鷺と雪 (文春文庫 き 17-7)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167586072

感想・レビュー・書評

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  • ラストシーンが素晴らしい!美しくて哀しくて。日本の美学だわ。ベッキーさんがその権化なのかな。シリーズ3部作読了。

  • ベッキーさんシリーズの最終巻。
    文句なしの一言。名残り惜しい気がしてならない。
    いつもよりは時代のせいもあって、薄暗い翳りがある話だったと全体を通して思う。じわじわと真っ黒なものがもう間近まで迫ってきているような。英子のような若者たちの将来はどうなるのか?切り拓くのはその彼等。英子はきっと大丈夫だろうなと思う(ベッキーさんが託したように)。家族の影響もあるだろうが、考えが柔軟だーベッキーさんの助けもあったおかげだろうー。そう彼女の家族。ここの家族は温かい。特に兄妹の関係がいいから読んでてホッとする。
    鷺と雪で見逃せないのが、英子の恋だろう。どうなるのかと見守っていたが、まさかあんな結果になるとは。ハッとするとは、まさにこの事か。もう推理小説を読んでいるようには感じなかった。
    今の時代もなかなか苦しい。変えれるか未来を、私たちが。

  • お化け博士井上円了のように、時代ならではの謎を解き明かして行くベッキーさん。
    「謎解きはディナーの後で」がすきな人ははまるはず。舞台は昭和初期だが全く難しくはなく、何時の間にか当時にタイムスリップする。

  • 「ベッキーさん」シリーズ最終巻。
     十代の少女の一人称視点だからかもしれないが、北村さんの文章はどこか柔らかくて読みやすい。それは平易な文章という意味ではなく、誰にでも通じる丁寧で綺麗な表現がそう感じさせるのだと思う。
     その一方、小説が終わった後のページにずらりと並ぶ膨大な参考文献で、北村さんの小説に対する真摯さがひしひしと伝わり、心地のよい文章の背景に隠れた綿密な作業が窺え圧倒された。
     ミステリーとしても面白いし、昭和初期の文化や華族の生活の話も含め、そこで生き学ぶ少女の成長小説としても面白いし、北村さんの文章そのものも個人的には面白かった。
     五・一五事件の年から始まり、二・二六事件の日で終わったシリーズ。ベッキーさんが最後に英子さんに言った言葉も含めて、考えさせられる点もある。

  • お嬢様の主人公、現代に生きる自分から見ても、かなり恵まれた羨ましい境遇。
    けれど、時代は昭和初期。時代という大きな流れが彼女の行末を変えてしまう予感…。自分にも、深く考える力が欲しいと思う作品集でした。

  • 直木賞受賞作、戦前の華族を中心としたその時代の雰囲気をよく描いてある作品。

  • これでシリーズ完結だなんて、残念です。
    あと日本史をちゃんと勉強してない自分も残念です。
    作品の中に流れる時間はゆるやかだけど止められなくて、英子さまも気付けば大人になっていて、何だか少し切なくなります。

  • ベッキーさんシリーズ完結。最後が釈然としない。単なる歴史のサイドストーリーになってしまった感がかる。もっと推理物的要素を色濃く出して欲しかった。

  • 「壮大なプロローグ」

    <マイ五ツ星>
    間違い電話:★★★★★

    <あらすじ>―ウラ表紙より
    昭和十一年二月、運命の偶然が導く切なくて劇的な物語の幕切れ「鷺と雪」ほか、華族主人の失踪の謎を解く「不在の父」、補導され口をつぐむ良家の少年は夜中の上野で何をしたのかを探る「獅子と地下鉄」の三篇を収録した、昭和初期の上流階級を描くミステリ<ベッキーさん>シリーズ最終巻。

    <お気に入り>
    「先生は≪願えば必ずかなうものです≫とおっしゃったの、随分と無責任じゃないかしら」
    「……さようでございましょうか」
    「あら、だって、願い事なんて十に一つかなうかどうかでしょう。」
     ベッキーさんは、少し間を置いて、
    「……お嬢様。お嬢様とその先生では、どちらが年上でいらっしゃいます?」
    「あら、おかしなことを聞くのね」
    「先生の方が上ではございませんか?」
    「勿論よ、もう、おじい様の先生」
    「でしたら、様々なことを見ていらっしゃいます。≪この世では、あれもこれも思いのままにならぬ≫と知り尽くしていらっしゃるのでは?」
     わたしは、ぐっと詰まった。ベッキーさんはいう。
    「お嬢様がおっしゃったのは、失礼ながら、≪いうまでもないこと≫でございます。先生が、それをご存じないと、お思いになりますか?」
    「………」
    「別宮には、そのお言葉が多くの哀しみに支えられたものに思えます。―お若いうちは、そのような言葉が、うるさく、時には忌まわしくさえ感じられるかも知れません。―ですけれど、誰がいったか、その内にどのような思いが隠れているか、―そういうことをお考えになるのも、よろしいかと存じます」
     わたしは一言もなく、頷いた。

    <寸評>
     昭和初期、まだ「華族」「上流階級」といった旧来の身分制度が色濃く残った日本の帝都を舞台に、良家のお嬢様である主人公・花村英子が、才色兼備の女性運転手「ベッキーさん」こと別宮みつ子の華麗なる手助けを借りながら、日常のささやかな謎を解いていくなかで成長する過程を綴ったやんごとなき探偵小説≪ベッキーさんシリーズ≫三部作、その最終巻である。

     前作『玻璃の天』のレビューにて書いたとおり、本作は「昭和十一年二月二十六日」、あの雪降る帝都に向けて収束してゆく。宮部みゆき著『蒲生邸事件』において、まさにその日を舞台にした物語を読んだ小生は、「その日」が訪れるのを恐れつつ読み進めることとなった。

     主人公・英子は良家の生まれながら旧態依然とした上流社会に完全に縛られるわけでもなく、その持ち前の好奇心で新たな時代の担い手となるであろう期待を抱かせてくれる。そういう意味では、「その日」が訪れるのを楽しみにもしていたのだが……。

     見事にしてやられた。物語は、まさに「その日」にプツリと終わってしまう。ここまで三部作を読み進めてきた読者それぞれに、その後の物語を委ねるように。

     きっと英子はこれからも力強く生きてゆくだろう……、いや、まだまだベッキーさんがいないと不安だ……、そもそもベッキーさんは運転手、これからの荒波の中で雇い続けるわけにもいくまい……、東京大空襲をどう乗り越える?……、玉音放送をいかにして聞くのだろう……、そして、新しい時代の中で、英子は……、想像は尽きない。
     だが、英子ならば……。少なくともその想像は暗雲ではない。そう感じさせてくれる、これまでの物語であった。

    (本文より)
    「お嬢様。―別宮が、何でも出来るように見えたとしたら、それは、こういうためかも知れません」
    「はい?」
     ベッキーさんは、低い声でしっかりと続けた。
    「いえ、別宮には何も出来ないのです―と」
    「………」
    「前を行く者は多くの場合―慚愧の念と共に、その思いを噛み締めるのかも知れません。そして、次に昇る日の、美しからんことを望むものかも―。どうか、こう申し上げることをお許し下さい。何事も―お出来になるのは、お嬢様なのです。明日の日を生きるお嬢様方なのです」
     わたしはヴィクトリア女王ではない。胸を張って《I will be good》と即答することは出来なかった。
     だが、この言葉を胸に刻んでおこうと思った。
    (以上本文より)

     前作『玻璃の天』にて、英子がこういって別宮を諭したことがあった。
    「時間を元に戻すことはできない。だから苦しい。わたし達が進めるのは前だけだ。過去を胸に刻んで生きていくしかないのだ」
     この言葉を聞いたとき、別宮の目にはまさに美しく昇る日が見えたのだろう。

     三部作ではありながら、読者にとってはあくまで「プロローグ」。読者一人一人が、それぞれの「英子の物語」を綴ることのできる、見事な第141回直木賞受賞作であった。

  • なるほどねー…。3部作がこういう形で締めくくられるのかー…。かなり緻密な構成と思ったけれども、逆にこの最後の一点が本シリーズの原点であったとのあとがきを読んで、それも腑に落ちた。
    質の高いシリーズだ。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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