「おもん」の育ての親であり、そして、肉体関係もあった父親以上の存在だった… 5年前、「おもん」が若狭屋に奉公することになった時に、「斧次郎」は「おもん」の将来を思って自ら縁を切っていた、、、

    それきり会わなかった「斧次郎」が病気だという知らせに、「おもん」は永代橋を渡って「斧次郎」の家に行くが、そこには「仙助」という男が待っており、「斧次郎」は2年前に死んだことを知らされる… そして、「仙助」から「斧次郎」が博奕でつくった百両の借金の返済を求められる。

    「おもん」は軟禁され、「おもん」の身柄と引換えに若狭屋は身代金として百両を請求される… この後の「新太郎」の行動・言動がカッコ良いですねぇ、、、

    「おもん」が惚れ直した気持ちがわかります♪


    『小さな橋で』は、10歳で遊びたい盛りの少年「広次」の成長を描いた物語、、、

    「広次」は友達からの遊びの誘いを断って夕飯の支度をしている… 父親は家を出てしまい、母親「おまき」が夕方から飲み屋で働いており、夕飯の支度が終わったら16歳の姉「おりょう」の勤めが終わる頃に迎えに行かなくてはならない。

    「おりょう」は、勤め先の米屋の手代で妻子持ちの「重吉」と“できて”しまい、誰かが迎えに行かなければ、なかなか帰ってこないのだ… しかし、ある日「おりょう」は「重吉」と駆け落ちしてしまう、、、

    そんな中、遊び場にしていた林のはずれで、何人かに追われている男を見かけた「広次」は、それが父親だと気付く… 父親も「広次」に気付くと、お金を渡し、「おれはすぐ江戸を出るが、もう二度と江戸に戻れねえ身体になった」と言い残して去って行く。

    そして、家に帰った「広次」を待ち受けていたのは、新しい父親… 「広次」は父親から預かったお金を持ったまま家を飛び出す、、、

    町はずれの小さな橋の上に佇む「広次」を迎えにきた女の友だちの「およし」に抱かれた「広次」は安心感に包まれ… おれ、およしと“できた” と感じる♪ 一歩だけ大人に近付きましたね。


    『氷雨降る』は、50歳を過ぎて商売の第一線から引退した「吉兵衛」が、大川橋で出会った若い女を救う物語、、、

    女房のおまさと共に、長年働きに働いてきた「吉兵衛」は、息子の「豊之助」に仕事を任せたが、虚しい気持ちになることが多かった… 「豊之助」はやり手だが、抜け目がなく、父親を相手にしなくなり、ねちねちと奉公人を叱りつけ、女房は太り、厚化粧して芝居見物。

    毎夜、飲みに出かけるようになった「吉兵衛」は大川橋で思い詰めたような表情の若い女を見かけ話しかけたが、欄干をつかんで離さない… そのまま放っておけないと思った「吉兵衛」は、女に事情を聞き、知り合いの飲み屋の「おくら」に女を預ける、、、

    美しい女は「おひさ」という名前以外、何も事情を話さず、やがて目つきの良くない3人組が店にやってきて… 家族に愛情を感じることができず、見ず知らずの不幸な女を助けようとする「吉兵衛」の気持ち、何だかわかるなぁ。


    『殺すな』は、船宿のおかみの「お峯」に誘われて駆け落ちした船頭の「吉蔵」の愛憎を描いた物語、、、

    駆け落ちして世間から隠れて楽しく暮らしていた二人だったが、元来派手な生活が好きな「お峯」は退屈な生活に飽きてくる… 「お峯」は駆け落ちを後悔し、家に戻りたがっているんじゃないだろうかと、「吉蔵」は疑心暗鬼に。

    隣家に筆を作っている喘息持ちの浪人「小谷善左エ衛門」が住んでおり、「吉蔵」は「お峯」にその仕事を手伝わせ、「善左エ衛門」にそれとなく様子を見させていた… しかし、ある日、二人の所在を知った船宿が「お峯」を連れ返そうとやってきた、、、

    「吉蔵」は、お峰が船宿に戻るくらいなら殺してやると思いうが… 過去に辛い体験をして、そのことを悔やむ「左エ衛門」が永代橋で「いとしかったら、殺してはならん」と「吉蔵」を諭し、「吉蔵」は気持ちを覆す。

    「お峯」の色香に負けちゃった「吉蔵」の運命は、駆け落ちしたときに決まっていたような気がしますね。


    『まぼろしの橋』は、幼い頃呉服屋・美濃屋の主人「和平」に拾われ、娘として育てられ18歳になった「おこう」が、実の父親と知り合いだったという男に声を掛けられ、事件に巻き込まれる物語、、、

    「おこう」は、兄として慕っていた美濃屋の跡取りの「信次郎」の嫁になり、幸せな暮らしを送っていたが、結婚して2ヶ月半ほど経った頃、「おこう」の実の父親と知り合いだったという50歳くらいの男「弥之助」が尋ねてくる… 「弥之助」が、自分を捨てたおとっつぁんかも知れないと思った「おこう」は、「弥之助」の元を訪ねて行くが。

    「おこう」の父親に会いたいという気持ち、そして「弥之助」の娘を持ちたいという気持ちが、「おこう」を危険な立場に追い込みますが、「弥之助」の身体を張った行動により、「おこう」はなんとか逃げ出すことが… 危なかったですねー


    『吹く風は秋』は、いかさまをして江戸を離れていた博奕打ちの「弥平」が7年振りに江戸に戻り、人助けをする物語、、、

    旅先で野垂れ死にするよりはいいと、意を決して、猿江橋を渡って7年ぶりに江戸に戻ってきた「弥平」は、夕日を眺めている女郎「おさよ」に出会い、一晩を過ごす… 夫と子供がいる身でありながら、50両もの借金のせいで女郎になったという「おさよ」の話を聞いて、同情する「弥平」。

    いつか夫「慶吉」が身請けしてくれると信じている「おさよ」だが、「弥平」が「慶吉」のもとを訪れてみると、「慶吉」はまともに働くどころか、子どもの面倒もみれず博奕で身を持ち崩しているだらしない男だった… 賭場の親分に詫びを入れ、ツボ振りをして、期待以上の腕を見せて30両を得た「吉蔵」は、そのお金を「おさよ」のために使うことを決意する、、、

    「吉蔵」は逃げ切れたのかな… 「おさよ」は「慶吉」のもとへは帰らず、自分の人生を歩めたのかな… その後が気になる作品でした。


    『川霧』は、蒔絵師の「新蔵」が、永代橋で助けた女「おさと」との愛を育む物語、、、

    「新蔵」は早朝の永代橋で倒れた女「おさと」を助け、一時自分の家で休ませてやった… 半月ほどして礼にやっていきた「おさと」に、「新蔵」は家の場所を聞き出そうとするが「あたしはそんなふうに気にかけてもらうほどの女じゃない、仲町の花菱の飲み屋の酌取り」だと言う。

    「新蔵」は「おさと」の勤めるいかがわしい飲み屋・花菱へ通い、そして一緒に暮らすようになるが、3年ほど経ったある日おさとは居なくなる… 「新蔵」は「おさと」を捜すうちに、「おさと」には博奕好きな「辰五郎」という夫がおり、賭場の手入れで捕らえられ新島に送られているが、勤めを終えて、そろそろ帰ってくる頃だということを知る、、、

    「新蔵」は「おさと」のことを諦めようとするが… どうなることかと思いましたが、「おさと」は戻ってきましたねー この展開、好きです。


    しみじみとした良い物語ばかりなのですが… その中でも印象に残ったのは、『約束』、『小ぬか雨』、『思い違い』、『小さな橋で』の4作品かな。

    ちなみに、『藤沢周平 新ドラマシリーズ 第二弾「橋ものがたり」(2017年 BSスカパー!)』というタイトルで、、、、

    『小さな橋で』、『吹く風は秋』、『小ぬか雨』はドラマ化されているようですね… 観たかったなぁ。

  • 3.2
    悪くはないけれど、好みではなかった。
    時代小説の中でも私は男女ものはあまり好きではないみたい。
    「吹く風は秋」が1番好きだった。

  • 橋を人の出会いと別れの場として描いた作品。
    十の短編小説。人情話ではこの作家の右に出る作家はいないだろう。

  • 橋にまつわる、時代短編集。

    男女と橋、の日常生活の延長線な短編集でした。
    こういう理不尽な目にあったり、が
    やはり多いのだな、と。
    いやその生活どうだ? というものもありましたが
    こうせねば生活できないのだろうな、という気持ちにも。

    今でも現代でも、やってる事は結構同じです。

  • 江戸は水の都だった。大小の河川・水路にかかる橋にまつわる男女の機微を読むにつけ、江戸が女性中心に回っていたのだと思った。だからと言って、江戸の女性が幸せだったということにはならない。どの短編にも不幸せの陰がある。『橋ものがたり』は、橋に焦点を当てたことで、登場人物のその後には踏み込まない余白を残したのだ。奉公に出て数年後、萬年橋で再会を約したが、それぞれが過ごした男女の経験を超えて結ばれる「約束」が印象深かった。

  • 切ない話もあるが、ほのぼのとした話が多く落ち着いて読めた。

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

藤沢周平の作品

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