あしたの君へ (文春文庫 ゆ 13-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167913779

感想・レビュー・書評

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  • あしたの君へ 柚月裕子

    1.購読動機
    柚月さんの著書は、初めましてです。
    タイトルの「あしたの君へ」に惹かれて購読しました。

    2.主人公
    静岡県出身。次男。
    父親は漁師。堅い職業であることを理由に公務員を志望。
    そして、母親の友人/家庭調査官のひととなりに惹かれて、家庭調査官の道を志します。

    3.家庭調査官とは?
    著書曰く、裁判官が正確な審議、判断ができる材料、事実の収集を行うこと。
    また、相談者の悩みに寄り添い、どのような進路が更生に繋がるのか? を探すこと。

    4.物語
    後書きにもありますが、柚月さんは「事件そのものよりも、なぜ、その事件が発生したのか?の背景を丁寧に描いた」とあります。

    物語の中の仮定のひとつひとつの事件と、日々報道から流れる悲しい現実の事件は、決して別のものと捉えることは出来ませんでした。

    ①母子家庭の高校生による窃盗。
    ②別居家庭の高校生による同級生への傷害。
    ③夫婦のみの世帯の離婚調停。
    ④子供ありの親権含めた離婚調停。

    主人公が家庭調査官の補佐、見習いとして向き合う事件、相談内容は、きっと全国にいらっしゃる家庭調査官の姿に重なるものなのだろう、、、と考えました。

    事件には、必ず背景、動機があること、そしてその動機は、時には社会的な構造に起因することも改めて認識することができました。



  • カンポちゃん。
    保険会社のキャラクターみたいで可愛い響きだ。本作によると家裁調査官「補」のことをそう呼ぶらしい。

    例えば刑事事件では検察官の補助を行う検察事務官がいて、検事の指揮下で捜査などを行う。その調査内容は検事がどうするかは決めるし、その後は裁判で争われるので検察事務官の調査内容がダイレクトに結果に影響する事は少ない。
    ところが家裁調査官の調査結果は調停の場で直接判事の決定に影響を与える。言い換えると家裁調査官の調査如何で人生を大きく左右するとも言える。主人公が依頼人にどう寄り添うかを悩むのも、その影響の大きさを考えると当然だろう。
    他人に頼れず窃盗に手を染めてしまう女子高生。夫のモラハラを他人に分かってもらえず苦しむ妻。離婚しても父と母のどちらも選べない子供。みんな弱い人たちだ。
    カンポちゃんたちは寄り添い悩み考え抜いて成長し、立派な家裁調査官になるはずだ。

    知らなかった職業の事がよく分かり、読後も気持ちが爽やかになる良作だと思う。

  • 家庭裁判所調査官補として九州の福森家裁に配属された望月大地は、研修期間にさまざまな案件を担当する。
    事件や争いごとの背景にある人間関係や生活環境などを調査するのだが、心開かない人たちを相手にして、それは簡単なことではない。
    この仕事に向いていないのではと悩みながらも
    ひとつひとつの案件に誠実に取り組む大地が快い。
    そして、まわりの先輩たちや同級生の励ましも心にしみる。
    こちらも応援したくなる主人公だった。

  • 柚月さんの作品、一冊目です。
    いやー、これは、めっちゃ好き。
    ファンタジー要素あるものがあまり好きでない事に最近気づく。
    だからこそ、最近読んだ者の中でも現実的な内容で、
    人生や、人の想い、価値観など深く考えさせられた。大地、素敵だー!

  • 面白かった
    家裁調査官に採用され、調査官補として研修期間中の望月大地の成長を短編連作で語る物語
    それぞれの事件で悩み、迷いながら真正面から取り組んでいく主人公、さらにそれぞれの事件で語られる事案が深い

    ■背負う者(十七歳 友里)
    スマホで知り合った男から財布を盗んだ友里。
    心を開かない友里。本当の動機は何か?
    その真相は?
    そして下された処分

    ■抱かれる者(十六歳 潤)
    ストーカ行為を働いた潤
    素直に調書に応じているものの..
    そのストーカ行為の背景にあった家族の秘密、母親の闇

    ■縋る者(二十三歳 理沙)
    すがるものと読みます。
    大地の学生時代の初恋の相手の理沙
    理沙が語った今の姿は大地を励ますことに..

    ■責める者(三十五歳 可南子)
    離婚調停で平行線
    可南子の訴えは単なるわがままなのか?
    外からは仲良い夫婦に見えていたがその真相は..

    ■迷う者(十歳 悠真)
    悠真の親権を争う夫婦
    こだわる親権と悠真の気持ちは?
    そして、明らかになる真実...とても重い....

    と、どれもこれも、重い話でした。
    とってもお勧め

    昔読んだ、漫画の「家裁の人」を思い出しました。

    • ほくほくあーちゃんさん
      読んでみたいー!!!!
      柚月裕子さんの作品は、一つも読んだことがなくて…どれから読もうか迷ってる最中です。
      この本は、masatoさんの感想...
      読んでみたいー!!!!
      柚月裕子さんの作品は、一つも読んだことがなくて…どれから読もうか迷ってる最中です。
      この本は、masatoさんの感想を読んで、読んでみたいーって思いました!!
      2021/10/30
    • masatoさん
      ぜひ、読んでみてください。お勧めです
      ぜひ、読んでみてください。お勧めです
      2021/10/30
    • ほくほくあーちゃんさん
      読んでみますー!!
      ステキな感想ありがとうございます(*´艸`*)
      読んでみますー!!
      ステキな感想ありがとうございます(*´艸`*)
      2021/10/30
  •  主人公(望月大地)は、九州の福森市で家庭裁判所調査官補という職業をスタートするところから物語は始まる。新人調査官補は、先輩調査官からはカンポちゃんと呼ばれる。

     普段はあまり馴染みの少ない職業だが国家公務員だ。採用試験に合格した人は、全国の家庭裁判所や出張所等に配属される。(家庭裁判所調査官補は、2年間の養成課程の後任官する)取扱う業務は、心理学など人間科学の知見や技術を用いて、離婚紛争・子供の親権者争いや少年少女の犯罪など、当事者の調査を行い、紛争の原因を探り、裁判官の審判に必要な情報を収集して報告書をまとめ、調停に立ち会い事実関係を述べる仕事です。

     当事者だけの聞取り調査では、明らかにされない事実が隠されています。調停の面接で、当事者は自分に有利な言葉しか話さない。
    所謂、仮面を被っているのです。
     例えば、夫婦間の離婚紛争で子供がいる場合、辛い思いをするのは当事者である親だけではありません。
     もしなに不自由なく暮らしていた子供達が、両親の別れを目の当たりにして、父母のどちらを選ぶのかを迫られる場合は、子供達が両親に恨みが無くても、親同士の争いに板挟みとなれば暴れたくなるのかもしれません。
     少年少女の非行事件なら、再非行に至らないようにする必要もあります。その様な場合の調停は、解決に何年もかかると書いていました。勿論、厳しい審判となれば調査官の苦悩が偲ばれます。
     しかし問題の解決は、当事者との信頼関係が構築される遣り甲斐のある仕事だと思いました。

     作品は全五話で、どれを読んでも根が深い。カンポちゃんの奮闘が読みどころだと思います。頑張れ「大地」と励ましたいところだが、これはミステリー小説ですぞ!
    アッと驚く真実は、必読ですよ。

     タイトルに「あしたの君へ」の君が、小説の「読者へ」と解釈すれば激励の言葉だと思う。
     実におもしろい。

  • 五つのストーリーでなりたっています。
    それぞれに人生の葛藤がうかがえます。
    ただ短編なので話にのめり込めなかったのが
    残念!
    最後に実際の家裁調査官が解説されていたのは
    読みがいがありました。

  • 図書館本

    仮定裁判所調査官補 カンポちゃん
    望月大地が、担当事件の真実に辿り着くために悩みながら東奔西走する。短編五つ。

  • 家庭裁判所調査官補の望月大地がいろいろな問題を抱える相談者達に真摯に向き合い、悩み苦しみながらも先輩や同僚との関わりを通して成長していく物語。家庭裁判所調査官の仕事の大変さ、相談者の心に寄り添うことがいかに大変なことかが描かれている。悩みを抱えている人たちの力になりたいという強い気持ちがなければ、知識や経験があっても相談者には寄り添えないこと、相談者との面接だけではなく自分の足で調べることの大切さがわかった。大地が相談者たちに一生懸命に向き合い優しく寄り添おうとする姿が心をあたたかくしてくれる。

    心に残った言葉
    ・「人に迷惑をかけることと、人に頼ることは違う」(大地)
    ・今まで正しいと思ってきた価値観を、人を容易に覆すことはできない。
    ・「少年院という響きだけで、重大な罪を犯した少年を収容する施設だと思う人は多いけれど、そうじゃない。本来、少年院は罪を犯した少年が更生できるように、保護する場所なの」(真鍋)
    ・「付きまとい行為を受けたときの恐ろしさは、男性と女性では種類が違うわ。被害者が男性の場合は、自分の家庭や社会的地位を失うことに恐れを感じる場合が多いみたいだけれど、女性は命を狙われるという恐怖を抱く人がほとんどなの。いつ襲われるかわからない恐怖から、外に出られなくなったり、精神的ストレスで日常生活に支障をきたす人もいる。私たちは、その人たちの恐怖をもっと認識しなければいけないと思う」(美由紀)
    ・「人間は機械じゃない。完璧な人間なんていないよ。その人間の欠けている部分を認めるところから、相手への理解がはじまるんじゃないかなあ」(大地)
    ・「担当することになった事案を、世間一般と同じ見方しかできないんじゃ家裁調査官としては失格ね」(露木)
    ・「モラハラの加害者は、外ではいい人を演じるんです。他人の目を異常に気にするんですよ」
    (内藤医師)
    ・「暴力の痕が残るDVなどの被害と違って、モラハラは目には見えない。しかも、夫婦間となると、家庭という密室で行われているから証人もいない」( 〃 )
    ・「モラハラの加害者を、自己愛性パーソナリティ障害と言っています。一見、人当たりが良く、自信家のように見えるけれども、心の底には強い劣等感を抱えています。非常に脆い自尊心を、身近な弱者を見下すことで、なんとか維持しているんです」( 〃 )
    ・「子供は年齢に関係なく、大人が想っている以上に親のことを考えているものよ。だけど、大きくなるにつれて、子供の心も複雑になってきて、本音を引き出すことが難しくなるの」(露木)
    ・「子供にとっては、本当の親も嘘の親もない。自分を愛してくれる存在が親なのだ。子供がこの世に生まれる前の親の事情など、本人には関係ない。大人の事情など、親の身勝手でしかないのだ。

  • 大地さんに感情移入してしまい、時にはしんどかったですが、成長する喜びも味わうことができました。

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著者プロフィール

1968年岩手県生まれ。2008年「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。同作は白石和彌監督により、18年に役所広司主演で映画化された。18年『盤上の向日葵』で〈2018年本屋大賞〉2位となる。他の著作に『検事の信義』『月下のサクラ』『ミカエルの鼓動』『チョウセンアサガオ咲く夏』など。近著は『教誨』。

「2023年 『合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

柚月裕子の作品

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