サンドリーヌ裁判 (ハヤカワ・ミステリ 1891)

  • 早川書房
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150018917

作品紹介・あらすじ

聡明で美しい大学教授サンドリーヌは、謎の言葉を夫に書き記して亡くなった。彼女は自ら死を選んだ? それとも殺害された? 同じく教授の夫が疑われるが、信じがたい夫婦の秘密が明らかに……

感想・レビュー・書評

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  • 読ませるなぁ!話のスケールは、こじんまりしてるんだけど、先行きが気になって最後までハラハラ。トマス・H・クック初体験。面白かった!

  • これは、ものすごく身につまされた。

    周囲を見下し、孤高を保つ夫・サミュエル。
    過剰な自意識。自分はこんなところにいるはずではない。
    頑なに自分を守り、他人を排除する。
    内心は不平・不満・怒りに満ちている。

    これは学生時代の私か?
    しかも私は、そのプライドの高さから、そんな自分すらも他人から隠していた。
    自分の不平・不満・怒りは日記の中にだけ。

    いや、年齢と共に頑なに自分の中に閉じこもっていく姿は、私の母のようにも思える。
    感情が表面にあらわれることはなく、他者への興味・共感を失い、家族の心配に心を向けることはない。

    いや、いや。やっぱりこれは夫婦の問題。
    知らず知らずに変わっていくのは人間として当たり前。
    しかし、人として大事なものを失っても気づかず、相手の些細な変質を騒ぎ立てる。
    自分を棚に上げて、相手への不満ばかりがたまっていく。
    そんな夫婦にならない自信、ある?

    読みながら、思考は過去へ未来へと揺れ動く。
    サンドリーヌもサミュエルも、どちらも相手を愛していた。
    愛していたから期待もした。
    期待に応えてもらえないからサミュエルは孤高の存在を演じた。
    そしてサンドリーヌは。

    サミュエルは、自分ができる人間だから周りを見下していたのではない。
    ゆきすぎたコンプレックスが、彼を鼻持ちならないインテリへと押しやった。

    なんて深くて繊細な人の心と、その闇。
    なんて深くて広い愛情。哀切。
    読んでよかった。

  • この程度の状況証拠と動機の推定で起訴にまで持ち込めるんだとまず驚き。一応信頼できない語り手ものなのかな。今までのクック作品と比べれば、それ程思わせぶりではない。結局サンドリーヌが何をサムに望んだか、はっきりとはわからなかった。

  • 新作が出ると読まずにいられない作家のひとり。
    本音を言えば『ローラ・フェイとの最後の会話』あたりから作風が変わって来たように思える。これまでの自分の本棚とレビューを読み返しても「ついつい読むのだけれど、前の方がよかった」とぼやいている。
    過去の何があったのか、読者はよくわからないまま、でも重大なことがあったのだろうな…と思わせつつひっぱってくるといういつもの手法ではなく、裁判劇である。裁判ゆえに過去なにがあったか、微に入り際に渡りほじくり返され衆人の目にさらされる。
    そして読者は、主人公の「わたし」という人物を、本人はどう思っているか、他人はどう思っているかも知っていく。
    物語の運びは、少々平坦で退屈である。
    だがしかし、最後の証人による証言で、読者も主人公もあっと胸を強打される。そして、最後の一ページ。クックは読者を泣かせるのがほんとうに上手い。

  • 救いがあるにも関わらず哀しい、苦いわ。

  • ここまで相手のことを長い間、深く愛せるものなのか?ここまで来るともうファンタジーの域なんだけど、決して不快ではない。ラストの展開には涙すら溢れてくる。

  • 似たようなのを読んだような、としかし結末は違う。

  • 主人公の亡き妻に対する疑心暗鬼が生み出す、暴走の妄想世界に付き合わされます。それも、典型的なスノッブの妄想に。一人相撲の挙句、自滅への道をたどる様子は滑稽なほどです。というか、これはコメディですよね。終盤で救済と再生の物語へと急展開させるのが作者の真骨頂でしょう。旦那はリアルな存在ですが、妻は聖女ですか?女性陣はありえないと思うのではないでしょうか?

  •  泣かされる本には本当に困る。ガツンと音が出そうなくらいの痛みが、読後の充実感に変わって心の中に広がるとき、人間としての弱さを突かれたような驚きによって感動が一気に沸騰してくるようなケースだ。

     時にそれは最後の一行であったり、最後の一シーンであったりする。この本に関して言えば最後の一ページだ。このページが心を銃撃する火薬量は生半可なものではなかった。

     いつもながらの回想シーンの叙述と現在の状況とを交互に繰り出して、事件の全体像を抉り出す、丹念に仕上げられた木工細工のような誠実な仕事ぶりはクックそのものである。しかしこれまでと違うのは、現在の状況が裁判の初日の冒頭陳述に始まり、十日後の結審に終わるという流れは、この作家の新機軸である。リーガルサスペンスに挑んだのも初めての試みであろう。

     裁判で数多くの証人が陳述する流れの中でこの物語の語り手でもある被告人は、まるで他人事のように裁判の流れを遠くから見やり、その心の中は常にこの事件の被害者と目される亡き妻への心情でいっぱいである。

     一人称文体で、妻の死の真実を語らせずに裁判の流れと回想で長いページを繰らせるという語り口は、実に苛立たしく不思議な感覚であるのだが、実は作者は被告人の心の内部の声を読者に伝えてゆくことによって、この悲劇の渦中にある夫婦の人生を実に誠実に丹念に描写し、考えさせてゆくのである。

     読めばすぐ答えの出るシーンばかりではなく、むしろではあの時代あの出来事は夫婦にとって何だったのだろうかと改めて一緒に考えさせられることの方が多い。主人公の心に入り込んで、過ぎてきた結婚生活や娘のこと、隣人や友人のこと、仕事、人生のことをともに考えさせられざるを得ないのが本書の仕組みなのである。

     これはミステリーなのだろうか、といい加減疑問に感じてきたとき、ああ、この仕組みはともすれば、一昨年にミステリ界を賑わせたとある海外小説にとても似た仕掛けであるということに気づく。しかし、行方も作品の目指す方向性も異なってゆく。

     しかしながら実に強く印象深いヒロインの存在は二作に共通したものである。そして亡き妻をともに見送る娘の存在に対し、父親としてまた夫としてどう対処すべきかという解決しそうにない昏い問題に対し、作品は最後の回答を用意する。そこが本書の味噌なのである。派手でもなんでもない事件。

     さほどトリッキーではない裁判のなかを通り過ぎてゆく比較的地味な証言者たちと、傷つく心の数々。本書は失敗作なのではないかとの懐疑がよぎる終盤、これほどの感動のフィナーレが待ち受けていようとは。久々に、やられた! と感じさせる凄まじい仕掛けを、巨匠トマス・H・クックは手練の業でやってのけてくれたのである。

  • 途中、飛ばし飛ばしになってしまいました。
    最後の最後のところで、救いがあって良かったです。
    ただ、なんとも長い……。
    あと、妻の夫への心情が、そこまで?というあたりで、
    動機の背景がもうちょっと明確だと良かったかな。
    ★3,5というところです。

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