たったひとつの冴えたやりかた 改訳版

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (188ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152089519

感想・レビュー・書評

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  •  数年前、「自己責任」という言葉をTVのニュースで頻繁に耳にしたのを思い出す。
     詳細はうろ覚えだけど、イラクで日本人の青年が命を落とした事件……だったと思う。
     そのころ、わたしはいまと違ってある重い病気にかかっており、地獄から舞い降りし冷酷無比な暗黒堕天使(嘘)だったので、「自己責任」という言葉は「自業自得」に似た意味に捉えていた。「そらぁーアンタ、そんな危ないトコに行くほうが悪いんやでぇ」と、知人に見解を述べていたものだ。
     この病気にかかっている者はとかく自分以外の人間を嘲笑したがるものだが、なお悪いことに、この暗黒堕天使はエセ関西人でもあった。

     その当時のわたしが『たったひとつの冴えたやりかた』を読んだとしたら、きっとそれと似たようなことを思っただろう。
     そうして、10年後に自分が暗黒堕天使からユルいおばさんになっているとも知らず、★1つとゾッとするような酷評とともにブクログに登録し、ユルいおばさんを戦慄せしめたことだろう。
     つまり、「ようするに、考えなしに冒険の旅に出て、脳内に寄生するエイリアンと仲良くしたばっかりに太陽に突撃するハメになった話やん? そんなん、何が面白いねん? いっこも冴えてへんわ」的なことを恥ずかしげもなくここに書いただろう。
     彼女の行動が、人類にもたらした利益をおもんぱかることもなく。
     あの頃読んでなくてホントよかったです。

     コーティーはドラゴンボールのブルマ(設定)+凶暴なランチ(髪だけ)のイメージだった。
     読んでるあいだじゅう、ロマンティックあげーるよー が脳内をぐるぐるまわって仕方がなかった。


    原題:The Only Neat Thing to Do

  • エイリアン!

  • 少女コーティはたったひとりで宇宙へ旅に出る。
    何も問題はなかった。奇妙な寄生エイリアン・イーアとコンタクトするまでは。
    コーティとイーアのシロベーンは、旅をしながら友情を育むのだが、イーアの習性により大きな問題が発生する。
    そしてその問題を抱えたままでは、コーティは家族の元へ、いや人類のいる場所へは帰れない――。

    決断はつらいものとなった。
    手放しで喜ぶことはできないけれど、人類は悲劇的な結末を回避することができた。
    でも、感情移入しすぎてちょっときついかも。

  • 宇宙に冒険に出て、寄生性のエイリアンとの友情を育む少女コーティ。しかし、そのエイリアンのある生態のために、コーティは非情な決断を下さねばならず。
    エイリアンの生態の問題とコーティの決断は、コーティの残した音声記録を聴くという形で明らかになる。怯えを感じさせず、前向きにみんなのために決断し、音声記録を残すコーティの姿の裏には、記録には残っていない絶望や葛藤があったと思うと泣けてきます。
    読みやすいです。児童書っぽいかも。文庫版では、同じ世界観の中編2編があるらしいのでそれも読んでみたいです。

  • 俺にはそのやりかたはグリーン、ゴーできない

  • すごく独特な物語。主人公の女の子が人かどうかを真ん中あたりまでずっと悩みながら読んでいました。

  • 【海外的なドライなSF物語】

    父親からのプレゼントの宇宙艇で冒険旅行にくりだした少女コーディ。
    その途中、偶然から自分に寄生した宇宙生命体シルとの間に友情が芽生える。
    友好的なシルとの楽しい時間も束の間、
    抗えない寄生生物の本能によって、シルはコーディへの攻撃を始める・・・。

    と、このあと最近の日本文学ですと、ラストはふたりとも、少なくともコーディは助かるんですが、
    このお話では、宇宙船内にあるシルの種族の胞子が誰かに襲いかかることを避けるため、
    コーディとシルはふたりで太陽に飛び込みます。

    安易だと言われる方もいるようですが、
    僕はこの結末のSF的ドライさが好きです。
    『宇宙は恐ろしいもの』という根本は乱されないまま、
    勇気ある人の努力(時に犠牲)の上に、開拓は進んで行くのだという事実を改めて感じさせてくれました。



    解説の、作者の生涯にはびっくりしました。

  • 極限の状況で、人はどう生きるのか、何を選択するのか、何を捨てるのか
    これがSFだ

    たった一人で宇宙を旅する少女と友達になった宇宙人
    彼女たちの間に友情が芽生えるが、それも束の間の話
    自らの生存をいかにするか、選択を迫られる
    彼女たちの選択はひとつ
    美しく、勇気ある、たったひとつの選択

    哀しく美しい友情と決断の物語

  • 世評に違わぬ感動作!

  •  去年、開催した「今、オススメのSF一冊(漫画OK)」で投稿があった本の内の一つ。
     時間はかけていきますが、この本棚の本をせっかくなので、読んでいこうと思っていて、今回はその第一弾。

     本分の目次は以下の通りです。

    概要
    目次
    「第一話 たったひとつの冴えたやり方」の感想
    「第二話 グッドナイト、スイートハーツ」の感想
    「第三話 衝突」の感想
    全体の感想

    概要

     本書は人類が宇宙でヒューマンと呼ばれる程に人類が相対化された世界。
     宇宙で人類以外の知的生命体が既に何種も発見されており、彼らとの意思疎通が行われ、大きな戦争が起きた後、安定が訪れた宇宙連邦の世界。
     広い宇宙で宇宙連邦以外の連邦が発見された世界。

     そんな世界である知的生命体が大学課題のためだろう。「連邦草創期のヒューマンのファクト/フィクション」を調べるために図書館を訪れた。

     本書はその知的生命体に大学の司書(これは訪れたものとは違う種類の知的生命体)がオススメした3つの物語である。

     どれも<リフト>と呼ばれる銀河の周辺宙域(たまたまそこだけ広い範囲で何もない空間が延々と広がる宙域のこと)に関わる物語で、まだその<リフト>の先にヒューマンが到達できていなかったがために<リフト>の先の知的生命体とのコンタクトがはじめて起きたときのこと。「暗黒界」と呼ばれるヒューマンの悪人たちのみが構成するメインではない社会が引き起こす問題。
     全3種の物語である。

    目次

     題名は以下の通り。

    第一話 たったひとつの冴えたやり方
    第二話 グッドナイト、スイートハーツ
    第三話 衝突

    (以下、ネタバレですので未読の方は気を付けて下さい。)

    「第一話 たったひとつの冴えたやり方」の感想
     
     表題作。主人公は16歳の冒険好きで有能な女の子です。
     多分、表紙に書かれている女の子ですね。
     どの話もそうですが、基本的に第一人称で進められます。
     
     この話は主人公の瑞々しさが伝わって来てそれが好印象。特に夢見がちにこれからの冒険のことを考えているくだりなんてこっちまでワクワクしてきそうな感じです。

     秀逸なのが、やはり知的生命体の設定ですね。今回登場するのは、他の生命体に寄生して、生息する生物です。この生物、寄生生物の神経系を支配できるのですがあくまで共存するのが目的です。ところが、彼らには決定的な問題点があります。
     その問題点のせいで、寄生生物が全滅させられることもあります。今回もその問題点のためにあと一歩のところでヒューマンが全滅させられる(そこまで行かなくても惑星2,3個分の被害は軽く出そうです)ところでした。

     そこを救ったのが主人公による「たったひとつの冴えたやり方」です。

     この使い方は、想定の範囲内ではありましたが、それでも感動できるタイミングと使われ方で凄いなと感心しました。

     そして何より主人公の女の子。最後の時までユーモアを忘れないこの姿勢は素晴らしいです。物語的過ぎると言えばそうですが、主人公が子供でかつ優秀だからこそ説得力がある台詞と態度であったと思います。そういう意味ではキャラクター設定もうまいですね。

    「第二話 グッドナイト、スイートハーツ」の感想

     第二話は、宇宙のトラブルメーカーである主人公が「暗黒界」の住人とのトラブルに巻き込まれる話です。
     ですが、題名にもある様にこの話は恋愛ものでもあります。

     主人公は業務上、冷凍睡眠を多用するため周囲の知人と自分との年齢差が大きくなってしまうのですが、仕事中に昔の恋人と出会います。
     しかも、その恋人が往年の大女優というおまけ付き!
     単純ですが、ドキドキしちゃいます。僕の中のミーハー分が疼きます。まだ自分のことを覚えているのか。覚えているとしたら昔のことはどう思っているのか…もうドッキドキです。
     
     そんな中、「暗黒界」の住人に襲われる主人公たち。なんと「暗黒界」の住人が奴隷として使っていた人間の中に、昔の恋人のクローンを発見します。
     大女優でオリジナルである自分とは全く違う境遇にあるクローンに出会って喜ぶ恋人。

     主人公は戸惑います。昔の恋人は高齢で若返り手術をしていてもその跡が分かってしまいます。それに比べ、クローンは本当に若いままです。ただ彼女(クローン)は彼との思い出を持っていないのです。

     そんな戸惑いをおくびにも出さず、無事、みんなを救いだせた主人公。ところが、そこにアクシデントが起きます。高齢のオリジナルを救うか若いクローンを救うか。究極の選択を迫られた主人公はついに選択を下します。その選択とは…!?

     下手な宣伝文みたいですが、3話の中で最もエキサイティングな話なのは間違いありません。
     アクション、ラブ、数々の未来世界ギミック。そしてクローンが出てくることでさらりとアイデンティティの問題も入っている本話。
     
     ページを繰る手が止まりませんでした。

    「第三話 衝突」の感想

     この話は壮大です。<リフト>の向こう側の連邦とこちら側の連邦があと一歩のところで大戦争に突入しそうになるのです。
     話は、こちら側(ヒューマン)視点とあちら側(ジーロと言います)視点で交互に書かれます。そのことで読者にとっては、どちらも戦争を避けようと最大限努力しているのに、言葉も外見も違う異文化であるが故に意思疎通が図れず、事態は最悪の展開へと向かいます。
     それを救ったのはヒューマンの銀河共通語を覚えようとしている奇特なジーロでした。彼女の努力と接触したヒューマン側の船長の機転。そして、奇跡と言えるような偶然によって何とか大戦争を避けることが出来たのでした。

     異文化間の衝突をテーマとしていることで、本話「衝突」に出てくるエピソードは現実社会を考える上でも示唆に富んだ内容と言えます。

     始めに火種をまいたのは「暗黒界」でした。暗黒界があちら側のコメノ(あちら側ではジーロが政治の中枢にいます)。コメノは少数民族といったイメージです)という生命体を捉えて奴隷にしていたのです。それに対して対策を講じるジーロたちあちら側連邦。
    (未知の異文化と接触したとき一部の悪人を、その異文化の総体と勘違いして喧嘩を吹っ掛けるという事例は多そうです。)

     そうとは知らず、ヒューマンのリフト調査船がジーロの星に辿り着きます。ヒューマンは暗黒界とは全く違うものと言うことを必死に伝えようとしますが伝わらず(何せ文化も言葉も外見も何もかもが全く違うのです)、ジーロは暗黒界との区別のつかないヒューマンを敵と勘違いして戦争を仕掛けようとします。
     あちら側連邦は、こちら側連邦の規模を知らないのです。あちら側連邦は戦争はすぐ終わるものと楽観視しています。本当はそんなことないのに。

     そんな中、ヒューマン語を何とか理解できるジーロが一人ヒューマンと接触できたことで状況は変わります。
     そのジーロは暗黒界とも会ったことがあるのですが、目の前にいるヒューマンが見た目こそ同じものの全く同じ文化であるとは思えません。さらに、事故を救ってもらった恩がある。
     ところが、そのジーロの上官は、自分も助けてもらったくせにヒューマンのことを全く信用しません。軍人的に最悪の状況を想定して、それがゆえに最悪の状況に向かう行為をしてしまいます。ヒューマンを人質にして脅していまうのです。

     もう一歩で全てが終わってしまいそうなとき。ある偶然によって全てが何とかなりました。
     
    (軍人の頭の固さなどは戦争ものの映画などでも良く見ますね。規則通り。平常時なら適した行動でも非常時にも適しているとは限らない。うーん。震災のときにもあったような。。 最後、偶然によって救われるというのは出来過ぎですが、複雑で緊迫した状況の場合、その場を救うのは案長い予想外の出来事なのかもしれません。まあフィクションですがww)

     本話は異文化同志の交流を描ききったと言う点で優れています。外国語初心者のたどたどしい会話を会話文で上手に表現しているのです。単語、カタカナ、読点の多用。もどかしさがこちらにも伝わって来て、それがりあり手じを演出していたように思えます。

    全体の感想
     
     全体として感じたことは「文体がライトノベル感あふれる点」と「異文化交流」です。

     文体ですが、本書は表紙もそうですがライトノベルの様な雰囲気の文体です。読みやすいと言えばそうなのですが、逆に砕け過ぎている感もあって、ちょっと軽すぎる気がしました。
     第一話に関してはその文体が合っているので文句ないですが。

     異文化交流については、全ての話に横たわっています。
     初めて接触する知的生命体への対応。ヒューマン内異文化である「暗黒界」。大きく分けてニ種類の異文化が常に物語に出てきます。
     
     本書はその異文化を描くのがうまいです。別種の生き物ならば、文化、宗教、さらには生殖法まで記述し、逆に「暗黒界」については漠然と描くことで「悪いもの」というイメージを強化する。

     そして、異文化間の交流。海外作家なので「違うことが当たり前」なのはもちろんですが、尊重の仕方。知識の重要性。そういったものがさいりげなく織り込まれていて、日本からあまり出たことのない僕としては刺激的な文章でした。

     日本も早く「違うことが当たり前」「違うからこそ素晴らしい」の文化にならないかなー。
     そう思った読書体験でした。

     読みやすいSFをご所望でしたら、本書は外れがないと思います。オススメです!
     あとがきにあった「愛はさだめ、さだめは死」もチェックです。

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