すばらしい新世界 (中公文庫 い 3-6)

著者 :
  • 中央公論新社
3.94
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感想 : 51
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  • Amazon.co.jp ・本 (723ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122042704

感想・レビュー・書評

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  • 分厚いけれど、清涼感いっぱいの本。国際協力関係の授業で使うといいかも、と思えるほどNGO、ODA関連のことが出てくる。ネパールへ行きたくなる本。

  • 2000年9月に出版された本で、2000年といえば9.11もまだだし、東日本大震災も、福島の原発事故も当然起こっていない。今とはまったく違う世界である。
    その当時から、環境問題や原発の危険性についてこれだけのトーンで語っているのに、20年経った今はどうだろう。原発事故は起こってしまったし、環境問題もよくなっているとは思えない。この20年は一体なんだったのかと愕然としてしまう。
    ともあれ、全体的にとても美しい物語と語り口で、文庫で700ページにも及ぶ長編ながら、夢中で読み切ってしまった。
    特に中盤の娼婦の夢の描き方が最高だった。
    やたらと文章の上手い妻子や、なんでもあけっぴろげに語り合う夫婦関係にちょっと白けた部分もあったのでマイナス1。

  • ヒマラヤの奥地に風車を作る会社員とその家族。含蓄の多い話。ボランティアの在り方や、宗教のこと、バランスのいいところ、理想的なところに視点をあて、そこへ向かっていく感じ。物語としても面白く、長編だが退屈せずに読めた。凡庸で誠実な林太郎、いいなぁ。彼が理科の先生だったら理数も楽しんで学べたかもしれない。書かれた時点では911テロも311の地震による原発事故も起こっていないが、これらを経た今読むと、色々唸らされる。

  • ビジネスのためにネパールに行ったけれど、いざ行ってみると宗教やら生活スタイルにまではまってしまうというその過程が面白いです。冒険小説のようなわくわく感もある。次作『光の指で触れよ』に繋がる心の変化が描かれています。
    日本は不幸の理由を探して、それを退治することで幸福を実現しようとする。というのはなるほどな、と思いました。ナムリンでは素直にそこにあるものに感動し、幸福を感じているみたい。
    プロセスの違い、と言えるのかもしれないけれど後者の方が豊かな感じがするのは何故だろう。

  • 世界のある部分を切り取って、手のひらにのせて見せてくれる小説。
    (バルザックか!)
    読むのに時間がかかったけど、飽きることはなかった。
    現実に対する問題提起と小説というものがきちんと融合していて、すごく良かった。

  •  700Pに及ぶ長編小説というだけあって、本当に多くの事柄を含んだ小説。それでいて、読み辛いとかくどいとかいうことは一切ない。むしろ、1章1章に読ませる部分があって、うんうん唸ったり、クスリとほくそ笑んだり、グサっと心に刺さったりする。「やがてヒトに与えられた時は満ちて…」を読んだ時の衝撃も、それはそれで大きなものがあったのだが、この小説もまた違った意味で自分の中に大きく残る小説だった。

     この小説は本当に色んなメッセージを含んでいて、「これはこういう小説だ」と一言で表せるようなものではない。むしろ表そうとすること自体がナンセンスであるほどだ。でも、これほどある意味で欲張りに、詰め込みに詰め込んで書いた小説がこれほどサッパリと読める、心に入ってくるというのは本当にスゴイことだ。自分のような凡人が、これほどのメッセージを一つの物語に詰め込もうとしたら、冗長になりすぎてくどいと言われるに違いない。確かに職業としての小説家なのだから、それが出来て当然なのだと言われれば確かにそうなのかもしれない。しかし、ただ一つのテーマを書くにも冗長にならざるを得ないのだ、と開き直っているような小説家がこの世の中にはいないだろうか?

     池澤夏樹の文章の魅力はそこにある。小説の中に、「形容詞が多すぎる文章は疑った方がいい。そのような文章には、必ず裏に知られたくない真実がある」というようなことが書いてあった。これは全く疑う余地がないほど正しい。本当に文章が上手い人、或いは話が上手い人というのは、少ない言葉、簡潔な言葉で伝えたいことを伝える。ムダに話が長い人、文章が長い人(自分も含めて)は言いたいことは少ないのに、それを伝える文章、言葉が冗長なのだ。「完璧とは、何かを足せない状態になることではない。 何も削るものがなくなった状態のことだ」。つまり、そういうことだ。

     その池澤夏樹が、700Pに及ぶ長編小説を書いているのだ。そこに含まれるメッセージが多岐に及ぶのは当然だ。そして、それが決して冗長にならず、すっきりした言葉で読者の胸に迫ってくる。そんな小説が良い小説でないはずがない。今まで、池澤夏樹を知らない人に何か一冊薦めるのならば、取っ付きやすさなどをふまえて「南の島のティオ」あたりを薦めるのが妥当だと思っていた。しかし、これから「池澤夏樹がどんな作家か知りたい」と言われたら、迷うことなくこの作品を薦めるだろう。それほど、この作品は池澤夏樹という作家の成分を多く含んだ良作だ。

     続編である「光の指で触れよ」が今年発売されている。是非、そちらも読んでみたい。

  • 神を捨てて空っぽになった現代の日本人
    感謝のこころ

  • この作品は約20年前に読んだ本。

    内容はほとんど覚えていないが
    この本をきっかけに環境問題に対して
    考えるようになったことと
    爽やかな読み心地が心に残っている。

    それ以降、池澤さんの作品は
    ずっと好き。

  • 20年前の小説とのことで、その当時はエコ=貧乏臭い、コスト的に現実的でない、夢想家、といった空気だったんだなあ、と。理系の素養がある作者としては、何を青臭い、と言われるの覚悟で書いたんじゃなかろうか(登場人物の声を借りていろいろ言い訳めいた理論武装を展開してるし)。でも、いまや原発の安全性は地に落ちたし、地球温暖化もはっきりクロと分かって対応することが義務となりつつあり。風向きは変わるもんだ。
    小説としては、ネパール旅行記的な楽しさと、プロジェクトX的な面白さと、家族や少年の成長物語的な爽やかさと、と申し分ない感じ。きれいすぎる感はあるが。

  • 読了・・・!読み終わった時の、とても充実した気分。林太郎と一緒にチベットを旅したような、旅を終えたような、爽やかな気持。
    風車を立てる旅の道のりと、その道中で林太郎が考えること、
    アユミへのメール、色々な視点があり、飽きることがない。
    出てくる人物もどの人も、その人それぞれの考えがあり、人柄もあり、それがとても丁寧に描かれており、どんどん入り込んで読んでしまった。
    読むという体験がこんなに楽しい小説は久しぶり!

  • 風力発電の開発に従事している天野林太郎が、小型の風力発電装置を開発し途上国で売り込むために、ネパールのナムリンという村を訪れます。彼は、現地で献身的に支援をおこなってきた工藤隆や、チベットの行く末を案じるブチュンといった人びとに出会い、さらに彼の帰りを待つ妻のアユミと小学生の息子の森介、会社の上司であり林太郎をサポートしてくれる浜崎課長らに支えられながら、文明と環境、あるいは宗教と国家などの問題について考えさせられることになります。

    著者自身の思想的な関心が前面に押し出されており、物語そのもののおもしろさにどっぷり身を浸すといったたのしみかたのできる作品とは、すこしちがった印象です。魅力的な登場人物たちが、仕事や生活のなかで巨大な問題の一端に触れ、みずからの足もとを見なおしつつ、問題の本質にせまっていく過程がていねいにえがかれているという意味では、優れた作品だと感じましたが、物語そのものがもっている力と著者の思想がうまく接合できているかというと、やや疑問に思えます。

  • 池澤夏樹の作品の中で一番好きかもしれない。解説にもあったが全てが美しかった。個人的には工藤先生にもっと登場して欲しかった

  • すばらしい新世界、初めてページを開いてから、今日、読了するまでにどれほどの時間がかかったことだろう。今年読んだ中では一番時間がかかりました。もちろんそれなりの厚さもあるわけですが、チベット仏教のややこしいお名前だとか地名だとか、そういうのをしっかり読んでいるとだんだん眠くなってきてしまったりもして…難攻不落とも思えましたが、ようやく読み終わった、満足感、達成感でいっぱいです。

    物語の読後感は、なんだかすごく穏やかな気持ち。読み終わって、こんな生き方、モノの考え方をできるってすごいなぁ、とおもわずにはいられませんでした。僕は自分の生きる意味を見つけられるのだろうか。僕には生きる意味があるのだろうか。またぼんやりと考え始めるきっかけにであったようなきもちです。

  • 環境問題、宗教など結構重い問いを主人公の林太郎とその家族がチベット文化のある小国に風車を立てに行くことで、進めていくのだけど…全体的に言うこと分かる、反対ではない、でもなぜかその家族のキャラクターに最後まで親近感湧かず残念な気持ち。

    2019.3.24

  • 文学

  • きれいなお話

    物質文明よりも精神的な豊かさへの憧れ、でもそれは物質的に豊かな生活をしているからこそ思えること? 本当にそれを捨てられるのか? 林太郎はそれはできないだろうと考えた。

    大きな風車ではなく小さな風車 シンクグローバル、アクトローカル
    援助することの本当の意味、本当の役割

    林太郎とアユミの幸せで信頼のあるラブラブ関係(笑)。


    ネパールか、一度行ってみたい

    森介の冒険はまあいいとして、そのあとの埋蔵経を運ぶ旅はちょっと蛇足? それほどのエピソードもなく、ダライ・ラマに会ったことでなにかが起きたわけでもなく。

    プロジェクトは順調にスタートを切り、帰国した父子を待ち構えたアユミは、ラストで神々、仏たち、めに見えない存在にたいして感謝を告げる。

    なんともきれいなお話

    だけど、なんだか物足りなさを感じるのは先に「光の指で触れよ」を読んでいるから?

    光ののほうがインパクトがかなり大きかったのは先に読んだからだけではないと思う。
    本作でも顕著だが物質文明にたいして慎重であり続けるアユミが、続編では主人公になっていることが「光の」をより強い方向性に導いている。

    一番気になるのは「すばらしい」を書いた時点で「光の」を構想していたかどうか。もしそうなら「すばらしい」は序章にすぎない。逆に構想していないのなら、書き終わってからこのままで終わってしまってはきれいにすぎるという思いが生まれたのかも? このあたり作者インタビューなどあればぜひ読んでみたい。

    -----

    先に光の指で触れよ読んでるので、そこからさかのぼってことの発端を紐解いていくようなかんじ。山の中で自給自足とか、後々で繋がってくるが、この時点ですでに作者の頭の中にあったのかどうか。

    いろいろと感ずるところ、気づかされるところある。これまで、そういうことに関心がなかった、もしくは避けてきたということだろうか?

    カトマンズを画像検索。街中はイスタンブールの裏通りのような感じ。なるほど、こうして確かめながら読むのもおもしろいな。

    ストーリー読むだけでなくいろいろと考えさせられる。人によってはそういうのが鼻についたり、そうじゃないだろと思ったりするんだろうけど、今の俺には合っている。

  • みすず

  • ネパールの奥地にある国に灌漑用ポンプのための電力を風車でつくるはなし。
    下町ロケットのような痛快話ではなく、宗教、エコロジー、未来、人として…のあたりを混ぜたおはなし。夫婦でやりとりするメールがひたすら長いので割愛した。そんな長いメール書く奴おらんやろ??
    また、主人公の男は好きだが、その妻の考え方が、いかにも、な感じで好きになれなかった。。
    渾身の一撃ではないかと思う作品だが、嗜好か合わないので星二つ…

  • 風力発電をヒマラヤブータンの奥地に建設。エネルギー革命は小容量、地域密着型に。

  • 大手メーカーの風車の技術者林太郎は、妻アユミにかかわる縁から、ネパールで風車を建てることになった。その地で林太郎が見、感じたモノとは。21世紀の生活スタイルを問うた作品。原発事故前ではあったが、原発には批判的な内容でもある。

  • 作者の言いたいことを物語の主人公を通して言っているだけと感じなくもないが、物語としてもおもしろい。
    ネパールの自然の描写や、魅力的な登場人物、とくに頭の良い主人公には好感がもてる。
    エネルギーの問題や宗教に作家ならではのアプローチで触れており、読み手側にも何かを考えさせられる。
    旅行の時に読むのがおすすめかも。

  • 私たちは日本に生まれ育った。ただ他国に憧れ、そのまま真似をしてもうまくはいかないだろう。私たちは、私たちなりに、変わる必要がある。

  • 池澤夏樹、久しぶりだ。風力発電は沁みる。

  • 「光の指で触れよ」を先に読んでしまったので、林太郎や森介、アユミの5年前、ネパールの風車、森介の大冒険とは、「光の・・・」で出てきた話はこういうことだったのね。と納得しながら読みました。美しいといえば美しい、でも普通の風車とはにても似つかないダリウス型の風車ってどんな形なんだろうと思ってネットで確認しました。そしたら、「家庭と職場」の章のタイトルの下にダリウス型の模型の写真があったのですね。読み終わってから気づきました。エネルギー問題、環境問題、途上国の問題、登場人物と一緒にちょっと真剣に考えてしまいました。

  • ちょっと展開が不自然というかなんというか…。そういう見方もあるねって思うけど、いまいち腑に落ちない。きれいな世界観だけど、なんか私には受け入れ難い。
    登場人物の少年の名前をずっと「もりすけ」って読んでて、変わった名前だなぁと思ったら、後半で「しんすけ」だと判明(笑。でももう「もりすけ」としか読めなかった。

  • 科学も宗教のひとつ。
    だけどこの宗教は現世しか見てなくて、来世思想が無いという所が池澤夏樹っぽい。

  • 文章が平易なので読むのにそう苦労はしませんが…内容が内省的過ぎてダレてきます。
    著者の考え方に共感できる方はいいのでしょうが、旅の景色の描写を楽しみにしていたので、ちょっと残念。
    途上国に渡り風力発電用の風車を設置する、という設定は面白そうなのに、終始淡々と物語が展開されていきます。

  • 『光の指で触れよ』の前のストーリー。
    日本の技術系サラリーマンが、ネパールに風車を建てにいく話。
    主人公とともにネパールの空気を感じることができるし、先進国が開発途上国を助ける際の問題点も考えられる。
    『光の〜』同様、宗教やスピリチュアルも大いに関係していて興味深い。四つ星なのは『光の〜』よりも読むのに時間がかかってしまったこと。おもしろかったけど、中盤ちょっと退屈した。まぁ、でもそのスローペースがいいのかもしれないけど。

  • 電力の話とか今の日本を予言しているような。とはいえ難しい感じはまったくなくて、押しつけがましくもなく、悲観的でもなく、するするとおもしろく読めた。淡々とした感じがいいなあと。でも、もっとダライ・ラマの話が出てくるのかな、登場するのかもとすら期待していたんだけどそれは期待はずれだった。まあいいけど。映画「クンドゥン」を見たくなった。

  • 風車製作会社の一技術者サラリーマンが、妻の提案でネパールの小さな村に小さな風車を作る話。戸惑いながらもその計画に魅せられていき、ついに現地を訪れる。えっ?本当に実行するんだ!まさに男のロマンか!!語りかけるように綴られる家族(妻、息子)とのe-mail。そこには作者のエネルギー、資源に対する思いやメッセージがそっと込められ、まさにタイムリーな話題で唸る。そして後半に向かって繰り広げられる大冒険!爽やかな風が吹き抜けた。

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著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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