子どもは判ってくれない (文春文庫 う 19-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167679910

感想・レビュー・書評

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  • 読み始めてから随分長い時間がたったのでところどころわすれているけど、呪いのコミュニケーション と 話を複雑にすることの効用 は なかなか興味深かった。 110607

  • 最近、「呪いのコミュニケーション」の章を何度も何度も読み返している。
    今起こっているのはまさにこれ。
    解決の手がかりは何だろう。
    メッセージが「聞き届けられるべき人に聞き届けられる」ように努めることなのか。それとも、「話を複雑にすることの効用」にあるように、「自説の危うさ」の定量を優先させる事なのか。

  • 私も中年です。

  • 読みながら思ったことが、次の章に書かれていたりして、大変納得しました。
    まさに「本に呼び寄せられた」状態です。

  • この本に一貫して伏流しているのは、世の中がこれからどうなるのかの予測が立たないときには、何が「正しい」のかを言うことができない、という「不能の覚知」である。

    その「不能」を認識したうえで、ものごとを単純化しすぎるきらいのある風潮にあらがって、「世の中というのはもう少し複雑な作りになっているのではないか」ということをうじうじと申し上げたのである。

    「快刀乱麻を断つ」というのがこういうエッセイ本の真骨頂であり、読者諸氏もそのような爽快感を求めておられることは熟知しているのであるが、残念ながら本書はそのような快楽を提供することができない。筆者はああでもないこうでもないと言を左右にし、容易に断言をせず、他人を批判する時も自分は逃げ支度をしており、本書をいくら読んでもそれで世の中の風景が判明になるということは期待できないのである。すまないが。

    しかし、言い訳をさせていただくと、昨今の時評類はあまりに話を簡単にしすぎてはいないか。

    世界情勢は複雑にして怪奇であり、歴史はうねうねと蛇行し、私たちの日本社会も先行きどうなるのか少しも見えない。そういうときには、それらの事象のうちとりわけ奇にして通じ難いところを「分からない、分からない」と苦渋の汗をにじませながら記述することもまた、面倒な細部をはしょって無理やり話の筋道を通してしまう作業と同じく必要な仕事ではないか、と私には思われるのである。

    それゆえ、この本からのメッセージは要言すれば次の二つの命題に帰しうるであろう。

    一つは、「話を複雑なままにしておく方が、話を簡単にするより『話が早い』(ことがある)」。

    いま一つは、「何かが『分かった』と誤認することによってもたらされる災禍は、何かが『分からない』と正直に申告することによってもたらされる災禍より有害である(ことが多い)」。

    これである。

  • "後悔、後に立たず"と"目からウロコの愛の心得"は、座右。

  • 相変わらず切れ味鋭い考想を展開してくれる。
    ちょっとだけ長々として愚説にお付き合いを。

    圧巻は「『セックスというお仕事』と自己決定権」の章。
    フェミニストたちの売春に関する主張と娼婦たちのそれの違いを指摘しつつ、
    さらにはフェミニストの主張のゼロサム構造を看破する。

    要約が大変困難であるが、あえてな愚見的解説を付すなら
    ・フェミニストの主張の大半が父権制批判であり
    ・それは男性が商品価値の所有を独占しうる構造に問題があり
    ・結果的に女性は男性に性以外の売るものを持たないプロレタリアートの地位に貶められる
    ・そして、売春婦は最も阻害された抑圧のシンボルであって
    ・売春婦をその奴隷的境涯から真っ先に解放される必要がある

    ここから内田節が炸裂する。

    ・これでは、売春婦の解放が主婦や妻の解放に先んじなければならない理由がない
    ・むしろ、主婦や妻こそ父権制の無自覚な共犯者に他ならないし
    ・男子の財力をあてにする生き方が否定されるのであれば
    ・目指すべきは、父権社会の全ての性制度の同時的廃絶であって、売春制度の選択的廃絶ではない

    そして、
    「(前略)父権制批判を徹底させようと思えば、廃娼運動を唱導することは断念しなければならないし、
    廃娼運動を優先しようと望むなら父権制批判をトーンダウンさせなければならない」(p148)
    という論考へ帰着する。

    このフェミニズムの主張に対して、売春婦達の主張が一貫して
    「人権を守れ=安全に労働する権利」ということに尽くされる点に着眼し、タツルはそこに賛同する。
    ただし、タツルは「売春は『嫌なものだ』という考えを私は抱いている」(p164)とも言う。

    「現実が整合的でない以上、それについて語る理説が整合的である必要はない。
    『すでに』売春を業としている人々にはその人権の保護を、
    『これから』売春を業としようとしている人には『やめときなさい』と忠告すること、
    それがこれまで市井の大人たちがこの問題に対して取ってきた『どっちつかずの』態度であり、
    私は改めてこの『常識』に与するのである」(pp164-165)

    嫌なものだとする論拠にはお得意の武道論からくる「身体性の尊厳」を挙げ、
    整合の取れないところに関する事例として「『囚人の人権を守る』ということは
    『犯罪を肯定する』こととは水準の違う問題である」(p153)を引く。

    ものすごい切れ味である。

    私自身が以前から感じていた、
    ・フェミニストに対する漠然とした嫌な印象
    ・売春に対するもやもやとした否定的な感想
    を見事に切り取り、批評し、批判し、自説を展開している。
    圧巻、ということばがふさわしい論説だった。

    ***

    書籍の後段は政治色が強く出てきていささか退屈。

    だが、本論以降の「文庫版のためのあとがき」で、とても面白い論考が展開される。
    書き物の価値を定量する方法、すなわち良書の条件である。

    タツルは書かれたものの「耐用年数」を挙げる。

    「例えば、法隆寺の五重塔を見て下さい。紀元七世紀の建造物ですけど、いまだに地震で倒れたことがありません。
    今日本のゼネコンが建てている建物はたぶん世界最高水準の建築技術を駆使して建造されているのでしょうけど、
    その中に起源三四世紀まで残っているものがあると思いますか?万が一物理的には立っていられたとしても、
    十三世紀にわたって『残したい』と望む人がいるような建物をあなたは周囲に発見できますか?」(p336)

    これは気鋭の哲学者・故池田晶子の「古典を読め」という論拠に通ずる。

    名著には、時代性・個別性をらくらくと超越し、
    それぞれの読者に「これは私のことを書いている!」と思わせる理が記されているのだと思う。

  • 「本が私を読んでいる」とか、
    「後悔、後に立たず」とか、
    多くの示唆に富む言葉が載っている。

    国家のこと、売春のこと、コミュニケーションのことなど、いろいろなことが書かれている。
    また、しばらく時間がたってから、読みなおしてみたい。

    2001年から2003年に書かれたものだが、今読んでも考えさせられる。
    たぶん、今後も通用し続ける内容だと思う。
    だからこそ、節目節目で読みなおしたい。

  •  内田樹の「私はそう思う」精神がとても好き。他人の話をドライに受け止めた上で、自分のことをドライに理解しようとする姿勢が自然にとれている人になりたいと思った。もちろんこのドライはいい意味です。
     インパクトはまえがきが掻っ攫っていったけど、内容としては第二章の「セックスというお仕事」と自己決定権、第三章の「呪いのコミュニケーション」が素敵だった。
     とりあえず、なんでもかんでも帰納的に出し入れしようとしてはいけないなぁ、というのがざっくりとした感想。

  • この中の「呪いのコミュニケーション」は目からウロコもの。一緒にいるとなんとなく疲れる人とのつき合い方のお話。

    内田樹は、なんとなく、とかもやもや、したものをつかまえたり説明するのがホント上手。変な言い方だけどいちいち腑に落ちる。

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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