- Amazon.co.jp ・本 (467ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163914428
感想・レビュー・書評
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医療をテーマにすると大学病院にありがちな派閥問題や隠蔽、厚労省や企業との癒着が多いように思うが(個人的見解)。
この小説は、手術支援ロボット「ミカエル」を推進する西條とドイツ帰りの天才医師・真木との対立が中心である。
例えば自分が患者ならどちらに手術をして貰うのだろうか?と考えながら読み進めた。
ロボットだと不具合が生じる事もあるのかもしれない。
人だって絶対とは限らない…。
信頼できるかどうかになるのか…。
エピローグが、思い描いた結末とは少し違っていた。
ちょっと残念。
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『すべてが白い。あたりを見渡す目印はなく、どこを歩いているのかわからない。右も左も雪だ。予定では、今日中に下山するはずだった』とプロローグに書き始めている。
柚月裕子さんが書いた医療ミステリー小説は、初めてなんでしょうか。この小説から作家の熱意が感じられた。多くの時間をかけ、取材活動し勉強したのだと思う。
北海道中央大学病院に、手術支援ロボット(ミカエル)を操作する第一人者で、心臓外科医西條は、命は平等だからこそ、より高度な医療の水準を上げ、病で苦しむ人々に公平に受けられる未来を望んでいた。
ミカエルを使う利点は、患者の負担を最小限に抑えられ、従来からの開胸術ではなく内視鏡で行う点で繊細な作業も可能。第二は、複数人の患者に執刀医一人が、手術室に入らず、ガラス張りの操作台の前の椅子に座ったまま遠隔操作が可能な点である。操作室を独立させることにより、既にスタンバイされている次のスタッフと患者に、そのまま執刀医が移動できる。(手術着の着替えや消毒等が不要)
北中大病院は、循環器第一外科の医師が退職することになり、後任が誰になるのか注目されていたが、西條でさえ思いもよらない人事が病院長から発表された。世界的にも知られている心臓手術の専門病院で、まさに活躍中の人物(真木)を説得したのだ。しかし、西條にとっては懐疑的だ。それに、西條医師に係る広報及び取材は、今後一切禁止になった。
ある日、良からぬ情報が入った。広総大病院で親交のある布施医師が、病院を退職し失踪した。彼もまたミカエルによる手術を推進する一人だったのだ。
東京の病院から、患者を紹介された。
白石航・十二歳・先天性心疾患で難病だ。
手術の方法で、真木医師と対立した。
西條は、諸事情で決断を迫られている。今、彼に降りかかっている疑問が、謎のままなら術式は決められない。
エピローグ(一部抜粋)には…「生きようとする命を見殺しにすることはできない。それが、他人でも自分でもだ。ひとしきり強い突風が吹いた。きつく目をつむる。次に瞼を開けたとき、視界に西條は目を見張った。風が止み、立ち込めていた雲から差し込む光が、あたりを照らす。(中略)眩い景色に目を細めた。命をめぐる厳粛な世界を感じる」と書かれていた。
何といっても、手術の模様を文章で実況している様は、読みながら自分の心臓がバクバクと早鐘を撞いた。
読書は楽しい。 -
北海道中央大学病院に勤める西條は、手術支援ロボット「ミカエル」を使った心臓手術のスペシャリスト。
患者のダメージを最小限に抑え、短時間で結果を出せるその術式は、理想の医療を実現するするために必要不可欠なものであると考えていた。
ある日、辞職する教授の後任に、ロボットを使わず従来の術式で高く評価されている心臓外科医の真木が就任する。
真木を推薦したのは、ロボット支援下手術を推進していたはずの病院長、曾我部だった…
なんだろうこの引力…
ミステリーというわけでもないのに先が気になって仕方がなかった。
見えない力に引っぱられるように、けっこう分厚いこの本を2日で読んでしまった。
とにかく描写がすごい。
専門用語がたくさん出てくるのにわかりやすい。
これまでに読んだ柚月裕子さんの作品は、将棋の棋士、刑事、家裁調査官と、どれも全く違う世界の主人公だ。
それでも毎回、その世界にどっぷりと浸れる描写力に本当に驚かされる。
この作品は、西條のその後を読者の想像に委ねる形で終わっている。
ここは好みの分かれるところだと思うが、希望が持てるエピローグ、とてもよかった。 -
大天使ミカエルが、命の現場で戦う医師の姿に重なり、
とても感動的なストーリーだった。
ライバルというものは、
同じくらいの実力があってこそ競え合うもの。
嫉妬心も、相手がすごすぎては持たないだろう。
大谷翔平に対してのように、憧れしか感じないと思う。
二人の医師は、まさにライバル。
どちらも根底には命を救いたいという思いがある。
辛い過去や生い立ちが似ているからこそ、
お互いの実力を認め合えているからこそ、
反発しつつ、切磋琢磨できる。
手術支援ロボット、最先端医療はこれからもますます進歩するだろう。
機械は、人が作ったもの。
改良を重ねて完璧にしようとしても、
時には欠陥がでたりする。
まして、医療機器であれば、生死に直結する。
目の前の命を救うのが病院だが、
収益がなければ、経営ができなくなるのも現実。
西條と少年航との、触れ合うシーンは、
とても暖かく感じた。
家族や周りの人に、ずっと気を使っていた航に、
生きようとする心が芽生えてこそ、手術を成功させた。
ぜひ、映像化してほしい。 -
軽いです。盤上の向日葵の作者で、柚月本はこれで2冊目。最初、山で遭難するベタなシーンで始まり、一転して男前の花形心臓外科医が出てくるんで、あ、コイツが遭難死か?と思いながら読み始めた。まあ、よく調べてる感は伝わるが、なんとなく門外漢のルポライター臭がどうしても読んでてしんどいというか、バトルシーンが弱い戦記ものという感じ(個人的感想)。序盤、それ要るんか?的なゴシッパーの好きそうな話を読んで、作者が面白がってしまったのをぶっこみすぎてちぐはぐしてる部分がもったいないかと感じる。一般受けしそうな話だと思われてそうな、、白い巨塔とついつい比べたくなるシークエンスも多いというか。まあ、ヴィランが出てこない上に、みなさん人の良い感じで、うっすら微妙にいい話。西條と真木の男前2人の話の作り込みは男前でいいが、本人以外の人が内情を勝手な推察で盛って話しているという設定はどうしても嫌悪感ある。まあ、小説なので、神の声とかで読者だけが知ってる体というのもアリだったのでは。主人公の嫁とその実母が個人的に大嫌いなタイプで地雷だったので、まあ、本編に要らんエピソード的に離婚方向でハッピーエンドと言っていいのでは。
さくっと最後まで読めるので、作家の文章の優等生さというか、真面目さバフがかかって読みやすい。
物語的にはまあ、ほんでどうやねん。という読了感ではあった。 -
まず一言、感動した。
私にとって、初の柚月裕子作品でしてどんな感じなのかと最初読む前思っていたのですが、見事ハマりました。作品のテーマとしては、医療の裏と表で、難しい医療用語がいっぱい出て来ます。でもそんなことも忘れるぐらい文章はとても読みやすくて、引き込まれます。柚月さんはとても取材力がすごいんだなと感じました。リアリティと緻密に組まれた文章。圧巻でした。 -
今年も残すところ、あと1か月余りとなりました。
自分の本棚をざっと見て「夢中になって読んだ」
なおかつ「ラストも満足いくものだった」小説をあげてみます。
百田尚樹『野良犬の値段』
米澤穂信『黒牢城』
林真理子『小説8050』
西條奈加『心淋し川』
遠田潤子『緑陰深きところ』
道尾秀介『N』
そこに本日『ミカエルの鼓動』が加わりました。
柚月裕子さんの小説は二冊読んだことがあって
やはり面白かったので、このたびWikipedia調べてみました。
医者の経験が無いばかりでなく
高卒で21歳で結婚、子育てが一段落した40歳ちょっと前
山形市の市民講座に参加し褒められたことがきっかけで
作家デビュー。
凄すぎ。
幼少期に両親が離婚。その後父と義母と暮らす。
生母は彼女が28歳の時がんで死去(56歳)。
父と義母は津波で亡くなったそうです。
そういう経験が、今回の医療小説に繋がったのかなと思いました。
〈人は経験を積むことで、知識や優れた技術を習得するが、もうひとつ、育つものがある。
勘だ〉
〈物理的な病は、医療で治すことが可能だ。が、動かなくなった心は、目に見えないものでしか救えない。誰かの優しさ、美しい旋律、あたたかな労りが、仮死状態の心をよみがえらせるきっかけになる〉
〈人が金で動かないとき、理由はふたつある。要求されているものが金以上に大切か、相手を嫌厭しているかだ〉 -
初めから最後まで、満遍なく面白かった。
西條も真木も単にプライドの高い心臓外科医ではなかったし、他の登場人物も人間味が溢れていた。
生い立ちや医者になってからの歩みや、今の境遇や…そういったものが本当に丁寧に書かれていて、ストーリーに少しずつ織り交ぜられていく事で、2人の、雨宮他の考え方や行動の取り方がとてもわかりやすく厚みがでてくる。
柚月さんはいつも凄い。
ラスト…西條が医師として戻るのだろうと信じたい。 -
*
長編医療小説
誰の命も平等にいつか終わりを迎える、
そして命の価値は誰もが平等なはず。
でも、受けることが出来る医療は貧富の差や、
暮らす環境で平等でなくなってしまう。
誰もが平等な医療が受けられることを目指し、
機械支援下手術に真っ向から取り組む
外科医 西條が対峙する医療界の闇と心の葛藤。
権力を盾に歪んだ考えの立場ある人が、
現場で患者の命と向き合って闘う、
最前線の医師から良心を掠め取っていく。
主人公は医師だが、医療界に属する人々の良心や
歪んだ正論を綴った医療長編小説。
医療用語や鮮やかに描かれる人の心の葛藤も
読み応えあります。
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作者初の医療小説。
手術支援ロボット「ミカエル」を使用した手術の第一人者である心臓外科医の西條。
そこへドイツ帰りの天才外科医・真木が現れ、心穏やかでない西條だったが、西條と真木が勤める大学病院へ12歳の生まれながらの心臓病を抱えた患者が入院してくる。
その患者の手術を巡って、対立する二人の意見。
そんな中、全国の病院で起きているミカエルの医療事故を追っているジャーナリストが西條の元にもやって来る。
ミカエルの不具合を信じたくない西條は、12歳の少年の手術をミカエルで行うことを決断するが…
500ページ近くの専門分野以外の小説を書くのには、相当の取材と労力が行ったと思うが、主人公の西條が何だか面倒臭い人間で、医療シーンもそんなに多くなく、これまでの柚月作品と比べると、かなり微妙…
それでも直木賞候補選考はめでたい!