鷺と雪 (文春文庫 き 17-7)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167586072

感想・レビュー・書評

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  • 史実とのリンクも品位があって良かった。

  • 時代背景
    生活風景
    それらが相まって、なんとも心地いい

  • 「ベッキーさんシリーズ」最終巻は、直木賞受賞作品「鷺と雪」を含む中編3編。

    桜咲き乱れる園遊会で始まる「街の灯」から、東京でブッポーソーが鳴き凶事を予感させる「玻璃の天」を経て、不穏な空気を纏い雪降り積もる昭和11年2月26日の朝で終わるこのシリーズ。ラストを飾る標題作「鷺と雪」は、ここに至るまでの8編を読んだからこそ感じることのできる深みと重みと切なさに溢れている。

    その朝、これから起こる歴史を揺るがす大事件のことも知らず、風邪で学校を休んでいた英子がかけた1本の電話。そこに出た相手・・・・・・。この驚くばかりの偶然!切ない、切ないよ~。
    実際、このかけ間違いは事件の朝何件もあったと松本清張著「昭和史発掘」に記されているらしい。

    時代の大きなうねりになすすべもなく佇む陸軍将校・桐原大尉とベッキーさんの、禅問答のような緊張感あふれるやりとり、ベッキーさんの英子への未来への祈りのような言葉、そしてたった3度の交流にあっても心を通わせる若月少尉と英子の儚い思い。もう、最後は涙、涙でした。

    「前を行く者は多くの場合――慙愧の念と共に、その思いを噛み締めるのかも知れません。そして、次に昇る日の、美しからんことを望むものかも――。どうか、こう申し上げることをお許しください。何事も――お出来になるのは、お嬢様なのです。明日の日を生きるお嬢様方なのです。」ベッキーさんが英子に伝えた言葉は、その後に続く戦争の歴史を知っている私たちが読むと哀しく胸に響く。
    彼らの生きた時代を今、私たちが評価しているように、私たちが生きている時代もまた、いつか歴史の評価に堪えることになる。
    作品に込められたメッセージに圧倒されました。

  • 三部作最終回だからといって特別に盛り上がるようすはなかった。
    何者かが分かってしまって、ベッキーさんへの興味が少し薄らいでしまった分、少し物足りない。
    題名の「鷺と雪」は、想像通りだったが、これから起こる歴史事実に至るまでの、キリキリと忍び寄るさまが、単なる少女の成長物語ではなくしている。

    ほんの少し前の事であるものの、今を生きていると既に歴史の一部と感じてしまう。
    「今当たり前」は不変ではないことを、痛切に思う。

    ベッキーさんのように、背筋を伸ばして今の時代に真摯に向き合ってきただろうか…。
    自問するも自信はない。

  • 読み終わりたくなかった…
    続きが気にならないと言えば嘘になるけれど、ここで終わるからいいんだろうな。
    結末の暗い予感はずっとあったけど、あー、つらい…
    読んで良かった。ベッキーさんも英子お嬢様も好きです。

  • 公侯伯子男の格の違いや、昭和10年頃の華族と婚姻の微妙な関係に少し詳しくなった。
    登場人物たちが全員、立派な思想の人々で思いやりもあってきちんといく末を考えられるのに、それでも暗い戦争の時代という大きな力に押し出されていくのを、それの結末がどうなっているのかを、読者は知っている。
    花村家の恋の行く末を、この時代の後の様子を知りたいと思った。

    蛇足だけどどうしてもベッキーさんが、ベッキーの顔で脳内再生される…

  • 当たり前のように本作も期待を裏切らず。
    昭和初期の世の中をまるでこの時代を生きたかのように鮮やかに繊細に描写しています。
    いつまでも続けることができそうなシリーズなのに、あの日の総理官邸で物語を締めくくるとは、最後まで心憎いです。

  • この作日の一番のキーになる人といえばベッキーさん。謎が多いが心に闇も多いのだろう。このベッキーさんに英子が相談を持ちかけるのだが、初めから全て分かっているかのごとく謎を解き明かしてしまう。ブッポウソウが予見する不穏な時代の空気に、実在の事件が重なっていく。ラストは永遠に会えなくなってしまうであろう英子と若月さんの切ない気持ちで本を閉じた。

  • ついにシリーズ最後。
    主人公英子の世代のお着物など華やかな雰囲気が、よき時代のように感じられるものの、背景にある時代はやはりまだ闇のなか、先の見えない不安定な日本。
    日常を興味津々に過ごす英子、その英子の運転手であり、陰で守り続けるベッキーさん。
    ベッキーさんが英子に珍しく、「そうでしょうか…」といい、長く生きたものにしか分からないことについて語るシーンが印象的。
    「願えば叶う」の真意。

    たびたび登場する英子の雅義兄さんの存在がこの本にたくさんの柔らかさを与えてます。

    最後は、あ…そこに繋がってたんだ、と少し予想と違う展開でもあり、本の内容全体に漂う薄暗い雰囲気にも繋がってたんだなと納得する部分も。

    英子とベッキーさんが本当にいたかのように読み進めたシリーズです。

  • 2015年最後の本、ベッキーさんシリーズの最終巻。この巻ではベッキーさんが主体ではなく、英子の物語が多い。特に最終話の鷺と雪。これも偶然の儚さの物語。雪のような話でした。きな臭くなっていくこの後の時代、英子とベッキーさんはどのように生きていくのだろう。どうか、変わらずにいて欲しい。難しいこととはわかっているけど。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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