銀花の蔵

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103198321

感想・レビュー・書評

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  • 絵描きの父親と料理、お菓子作りが趣味の現実離れした母親と大阪で暮らす銀花。
    銀花にとっておじいちゃんが亡くなり、父親の実家に一家で移り住むことになる。そこは、座敷童が出るという言い伝えの残る由緒ある醬油蔵の家だった。

    世間ずれし、万引き常習犯の母親の、尻拭いどころか、自分が疑われ、奈良に引っ越してからできた友達にも絶交され、父親と歳の離れた妹(銀花にとって叔母)は自分より1つ上。その叔母である桜子は、悪い仲間と付き合い、書き置きを残して家を出る。

    銀花が10歳のときこの雀醤油に来て、それからまあ様々のことが起こる。そして時を経て、桜子の双子が成人して、その片方は日本かぶれのロシアの男の子と結婚する。

    いろいろ起こりすぎる人生だと思ったが、そういうのもありかな。

  • 2022.8 まぁ昭和のうら寂しい物語。気が滅入ることはないけれどテンポも暗いので読後はホッとしました。
    ドライブインまほろばと同じ雰囲気の物語ですね。

  • 家て何? 血のつながりって何? 親子って何?って、感じさせる本である。

    お醤油づくりの裕福な家に育ったボンボンの父、ホンワカと父の好きな料理を作るのが大好きな母、そして主人公の銀花。
    これだけを見ると、幸せな家族のように見える。
    しかし、父は、お金にならない絵描き屋(?)、そして母は、万引き常習犯、そして銀花は、母の子連れ。

    幸せなのだが、父親の実家へ引越さなばならない事に・・・
    そこは古い醤油蔵のある大きな家。
    そして座敷童の話・・・・
    この座敷藁氏が、見えたものが、この家の当主だと、言い伝えられているのだが、・・・・
    それには、大きな訳があり、偽の座敷童から、祖母の時代の忌まわしい出来事の封印にも、関わる事であった。

    醤油作りを生業としている家の後継者の父だが、醤油を作るより、絵を描きたい気持ちが、高い。
    それに、美人で優しい母が、万引きをするのだが、それが、銀花の仕業に思われ、学校でも、そして、従業員からも 白い眼で見られるようになる。

    針の筵にいるような小学生時代を過ごしながらも、祖母多鶴子から醤油の作り方を教わる。
    血の繋がらない孫娘に、教える祖母。
    そんな中、父と杜氏が、不慮の事故。
    その後、母も突然の病で、亡くなってしまう。
    年の近い伯母は、自由奔放で、この家を出て、双子の子を宿し、祖母に押し付けて行く。

    銀花は、その時には、醤油作りの従業員の子供であり、いざこざで、人を殺めた剛と所帯を持っていたのだが、・・・
    この時も、周りからは、色々噂が、たっていたにも関わらず、その子たちを養子に・・・

    しかし、その後は平和な家庭が、描かれている。

    この本の中で、世相も描かれ、大阪万博、阪神大震災・・・等など、私にとっても、そうそう、この時代・・・と、自分の昔を思い出しながら、読んでいた。

    最近、母方の伯父が、45代目が亡くなり、子供が居なかったから、弟を準養子とかするとか言っていたのだが、弟の方が先に逝ってしまい、跡取り問題が、出ていた。

    しかし、この本を読んで、○○家の跡継ぎ、そして血のつながりのない子の相続について、考えさせられることが多かった。
    今少子化時代、私の友人も子供は女の子ばかりで、嫁がせて、ご主人の親の墓守と、自分の親の墓守もしているけど、後、世話をするものが居ないであろうと、つぶやく。

    この本のように、後を継続してくれるものが居て、おわりになっているのだが、こんな風ににはなかなかいかないのが現実である。

  • 遠田さんの作品は3冊目。毎回一気読みしてしまう。
    全体的に決して明るくはないけど、ラストの暖かい感じが好き。
    人の弱さ、罪、劣等感など、みんなが持っている負のものを温かく受け入れて包んでくれている気がする。

  • 大阪の文化住宅で絵描きの父と料理が上手で笑顔が可愛らしい母と共に暮らす銀花は、父方の祖父が亡くなったため父の実家の醤油蔵を継ぐため奈良へ引っ越す。
    厳格な祖母と、銀花よりひとつだけ年上の叔母・桜子が住む家は、歴史ある醤油蔵を持っているが、昔と違い杜氏と当主の二人で細々と営まれる家業は、傾いていくばかりだった。

    銀花の父親は醤油づくりが苦痛でならない。
    しかし絵が売れないのでいやいや醤油づくりを行っている。
    そして母には、無意識に万引きを行ってしまうという癖があった。
    こんなことがばれては大変なので、銀花はいつも母を庇い、濡れ衣を着せられてもいいわけひとつしないで我慢していたのだ。

    危ういバランスの上で成り立っていた銀花の家は、しかし、次々と不幸に見舞われる。
    父が杜氏の大原と出かけた日に二人は行方不明になり、川で死体となって発見される。
    母は現実を生きていないかのように父の好物をつくり続ける。
    祖母はたった一人で蔵の仕事を行い、桜子は美貌を盾に遊び歩いてばかりだ。

    銀花ばかりがなぜ我慢しなければならないのか。
    不憫で不憫でならなかった。

    銀花の父は「かわいそうな人だから」と銀花の母を甘やかした。
    しかし父も強い人間ではなかった。
    だから…だから銀花ばかりが我慢をしなければならないの?

    ”頑張って笑わなければ、と懸命に大きな口を開けた。勝手に涙が出て来た。ぐい、と拭ってさらに笑う。大丈夫。私は笑える。笑えばかわいい。お父さんはそう言ってた。銀花は懸命に笑い続けた。”

    とうとう母の秘密が露見し、そのことで銀花の初恋の相手・剛が事件を起こすことになる。
    親に心配かけ続け、師に目に遭うこともかなわなかった自分を悔いる剛。

    ”罪ではない罪は、普通の罪よりずっとタチが悪い。(中略)誰がなにを言っても無理だ。罪ではない罪とはそんなものだ。罪ではないから償えない。償えないから消えない。”

    銀花の家がぎくしゃくしているのは、銀花の出生のせいだけではなく、祖母の、さらにその母親の秘密と嘘がもたらしたものだ。
    それが銀花だけではなく、剛の心にも傷を残した。
    一生後ろ指をさされながら生きることを覚悟した剛は、銀花の気持を知りながら銀花を避ける。

    ”弱い人を責めるのは簡単や。悪い人を責めるのも簡単や。(中略)人がどんな罪を犯したかなんて問題やない。ただ、自分が安心したいから、自分が気持ちよくなりたいから人を責めるんや。”

    先祖の罪を、両親の弱さを、なぜ子どもが負わねばならないのか。
    親に愛されたいと願っていた剛の気持は、どこで親とすれ違ってしまったのか。

    しかし、どうしても剛と一緒になりたい銀花は、世間に後ろ指を指されても彼を諦めることはできなかった。
    いつまでも事件を忘れない世間の中で、二人がお互いを大切に生きてきたことの証が、剛と銀花の二人で作り上げた家族の温かさが最後に書かれていて、安堵の涙が止まらない。

    そのちょっと前に、全ての捻じれの初めの秘密が明らかにされ、ああこれで、解放されるんだなあと思ったけれども、その想像よりはるかに温かいエンディング。
    家族って言うのは血の繫がりではなく、心が繋がってこそだよなあ。

  • 老舗醤油蔵を背負って立つ、薄幸の主人公「銀花」の物語。

    登場人物がタフな環境で人生をあがくのが遠田作品の常套手段であり、クソみたいな人生やけど一生懸命生きたらクソだめからだって這い上がれるって展開にブルーズを感じるのが遠田作品の醍醐味。そして、この小説の主人公、いや彼女だけでなく登場人物のほとんどは様々な十字架背負って人生の苦杯をなめているのだが…

    そこに漂う味わいが、どっちかというと「淡谷のり子」の方やねんなぁ。スに濁点ついてないほう。
    主人公に降りかかる試練の数々が、平日お昼のメロドラマというか、おしんのしんは辛抱のしんというか、なんとも昭和的で。確かに今までの遠田小説も一歩ずれたら、メロドラマやなぁと思ったことはあるが、本作はついに確信犯的に一歩ずれさせてきたな、という感じがした。

    俺はそこに違和感をもったけど、これは好みの問題。
    すっと入ってくる人も多いだろうし、実際レビューには高評価が多い。
    後半の怒涛の伏線回収と、序章と最終章を結びつける納得の読後感はさすが遠田クオリティ。
    若干好みから外れても、こんな小説を読ませられると、やっぱ遠田潤子は追いかけ続けたいなぁと、改めて思ってしまう。

  • 登場人物が生きた時期の事柄が鮮明に浮かび上がる。深夜放送、大阪万博などその当時の空気が見える。銀花の料理は、食べた人だけではなく、今は亡き人たちも喜ばせる。

  • 以前読んだ『雪の鉄樹』がとても良かったので、ここで評価の高かったこの本を読んでみることにした。

    醤油を作っている蔵を改装する場面から始まる。
    主人公の銀花とその夫がその様子を見守っているが、蔵の床下から子どもと思しき白骨死体が見つかる。
    いきなり殺人事件?と思わせるような展開。でも銀花には思い当たることがあるらしい。彼女に驚きや焦り、怯えなどは見られない。
    そして次の章からは銀花の子ども時代に戻り、ここに至るまでの長い彼女の物語が始まる。

    銀花は小さい頃、絵を描くのが好きな父親と、料理が上手で家事の得意な美しい母親と三人で暮らしていた。母親には盗癖があった。お金がないわけではないのに、さして必要でもないものをお店から万引きしてしまうのだ。父親から「お母さんはかわいそうな人だから優しくしてあげなければいけない」と常日頃言われていた銀花は、そのせいでいつも大変な思いをしていたが、それでも三人で幸せに暮らしていた。
    しかし、父方の祖父が亡くなったため、長男である父親が家業の醤油蔵を継ぐことになり、三人は父親の実家へと移り住む。そこには厳格な祖母の多鶴子を始め、複雑な事情を抱えた多鶴子の娘の桜子、昔からこの蔵で働いている杜氏の大原などがいて、ここでの生活には不安しかなかった。

    銀花は幼いながらもとてもしっかりした優しく明るい子で、父親を慕う様子や母親を一生懸命庇う場面には心を打たれる。その真っ直ぐな性格は、たくさんの苦しい経験をしながらも尚変わることはなかった。
    登場人物それぞれが、それぞれの事情を抱えている。『雪の鉄樹』の感想にも書いたと思うが、人の苦しみは外からではよく見えない。見えないからこそ、大切な人のことをちゃんと見ていなければと思う。
    最後が長過ぎて(わたしには)少し興覚めしたきらいはあるが、多くの困難や試練を乗り越えてたからこそ、より強く優しい人となり幸せを掴むという、とても説得力のある話だと思う。大作。

  • 遠田潤子さん 2作品目。

    座敷童に選ばれた醤油蔵の当主・銀花の一代記。

    「あんただけやない」「こらえるんや。なにもかも済んだことや」
    銀花がすべてを失って母と自殺を考えた時、多鶴子の一言が物語全体を貫いて響き渡る。この言葉には、どれ程の悲しみが諦めが辛さがあったのかと、零れる涙に想いを流してしまった。だから、銀花も困難や苦境に慄きながらも、立ち向かっていったのかもしれない。

    座敷童が人生を狂わせたように描写されている。しかし、あの日父・尚考が座敷童を見たり、あの日川で死ななかったとした場合、父は醤油作りに専念できただろうかと、問う。きっと、醤油蔵の神様(座敷童)は、銀花を選んだと考えられずにはいられない。
    家を守ることの難しさをあらためて考えてしまう。この時代より、私達にも社会にも選択肢が増えたことを喜ぶべきでしょうか?

    自分のなかの蛇と戦いつづけることが大切なのかもしれない。最後の最後で踏みとどまれる人間とそうでない人間。ひたむきに、ただ直向きに生きることの大切さを、かすかな希望に強く生きてゆく姿を映し出しているような気がします。
    重い秘密や痛みを抱えていて、その苦悩や挫折感を丁寧に描いているのです。彼らがとりかえしのつかないことを悔やむ姿に何度も泣きそうになりました。。銀花のひたむきさに助けられたと思う。

    杜氏三代目の剛が、醤油つくりを始めてから、やはり血筋なのだろうかどんどん杜氏らしく逞しくなってゆく姿が印象的です。

    最後に、扉のイラストは、「ふくら雀の土鈴」でしょうか。コロン、コロン、と聞こえてきます。

  • 昭和から平成にかけての醤油蔵の話。
    時代は違うものの、江戸を背景にした山本一力の小説と似た印象。
    登場人物のしがらみが少しづつ解けていき、最後まで楽しめた。
    多津子さんのキップの良さが素敵すぎ。

    いつか再読を・・、というほどまでではなかったけど、別の作品もぜひ読んでみたい。

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著者プロフィール

遠田潤子
1966年大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。16年『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10」第1位、2017年『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位、『冬雷』が第1回未来屋小説大賞を受賞。著書に『銀花の蔵』『人でなしの櫻』など。

「2022年 『イオカステの揺籃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

遠田潤子の作品

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