雲を紡ぐ

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163911311

感想・レビュー・書評

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  • 不登校の女子高生が疎遠だった祖父の元で、ホームスパンに魅せられて、自分の生き方を見つめ直す話。
    やりたいことが見つかるのは幸せ。それをさせてもらえるのも幸せ。ゆっくりでいい、と見守ってくれる人のいる幸せ。

  • 学校に行けなくなってしまった高校生の美緒。
    厳しく立ち向かわせようとする教師の母。家族との関係をその場しのぎでやり過ごそうとする会社員の父。
    文章は読みやすくすぐに入り込んでいけるが、家族の関係はこじれていて苦しく、特に美緒に対する母の言葉には、ひりひりと痛みを感じる。

    でも逃げ出した美緒を受け入れた、岩手の祖父との暮らしにはとても引き込まれた。
    ホームスパン工房での、羊毛、糸、織物との出会い。
    岩手山からの伏流水。植物や、布や、鉱物の色の美しさ。英文学や宮沢賢治。
    そして何よりも真実を見出す祖父のまなざし。
    母の真紀に蒔かれた種の芽吹きを伝える場面はぐっと来た。
    家族の再生や美緒の自立を、岩手の温もりの中で描いた、とても良い作品だと思う。

  • 噛み合わない3世代の母と娘。
    登校拒否の高校生美緒が羊毛から糸を紡ぎ、ホームスパンを織り上げていく物語。
    読み始めから7割以上は仲の悪い母と娘、祖母と母、父と母の話し。
    読んでいて暗くなる。美緒が縦糸と横糸をだんだんと上手く織り上げていくように、それぞれの仲が噛み合っていく。
    いろいろあって家族だなぁと思える小説でした。
    印象に残った文章
    ⒈ 美緒とはすなわち美しい糸、美しい命という意味だ。
    ⒉ 言はで思ふぞ、言ふにまされる。
    ⒊ 「寒くないよね、おじいちゃん」赤いショールで、美緒は骨箱を包み込む。

  • 登場人物それぞれが自分の幸せとは何か、について悩みもがきながらも進んでいく話。
    大枠のストーリーとしては、東京生まれ東京育ちの女子高校生がイジメをきっかけに不登校になり、いわゆる教育ママで不登校なんて許さない的な母、祖母とも折り合いが悪くなり祖父を頼って岩手に。そこで夢中になれるものに出会って、打ち込んでいくというものだけど、個人的には主人公は美緒の父親かなと感じた。
    父は、自身の父母を置き去りにして上京したことへの後悔が以降ずっとこびり付いていたけど、娘である美緒のもがきながらも自分のやりたいことを追い求める姿をきっかけに父や妻との関係も見つめ直せた。
    しんどくなったら読み返したくなる一冊でした。

  • おじいちゃんの為人が素敵でした!全然違うんだけどどこか赤毛のアンのマシューおじさんを彷彿とさせられます。
    いくつになっても悩みは尽きないです。本当は親を支えなきゃいけないのに親を頼ってるのは私も一緒だなと思いました。
    盛岡に行きたくなりました。宮沢賢治の『水仙月の四日』未読なので読みたいと思いました。
    伊吹有喜さんとの出会いは読書生活の今年の最大の喜びって言っても過言ではないです。

  • 人生はどうしたってつまずくし、迷う。
    そんな時にこんな本が寄り添ってくれたら、本当に心強いと思います。

    言葉を紡いで、心をあたためる。
    本って、本にできることってほんとスゴイなって心から思います。
    もっともっと多くの方へと届けたい、大切な人から大切な人へと繋げ続けていきたい物語です。

    寒い季節、羊毛のようにあたたかいこの物語を、将来の設計図があやふやだった学生時代を共にした盛岡にいる友人に届けたいなって思いました。

  • いじめが原因で高校へ通えなくなってしまった美緒。不登校を心配する両親からのプレッシャーに追い詰められるが、電車に乗るだけでお腹が痛くなってしまう。
    唯一の癒しは、亡くなった父方の祖母が編んでくれたあたたかな赤いショールに身を包むことだった。
    けれど、どうしても学校へ通わせたい母親にそれを取り上げられてしまったことで、我慢の限界がきた美緒はついに家出し、岩手県盛岡市へ向かう。
    かつて宮沢賢治が”イーハトーブ”と言い表したその土地には、祖母の師匠でもあった職人・山崎絋治郎、美緒の祖父の染織工房がある。美緒は何年かぶりに祖父に再会し、しばらくここに居候させて欲しいのだと頼み込むがーー。

    ホームスパン、というものを初めて知った。
    汚れた羊毛を綺麗に手洗いし、手染め、手紡ぎ、手織りによって仕上げる贅沢で暖かな毛織物のことなんだそう。
    何も知らないまま職人の世界に飛び込んだ美緒が、ホームスパンが織り上がるまでの工程に逐一驚き、感動している姿は初々しく微笑ましかった。
    見習いとして弟子入りし、不器用ながらも努力を重ね、やがて工房の先生役をしてくれる伯母の裕子や、祖父からも少しずつ認めてもらえるようになってくる。
    でも母親は理解してくれない。覚悟もなく無給でそんなことをしているより、東京に戻ってきて高校へ通って欲しいと言うばかり。
    祖父とずっと不仲だったという父親は、久しぶりに懐かしい故郷を訪れ、今そこで暮らす祖父の姿と美緒の元気そうな笑顔を目にして、帰ってこい、とは言えずに東京へ戻る。
    美緒の不登校に加え、職場でのトラブル、夫婦関係での不和を抱えた二人の間には、とうとう離婚という言葉が持ち上がる。

    なんか、みんな一生懸命に生きているのにどうして上手くいかないんだろう、って胸が苦しくなった。父子関係、母子関係、夫婦関係。むずかしいことばっかりだ。
    心から相手を思って心配していても、言葉が足りなくて、素直になれなくて、結局ただ意見の押し付け合いになってすれ違ってしまう。
    家族なのに、でも家族だから。そうやって衝突を何度も何度もくりかえして、より絆は強まっていくのかもしれないね。
    それこそ美緒が一生懸命織っているホームスパンのように。
    「雲を紡ぐ。光を染めて、風を織る。」
    時を超えて育っていくホームスパンの、繊細で丈夫な羊毛の一本一本に、きっと願いが込められている。

    岩手ゆかりの作家ということで、作中の大事なキーワードとして宮沢賢治の物語や引用がたくさん散りばめられているのが嬉しかった。
    小学生のときたくさん宮沢賢治を読んだので彼の言葉は私の中にも原風景として残っていて、なんだか心の柔らかい部分を刺激されるような懐かしさがある。

  • 高校二年生の山崎美緒(やまざき みお)は、些細なことがきっかけで変なあだ名をつけられイジられるようになり、学校に行けなくなってしまった。
    お宮参りの時に、父方の祖父母が作って持ってきてくれた赤いショールを被って引き篭もる。
    17年たっても少しも色褪せないそれは、美緒の宝物であり、心の拠り所だった。
    それには「山崎工藝舎」というタグが付いていた。
    母親と対立し、大切なショールを捨てられたと思った美緒は、無口で何を考えているか分からない父や、高圧的で口やかましい母方の祖母からも逃れるように、「山崎工藝舎」のある盛岡を目指して家を飛び出す。

    岩手県の伝統工芸である「ホームスパン」のお話と、家族の向き合い方が語られる。

    職人さんの手作りのことは、偶然、この前に読んだ本で考えるようになったばかり。
    『丁寧な仕事』『暮らしに役立つモノづくり』は、美緒の曽祖父の口癖であった。
    伝えていきたいものはあるけれど、後継者を育てることが問題であり、合理的で手っ取り早い他の物で置き換えられていくことで、次々と失われて行くのである。

    美緒の父親・広志(ひろし)は、「山崎工藝舎」の主宰である高名な染織家の父・紘治郎(こうじろう)と折り合いが悪く、家業を継がずに、電気メーカーに就職した。
    しかし、広志は『暮らしに役立つモノづくり』の精神は、しっかりと受け継ぎ、誇りを持って仕事をしてきた。

    対して、美緒の母親・真紀(まき)は、母親べったりで、何もかもいいなり。
    おそろしく幼稚な印象を受ける。
    中学の英語の教師だというが、ナメられるのも仕方ないと思ってしまう。
    その、真紀の母親も、元は中学の教師。
    自分が100パーセント正しいと信じて疑わず、上から目線で何でも決定してくる。キョーレツ。

    美緒と両親、広志と父親、真紀と母親、それぞれが親子の関係を修復して行く物語でもある。

    それとはまた別に、美緒の祖父・紘治郎(こうじろう)と亡くなった妻の物語もある。
    師と職人の結婚、昔堅気の工房のやりかた、仕事上の対立から妻は家を出て、亡くなる。
    老いた紘治郎の後悔と、悲しみは、孫の美緒とかかわることで癒されて行く。

    この、美緒の祖父・紘治郎さんがカッコいい。
    そして、初めて知った「いわて銀河鉄道」は、なんて美しい名前の路線なんだろう。
    岩手に行きたくなりました。

    ーーーーーーーーーーーーー
    もう一度読んでみたい、と思い出したのは、
    「イギリス海岸」木村紅美
    岩手のお話。

  • 本を読んで思うのが、自分の知らない世界に出会えるところ。
    ホームスパン、盛岡の景色や美味しいもの。美緒おじいちゃんの紘治郎先生は実在されていた方なのでしょうか。前半一気読みしそうだったが、本書の世界に引き込まれゆっくり浸っていた。

    最初から最後までおじいちゃんの愛の深さにじんわりし涙が出た。父や母、そして美緒も沢山の経験を重ね、おじいちゃんのような人になっていくのだと思う。


    以下は個人メモ。
    岩手県の名前の由来「言はで思ふぞ、言ふにまされるーー」じんわりくる。

    心に留めておきたいおじいちゃんの言葉「相手の言い分を聞いたら、少しは歩み寄る用意はあるのか。それがなければ誰も何も言わない。言うだけ無駄だから」

    手作りに愛情が篭っている世界観で、おじいちゃんの作ったかき揚げや、お母さんの作ったパウンドケーキが捨てられていたのが辛くて仕方がない。食べて欲しかったし食べたかった。悲しい。

  • 四十九日のレシピを読んだ後にこの本を読みました。
    偉そうなことを言いますが、内容の深みや心情の描写などが進化しているように感じます。
    質が違いました。


    ホームスパンを知らなかった私は、あっという間に魅せられました。

    家族の在り方という観点からみても考えさせられることがたくさんあるお話じゃないでしょうか。

    話を聞くこと、思いを伝えること。
    当たり前のことのようで実は難しい。


    個人的には広志と真紀の最後の場面が心に残りました。
    介護はお互い様。喜び2倍で、重荷は半分。
    この人と一緒に年をとっていきたい、そう思える人に私も出会えるといいな。


    I felt the beauty of Iwate's nature and family love.
    Carefully tasking and manufacturing things that help people in daily life are inherited even if there is a difference in what they make.

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著者プロフィール

1969年三重県生まれ。中央大学法学部卒。出版社勤務を経て、2008年「風待ちのひと」(「夏の終わりのトラヴィアータ」改題)でポプラ社小説大賞・特別賞を受賞してデビュー。第二作『四十九日のレシピ』が大きな話題となり、テレビドラマ・映画化。『ミッドナイト・バス』が第27回山本周五郎賞、第151回直木三十五賞候補になる。このほかの作品に『なでし子物語』『Bar追分』『今はちょっと、ついてないだけ』『カンパニー』など。あたたかな眼差しと、映像がありありと浮かぶような描写力で多くのファンを持つ。

「2020年 『文庫 彼方の友へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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