選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 79
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163908670

感想・レビュー・書評

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  • 出生前診断の誤診に関するノンフィクション。

  • ううん。読んでいるうちに、気持ちは二転三転したけれど、最後に心に残ったのは、被告側弁護士の言葉と、今までに出会ったダウン症のひとの笑顔だった。woolでも思ったけれど、価値観はその時代のものであって、絶対的なものではない。私は、人の可能性は否定できないと思う。子どもをつくる、という行為が、自分の意思で決定できる場合においては、そこもまとめて請け負う、ということだと思う。動物として考えたときには、非合理なことなのかもしれないけれど、人間を人間たらしめているものは、時に非合理な決断なのだと思う。という今の考えも、崖っぷちに指先一本でぶら下がったら、変わるかも知れず、これは将来の自分のための、今の考えの備忘録です。

  •  日本初の出生前診断をめぐるロングフルバース(ライフ)訴訟の原告を追ったノンフィクション。「夏物語」を上梓した川上未映子との対談記事で知って読む。

     20年ほど前、学生時代に医療系サークルのディベートテーマで扱った出生前診断。その当時、多くは出産未経験の女子看護学生からは障害がわかっても産む、わかったら産まない、その時にならないとわからない、などと色々な意見が出たことを覚えている。小児科医になることをまだ決めていなかったその当時、僕がボンヤリと考えていたのは、「人が生まれてくる人の命の選別なんてしていいんだろうか」という倫理的な問題だった。

     NIPTが当たり前のように比較的安価に行えるようになった現在、その技術の運用方法について、社会は少しは成熟しただろうか?小児科医になって20年近く経って、ようやく問題の全貌を掴むことが自分の中ではできてきたように思うが、多くの人はもっと軽い気持ちで検査をするのではないだろうか?

     自分は大きな病気になるなんて思ってもみない時に、検診で不治の病がわかって、人はそう簡単に自分の病を受け入れられるのだろうか?
     それと同じで、多くの親は、自分たちの子どもに重大な染色体異常があるなんて思ってもいない時に、その通告を受けて、十分に悩むこともなく堕胎を選ぶのではないだろうか。

     子どもが出生前診断でダウン症とわかったが、タイミング的に中絶できなかった弁護士夫婦の発言が重い。

    「私は選択できなくて幸運でした。選択できなかったから生まれた命がある。・・・わからない方がいいこともある。悩むことなくうまえてきた方がいいこともある。だからこそ、選ばねばならないお母さんが気の毒に思います」

     小児科医は日常的に障がい児と親と接しているので、とても絆の強い家族、みんなに愛されているお子さんを見るとこちらも幸せをもらえるのだが、もちろんそれは美談でもなんでもなく、親の愛情を受けられずに施設に入る子もいて、それでも施設の職員や学校の先生の愛情を受ける。しかし、ほとんどの人はそんな障がい児の日常を知らない。

     出生前に障害を知ることができたので、心の準備ができて、生まれてくることを祝福することができたという声も重い。そもそも、生まれてきて初めて愛着が湧くものなのに、生まれる前に「観念」の段階で選択をしなければならないという現状は、何か資本主義的な価値観に搦め取られているように感じる。

     とにかく様々な立場の人を取材して、多面的に問題を考えることができる。ダウン症協会の玉井邦夫先生も発言されていて、小児科医の社会への発信も大事だということを改めて感じさせられた。

  • 命の選別という重いテーマ、きれいごとではなくじっさい自分の身に起きれば、産まないかもしれない。

  • 490

  • できるだけ冷静な視点でダウン症児の出産と中絶について取材している。
    しかし、「出生前にダウン症と分かってて生んだ人」「出生前にダウン症と分からずに生んだ人」の取材はしているが、「出生前にダウン症と分かって中絶した人」の取材が無い。
    また、「ダウン症の子を育てていて、(たいへんなこともあるけど)今は幸せです」という事例、しかも全て女児のパターンばかりなのが気になる。
    ダウン症イコール必ずしも知的障害ではないが、知的障害を持った子、特に男児の場合、大人になってからの苦労話をよく耳にする。
    そういう視点を語らないのは話の流れを止めてしまうからなのかもしれない。けれども若干のモヤモヤを感じた。同著者の「セックスボランティア」を読めばそのモヤモヤはすっきりするのだろうか。

  • 出生前診断の誤診で生まれた子
    医者の簡単なミスで、ダウン症ではないと診断されたが、実際生まれてきた子はダウン症だった。その子の名前は天聖といい、様々な合併症を患って幼くして亡くなってしまった

    「ゼロにしてほしい。なかったことにしてほしい。あの子をかわいいと思えない。良い母を演じているだけだと思う。」母親は、自分は生まれてくる子供がダウン症であるなら、生まなかったのに生んでしまったから医師を責めたいという気持ちがあるいっぽうで、その子の親は自分であるからという葛藤に悩まされながら、天聖と向き合っていく話です。
    また、本当に天聖をうまなかった方が、天聖に対する損害は少なかったのかという問題もでてきます


    この本は、生命倫理についてじっくり考えたい人、
    これから医療に関わっていく人、これから赤ちゃんを産もうと考えている人、ダウン症の子を授かった人など、多くの人に読んでもらいたい本です!
    赤ちゃんを生んで、赤ちゃんが亡くなるまでの話だけではなく、それから母親がどう行動していくのかについても注目して読んでみてください

    蔵本1階ホール
    9784163908670

    ゆず

    • tokudaidokusho2さん

      出生前診断など生命倫理は私たちがこれから考えていかないといけない内容なのでレビューを見てとても惹かれました。
      ぜひ、読んでみたいです。...

      出生前診断など生命倫理は私たちがこれから考えていかないといけない内容なのでレビューを見てとても惹かれました。
      ぜひ、読んでみたいです。
      ひまわり
      2019/05/29
  • 出産前に、心づもりで読んだ本。河合香織さんの本は、以前セックスボランティアを読んだ時から、大事だけれど面と向かって心開いて語られることの少ないテーマを扱ってあり、その逃げない感じにひかれる。
    この本の中で出てくる母親の気持ちが、母になったいま、よくわかる。中絶していた、と言い切れない気持ちも。

  • 「科学や医療技術の発展によってわかること、できることや助かる命が増えた」自分としてはそれを「事実」としてだけ受け止めたいと思った。そこから先、その「事実」がいいことなのか悪いことなのか、幸せなのか不幸せなのか、それは当事者が決めることで、それに対して他人が何かを思ったり意見する権利や余地はない。当事者って誰なのかという議論もあるけど、それも当事者が決めることだと思った。

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著者プロフィール

河合 香織(かわい・かおり):1974年生まれ。ノンフィクション作家。2004年、障害者の性と愛の問題を取り上げた『セックスボランティア』が話題を呼ぶ。09年、『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』で小学館ノンフィクション大賞、19年に『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』で大宅壮一賞および新潮ドキュメント賞をW受賞。ほか著書に『分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議』『帰りたくない 少女沖縄連れ去り事件』(『誘拐逃避行――少女沖縄「連れ去り」事件』改題)、『絶望に効くブックカフェ』がある。

「2023年 『母は死ねない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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