熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫) (ハヤカワ・ミステリ文庫 ル 6-1)

  • 早川書房
3.73
  • (48)
  • (133)
  • (85)
  • (17)
  • (2)
本棚登録 : 1157
感想 : 94
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (561ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151821516

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 2023/10/12読了予定。タイムリミットミステリーとでも言う北欧のミステリー作家アンデッシュ・ルースルンドの『三秒間の死角』『三年間の陥穽』に続いて日本でもこのミステリーがすごいと評判になった本作を手に取った。上下合わせても大変な長編作。謎解きの海外ミステリーに比べてなかなか熱量が凄い。凶暴な父による家庭内暴力と歪んだ成長過程、貧困、移民差別等絡み合う。
    成長した兄弟らが軍の倉庫から密かに大量の銃器を入手する。その目的とは史上例のない銀行強盗計画を決行することだった。彼らの行動とその事件を追うブロンズ警部の執念の戦い。なかなかどす黒く読み応えはあるが…。

  • スウェーデン作家「アンデシュ・ルースルンド」と「ステファン・トゥンベリ」の共著の長篇ミステリ作品『熊と踊れ(原題:Bjorndansen、英題:The Father)』を読みました。
    「アーナルデュル・インドリダソン」、「ジョー・ネスボ」、「レイフ・GW・ペーション」の作品に続き、北欧ミステリです。

    -----story-------------
    ハヤカワ・ミステリ文庫創刊40周年記念作品

    〈上〉
    凶暴な父によって崩壊した家庭で育った「レオ」、「フェリックス」、「ヴィンセント」の三人の兄弟。
    独立した彼らは、軍の倉庫からひそかに大量の銃器を入手する。
    その目的とは、史上例のない銀行強盗計画を決行することだった――。
    連続する容赦無い襲撃。
    市警の「ブロンクス警部」は、事件解決に執念を燃やすが……。
    はたして勝つのは兄弟か、警察か。
    スウェーデンを震撼させた実際の事件をモデルにした迫真の傑作。
    最高熱度の北欧ミステリ。

    〈下〉
    緻密かつ大胆な犯行で警察を翻弄し、次々と銀行を襲撃していく「レオ」たち。
    その暴力の扱い方は少年時代に父から学んだものだった。
    かつて彼らに何がおこったのか。
    そして今、父は何を思うのか――。
    過去と現在から語られる"家族"の物語は、轟く銃声と悲しみの叫びを伴って一気に結末へと突き進む。
    スウェーデン最高の人気を誇り、北欧ミステリの頂点「ガラスの鍵」賞を受賞した鬼才が、圧倒的なリアリティで描く渾身の大作
    -----------------------

    1990年代の初頭にスウェーデンを恐怖に陥れた正体不明の強盗団… まるで軍事作戦のような統率の取れた的確な動き、軍用銃を駆使し、ためらわずに発砲する手口は"軍人ギャング"と称された、、、

    彼らは1991年(平成11年)秋から、1993年(平成15年)末までに、軍の武器庫からの略奪を2件、現金輸送車の襲撃を1件(未遂3件)、銀行や郵便局の強盗を9件、さらにはストックホルム中央駅で爆弾事件まで起こした… 警察は、この強盗団の正体を全くつかめなかったが、犯行の計画性、周到性、狂暴性等から、初犯ではないと思われていた。

    ところが一段が逮捕されてみると、その中心となっていたのは20歳前後の三兄弟とその友人たちで、前科もなければ裏社会とのつながりもない若者たちであるとわかった… 前段が長くなりましたが、本作品は、当時スウェーデン公営テレビ記者として現場でこの事件を報道していた「アンデシュ・ルースルンド」と、犯行の中心人物だった三兄弟と実の兄弟である「ステファン・トゥンベリ」が、その一連の事件をモデルに描いたフィクション作品です、、、

    とはいえ、事件に関わっていた当事者たちが描き、事件のあった場所や手口等の大部分が事実に基づいていることから、ノンフィクション作品のようなリアリティや臨場感があり、読んでいるうちに、ぐいぐいと作品の中に惹きつけられていきました… 上下巻で1,100ページ程度の大作でしたが、長くは感じませんでしたね。


    暴力的な父親「イヴァン・ドゥヴニヤック」の影響下で育った「レオ(レオナルド)」、「フェリックス」、「ヴィンセント」の三兄弟… 長兄「レオ」が中心になり、「レオ」の恋人「アンネリー・エリクソン」や幼馴染の青年「ヤスベル」を巻きこんで、壮大な強盗計画を企てる、、、

    ストックホルム防衛管区の動員用武器庫に侵入し、二個中隊分の装備がまかなえるほどの銃や爆薬を盗み出し、これを使って彼らは現金輸送車や銀行を襲い始める… 彼らは20代から10代後半とまだ若いが、リーダーである長兄「レオ」が立てる緻密な計画と冷静な指揮により、強奪は順調に進む。

    事件を捜査し彼らを追う警部「ヨン・ブロンクス」も優秀だが、手を替え品を替える手口で翻弄し、尻尾を掴ませない… だが、首謀者たる「レオ」の欲望と目的は、なかなか満たされない、、、

    予定では、もっと早くに巨額の金を強奪して、人生をやり直すつもりだったのだが、毎回見込みよりも少ない額しか手に入らないのだ… そういうこともあって、犯行グループの中には次第に軋みが生じ、二人の弟が離反する。

    しかし最後の襲撃に執念を募らせる「レオ」は、とうとうある人物をグループに引き入れ、危険な賭けに出る… カリスマ的リーダーの「レオ」、一度決めたら譲らない「フェリックス」、まだ無邪気さが残る「ヴィンセント」、軍隊から抜けた後、尊敬する「レオ」に従い仲間になる「ヤスベル」、強盗や警察側だけでなく犯行現場に居合わせた被害者も含め、登場人物は全員、複雑で多面的な個性を持ち、それぞれに共感しながら読み進める感じでしたね、、、

    犯行に向けて周到に準備を整える場面や、突入し犯行に及ぶ一部始終などの、微に入り細を穿つ描写のリアリティには、ホントに関心しました… 四人の息づかいが感じられ、自分も共犯者のひとりとしてこれから強盗に行くのだと錯覚してしまうような気分に浸れるほどの巧みさでした。


    ミステリというよりは、家族・兄弟の愛憎や絆を描いたヒューマンドラマという印象ですね… 特に、家族を裏切ることの罪深さを説きつつ、妻を激しく暴行してしまう父親「イヴァン」の存在は強烈な印象が残りましたね、、、

    そんな粗暴な父親を憎み拒絶する兄弟ですが、その憎い父から学んだ暴力を有効な道具として使いこなすことで犯行を完璧なものにしようとする「レオ」… 冷静に気持ちをコントロールしようとしますが、他者を屈服させる快感と昂揚により、次第に自らの大きさを勘違いしてしまうんですよね。

    暴力により支配すること、コントロールされることの恐ろしさを改めて感じました、、、

    でも、本作品、次々と犯行を重ねるのですが、「暴力」はあっても「死」がないのは良かったかな… これで多くの命が奪われたら、救いがないですもんね。

    本作品は、続篇が『兄弟の血―熊と踊れⅡ』として刊行されているようです… こちらも読んでみたいですね。


    以下、主な登場人物です。

    「レオ(レオナルド)」
     ドゥヴニヤック家の三兄弟の長男

    「フェリックス」
     ドゥヴニヤック家の三兄弟の次男

    「ヴィンセント」
     ドゥヴニヤック家の三兄弟の三男

    「イヴァン・ドゥヴニヤック」
     三兄弟の父

    「ブリット=マリー・アクセルソン」
     三兄弟の母

    「ヤスベル」
     三兄弟の幼なじみ

    「アンネリー・エリクソン」
     レオの恋人。シングルマザー

    「セバスチャン」
     アンネリーの息子

    「ヨン・ブロンクス」
     ストックホルム市警警部

    「レナート・カールストレム」
     ストックホルム市警警視正

    「サンナ」
     ストックホルム市警鑑識官

    「ガッペ」
     建設業者

    「サム」
     ヨンの兄。服役囚

  • 下巻とまとめて。

  • スウェーデンのミステリ。三兄弟の長兄レオを主人公に描かれる。

    父の暴力から母を守れなかったと後悔しているレオ。父から離れて、二人の弟と建設業で生計を立てている。

    きっかけは触れられていないが、備蓄倉庫から軍の武器を大量に盗むことに成功した三兄弟。この武器を使って強盗を働き、金を手に入れる計画をレオが練る。

    初めの現金輸送車襲撃は、完璧に遂行。次の銀行強盗では、兄弟では無いヤスベルに対して不安が表面化、そして三兄弟の父が兄のレオに陰を落とす。二つの犯罪に繋がりを見出した警部のヨン・ブロンクスの兄は、家族を殺害して刑務所に入っている。そんな中で開始された二つ目の銀行強盗。

    熊と踊れはレオが父親から教わったケンカのやり方。レオは、これを一連の犯罪でも実践している。

    三兄弟の父は、何年も家を追われていたが、母を傷つけるため?に家に戻る。扉を開けてしまったのはレオ?三兄弟は、母を失い、それぞれに罪を感じている。

  • 過去と現在から語られる家族の物語
    本筋は現代編の犯罪計画よりも過去編の親子の確執?葛藤?にぐいぐい。圧倒的に迷惑でしかない親父と三兄弟。しかしどうしようもなく親子なわけで。主人公は息子なのにどうしても迷惑な親父にシンパシー。セリフがかっちょいーから抜き出してPOPに。圧倒的な厚さのゲラの上に「頭の打ちどころが悪かった熊の話」の熊が。主人公レオも父親もそれぞれの「レディベア」を探していたのかもしれません。
    犯罪計画を追う刑事が捜査の過程で父親の下へ行った際の描写「拳の関節のうち、人差し指と中指の付け根が陥没して平らになっている。頻繁に人を殴る人間の手だ。」に震えた
    圧倒的ボリューム
    抑圧的父権支配
    父親は剥き出しの暴力で、妻を、息子を、家族を支配し、不器用に愛した。
    少年は大人になり兄弟を護る為に銀行強盗を計画し暴力で夢を叶えようとする。
    快調なクライムアクションの現在編と交差する息詰まる過去編がページの分厚さを感じさせない!

    「これはな...熊のダンスだ。ちゃんとステップを踏んで、ちゃんとパンチを命中させれば、お前は熊にだって勝てる!」

    弟たちにはわからない父親との愛憎渦巻く濃厚な関係。どうしても父親側の視点に寄りガチなのがもどかしい。父親に手を出したあの時のショックを受けた顔と今の寝たきりになった父親の顔も重ね合わせて古傷がグジグジする。

    付箋の数だけ名シーンとセリフが押し寄せて鼻の奥をぶち抜かれて鉄の味がする!
    圧倒的オススメです!
    (※本編には熊は出てきませんw)

  • 題名:熊と踊れ (上・下)
    原題:Bjorndansen (2014)
    著者:アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ Anders Roslund & Stefan Thunberg
    訳者:ヘレンハルメ美穂・羽根由
    発行:ハヤカワ文庫HM 2016.9.15 初版 2016.11.26 4刷
    価格:各¥1,800

     『このミステリーが凄い』2016年の圧倒的一位を獲得した年、ぼくはこの作品を不覚にも未読で、翌年、これを読んで歯噛みしたものだった。どうみてもこれは圧倒的な作品だったからだ。分厚いだけではなく、スリルとアクションが親子・兄弟の人間ドラマと表裏一体となって驀進する大型重戦車の出来であったのだ。

     山中にある謎の施設が実は軍の武器庫であったと知ったときから、ドゥヴニヤック家三兄弟の犯罪は始まる。武器庫襲撃、そして次々と間髪をおかずに、警察の包囲網を嘲笑うかのような手法による現金輸送車や金庫の襲撃が始まる。一度ではなく、同時に連続して何か所もという複数犯罪も一つの特徴である。

     作戦参謀が天才なのである。長兄のレオ。そして以上は現在。彼らの犯罪のモチーフとは何であったのかを語るのが、過去。そう。本書は犯罪ファミリーの現在と、なぜ彼らがそうなったのかに至る家族の悲劇を描いているのだ。凄まじいほどのDV。壊され傷つけられる幼い人格。最早、望んでいた普通の家族生活に手に届かなくなった時に、犯罪モンスターとして世界に対峙する存在となってゆく彼らのドラマが生まれてゆく。

     実はこの凄玉犯罪プロットは、スウェーデンをかつて震撼させた実際の事件を元にしている。この兄弟では描かれなかったもう一人の兄弟は実在している。アンデシュ・ルースルンドの共著者であるステファン・トゥンベリがその一人である。彼は父親による嵐のような家庭内暴力を実際に体験した一人なのだ。犯罪に手を染めてゆく兄弟に加わらなかった一人として本書の執筆に手を貸している。現実と創作の境界がどこにあるのかは、この本からはわからない。

     しかし現実の凄みこそが、この作品のリアリティを圧倒的に高めているのは確かである。人はどうやって怪物的で天才的な犯罪者に育ってゆくのか? そしてその心のうちは? 兄弟たちの葛藤は? 父と母と彼らとそれぞれは運命の中でどのように愛や憎悪や赦しを交わし、あるいは離反してゆくのか? 様々な運命の矛盾は現実を土台にしか生まれ得ないと思われる。この小説の持つ行間に溢れる切迫感、スピード感は、そうした負のエネルギーを動的内燃機関経由で爆発させた結果生まれたものに違いない。

     20年に一度の傑作がここにある。この本を契機にアンデシュ・ルースルンド関連の作品はすべて手に取るようになったが、どれも共通して言えるのが、現実に材を取った少なからず社会的小説と呼べるものばかりだ。本作品は二作構造となっており、昨年『兄弟の血 熊と踊れII』が邦訳された。そちらは現実をもとにした本書の、創作された続編であるが、セットでお読みいただくことを強くお勧めする。

  • 父親の暴力に対し、結束した絆は銀行強盗を生み出した。きっと、また父親が絡んでくるのだろう。

  •  わけのわからないタイトルだが、作者はあの三秒間の死角のルースルンドということで、これも警察小説というよりは犯罪小説か。レオ、フェリックス、ヴィンセントの三兄弟が友人のヤスペルと組んで軍の銃器強奪と一連の銀行強盗を引き起こす。兄弟それぞれの生い立ちにまつわる人間描写がうまく、決定的な人格形成に影響を与えた厳格凶暴な父親とのエピソードもあいまって、家族小説のような色合いも漂わせる。いや、強盗事件は単なる舞台装置で、父と子の葛藤こそが主題といったほうがいいかもしれない。それがあったればこそ最後の襲撃は自滅に終ってしまったのが、あれだけ沈着冷徹だったレオの悲劇というか限界だったのだから。一方、事件を捜査するヨン・ブロンクスもいかにもという北欧警察小説的魅力ある警部なのだが、事件解決という点ではほとんど何もしていないに等しいのがちょっと残念。

  • お父さんの説得力、ある意味すごい。守るためには必要なことかもしれません。それを刻み込んだレオがリーダーになり、圧倒的な結束を築いていくのには深く頷けました。

  • 実際にあった銀行強盗の話をモデルにした小説。心凍る冷めた現実と生活。淡々と紡がれていくストーリー。今回、熊と踊れのタイトルはどういうことなのか、この話のキーワードの意味が下巻で更に明らかになっていくと思う。これぞ北欧サスペンス!読み応えのある長編作品。

全94件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

アンデシュ・ルースルンド 1961年生まれ。作家・ジャーナリスト。ヘルストレムとの共著『制裁』で最優秀北欧犯罪小説賞を受賞。

「2013年 『三秒間の死角 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アンデシュ・ルースルンドの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×