雲を紡ぐ

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163911311

感想・レビュー・書評

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  • 女を武器にする、ってことを言う女性がいますが、それはどうなんだろ。それこそ無知で傲慢だとすら感じる。すぐ泣くのはその人がすぐ泣くってこと。男性でもすぐ泣く人はいる。涙の代わりに怒りを見せる人もいる。どっちがどうか、ではなく、自分ならどうするかを選べばいいだけ。イライラされたり当たり散らされるより、黙って泣かれるほうがいいと思う人もいるし。泣いている理由の責任をとるかとらないも自分で選べばいいし、選んだ理由を人のせいにもしてはいけないと思う。
    女を武器にしているのでもなく、女性の特徴をそう見ている男性がいる、女性がいるってこと。それが嫌だと思うのは自分の勝手であって、自分でどうにかするべき。泣いている人を責めることではない。泣いている人も自分でどうにかしようとしている人もいる。人の真意は誰にも分からないのなら、否定するのではなく、そういう人もいるんだと、それだけで良いのでは?自分の理想をなぜ押し付けるのか。そう見えてしまう自分に問いかけるべきだし、自分を知ることで人に対しての見え方も豊かなものにしていける。足りない部分や不満の矛先を人に向けてはいけない。
    お祖父ちゃんのように、美しいと思えるものを自分のなかに満たせば、もっと生きやすい未来に繋がるのかもしれない。
    親だから大人になれるわけではないし。
    あんなに追いつめる必要も、許容できないことを人にぶつける行動も、された側はとても不快で迷惑だということを知るべきで。 勝手に一人でやってほしいとすら思う。

  • 高校生の美緒は、学校でのいじめが元で不登校となり部屋に引きこもった生活を送っている。
    生まれたばかりの時、父方の祖父母から送られたホームスパンの赤いショールを被ってベッドで丸くなっているのだ。

    教師をしている美緒の母親は、将来のためにと言って早く学校に行かせようとするが、美緒は行く気が起きない。それでも、お腹の具合が悪いのを押して登校しようとした美緒だったが、途中で帰ってきてしまった。

    帰宅した美緒を待っているはずの赤いショールがどこにも見当たらない。母親が捨ててしまったらしいのだ。
    限界を感じた美緒は、岩手に住む父方の祖父のもとへ一人向かった。

    周囲に怯えかたくなになってしまった美緒。その心がゆっくりとほぐれ、成長していく様を、そして周囲の様々な親子の姿を、主人公美緒と父広志の視点から描いている。


    学校でのいじめ、自宅ではぎくしゃくした親子関係に限界を感じた美緒は岩手のおじいちゃんのところへ行きます。
    突然来た美緒をおじいちゃんは黙って受け入れ、ここにいて良いと言ってくれる。
    でも、美緒は状況や感情を上手く言葉に出来ないタイプなので、多くは語っていません。しかし、美緒の様子や少ない言葉から、おじいちゃんはいろいろ察してくれたのです。

    もう一人の視点者、美緒の父広志も美緒と似たタイプ。広志の遺伝子が出ているのですかね。
    対して美緒の母真紀は、何でもはっきりと言い、何も言わない(言えない)美緒に苛立ちを感じています。その母親、つまり美緒の母方のおばあちゃんも同じタイプ。
    二人は美緒をどうにか学校に行かせようとするんだけど、どうも美緒のことをしっかりと見ないであーだこーだと決めつけてかかるんですね。
    当然そんな二人の行動に美緒は癒やされる訳もなく、かえってストレスになってしまいます。

    これらの家族関係が、この物語の基盤となります。

    私は美緒の性分に近いので、序盤の母親とおばあちゃんには本当に”うぜぇ”と思いました。
    岩手に行って正解だわと。

    ただ、年齢的には母真紀さん側で、徐々にバックグラウンドが分かってくるとちょっと同情しました。真紀さんは教師なんだけど、その仕事もトラブルを抱えておりなおかつ子育てもつまづき中。

    性格が災いして、子供、そして夫との仲が険悪。家庭は崩壊寸前です。

    本作では美緒の成長が主な物語ですが、それを軸として様々な親子の姿が描かれています。
    美緒と父広志、美緒と母真紀、広志と父絋治郎、真紀と母、親戚の裕子と息子太一。

    それぞれにそれぞれの世界があり葛藤や対立もあるけれど、ゆっくりと苦難を乗り越えていきます。美緒が織り上げる布のように。

    本作は主人公が高校生。高校生直木賞も受賞し、高校生の共感が多かった作品ですが、美緒の親世代、そしておじいちゃんおばあちゃん世代にもおすすめ出来ます。

    美緒世代は学校や家庭の人間関係、親世代はリストラなど仕事問題や子育て問題、そしておじいちゃんおばあちゃん世代は家業をどうするか、施設に入るか問題など。

    各世代それぞれの悩みが描かれているからです。

    ”若い子”だけにとどまらず、中高年の方にもぜひ読んで頂きたい一冊です。

  • 繊細さんは生きにくい。
    些細な言動に傷つき、ちょっとした態度に怒っているのか?と不安になり、自分の発言で他人を不快にさせていないかと怯える。
    居場所がなくなってしまうからオールウェイズスマイル。
    逃げてはいけないと頑張ってみるけども、どんなに頑張ってもできなくて、それでもそれでも頑張って身体に異常が表れ心が壊れる。
    心が壊れてもなお、できない自分をせめる。

    「大事なもののための我慢は自分を磨く。つらいだけの我慢は命が削がれていくだけ」

    救われた。
    そうか。
    自分はどんな「好き」でできているのか探して、身体の中も外もそれで満たしてみろ、と。

    もっと早く出会いたかった。
    でも出会えてよかった。
    これからやってみる。
    そして、岩手にも行ってみる。

  • おじいちゃんの言葉が沁みる。
    何でも言えばいいってものじゃない。
    あったかく、ふかく、心に残るお話でした。

    岩手県、行ってみたいなー。

  • 不登校の主人公美緒と、関係をこじらせたその家族が、少しずつ立ち直っていくお話。美緒が変わるきっかけとなったのは、身を寄せた盛岡の祖父の工房。手染めの糸と、機織りでした。

    「糸は切れても、何度でも紡ぐことができる」
    ということが、親子3世代に渡って語られるんだけれど、盛岡の景色と食べ物とで彩られて、とても素敵なお話でした。もうズビズビに泣きながら読んだ。

    家族関係がこじれた話は本当に読むのがしんどくて、
    それだけで星をひとつ減らしました。

    ナルニア国物語とか宮沢賢治がたくさん出てくるのが注目ポイント。こんなところでターキーズディライトに出会えるとは!文学作品に登場したお皿や食器、デザートや果物の色彩がぱっと鮮やかに頭に浮かぶ。それが織物や糸の色彩と合わさって、何度も感動して本を閉じました。心がいっぱいで。


    わたし、そういえば卒論で「文学作品における機織り女の系譜」を書いたんだけど、現代文学における機織り、っていうところでかなり苦労したので、あの当時にこんな作品があったらなあ。とか、思ったりして。何年前だよ、というはなし。笑

  • 最後まで読んでも、登場人物の誰ひとりにも共感できなかった。お話の設定は面白いのに…。

  • しみじみと、いい話だった。
    親子の関係って近いようで遠いようで本当に難しいと思う。
    人との距離感がうまく取れず、美緒のようにつらい思いをしている人にこそ読んでほしい。
    そしてホームスパンと言う布には、がぜん興味がわいてきた。

    個人的な話で恐縮だが、このとろこずっと『みおつくし料理帖』シリーズを読み続けていたが、その主人公は澪。友人も美緒。そして今回の主人公も美緒。さらに太一も同じ。
    読み始めてすぐ、たまたま見ていたテレビで盛岡の銀河鉄道が映し出されたことも含め、本を読むのにも縁がある、ことを実感した。
    以前、続けて読んだ「消滅世界」と「雨降る森の犬」の主人公がともに「雨音」だったことにも驚いたし。
    読書の神様って、きっといるね。

  • 学校へ行かれなくなり、親からも理解されず、疎遠だった盛岡の祖父のところにたどり着く。
    そこで羊毛を洗い、糸を紡ぎ、織るというホームスパンに惹かれていく。
    家族の中の思いの強さが家族をバラバラにすることもあるけれど、糸を紡ぐように繋がっているのも家族なのだろう。
    盛岡という街に行ってみたくなるような一冊。

  • 学校でいじめに遭い、家にも居所を無くした高校生の美緒が逃げだした先は、岩手でホームスパンの工房を営む祖父の所だった。これまでほとんど付き合いの無かった祖父の元で、美緒は羊毛に触れ、糸を紡ぎ、布を織る事に強く惹かれて行く。
    祖父と父、祖母と母、夫と妻、そして娘。どこかすれ違い続けた家族再生の物語です。
    一言でいえば、心が温かくなる良い話です。
    自分に自信が無く、誰からも良く思われたくて「顔に笑いが貼り付いて」しまった結果いじめに遇った娘は自分の進む道を見出し、父と母も自分を見直し、新たな関係を作って行きます。爽やかな読後感が残ります。
    バックにイギリスの絵本『のばらの村のものがたり』『ナルニア国物語』や宮沢賢治の世界が有ります。私はこの領域に全く無知なのでついて行けないのですが、好きな人には堪らないのでしょうね。

    ここから先は、読まなくても・・・・
    『カンパニー』の感想に「読み進めながら『入り込めないな~』と『没入した~』が入り混じり、ちょっと不思議な感覚を覚えた」と書いていました。この作品も似た感じが有ります。登場人物はみんな思慮深い善人です。ですからそもそも最初の「掛け違い」の状況に陥っていること自体が不自然です。さらにそれが改善するきっかけも弱く、どこか「作られた物語」という感じがします。会話もそうで、こんなに重く的確な言葉が即時に出て来たりしないないでしょうし、主人公の美緒のリアクションが時折不自然に幼くなるのも気になります。但しこうした事は、私の中に伊吹さんに対して軽い警戒感が有って、アラ探し的な目付きで読んでしまうから余計感じるのでしょう。普通に読めば気にならないのかなと思います。

  • 東京で不登校になってしまった女子高生の美緒が、自宅を飛び出し、父の故郷である盛岡でホームスパンをやり始める。
    家族でも分かち合えない、言いたいことが言えなくて言葉が出てこない…家族関係に歪みができていたことが、途切れた一本の糸を紡ぐかのように少しずつ修復されていく。盛岡の風景や空気感がとてもきれいで、文章から滲み出ていて心が洗われるよう。

    父、母の名称が多くて、誰の視点の話なのか迷うときはあったけど、素敵な物語でした。

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著者プロフィール

1969年三重県生まれ。中央大学法学部卒。出版社勤務を経て、2008年「風待ちのひと」(「夏の終わりのトラヴィアータ」改題)でポプラ社小説大賞・特別賞を受賞してデビュー。第二作『四十九日のレシピ』が大きな話題となり、テレビドラマ・映画化。『ミッドナイト・バス』が第27回山本周五郎賞、第151回直木三十五賞候補になる。このほかの作品に『なでし子物語』『Bar追分』『今はちょっと、ついてないだけ』『カンパニー』など。あたたかな眼差しと、映像がありありと浮かぶような描写力で多くのファンを持つ。

「2020年 『文庫 彼方の友へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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