日蝕 (新潮文庫 ひ 18-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101290317

感想・レビュー・書評

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  • ◯中世ヨーロッパの修道僧の視点であり、硬く見える文語調の言い回しなどは、その演出・表現として活きている。
    ◯退廃的かつ幻想的な世界において、神と見まごう出来事の中に自分を見てしまう当たりはまさに日蝕と感じさせる。
    ◯太陽・陽である神と、月・陰である人間が重なり、同円に多い尽くし、隠してしまう。人間を超越した存在を殺すことによる罪を人は背負わねばならない。
    ◯それは神の死んだ世界であるが、先の世における人間賛歌の時代までは、未だ感じさせられず、堕落し、退廃的な世界の暗さを感じながら生きねばならない。
    ◯ファンタジーではあるが、中世暗黒時代の肌感覚も感じられて面白かった。

  • 15世紀頃、キリスト教の敬虔なお坊さんが
    信仰書籍を求めてフランスからイタリアに旅に出る物語。

    読了までにめちゃくちゃ時間がかかった。

    独特の擬古文的文体は決して読みやすくはないが、
    本作で描かれている「人間の求める聖性と業の表裏一体」は
    確かにこういった文体でなければ表現できないところとも思う。

    京大在学中に発表し芥川賞を受賞した当時は賛否両論だったようで、
    大きな「否」の論拠は作品が衒学的である、という点。

    確かに物語全体を通して訴えたいことは理解できたが、
    それが作者の真に言いたいことなのかどうかは判然としない。

    その意味で、衒学的と言われてしまうのかもしれないが、
    濃淡の差はあれど、人間の表現活動全般に
    衒学的要素は内包されるのであって、そこだけを論われるのは
    論評としてフェアではないと思う。

    登場する敬虔なお坊さん、研ぎ澄まされた寡黙な錬金術師、
    錬金術師に使える畸形の下男、下男の妻は村の堕落した司祭に孕まされ、
    生まれた子供は唖、更には洞窟に囲われる謎の生物と設定はド変態の極み。

    人間の業が聖性を生み、聖性が新たな業を生むというスパイラル。
    そのスパイラル自体の業性と一気にすべてを破壊する奇跡。
    衒学的だろうが、ここまで描ききれば見事と思う。

  •  思ったよりファンタジーだったのでびっくりした。もっともっと主人公が思索に耽るばかりの話かと思っていた。イヤ、十分耽っているわけですけれども。
     難しい文章、といわれることが多いけれども、明治時代あたりの小説を読み慣れていれば普通に読めるし、読み慣れてなくてもちょっと頑張ればすぐ慣れる。むしろ、どうしてそう同じ熟語を連呼するんだ! もっと違う言葉を出してくれ! と思った。個人的には、平野啓一郎は説明が上手な人だと思っている。ニコラの思索にみられるような難解で抽象的な話も、かなり分かりやすく書いてあると思う。
     ただ、そういった思索が非常に面白かったのだけど、最後のアレでパーンしてしまった。え、ええと、何が書いてあったんでしたっけ?

     以下、蛇足ながらこの作品について佐藤亜紀が自作『鏡の影』からの盗作疑惑をウェブ上で発言したことについて。
     私は『鏡の影』は未読なので、どうして佐藤亜紀がそう思ったのか分からない。『日蝕』が盗作で書けるようなものだとは思えないが、盗作である証拠もそうでない証拠も、提示しようがない。佐藤亜紀も提示できなかったようだ。
     にも関わらず他人の小説を盗作だと言う、これは創作をする人としてあるまじきことだし、普通ならば絶対にしないことだと私は思う。『鏡の影』絶版と『日蝕』発表等々が重なり、精神的に落ち込んだために生まれた邪推だろう。
     ただ、佐藤亜紀が何か自分の作品に通じるものを、この『日蝕』から感じとったということは確かなのだろう。少し心持ちが違っていれば、佐藤亜紀は平野啓一郎という新人作家にとって良き理解者となれていたかもしれないし、またお互い良い刺激を与え合うことができたかもしれない。それなのに、一度言われた盗作疑惑は晴れぬまま延々と残り続け、平野啓一郎は佐藤亜紀なんか知らんしこれからも読む気はないとか言ってしまう。
     どちらも素晴らしい作家なのに残念だ。とりあえず、佐藤亜紀は『天使』しか読んだことないので、そのうち『鏡の影』などの作品も読んでみようと思う。

  • この本を読んで、私は悔しさのような絶望感のような哀しさのような気持ちで涙が出た。
    物語の表層にではなく物語の内容とは別とでも言うべき深層に在るものに、文章という表現方法の中に垣間見られる、形の無い、例えば絵画を見て何かしらを感じる時のようなものが、私を涙させた。

    解説を読むと、私の感想は全く本質を捉えておらず、作者の意図や記されたメッセージを汲み取っていないらしいのだが、別に解説通りに読まなければ(感じなければ)いけないということはない。

    平野啓一郎氏の小説をいくつか読んで共通して感じることは、語り手となる主人公に、苛立ちのような不快感のような嫌悪感のような類の感情を抱かせられるということだ。
    そういった感情を抱くというのは、実は統ての人間の本質にある黒い塊を実に正直に顕しているからに他ならない。
    しかしながら人間は綺麗事が好きなのだ。真正面から自分の本質など見たくなんてないのに平野氏は平気で抉り出してしまう。圧倒される程の才能を持って、その美しい文章と毅然とした文体と緻密に構築された流れとで抉り出す。
    不快でありながら清く潔く美しいという相反する感情を抱かせる。
    そんな風だから、後味は決して良くなくて、心に重く苦しく行き場のない感情が残る。

    それでも私は平野氏の小説を手に取ってしまうのは、現代のくだらない情報が氾濫する中で、平野氏は人間に対して嘘偽りなく真正面から文章で向き合っているように感じるからだ。

    そういう真摯な姿勢で小説を書く若い作家はそういないだろうと思う。

  • 平野啓一郎自身の小説は何気に初めて。「三島由紀夫の再来」と謳われていると、少しは引っ張られてしまうので、そういうこと言うのやめた方が良いのになあ…。一方で、陶酔というか宗教的合一で得られる法悦感のテーマに関しては、理解できるが…でとどまってしまったのは残念な気もするが、そこが平野であるということなのだと思う。アンドロギュノスに出会い、ピエェルが彼に触れている部分は美しくあったのだけれど、もう一歩陶酔が欲しいし、光…の部分も欲しいが、それに酔うような文章を書くことが良いのかはスタンス次第。ニコラが感じた霊肉一致を体験したいという欲求を持ちつつ、それを是とせず本作を書いたのが平野の良いところなのだな

  • 一般的に使われない様な言葉を多用していて、かなり読みにくく、硬質な文章だなと思っていたが、読み進めると存外分かりやすくスラスラと読んでいける。

  • 芥川賞受賞作品ということで、図書館で借りて読了。

    面白い。もともと泉鏡花の作品が好きなので、擬古文には慣れていたが、根底に流れるものも、それに近く感じられた。

    他の作品も読んでみたいと思わせる。

  • 十分に理解したとは言いがたいが、文体で敬遠していたのをしばらく後悔してしまうくらいの深みと読みやすさを持った一冊。人間のみすぼらしさと業の深さに、深くため息をつきながらも、なにも変更の術を持たない。せいぜい加害者にならないのみだけれども、その確信すら持ち合わせていない。

  • 亡くなった友人が薦めていた本
    言葉遣いは難しいが読みやすい

  • 読みにくい文章で一度挫折した小説。
    読みにくさを耐えて読み進めれば、後半の盛り上がりと美しさに惹かれる。

著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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