- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106106736
感想・レビュー・書評
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脳出血で後遺症が残り、見た目は普通なのだが内面的にはいろいろな障害が残った状態になった作者の、発症・回復・リハビリの過程と現在の困っていることなどを書いたセルフドキュメンタリー。脳の機能不全という観点では、脳で何か病気があった人ばかりではなく、もともと脳の個性として不全を抱えているような人の行動を理解するための示唆に富んでいる。みんながみんな、自分のように感じられたりするわけではないし、行動できるわけでもない。とても実感を持ってそのことが感じられる。
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倒れた後のこととか、心身の不具合など、本当に細やかに噛み砕いて書いてくださってて、とても参考になりました。
これまで取材であった人たちのうまくいかなさも、比べて書いてある内容も、当事者ならではの視点で、新しく、すごくよかったです。 -
最近、職場で高次脳機能障害になった人と知り合ったから読んでみた。
体験をこんな風に書けるのすごいなぁ。 -
★回復記に感じる「面倒な人」との共通点★漫画「ギャングース」を連載中に読んでいるとき、そういえば原作者が脳梗塞で、というのを見た気がした。40代で脳梗塞を発症し、その後の変化を体験記として記す。自分を対象としたルポで、あえて病気の深刻さを和らげようとしているのだろうが、筆致が柔らかく読みやすい。
何よりも本書がただの回復記とは違うのは、筆者の専門が貧困で、そのときに出会ったやりとりができない人々の様子に自分を重ねることだろう。著者は赤ん坊に戻ったように感情の抑制が効かなくなる。取材相手のことをコミュ障の面倒くさい人だと思っていたが、自分が同じ状況に陥ってみて、そこには脳の問題もあったのではないかと分析する。発達障害は先天的なものかもしれないが、貧困のなかで育つと発達の凸凹をより悪化させるということなのか。もちろん脳梗塞は場所によって差は大きいだろうが。 -
私の周囲でも脳梗塞という話がちらほら聞こえてくるようになり、さすがに少し気になって手にした一冊。
現役バリバリのルポライターが41歳の時に脳梗塞で倒れ、本書はそのセルフルポだ。
脳が障害を起こすと何が起こるか。とても想像などできないのだが、そこはルポライター。この説明しづらい状況を何とか文字にしようと躍起になる。自分の左側が見られない症状を「全裸の義母」(=見たくないもの、見てはいけないものが自分の左側にある、の意)で表現するあたりは、まさに真骨頂。
などと書くと、単なる明るい闘病記と聞こえるかもしれないが、さにあらず。著者は、高次機能障害で人の顔を正面から見ることができなくなり、感情が暴走し、注意力が散漫になるのだが、これに強い既視感を覚える。それは、これまで自身が取材してきた中で出会った情緒障害者たち、貧困に陥った女子たちがとった行動と同じではないかと。そこで著者は、自分のこれまでの取材の浅さに気づき、同時に脳梗塞を発症するに至った要因は、自身の性格や思想、それに基づく行動にあったと結論する。ここに至って、本書は闘病記の域を超え、人生の再生物語へと昇華した。
そう考えると、第8章以降のかなり個人的な話の記述、特に著者の妻に関するくだりが大きな意味を持ってくる。かなりユニークな人物であることは、この本の前半部分でも垣間見れるが、その理由が同章で明らかになる。彼女は若年期に精神障害を患った経験があるうえ、結婚後に脳腫瘍の摘出手術を経験しているのだ。言ってみれば、彼が取材対象としていて、既視感を覚えた人物たちの先人であり、かつ、脳の病の先人でもあったのだ。脳梗塞で倒れ、リハビリを続ける著者にとって、これほど強いサポーターがいるだろうか。再生物語は始まったばかりだ。 -
「最貧困女子」「家のない少女たち」のルポライター鈴木大介が脳梗塞になって、高次脳機能障害状態になったという。高次脳機能障害とは、外から見てわかる麻痺や障害ではなく、感情が抑えられなくなったり、注意力散漫になったりといった方面で問題が発生すること。外からは当人の性格や個性の問題のように見えるので、障害として理解されにくく、それがさらに当人には辛い。
著者はルポライターなので、外から見えにくい高次脳機能障害を自らの経験として言語化しようと試みる。それが本書だ。
見えているのに左側だけ無視してしまう半側空間無視とは、主観的にはどういう感じなんだろう。感情が抑えられないというのは、当人には自覚があるんだろうか? 不思議だ。知的好奇心といえば聞こえはいいが、ぼくがそういうことを知りたい理由は、つまるところ不思議だからだ。障害に苦しんでいる人に興味本位で聞いたりはできないので、こういう本はありがたい。
ただ、だいぶ食い足りない。
鈴木大介は(自分でも本書でそう書いているが)対象に感情的にのめり込むタイプのルポライターだ。だからこそ「最貧困女子」「家のない少女たち」は迫力があって考えさせられたのだが、本書は主役が著者本人で、ぼくは鈴木大介個人には別段興味がない。奥さんや、義母との関係や、生活信条を細かく書かれても、それ脳の話と違うよね。その分薄まった感じだ。
リハビリを助けてくれる理学療法士たちに感謝し、リスペクトする一方、医師には反感を持っているようだ。それは個人の勝手ではあるけれど、そのせいか著者の脳の状態に関する医学的な情報や所見があまりない。どの程度のダメージだったのかもよくわからない。体験談(それはそれでもちろん貴重だけれど)にとどまってしまい、もう少し客観的な情報がほしかった。ぼくの経験では、今の医師はわかっていることについては詳しすぎるくらい説明してくれる。自分の状態について書く分にはプライバシーの問題も起きないし、はしょっちゃったのか、それとも本当に説明してくれなかったのか(だとしたら、患者としてだけでなくプロのルポライターとしてちゃんと説明を求めなくちゃダメだと思うが)はよくわからない。 -
おめでとうございます。
鈴木大介さんのこの本に、第一回凪紗賞を授与します。
先ほど急に思いついて、この賞を新設しました。
今年、―あと2か月ありますが、まあいいでしょうー私が読んだ本の中で、ひとつだけ世間の皆さんにお薦めするならこれ!という作品に差し上げることにしました。
10か月で漫画を含めて190冊読みました。
ためになる本、面白い本、お薦めはたくさんあるのですが、うん、この本は今すぐ多くの方に読んでほしいですね。
カテゴリーとしては鈴木大介さんの脳梗塞闘病記です。
私の父も脳梗塞やりましたし、その父(私の祖父)もたぶん脳梗塞で他界したと思う。
彼らの酒好きが今こんなに私に遺伝しちゃっているので、私は常に脳梗塞を意識してきました。
でもそうじゃない人は無防備だと思う。
この本で脳梗塞を知ってください。
実は笑っちゃうところもあるんです。
鈴木さん、本当にプロですね。 -
著者の貧困に関する記事は東洋経済オンラインで読んでいたが、同連載のほかの二人の執筆者にはない感触、なんというか、暖かい目線みたいなものをいつも感じていた。その記事の一つに、自身の脳梗塞からの帰還と後遺症と、貧困にある人々(取材対象)の昨日不全状態との関連性を書いたものがあり、今までにない視点にハッとさせられた。そこで買ったのがこの本。
大変に面白かった。自分自身を取材し、状況から心境まで細かく書きつけるのはさすがプロ、しかも奥さん(発達障害気味でいろいろ苦労した方)のチカさんが書いた手記も載っており、併せて読んで涙腺が緩んでしまった。
自分がなぜ脳梗塞になったのか、までしっかり考えているあたりが素晴らしい。
鈴木さんに残された後遺症は「高次機能障害」。脳神経外科に行くと、この一見障害には見えないけど深刻な障害である高次機能障害に関するお知らせなどが貼ってある。外から見たら普通だけど、生きてる本人には大変辛い。
ライターなので取材して書いていかないと生活に困るわけで、鈴木さんのリハビリに対する努力は大変なものである。手を使うこと、考えること、書くこと、感情失禁のコントロールなど、全てにおいて一生懸命である。またそれを支える奥さんもひたすら献身。愛を感じる。リハビリを通してお互いを認め合っていく夫婦の物語とも読める。
涙なしでは読めない本だが、自身の状態の説明などがユーモア交えて語られており、不謹慎ではあるが笑っちゃうことも多々あった。この絶妙なバランスはやはりライターとして腕だと思う。今までインタビューしてきた人々と同じような問題を抱えたことを「僥倖」と言い切り、とことん書き切る心構えはさすがとしか言いようがない。 -
41歳という若さでアテローム血栓性脳梗塞を発症した取材記者が、自らの高次脳機能障害を当事者ならではの視点からわかりやすく文書化した。トイレの個室に老紳士(排便紳士)が出現。誰彼問わず相手にメンチを切ってしまうよそ見病。深刻なのに笑えて泣ける。
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脳梗塞、脳内出血、アルツハイマー、脳に関する病気について、病名は聞くけど、その病気がどんな症状を発するのか、どんな治療が必要なのか、そもそも回復するのか、あまり知ることはない。症状を言いたがらない患者も多い。そんな疑問に答えるため、41歳で脳梗塞を患ったフリーライターが自身のこと、家族のこと、リハビリのことをまとめたのが本書。
著者の場合、視界が極端に狭くなる、発しているつもりの言葉がノイズになる、注意力が信じられないくらい低下する、感情がオーバーになる、といった症状。とはいえ、それは個人差がかなりあり、脳梗塞が一概に同じ症状になるとは限らない。
が、本書の読みどころは著者の症状についてではない。著者は病に対して不運だと嘆かず、自らの不摂生を反省し、家族や友人を頼り、感謝の感情を大げさに表すことで社会復帰に努める。
そうして、新たな人生を手に入れた著者だからこそ、今となって「脳が壊れた」とふざける余裕を得ることができた。感情がオーバーになることも時には悪くない。そんな、人生に前向きになれる闘病記。