- Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167647032
感想・レビュー・書評
-
第1次大戦前夜から末期まで、すなわちオーストリア・ハンガリー帝国の崩壊期。一貫して、ほの暗いムードの中に物語は推移する。この時期のヨーロッパの全体像はおろか、オーストリア、あるいは1戦線の帰趨さえ定かではない。それは、物語の主人公ジェルジュにとってそうであるばかりではなく、読者たる私たちも同様である。作家自身も、ことさらに時代背景を説明しようとはしない。それは、主人公たちに他者の思惟や感覚を読みとるといった特殊な能力を付与しつつ、感情表現を極力抑える技法でもあった。リアリティの在り処が根底から違うのだ。
夜行列車が、朝まだきのウイーンに近づき、まだ目覚める前のウイーンの街の煤けた描写などは実に見事だ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読みやすくはないです。でも気高い文体です。
高校時代に世界史を選んでいて西洋史が好きだった自分はWW1の頃の西洋の時代背景を覚えていて、だからわりとさくさく読み進めることができたのかもしれません。
まるで西洋人が書いたような錯覚に陥る本です。 -
第一次大戦渦のウィーン。人並みならぬ『感覚』を持ったジェルジュは、その戦いに身を投じていく――。
これは目を瞠った作品。
なんというか・・・腰を据えて読んだ。というより、腰を据えないと読めない本だ。
私は夜に一章ずつ、四夜連続で読んだ。
ある意味、読者には不親切な小説だと思う。文体もかなり硬く、相当本を読みなれている人でなければ、途中で投げ出してしまうだろう。
けれど、ストーリーと語りは圧倒的。
不親切なのだが、そうされても文句を言えないだけの小説だった。『感覚』の書かれ方もさることながら、人物もみんなばちっと決まっていて、隙がない。
もちろん時代背景や当時の風俗は言わずものがな。
こういう作品を自分が読んで「面白い」と思えたことも、ちょっと感慨深かった。
たぶん、あと数年手に取るのが早かったら、とても読みこなせなかっただろう。
並み居る超能力モノとは一線も二線も逸する、恐れ多いエンターテイメントである。 -
何年か前に読了。佐藤亜紀初邂逅。
何というか…成年女性読者向き?竹宮恵子さんの風と木の詩を彷彿させるなんて言ったら笑われるかな。文体は好み。フランス映画のノベライズを日本語に訳したらこんな感じかな、とか。
内容はエスパーの闘争物。
この後、1809ナポレオン暗殺を読んで佐藤亜紀女史を揃える気になる。 -
圧倒的なバックグラウンドのもとに描かれる絵画のような小説。いつもの佐藤亜紀のごとく、余計な説明は一切ないので、ついていくのは大変。
「感覚」という能力のことも、能力者としての主人公にしてみれば一般の五感と変わらないので、描写的にそれが物理的なものなのか感覚的なものなのかの境目をあいまいにし、何とも言えない世界観に引き込まれる。
第一次世界大戦時の微妙なヨーロッパのパワーバランスがわからないと理解は難しいが、それを抜きにしても面白い。
天使、というタイトル。小説中の関係を持った女の背中に羽があり、「インコのようなものだと思いました。」というあたりに、心を読むという天使にも似た能力と、それを畏怖する一般人と、その感覚とはかけ離れた超能力者との微妙な関係を描いているのかと思った。 -
佐藤作品は、「バルタザールの遍歴」以来2冊目。
何とも色気のある文章、と言ったら良いのでしょうか。
硬質で一切隙がないように見えるのだけれど、匂い立つような色気がある。
世界史のある程度の知識があったほうが、より楽しめます。
余計な説明は一切なく、ともすれば読者は置き去りにされそうになります。
ほほほ、ここまでついてこれるかしら…!?と言われているような(笑)
人の頭の中を覗けたり、思うがままに記憶を操れたり、、、と、
"感覚"という超能力を持つ異能者達の物語。
家族をなくした薄汚い少年ジェルジュが、"顧問官"に拾われ、
やがて凄まじい能力を持つ美しい青年へと成長していきます。
何故か一番印象に残っているのは、
ジェルジュがやたらと「歩く」のが好きな青年であるという事。
「送っていくか?」「いや、歩く」この会話を何度目にした事か(笑)
そしてまぁよくこんなに女性にモテるわと、呆れる程の年上キラーっぷり。
難解な部分もありますが、面白かったです。
続編「雲雀」も読んでみます! -
第一次世界大戦?のヨーロッパを背景にしたスパイ小説。
美丈夫の主人公をはじめとしたサイキッカー達が暗躍するのはSFファンタジーチックだが、最後までしくしくとした緊張感がある。
佐藤亜紀の小説は3作目だが、これだけ海外小説のような重厚さとファンタジー要素を違和感無く組み合わせられる作家は稀有だと思う。 -
なにせ不親切だ。一切の説明なしに物語は始まり、当たり前のことのようにその感覚は描かれる。時代背景も当たり前のことのようにそこにあり、補足的な描写はひとつもない。
だがしかし、それであるがゆえに読者はその世界に引き込まれて目が離せないのも事実である。そして、その世界は何気に魅力的に映る。「ミノタウロス」の時にも思ったのだが、著者はなぜこのような世界を創造できるのだろう。文体も魅力的だ。著者についてのいろいろな風評もあるが、文学的にやはりすごい才能であるとしか言いようがない。
どうにもカタカナ名前が覚えられず、登場人物たちが把握できないまま、そして時代背景も理解できてないままに読み進めたため、きっと感じた面白さは半分以下でしかないと思う。でも思う。登場人物たちにそれを反映させ、この本は時代を描いているのだ、と。
*ただし、巻末の解説には失笑を禁じえない。。。 -
通勤しながら車内でちょこちょこ読んだので、世界観に浸りきれなかったのが残念。時代の雰囲気が良く出ていたし、主人公を含め登場人物のほとんどすべてがやりきれなさを抱えているところに惹かれた。もう一回、集中して一気に読み直したい作品。
-
一切の説明なしで突き進む非道な物語。読者に対して不親切すぎる。でも好き。