- Amazon.co.jp ・本 (155ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101289533
感想・レビュー・書評
-
初めて読んだ中村文則作品。終始暗く危ない雰囲気が続く物語ですが、主人公に憑依する感覚になるくらい惹き込まれました。(想像し続けると、メンタルもっていかれますし頭も疲れますね 苦笑)
個人の人格は、その人の経験した出来事が積み重なったうえにできているものなんじゃないかと改めて思いました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
初めて読んだ中村文則作品。
亡くなった彼女の指を瓶に入れて持ち歩く男の話、というぶっとんだ設定の話。
「苦しみから一定の距離を置くのではなく、その中に入り込んで何かを掴み、描き出そうとすること。僕が読んで救われた気分になったのは―たとえそれが悲しにまみれた物語だったとしても―そういう小説だった」
という著者あとがきの言葉にもあるように、こういう物語が必要な人は、いる。これをよんで面白くない、と感じる人も多いのだろうと思うけれど、私はこの物語を必要とする類の人間だ。
彼女の事故死を隠し、仲間たちにその幸せな生活を語り続ける主人公の姿勢をカバー裏のあらすじでは「虚言癖」と表現しているが、こういう病的な言葉に集約してしまうことはこの物語の受け止め方を薄くしてしまうようにも感じる。病んでいることと病んでいないことの境界をはっきりさせてしまうことを物語を味わうことの中に必要以上に持ち込むことは、何かを見落とすことになってしまうように感じる。
本作のタイトルは「遮光」だけれど、こういう物語のメッセージに何がしかの境界を作って知らないふりをしてしまうことも光を遮る態度なのではないかと。
タイトルをつけるのに迷ったそうだけど、良いタイトルだ。覆われた瓶の中の指であったり、嘘を塗り重ねて現実から目をそらす主人公であったり、物語を消費する私たち読者であったり、複層の意味合いで読める。 -
限りなく5に近い★4つです。
いや~…
まじでこの人すごい。
24でこの世界観、完成度の作品を書くとは本当にすごい人が現れた。
個人的な好き嫌いはあろうかと思うが、
少なからず読書をするものであれば、
この小説が(というか作者が)他とは明らかに違うということがわかると思う。
大衆文学やら純文学のそもそものカテゴリ分けなどは知ったこっちゃないが、
もし分けるとするならば大衆とは一線を画するのは必至だ。
限られた登場人物、限られた場面、
進展しない物語の中、
ここまで世界が広がる小説こそ、私が読みたい小説であり、
本当の物語は外にではなくやはり内にあるのだと、
改めて思い知った。
本作は、恋人を失った虚言癖の男がその恋人の指と共に行動を共にするという
かなり変わった物語であるが、
その異常性如何よりも、陰鬱なものを秘めながら社会と関わる姿に全てがあるように思えてならない。
タイトルが『指』とかでないのも、重点がそこではないことを物語っていると思う。
虚言癖でありながら、簡単に狂人然としないところにも好感を覚えた。
小説でもリアルでも、簡単に人が狂いすぎる昨今だから。 -
文体と作風が好き。
自分の秘密のために嘘をつくにつれて、自分自身が嘘に順応していく感じがおもしろい。 -
めちゃくちゃ虚言癖のやつの話
意識的に嘘ついたり無自覚に嘘ついたり本人もよくわからなくなってかなりヤバイやつだった
なのに自分にも少なからずこういう所あるわと思わせてくるところがさすが
初期だからかかなり心理描写が深くなかなか入り込んでしまった
こういうヤバイ奴に多少共感してしまう自分も結構ヤバイ奴かもしらん
気をつけよう -
解説にも書かれてある、「これは世界の成り立つの不条理に対して、勝てる見込みのない抵抗を試みた、一人の虚言癖の青年の記録ということである。」
しょうもない現実を実感し続けるより、狂っていたほうがいいかもしれない。
「私には、狂人というのは、一般的に幸福に見えた。」
「他のどんなことも、もう私には関係なかった。私は自分に訪れた圧倒的な無関心を快く受け入れた。」
誠実さを求めた先は、傷つけあいでしょうか。
頑固で自己中と言われたことがあるが
私はいつも真剣でいたつもりでした。
嘘を言いたくない うわべを言いたくない
そして口をつぐんだ -
影にとらわれながら生き続ける自分の姿を語られたように感じました。それだけが自分ではないです。でも、ひとりぼっちが見つめるのはいつも自分の影です。
嘘をつくことが主人公にとっての影です。物語が次第に主人公から光を奪っていく様が、気持ち悪いほど見事でした。 -
大切な人の死に対する絶望感や悲しみを受け入れられず、昇華出来なかった青年の話。
中々気持ち悪い部分もあるけど、こういった感情や行動をしたくなるのも一部ではあるが理解出来てしまう。
大切な人の死を受け入れ、正しく認識をすることも自分自身の暗い部分の中に落ちてしまわない為の対処として必要なんだなと思ったと同時に、どうすれば正しく認識し、気持ちを昇華できるんだろうとも思った。
自分の暗い部分や負の感情を馳せるためにも中村さんの作品はやっぱり必要だなと改めて思う。 -
「銃」に続く2作目。デビュー作の「銃」とのテーマの類似点が話題になっていたが、「銃」を読んでいないのだが、この暗い魂の異常な揺れや、執着心のありかは想像できた。
両親を失ったが裕福な家庭に引き取られ、不自由のない大学生である。だが、心の底に大きな喪失感の暗い塊がある。
その塊のせいか、いつも自分をしっかり掴んでいられない。日常にあわせて生活するだけの智恵はあるが、言葉がその場その場に都合よく口からでる。
そんな暮らしの中に間違って飛び込んで来た美樹という女と繋がりが出来る。
確信はないが、無邪気な彼女といると、心が落ち着く気がする。
その彼女が突然交通事故で死んだ。
警察に呼ばれて彼女と対面したが、現実感はない。小指を切り取って帰った。それからは小指が美樹の代わりになった。ホルマリン漬けにして小さいビンに入れて黒い布に包んで持ち歩いている。
常に鞄を触って美樹の存在を確認している。
友達に聴かれると、美樹はアメリカの留学しているといっておく。次第にそのウソが現実的になってくる。
自分自身の置き所が不安定で、かっとなると暴力を振るう。
美樹をなくした怒りか、自分を捕らえられない怒りか、ときに爆発して自分を見失う。
魂の暗い揺れや、喪失感や、虚言癖はますます抑えられなくなり、隠し続けた重みからか、美樹の指のことをついに叫んでしまう。
心の置き所をなくした若者の異常な日常は、悲しみと愛惜と、虚言と暴力の日々になって流れていく。
どうしようもない暗さが迫ってくる。
小さな暗さを持たないで生きることはない、しかし、ただそれだけに抵抗し、すがり暴れる、若者の姿がやりきれない。
心の鬱屈した影を書き続ける中村さんの代表作の一つになった。若くないと書けない異常な状況を描いた作品だが、この重さにどこか共鳴するところがある。