雲を紡ぐ

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 376
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163911311

感想・レビュー・書評

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  •  引き込まれる文章で、一気に読んでしまった。面白かったです。
     少女の再生の物語、よくある話かな?と読み進めると、良い意味で、裏切られた。親子、夫婦、地方と都会、教育など、いろんな問題が、盛り込まれてる。
     ほろ苦いが、最後はちゃんと収まるので安心して読めます。
     具体的な店の名前とか、グランクラスとか出すぎで、ちょっと白けるかな。

  • 職人気質のおじいちゃんはどちらかといえば不器用な人間だが、孫の主人公美緒をそっと見守るその姿がとてもあたたかい。
    一方、父と母は余裕もなく、子に向きあう時間が持てていない。まさに現在の問題が盛り込まれており、読んでいて身につまされる読者も多いのではないかと思う。

  • これはまた手紡ぎのウール ホームスパン(家庭で紡いだ糸)と言うディープな世界を舞台に、不登校の女子高生と彼女を取り巻く家族がまさに織り成す優しい物語ですね。
    衝動的に家出して疎遠な祖父の暮らす岩手 盛岡に着いた美緒が、知らず知らずに祖父の生業 手紡ぎウールの世界に興味を持ち始めるところから作品が展開して行く。
    こんな丁寧で静かで優しい作品に仕上げた作者の本領がよく発揮されている♪
    行ったことのない岩手 盛岡の素晴らしさがよく伝わってきて、是非とも一度行ってみたくなります。
    女性にはとりわけ共感 興味の持てる佳作でしょう。

  • 学校にも家にも居場所がなくなった高校生の美緒が、おじいちゃんの元で少しずつ成長していく、また三世代に渡る家族の再生の物語。
    美緒の気持ちが痛いほど分かる。周囲の顔色ばかり気になって、周囲に合わせてヘラヘラして、自分がどんどんなくなっていって、気がつけば自分の「好き」も分からない。
    そんな時のおじいちゃんの言葉が心に染みる。「大事なもののための我慢は自分を磨く。ただ、つらいだけの我慢は命が削られていくだけだ。」「せがなくていい。」「そんなに自分を追い詰めるな。『今は選べない』。それも選択のひとつだ。」
    また、親も人間で失敗や間違いはある。それでも、「そういうところがきらい」って母の言葉はキツイかったな。親子関係ができていないなら尚更。私も一人の母親であるが、例えダメダメな母であっても、子どもが自分は愛されているんだって、感じられる関係でありたいと思った。
    家庭を築く上で、頑張れ頑張れって期待や応援するよりも、つらい時や苦しい時に逃げられる、安心できる場所であることの方が時に大事だ。
    読んでいる時は苦しかったけど、読んだ後はじわじわと温かい気持ちになった。

  • 10月の頭から寝る前に少しずつ読んでいたので一か月くらいはかかったのか。
    なんというか、それくらいに時間をかけて読む価値のある作品だなと思う。
    いやーまた最高の作品に出会ってしまった。
    購入目的はパケ買い。表紙以上の内容だった。なんと表したらよいか。
    草原の中にある高台で晴天の中、気持ち良いそよ風に吹かれながら立っているみたいな感覚。

    始めは、単なるホームスパンの話を取り上げた本なのかと思っていた。
    でも物語の本質は、ちゃんとホームスパンの話はしているんだけれども、ありきたりなというか、こういう家族っているよな。ああこんなことうちもあったなと懐かしさを思い出させてくれる家族愛に満ち溢れていた作品だった。それにしてもマキこわい笑
    カバーの帯にも書いてあったけど、そのシーンでお互いの気持ちが手に取るように分かってしまってなんだか苦しかった。あーなんか母と娘終わっちゃったのかなと思ってもなんだかんだ美緒はお母さんを完全にシャットアウトするわけではない。
    段々に手探りだった家族も、終盤にはお互いを理解しあっていて素敵な家族だと思った。大学生のお兄ちゃんは絶対イケメンだし、それぞれのカフェに行ってみたいし、おじいちゃんのたばこのにおいも嗅いでみたいし、あーー私もこの家族に混ぜて!!って感じ。漆のボール私も触りたい。
    ただ、やっぱりおじいちゃんてかっこいいし、偉大だよね。うちのおじいちゃんも、いつもはテレビで時代劇ばっかりみている人だったけど、私が就職するとなったときは、私のことを呼んで、「何があっても、岩にかじりついても仕事はやめるな」って真剣に言っていた。あの当時はつらいことばっかりで、何が岩にかじりついてもだ。なんて思っていたけど、今ならよくわかる、何が言いたかったのか。
    いやー終盤は涙なしには読めなかったなぁ。最後の最後まで気持ちのいい物語だった。感想を書いている今もそよ風に吹かれて新鮮な空気を吸いたい。

  • 私も一人っ子で、中高一貫の学校でいじめに遭い、付属の大学に行かなかった。主人公と境遇が重なり、祈るような気持ちで読んだ。特に母親。女を使って嫌いって、母も言ったなぁ。

    でも、付属の大学ではなく他大に行くことを納得してくれた。他大に受かる保証もなく、今までかけた一貫校の学費を考えたら、決断は楽ではなかったはず。それで、死なずに済んで今がある。

    相手をコントロールするのではなく、寄り添えるなら、いつか大事に思っていることも伝わる。親にも自分の子供にも配偶者にも、そう接したい。

  • 丁寧な手仕事に関わりながら、自分を立て直す少女の物語、かな。
    岩手のホームスパンというものを初めて知りました。長く使えるもの、職人の手仕事で丁寧に作られたもの、そういうものに囲まれた生活、憧れます。
    いじめで不登校になった高校生の美緒。母親にも自分の気持ちをうまく言葉にできずにいる。母親はそんな娘にイライラ。母親と父親もうまく行ってないし、父親と祖父の間にも確執が、と盛りだくさん。美緒は家出して祖父の工房に行きます。そこでホームスパンの仕事に関わりながら、自分を立て直していく。祖父がとてもかっこいい!父と祖父、父と母の関係修復はできたけど、母と娘の関係は…。愛情があっても相性が悪いというのはあるんでしょうね。

  • 握手をさせて撚りをかける。切れてもつながる。

    読み終わり、「ふぅ」と息が出た。

    ふぅ、と息を吐きたくなるような物語だった。それはため息でもなく、気持ちよさによるものでもない。複雑な感情。

    人と人との巡り合わせは奇跡だと言われるが、家族は果たしてどうなのだろうか。生まれたその時から繋がっている、その巡り合わせ。ずっとずっとつながっている、ゆえに切れそうになる。

    この本で気付いたこと、それは家族こそが奇跡の巡り合わせであるということ。人生を重ね合う関係、それこそ家族である。最初から繋がっていたのだ。切れかけても、切れても、大丈夫。握手をさせて、撚りをかければ繋がるから。

    その撚りとはなんだろう。会話か、思いやりか、誰かの手助けか、と考えを巡らせてみる。結局、その撚りとは温もりなのではないか。誰かをそっと包み込む温もり、それはどんな辛いことも認めてくれる。

    その温もりは、美緒にとってはショールであった。人は皆、自分を認めてくれる温もりを持っている。逃げてはならないという思いで、その温もりから遠ざかることはしなくていいのではないか。

    その温もりは自分にとって何なのか。自分はその温もりにちゃんと逃げているか。それでも辛くないのか。

    そう言われたような気がした。最後に出た息、そんな感情が渦巻いて出来たものかもしれない。

  • 高校2年生の美緒とその周りの人たちの物語。人生迷いながらも、色々な人の出会いやそれぞれの想いを紡いで、自分の人生を生きていく。私もそんな風に紡がれた布を触ってみたいなと思いました。

  • 同じ本を2度読むのはこどもの時以来かも。
    盛岡の風景の描写が美しくて、ガイドマップと並べて味わって。
    お互いのことを気遣いながら主人公の美緒と両親の想いがすれ違う様子に、我が身を振り返って。
    そしてお祖父ちゃんが素敵で一つ一つの言葉を噛み締めて。
    読む度に心にじんわり暖かいものがしみて、またじっくり読みたくなる一冊です。

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著者プロフィール

1969年三重県生まれ。中央大学法学部卒。出版社勤務を経て、2008年「風待ちのひと」(「夏の終わりのトラヴィアータ」改題)でポプラ社小説大賞・特別賞を受賞してデビュー。第二作『四十九日のレシピ』が大きな話題となり、テレビドラマ・映画化。『ミッドナイト・バス』が第27回山本周五郎賞、第151回直木三十五賞候補になる。このほかの作品に『なでし子物語』『Bar追分』『今はちょっと、ついてないだけ』『カンパニー』など。あたたかな眼差しと、映像がありありと浮かぶような描写力で多くのファンを持つ。

「2020年 『文庫 彼方の友へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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