これはペンです

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (173ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103311614

作品紹介・あらすじ

文章の自動生成装置を発明し、突飛な素材で自在に文章を生み出す叔父と、その姪の物語「これはペンです」(芥川賞候補作)。存在しない街を克明に幻視し、現実・夢・記憶の世界を行き来する父と、その息子を描く「良い夜を持っている」。書くこと、読むことの根源を照らし出し、言葉と人々を包み込む2つの物語。

感想・レビュー・書評

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  • この本を読むために、これまでの何十年、自分は読書をしてきたのではないかと思った。

    文章の美しさとリズム、パズルや数式を解くように、自分の頭のなかで展開されていく情景。言葉を読み、書くこととは何なのか、その答えの物語だ。

    『これはペンです』という、洒落た題名も、装丁も、何から何まで良い。

    文章の自動生成を研究し、さまざまにとぼけた手紙を送りつけてくる、実在するかどうかも不明な叔父と、それを解読(読解)しようとする姪。表題作の『これはペンです』に照らされることで、併録の『良い夜を持っている』がさらに儚く切ない物語となっている。

    この人の書く、文学の方向性を維持しながら、言葉の可能性を探る文章は、読んでいて本当に気持ちがいい。

    実験性やSF作品の文脈で評価されることが多いが、円城塔は、稀代のロマンチストなのだと思う。

    今年は、震災を隔てて出版された、『こちらあみ子』(今村夏子)と、この作品で、ほぼ満足。つながった。

  • 本を読む行為というのは、本当にただその文章を読んで読み終わることだけではない、と強く思う。
    この本は長く読み進まなくて、面白いけど途切れ途切れにしか読めなかった。
    さて、昨日(2022年5月26日)、私は「届かない手紙を書くこと」などをテーマにしたトークイベントと哲学カフェに参加した。
    そこで語られたのは、書いても必ず言い足りないし、言いすぎること、誰かに宛てて手紙を書くと書きやすいが、その誰かは自分でもいいこと、書くことで形が見えて理解できてくること、書くことで後に残すことが出来ること、なんてことを話し合っていた。
    さて、今日、私は、終盤に差しかかったこの本を読み始めた。
    あれ…この話はもしかして、昨日の「書くこと」の話の別バージョン?書いても書いても辿り着けない、記述しきれない人間、という存在の話なの?
    正しいかどうかは分からないし、そもそも小説に正解はないと思うのだけど、自分の中でそんな風にすごく腑に落ちてしまった。
    昨日の今日で読まないと多分こんなふうには思っていない。今日というタイミングがなせる技というか。何かに導かれるように読むことがままあって、なぜ今日読んでみようと思ったのか、不思議でならない。

    二編目
    ・良い夜を持っている Have a good night

    これは、美しい風景を持つ思考実験である。

    全てを記憶してしまう能力を持つゆえに、自分が無限に重なり何が自分か分からなくなっていく父。
    では、自分を理解するためには、自分ではない外側を作るしかない、と自分に理解できない言語を自分の外側に築き続ける行為。

    "夢の外に出るには、思考を外に出さねばならない。自閉した表の中では全てが広がり続けるだけだ。"
    "あらゆる思考が風景として進行してしまうならば、風景についての思考はその外に置くより他ない"と。

    そうしてできた言葉の壁の作り方を再現するように、あるいはほどくように、その息子は言葉の自動生成を試みる。

    と、ここまできて、これは先の物語の前段か、と分かる。そこから急に、先の物語もこの物語も焦点を結び始める。
    言葉は、書けば書くほど真実をすり抜ける。
    記憶は、重なれば重なるほど現実から離れていく。
    ということか、と思うけれど、どうしても理詰めでは最終的に理解出来なくてイメージだけが次々と浮かび、なんとなくわかった気になってしまう。
    自分がわからない父も
    父がわからない息子(叔父)もどこか切なくて
    やりきれなくて、でも語られる風景や想いは美しい。
    これは下手に頭で理解するものでもなさそうに思えて、ただ繰り返し繰り返し、言葉を読んでいた。随分長いこと。

    確かにそこにあったのだ。父も、叔父も。
    それが、赤いビー玉となって、姪の元からこぼれ落ちるのだ。

  • わりと読みやすかった。けれど、読みやすいこととわかりやすいことは、また別の問題だし、わかりにくいからっておもしろくないかというと、それもまた別の問題。満喫しました。

  • 文章の生成に関して思考を展開する「これはペンです」、決して忘れない超記憶の持ち主を描く「良い夜を持っている」の2編。
    やはり円城塔は難しい。しかしこの眩暈がするような読み心地はけっこう好き。言葉の根源を掌に乗せて差し出されているような気がする。

  • 表題作の『これはペンです』と、『良い夜を持っている』の2編を掲載。
    『これはペンです』は最初の方に「疑似論文生成プログラム」というのが出てきて、神林長平の『言壺』中の一編を連想したのだが読み進むうちにどうやら違うということに気がついてきた。
    姪と叔父の物語、言葉を題材にしている、それはわかる。
    しかし、「なんだこれは?」というのが読後の正直な感想である。
    そして、本は静かに答えた「これはペンです」

    『良い夜を持っている』
    「これはペンです」の登場人物を想起させる記述があるが、明示されていないので実際のところは分からないし、それは本質ではない。
    不思議な記憶力を持った男の物語である。しかし、この表現ではミスリードになってしまう。
    この物語をどう解釈すればいいのか分からない。そうさせる魅力は何なのか分からないが、しかし、くいいるように読んでしまった。

  •  文章の自動生成装置を発明し、擬似論文生成事業を成功させた叔父と、その叔父から受け取る謎の手紙を解読し続ける姪の物語。
     「叔父は文字だ。文字通り」と、叔父の正体を探る姪。あらゆる推論をすり抜ける叔父は、小文字の他者であると同時に大文字の他者でもある。
     馴染みの薄い理系知識も散りばめられているが、その難解さもユーモラスさで解きほぐされ、そして読後感はなぜかほのぼのとしている。
     あまりに面白くて、続けてもう1回再読してしまったよ。

  • 「これはペンです」「良い夜を待っている」の2篇。小説です。
    私なんかは小説に「今の弱い自分に何かサプリとなる言葉を」なんて求めてしまうので、その心づもりで読もうとすると、まず読み進められません。
    けれど、そういう効果を持つ作品だけが小説じゃないんだよ、と切り替えると、途端に面白くなりました。
    内容云々というより、自分の既存を良い意味で変えてくれた、という面に星4つです。

    要所要所で「ここの文章は円城さん、ニヤニヤしながら書いたんじゃなかろうか?」と疑うほど彼自身の哲学を散りばめてる箇所があって、こうやって自慰的に文章を書く人、嫌いじゃないな、と思いました。

    内容についてのレビューは正直できません。結局何も残らないんだもの笑

  • これはパンです。文字も鍋で炒めて食べられます。

  • 文字とは。言葉とは。文章とは。小説なんですけど哲学的で、私には難しかった。。。

  • すごいなぁ。芥川賞の選考で評価が割れたのも頷ける。
    芥川賞の当落よりもこれを候補作に挙げたスタッフを評価したいな。
    「ものを書くとはどういうことか」を問いただすかのような思索に満ちた小説。
    高校の頃、筒井康隆を読んだときのような衝撃。

    私には三読くらいしてもよく判らないだろうなww

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著者プロフィール

1972年北海道生まれ。東京大学大学院博士課程修了。2007年「オブ・ザ・ベー
スボール」で文學界新人賞受賞。『道化師の蝶』で芥川賞、『屍者の帝国』(伊
藤計劃との共著)で日本SF大賞特別賞

「2023年 『ねこがたいやきたべちゃった』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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