錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.84
  • (704)
  • (766)
  • (888)
  • (72)
  • (22)
本棚登録 : 6977
感想 : 744
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101307022

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 実家の本棚にずっとあった文庫本でいつの間にか所有してたものの、読むタイミングなく時を経て紙が黄ばんだ状態になっていた。ついに手が伸びて読み始めた。読み終わって、それなりに人生経験を積んだ年齢で読めて良かったと感じた。人間の狡さ弱さ強さは簡単に割りきれるものではない。また、その人が抱える業というものはやはりあって、その流れには抗えず人生を歩んでいるのかとも思った。
    過去に夫婦だった2人が書簡を通して過去を見つめ直して未来に向かっていくことになるのだが、別に綺麗事でもないし円満という訳でもなくそれがリアルだった。
    今の時代は手紙はおろか、人との日々のやりとりのメールも短文で終わり、自分の内面と向き合って長い手紙を書く機会は滅多にないが、ブログとかSNSで発信して反応を得ることがこれに近いことなのかなーと思ったりもした。

  • 随分前から気になっていた作品でしたが、
    小難しそうな作品だと思ってなかなか手を付けていなかったですが
    今年の夏の新潮文庫のおススメをきっかけに手に取りました。

    離婚した元夫婦が往復書簡を通してやり取りしたことが綴られた物語。

    今まで何冊か往復書簡で書かれた作品を読んだことがありますが、
    これだけ濃密な内容のやり取りを描かれたものに出会ったことが
    無く、冒頭からぐっと引き付けられてそこから一気にこの世界に入り込みました。

    元妻の丁寧で上品な文章は今ではなかなか身近では触れることのない
    言葉や行動、そして女性の心情が詳細に描かれていて、
    時には鬼気迫るものがあったりして心を揺さぶられ
    るものがありました。
    その一方で男性は優柔不断のようなあやふやなような振る舞いで
    いかにもという印象で少し苛立ちそうな感情になりました。

    元妻は手紙の書き初めの頃はまだ自分の気持ちが
    元夫を想っているような気持ちがあったり、
    無理心中をした相手を深く嫉妬して苛立っていたような
    気持ちになっていたと思っていたので、
    このまま男性に対してどんな行動を取るのだろうと
    とても興味深かったです。

    けれど往復書簡を何通も書いていくうちに嫉妬心よりも、
    一人の人間として女性としての誇りや気高さ、
    何よりも母として一人の息子を立派に育て揚げるという
    使命になっていて凄い成長ぶりに驚くばかりでした。

    「人間は変わって行く。
    時々刻々と変わって行く不思議な生物だ。」という
    父の言葉が彼女にとって更に人として大きく成長させて、
    私もこの言葉にとても共感してしまいました。
    特に
    過去なんて、もうどうしようもない、過ぎ去った事柄にしか
    過ぎません。でも厳然と過去は生きていて、今日の自分を作っている。
    けれども、過去と未来のあいだに(いま)というものが介存していること。
    という言葉が痛烈な印象です。
    これと同時に
    「生きていることと、死んでいることは、もしかしたら同じことかもしれない」
    という言葉が何度も出てくるので、
    何度も自分の中で考えるテーマともなりました。

    恋愛小説と一言で言うには勿体ないくらい奥深く、
    歳を重ねて読んだら更に奥深くなりそうな作品だとも思いました。
    人を愛するというのはどうゆうことなのか、
    そして生きるということについて
    改めて考えさせられました。
    また歳を重ねてから再読してみたらどんな感想に
    なるのかと思い大切にして読みたい一冊になりました。

    本の帯にも書かれているように石田ゆり子さんが推薦で
    わたしにとって永遠のラブストーリーというのに
    相応しい作品とも思います。

    現代はデジタルな世の中なので手紙という形式だけでも
    風情があって特別な物だとも思うし、
    手紙に書かれている文章がとにかくに日本語として
    丁寧で綺麗に描かれているので素敵です。
    手紙という特別なスタイルをいつまでも忘れないようにとも思えました。

  • 良かった。

    ゆっくりと、

    モーツァルトを聴きながら、

    余韻に浸ります。

  • 生と死、いのち、業…。
    きっと、繋がるべくして繋がる人と人、いのちといのち。
    善も悪もひっくるめて、いや、それらも超えたところで生きることの深みに触れる一冊。

  • すごくよかった。
    先日、初めて宮本輝さんの小説を読みました。
    そのことを職場の読書好きの人と話していると、その人も宮本輝さんの小説はほぼ読んだことがないのだけれど、人から勧められて読んだのが【錦繍】とのことでした。
    そこで、私も読んでみたくなり、図書館から借りてきて読みました。

    まず、文章がとにかく美しい。
    そして情景描写が丁寧で繊細で、目の前にリアルにその場の状況が浮かんできます。
    命とは、生きるとは、死ぬとは、人生とは、いったい何なのか。

    解説もよかった。
    普段、あまり解説をじっくり読むほうではないが、この本の解説もまた響くものがありました。
    なんだか宮本輝さんにハマりそうな予感。

    読書をしていて最近感じるのは、年齢関係なくどの世代にも愛される本もあるけれど、その年齢だからこそ刺さる本もあるということ。
    自分が30代に入り、結婚、転職、引越しなどの経験をしてきて、自分に響くものが変わってきていることを実感しています。
    私が20代前半にもしこの本を読んでいたとしても、途中で読むのをやめていたかもしれない。読んだとしても、何も感じなかったかもしれない。
    もちろん、若くてもその作品の良さを感じられる人はいるだろうけど、私の場合はそうではなかったと思います。
    今だからこそ、この本と出会えて良かった。
    心からそう感じます。

  • 「生きる」とは「命そのもの」に無数の傷を刻むことであり、「死」とは限りもなくその傷跡を暴き続けることなのかもしれない。
    (解説より)

  • とっても綺麗でとっても寂しい

  • 全編手紙は変態すぎた。ただの男女の憎悪かと思ったらそんな狭い世界ではなく、もっともっと深いことを伝えてきた。
    読書してるのに全く語彙力はないけど、とにかく心に残ったってことだけは言わせてほしい。
    次の文に何が描かれてるのか、気になって気になって仕方なかったんだよ〜
    冷静になればなるほど、この人たちただのもつれ合ってる男女じゃなくて、変態だよなと思うわ、300ページほど全てが手紙文は本当に笑う

  • 人は、どれだけ寄り添っても結局は他人なのだろうか。
    この本を読むと、それでも理解しようとそばに居る事や、例えそばに居なくても心を通わせようと努力することこそが大切なのだろう。そう思えた作品でした。
    私は若いうちにこの本に出会ったけど、年齢を重ねていくうちにまた違う見え方があるかもしれません。
    何度も読み返していきたい、そんな本です。

  • 亜紀は真っ白な横書きの便箋で一文字ずつ丁寧に、有馬は縦書きで万年筆で縦長な達筆な文字で手紙を綴っていたのではないか、と想像してしまった。ごく普通の文庫本なのに、このあたりはきっと文字が乱れていたのではなかろうか、などと人物像が次々と浮かび上がってくる。様々な人との巡り合いの中で亜紀も有馬も自分を見つめ、自分の足で生きていくことを決意する。「みらい」に希望が持てるところが良かった。

全744件中 61 - 70件を表示

著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

宮本輝の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×