木になった亜沙 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 806
感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167920227

感想・レビュー・書評

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  • 不思議な。でも嫌いじゃない感覚。42ページでここまで深みのある濃厚な物語を作れる今村夏子さんがすごいと思う。
    本が苦手〜!と言う方にはおすすめできないかもしれない。なぜなら、内容が不思議すぎるから。物語がタイトルのまんまでいろんなことを考えてしまうから初心者向けでは無いと思う。
    そんな意味で星4ですね。それでも私は面白いと感じたので、読んでみてはどうでしょう?

    ※あくまでゆーかりの感想です。

  • あらすじだけ聞くと随分変わっている主人公たちだと思うのに、読んでみるとなんとなくなんで彼らがそうしたのか、そう思ったのかわかる気がしてしまう不思議なお話を3つ+ショートエッセイが収録されています。



    『木になった亜沙』
    主人公は「自分の手から誰かに何かを食べてもらえない」経験がとても多くあります。
    例えば飼い犬やクラスで飼っている金魚や、給食当番でよそった皿や、食べたいと言われて差し出したお寿司を死ぬ間際の母親についに食べてもらえません。

    食べてもらえない描写の羅列がすごくしんどかったです。なぜなのか自分だけ周りと違う反応をされることってありますよね。私はペットカフェなどで友達の周りには動物が沢山寄ってくるのに自分のところには全然こないとか‥。
    そういう一瞬の出来事だから次の日には忘れているけど、またその瞬間に出会う時にはあーあまた自分だけかぁって募っていく寂しさを凝縮されているようでした。

    「ゴミ屋敷」になぜなるのか、人の数だけ理由があるのだとは思いますがこんな経緯もあるのかもしれないと切なくなりました。

    「逆です、きみの手は、きれいすぎる。」



    『的になった七未』
    こちらの主人公はドッジボールやどんぐり投げなどことごとく「投げられる」状況によく当たり、けれど周りの子が次々物を当てられていっても最後の最後まで自分だけは当てられない子です。そして当たれば終わることに気づき、当たりたいという願望が強くなります。 

    ラストの余韻がなかなか抜けきりません。
    ハッピーエンドなのかそうでないのか、でも七未は望み続けた「当たる」ことはできたのが救いかもしれません。



    『ある夜の思い出』
    こちらの主人公はしばらく無気力な時期があり、その頃は家から出ず、かつ立つのすら億劫で匍匐前進をよくしていました。そしてある日、自分と同じく匍匐前進している男の人に出逢います。

    本作のみラストで主人公が急激に「普通」になります。現在は子供もいるし〜パートもしているし〜と、匍匐前進の過去なんて聞いてみないと決して想像できなさそうなくらいの暮らしっぷりをしています。
    主人公は当時のことを思いつつも「外で働くことは、わたしが思っていたよりもずっと楽しかった。」としています。
    私には匍匐前進するほど気怠げ、という経験はありません。けれど、ただ「そういう状況」の時期が誰の人生にもあるのではないかと感じました。
    辛いのか、だとすれば何に追い詰められているのか、別に意味はないけど習慣になっているのか、理由なんてあってないのかもしれません。
    それでもそうなるしかなかった時期があって、それを経て拍子抜けするほど社会に自然に馴染んでいけることが私のこれからの人生でもきっと起こる気がしました。
    ずっと誰にも言ってこなかったとある白昼夢のような体験を、打ち明けられたような読後でした。

  • 今村夏子さんの発売されている本は全て読んだのですが、本作は特に物語の設定や話の展開・結末が分かりやすく読みやすかった。
    『木になった亜沙』と『的になった七未』が特に衝撃を受けた。解説にも書いてあったが、ファンタジーのような設定だけれど、現実や社会に根付いたメッセージ性があって考えさせられる。
    『的になった七未』は同じ母親の立場から読むと胸が痛く何度か号泣してしまった。2作とも結末は傍から見るとバッドエンドのように見えるかもしれないが、主人公個人にとっては救済された形だったのではないかと感じている。

    これで今村夏子さんの本を全て読了してしまったことが、嬉しくも寂しい。。(;_;)

  •  三遍の小説とその他エッセイ等等。辞書には載っていない、けれど確かに在る理不尽、不愉快、もやもやする感じ、そういうのを上手いこと言語化してくれる。文芸はこうでなければ。

  • 自分の手渡したものを誰にも食べてもらえない亜沙

    的になっても決して誰からも当てられない七未

    たった一つのことだけなのに、こんなにも人生が孤独になっていくなんて…。

    わりばしになった亜沙は喜々と々としていて、若い男性もそれに応えるかのように気持ちよく食べていて、亜沙よかったね…と思いました。

    「ある夜の思い出」の、真由美にプロポーズした腹ばいの男性はなぜ人間に飼われていたのか?

    読み終わっても、頭の中から?がなくならず、不思議な世界に迷い込んだ気分。

  • ずっと読みたかったやつ。文庫化されて嬉しい。

    すごく不思議な気持ち。
    人の夢、いや、自分の夢を、文章化されて、それをのぞいてる、みたいな感覚。淡々と進む日常の話が、いつのまにか、あれれ?ってなってる。これは現実?夢?って思いながら読んでる。でもなんか昔自分が夢見てる時ってこんな感じだよなあ、って、現実と夢の境界線がわからなくなる感覚に近い。
    徹底して日常のように、淡々と、お話が進んでいくから、こっちも混乱しながらも淡々と読み進める。絶対おかしいのに、読んでるこっちは受け入れてる。この感覚が夢に似てる。

    木になった亜沙
    プチホラーやろこれ。意味がわからないというか不思議な、世にも奇妙な話。自分の手からモノをとってもらえない亜沙が最後は割り箸になって、仲間たちと共に、持ち主と共に燃える。

    的になった七未
    当ててくれない、七未の半生。どうなるのかと思ったらほんとに的になった。この七未が的になったあたりがほんとに夢みたいだった。え、人だよね?ん?的??みたいな。

    ある夜の思い出
    立つのがめんどくさくなって腹這いでズリズリ動く人間の話。これなんかの比喩ですか?おもしろかったけど本当に意味がわからないというか不思議?

    ボーナスエッセイ
    (バイキング・日記とエッセイ・日記)
    今村夏子のエッセイ初めて読んだ。これそういう風の作品じゃなくてエッセイですよねほんとに
    最初のバイキングはフィクション?日記がめっちゃ良かった。今村夏子、難儀そう。笑 てか結婚して子供いるんだ。日記が、事実を淡々と書いてたりめっちゃネガティブだったり急に謝ってきたり、楽しい。

  • 作者さんにはおおきく分けて2つのパターンがあって、1つは事前に物語の設計図をえがいてから文章に落とし込むタイプ。もう1つは設計図なんかかかずにいきなりかきだすタイプで、今村夏子さんはおそらく後者。

    というか、あとがきとかを読む限り、ある程度流れを決めてたのにいつの間にか全然違う物語になってしまうのだそう。だからこそ、本作のように奇想天外な物語がかけるのだと思う。

    今村さんの物語は奇抜で面白い。しかしその分アタリハズレもけっこう大きいかなという印象。
    例えば代表作「ピクニック」だったら、人間の秘められた悪意なんかが上手に、それもさりげなくかかれていて「すごいなあ」と思ったのだけど、本作はけっきょく何がいいたいのか正直分からなかった。笑

    ギャグなのか真面目なのかよくわからない描写もあって結構楽しんで読めたのは間違いないけれど、自分にはあまり刺さらなかった。

    というわけで☆2つ。

  • 単行本を持っていたが、文庫本も購入。

    読むのは2度目、いや、3度目だが、

    3度目にして気づいた。

    今までは今村夏子さんが創り上げる世界観が好きなんだと思っていたが、
    この度の文庫本を読み、私は今村夏子さんという人物が好きなんだと、魅了されているんだと。

    ご本人に会ったこともないのになぜそう思ったかというと、文庫本に収録されている今村夏子さんの日記を読んだからだ。
    やらないといけないことができない。
    普通人はそれを隠してしまう。できない自分を認めたくないから。
    だが、そんな自分を認め、苦しみをも読者に届けてくれる強さに心底惹かれてしまった。

    後書きで村田沙耶香さんが仰っているように、
    文庫本として「木になった亜沙」がこの世界に生まれてくれたことに感謝し、私の手、目、心、日常の一部になってくれたことに感謝します。

  • 久々に読書
    読みやすいけど本ならではの内容で、読書の楽しさを久々に獲得
    どっかのタイミングではるちゃんに返却せねば

  • 若者の部屋で暮らす亜沙の仲間たちの一員になれたらすごく居心地がいいのだろうな。その人の生前の絶望や希望が形になるとしたら、私はどんな姿になるんだろう。

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著者プロフィール

1980年広島県生まれ。2010年『あたらしい娘』で「太宰治賞」を受賞。『こちらあみ子』と改題し、同作と新作中短編「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』で、11年に「三島由紀夫賞」受賞する。17年『あひる』で「河合隼雄物語賞」、『星の子』で「野間文芸新人賞」、19年『むらさきのスカートの女』で「芥川賞」を受賞する。

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