レベッカ 下 (新潮文庫 テ 4-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102002025

感想・レビュー・書評

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  • 下巻再読了。仮装舞踏会でかつてのレベッカと同じ扮装をしてしまうという衝撃的な事件のあと、「わたし」はなんとか気力を振り絞り、パーティを乗り切る。しかしその晩、夫婦の寝室にマキシムは戻って来なかった。翌朝もマキシムとは擦れ違い。「わたし」は、自分を罠にかけたダンヴァーズ夫人を難詰するが、夫人は開き直り、ついに本性を露わに。レベッカのいた場所を奪った「わたし」への憎悪をぶつけ、「わたし」にバルコニーから飛び降りろ(つまり死ね)と詰め寄る。危うくそれを実行しそうになった「わたし」だが、そのとき信号弾の衝撃で正気に返る。どうやら入江で海難事故が発生したらしい。この事故で急展開。

    座礁した異国船の引き上げで、港は大騒ぎ。マキシムは地元の名主として対応に追われ、またしてもずっと「わたし」とは擦れ違い。しかしその晩、港長のサール氏がマンダレーを訪れ、ある事実を告げる。座礁した船を調べるため海底に降りた潜水夫が、レベッカのものと思しきヨットを発見、しかもそのヨットのキャビンにはすでに白骨化した遺体が残されていたというのだ。レベッカの遺体は、事故から数か月たってから遠くに流れつき、マキシムがそれを確認して埋葬されたはず。ではいったい、ヨットの遺体は…?

    港長が帰った後、ついにマキシムはレベッカにまつわる恐ろしい事件の真相を「わたし」に打ち明ける。レベッカは家柄も本人の美貌や才気も素晴らしい女性だったが、実はそれは表向きの顔で、結婚してわずか数日後には、マキシムは彼女の恐ろしい本性を知ってしまう。淫奔で、わがままな彼女は、表向きはマンダレーで完璧な女主人を演じるけれど、それ以外はロンドンで好きに遊ぶことをマキシムと交渉、体面を気にしたマキシムは、レベッカの言う通り、マンダレーでさえきちんとしていれば、後は自由にすることを許す。レベッカはロンドンに部屋を借りて愛人でもあるいとこのジャック・ファヴェルと放蕩生活。次第に調子に乗って、マンダレーにも自分の遊び友達を連れ込んだり、クローリーや、ビアトリスの夫を誘惑するように。

    最初は我慢していたマキシムだったが、やがて我慢の限界を超え、ついにある晩、レベッカを銃で撃ち殺してしまう。そしてその遺体を彼女のヨットに乗せ、ヨットごと沈めたのだった。発見された遺体は偶然のなりゆきで全くの別人。マキシムは自分のしたことに怯え、マンダレーにいたたまれず旅に出たところ「わたし」と出会い、レベッカとは正反対の素直で裏表のないところに救われ、結婚をした。ようやく幸せになれると思ったのに、今になってレベッカの本物の遺体が発見されてしまった。レベッカの勝利だ、とマキシムは言う。

    ここで面白いのは、「わたし」が、マキシムによるレベッカ殺害自体については全くショックを受けていない点。彼女にとって大事なのは、マキシムが今もレベッカを愛しているのかどうかの一点のみ。すべての告白を聞き、マキシムが自分は一度もレベッカを愛したことはなかったと断言したことで、「わたし」は狂喜する。ずっとレベッカと比較され、レベッカの幻影に苦しめられてきた「わたし」にとって、マキシムがレベッカを愛していなかった=自分のほうを愛しているという事実こそが、すべてにおいての勝利宣言。ここにいたってようやく「わたし」は、レベッカの呪縛から解放され、マキシムと心からの愛情を確認する。

    そこで二人は、真実を話して自首することは考えず、どうやったら事実を隠蔽できるかについて相談する。最善なのは、以前の遺体確認のときは動揺していたため間違えた、今回発見されたのが本当のレベッカの遺体だとシンプルに認めること。遺体はすでに白骨化しており、銃弾は残されていないため、レベッカの死因は第三者からは確認しようがない。数日後、検死審問にマキシムは呼び出される。予定通り、遺体確認ミスとして無事終了しかけるが、ヨットの業者が不自然な穴が内部に開けられていたことなどを主張して再び審議に。最終的に、レベッカは自殺した、という結論が下される。

    ようやく胸を撫で下ろしたマキシムと「わたし」だったが、そこへジャック・ファヴェルが登場。レベッカが自殺するはずなどない、と死の当日自分宛てに残されたレベッカのメモを見せ、マキシムを恐喝する。そこで地方判事のジュリアン大佐が呼ばれ、マキシム、「わたし」、フランク・クローリー、ジャック・ファヴェルの間で私的な尋問が行われることに。ファヴェルは自分とレベッカが愛人関係であったことを明かし、嫉妬によりマキシムがレベッカを殺したと主張。しかし大佐は、メモの内容だけではそこまでの証拠にならないと言う。ファヴェルは、海辺を徘徊していたベンを呼ぶが、彼はレベッカもファヴェルも見たことがないと言い張る(おそらく見たことを言うなとレベッカが脅していたことが今回裏目に出たのだろう)

    さらにダンヴァーズ夫人が呼ばれ、ファヴェルはレベッカが愛していたのは自分であり夫人もそれを知っていると主張するが、なんとダンヴァーズ夫人はこの発言を一笑に付す。なぜなら、レベッカは誰も愛していなかったから。すべての男性を手玉に取り見下して笑いものにしていただけで、誰も愛したことなどないのだと。そして死の当日のレベッカの行動についての疑問が起こり、ダンヴァーズ夫人が保管していたレベッカの手帳が持ち出される。その日レベッカは、ダンヴァーズ夫人にすら秘密で、ある人物と会っており…。残されていた電話番号を手掛かりに問い合わせると、相手が産婦人科医であったことがわかる。ファヴェルはそれを知りほくそえむ(レベッカが自分の子供を妊娠していたと思ったのだろう)

    翌朝、一行はその産婦人科医に会いに行く。医師のカルテから、レベッカが実は子供を産めない体であったこと、さらに癌に冒され余命僅かであったことがわかる。大佐もファヴェルも、レベッカはそれを苦に自殺したのだと納得する。マキシムは、だからこそレベッカは自分にあえて殺させようと挑発したのだと(つまり間接的な自殺)思い当たる。ようやくすべてのカタがつき、「わたし」とマキシムは夫婦でマンダレーに戻るが、なぜかマンダレーの方角がオーロラのように赤く燃えている。潮風にのって灰が飛んできた(マンダレーが燃え落ちた)という場面で、物語はあっけなく終わる。

    上巻冒頭で、すでにマンダレーを去り異国にいるマキシムと「わたし」の日常が描写されており、ラストでそこに戻るのかと思いきや、戻らない(自分で上巻取り出して戻るしかない)。マンダレーを離れた二人は全然楽しそうではなく、改めて、やっぱりレベッカの勝利だったのか?と思わされてしまう…。ヒッチコックの映画はテレビで大昔に見たと思うのだけど、たぶん燃え落ちるマンダレーとダンヴァーズ夫人のイメージは映画で刷り込まれたもので、原作にはそのような描写はなく、ダンヴァーズ夫人が火を付けたともはっきり書いていないので、状況からそうだろうなと察する程度。

    仮装舞踏会の事件までは、謎めいたレベッカの存在に脅かされるゴシックホラー&ロマンスぽかったけれど、ヨットと遺体が発見されてからの後半は裁判や証人探しなど刑事ものサスペンスのような展開で、がらりと雰囲気が変わる。同時に21歳にしてはやや幼かった「わたし」も急激に大人になり、おどおどするのをやめてダンヴァーズ夫人にも立ち向かうまでにキャラ変。おもしろい構成。そしてとにかく読むのを止められない。

    上巻でも比較した「ジェーン・エア」や、ジャンルは違うが「アンナ・カレーリナ」「ボヴァリー夫人」等のように、ヒロインの名前をタイトルにしていないところも、よく考えたらかなり特殊。「わたし」の名前は最後まで出てこない。呼ばれるときは、ミセス・ド・ウィンターだが、これはレベッカの呼称でもある。生前のレベッカの本当の顔はマキシムやダンヴァーズ夫人の話を総合するとちょっとしたサイコパスで、とっても怖い。不在のレベッカが常に物語を支配しており、彼女の名前がタイトルになっているのも納得。

    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こんにちは(^^)/

      樹なつみ大好きなんですけど、実は「OZ」は読んでないんです(^_^;)
      でもニュアンスはなんとなく...
      淳水堂さん、こんにちは(^^)/

      樹なつみ大好きなんですけど、実は「OZ」は読んでないんです(^_^;)
      でもニュアンスはなんとなく伝わります!
      自己愛サイコパスって、死に様も自分で決めたいって感じなんですかねえ。

      レベッカもマキシムが自分を殺すよう仕向けて、でもその理由は「愛する人に殺されたい」じゃなくて「自分の死後もこいつを苦しめてやろう」だろうなって印象を受けました(怖)
      2021/05/08
    • 淳水堂さん
      yamaitsuさん
      お返事ありがとうございます。
      OZはきっとyamaitsuさんのお気に召すと思います。(^ ^)
      たぶん”レベッ...
      yamaitsuさん
      お返事ありがとうございます。
      OZはきっとyamaitsuさんのお気に召すと思います。(^ ^)
      たぶん”レベッカ”をモデルにしたであろう人物も出ているんですよ。よろしければ〜。
      2021/05/09
    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、機会があれば是非読んでみます!
      淳水堂さん、機会があれば是非読んでみます!
      2021/05/09
  • レベッカという名には、「つなぐ」とか「罠にかける」の意味があるのだという。もしもこの作品もそうしたことを踏まえているのなら、レベッカの影に悩まされる主人公「わたし」に名前がないことも実に象徴的だと思う。ひりひりとした緊迫感が物語全体を覆うなか、マンダレイの情景の美しさや、若く悲観的で頼りない主人公の心の揺れの緻密さにうっとり。今となっては少し古めかしく感じられる翻訳も、雰囲気たっぷりで楽しめた。

  • 下巻です!
    上巻以上にハラハラドキドキが止まらなくて、怖かったけどとっても面白かったです。

    また、完璧な夫人だと誰もが思っていたレベッカの実像が明らかになるにつれ、「わたし」が成長していく。
    彼女の、大人になるための扉を見つけた瞬間、手をかけた瞬間、そして扉の中に入ってゆく瞬間・・・その繊細な心の過程がこんなにはっきり表現された作品はなかなかないのではないでしょうか。圧巻!素晴らしかったです。

    そして最後、ラストシーンを読みにつけお屋敷の荘厳さとマンダレイの自然にあらためて胸を打たれました。

    絶対に冒頭場面を読み返したくなる作品です。

  • 前々から読もうと思ってましたが、短編集を購入したのでやっと読んでみました。
    面白かったです。
    サスペンスの要素が強く、先が気になってどんどん読んでしまって、つい読み飛ばした部分もあります。
    主人公の「わたし」にイライラしながらも(絶対騙されてる!とか、考えすぎやろ!とか)これも一つの成長物語と言えるのかもしれません。
    成長するということが、いいことなのかわかりませんが…。
    男女が深く愛し合うとき、それはもしかすると「共犯者」という状態なのかもしれません。
    きっと、私もそうするだろう、と思いました。

  • 2013.3.23読了。

    こ、こわいー!途中で止められなくて読み続けたからおしっこもれるかとおもた。

  • 途中までは精神的に追い詰められる過程がつらくて、どうしてこんな思いまでして居続けるのだろう、帰る(逃げる)ところがないからだよね・・。と読んでてつらかった。
    けど、あのシーンからヒロインが能動的になりテンポも変わり、いろいろなことが明らかになる過程がおもしろく読めた。

  • 絡み合う嫉妬と愛欲。もうぐちゃぐちゃです。

    主人公である「わたし」のレベッカに対する恐怖心や嫉妬は、面識のない恋人の昔の恋人に抱く感情と似ているのでは。

  • 三月は深き紅の淵を

  • 上巻参照。

  • 前半では追い詰められてばかりだった「わたし」ですが、
    後半では立場が少しずつ変わっていきます。
    それにしても、上巻の最後〜下巻の最初の方の家政婦の
    デンヴァース夫人がとても怖くて好きです。
    レベッカの死の真相が分かってきますが、最後まで
    読むとレベッカの秘密がもう一つ明らかになります。
    最後の場面の終わり方も印象的です。

  • ↓、の下巻☆
    上巻よりも下巻のほうがより面白い。
    けど本当により怖い・・・。
    怖い夢までみました笑。

    2008,february

  • サスペンス。意外な事実が分かって面白いが、オチはいまいち納得いかない。

  • 「鳥」と同様、この「レベッカ」もヒチコックによって映画化されています。優れた監督によって映画化されて恵まれてはいるが、やはり原作に勝る物は無し。

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