- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784270103357
作品紹介・あらすじ
名門ヴァインフェルト家の末裔アドリアンは絵画の鑑定家として働く一方、芸術家に資金を援助するパトロン役も果たす温和な人物だった。だが、奔放な女性ロレーナと出会って平穏な暮らしにさざ波が立ち始めたのと同じ頃、金に窮した老コレクターからヴァロットン作の名画をオークションにかけたいという申し出があった。アドリアンは引き受けたが、その依頼には彼を窮地に追い込む罠が仕掛けられていた!美術界の内幕を題材にした心理スリラーの傑作。
感想・レビュー・書評
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ランダムハウス講談社文庫のマルティン・ズーター作『絵画鑑定家』読了。
心理スリラーではなく、恋愛サスペンスと言うか、男性も読めるハーレクインと言う感じ。
初老の優しい富豪画商と三十路半ばの売れないモデルとの歳の差恋愛譚にヴァロットンの贋作話が絡む。
スイス、ナビ派、サスペンスの三題噺。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
近年、評価が高まっているフェリックス・ヴァロットンの描いた絵画『暖炉の前の女』の贋作を巡る小説。犯罪小説かと思って読んだら、親子ほど年の離れた男女の恋愛ストーリーだった。
由緒正しき資産家で、若い芸術家たちのパトロンでもある美術鑑定家が、ふとしたことから奔放な女性と出会い、彼女を思うあまり、知らず知らず犯罪に巻き込まれそうになる。
熟年の恋と、贋作で一攫千金を狙う者たちの話がからみ合う。大きな事件も起きず、クライマックスのはずのオークションシーンも派手さはなく、ラストまで静かな余韻を残す。美術の愛好家のみが知る喜びに一瞬でも触れることができる作品。
※たまたま東京で開催されていた『ヴァロットン展』に行って画家に興味がわき、作中にヴァロットンの作品が登場すると知って読んでみた。 -
良くも悪くもヨーロッパ映画のよう。ハリウッド的なハラハラ展開は望むべくもなく。個性は際立つものの、人物の魅力は薄いかな。いい題材なのに地味。いつ盛り上がるのかと思ってるうちに終わり。
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主人公は貴族の末裔。多分働かなくても十分食べていけるのでしょう。生い立ち上身に付いた審美眼を元に、画商という仕事をしています。表立っては言わないけれど、若い芸術家のパトロンもしています。会合に顔をだして食事代を出したり、取材旅行にいくとなれば資金をポイと出したり。
若者たちがそういうことに決まり悪い思いをしているのがわかるから、まったく頓着していないふりまでします。実際主人公には痛くも痒くもない額ですから。
そんな彼の元に持ち込まれた一枚の「ヴァロットン」。これを競売に掛けてほしいという依頼。さらには裏がありそうな女優かぶれの美女。彼には親密な思い出のある一枚なのですが、どうやら秘密がありそうで…。
所謂名画と、贋作。その違いは何か?という問答に心引かれました。どこまでが模写か。模写が原作を越えることはあり得ないのか?その場合贋作者もまた天才と言えるのではないか…?
元はただ絵に見とれるしかできなかったくせにだんだんと画家の名前や時代に興味を持つようになってしまった今、改めて自分の感じる「絵画のよさ」はどこにあるのか、考えさせられる一冊になりました。 -
アドリアンは名門ヴァインフェルト家の末裔として生まれ、絵画競売会社で鑑定家として働いている。
絵が生家にたくさんあったからゆえにスイス絵画の専門家となった。
働くことに経済的な意味はない。だが規則的な生活には職業は必要だ。
身につけるものは全て父親の代からの仕立て屋による高級オーダーメイド。
世界に一人きりになってもディナーの前にはシャワーを浴び、ディナージャケットに着替えるだろう。サマセット・モームの世界をこよなく愛している。
育ちのよい温和なアドリアンは非常に地味な(それでも庶民の虚栄心を満たすには充分な)生活をしているが、ある女の登場で彼の生活にさざ波が立つ。
その女ロレーナは30代後半のモデル上がりのいわば「すれっからし」。
昔の恋人に似ているとはいえ、アドリアンがなぜ、このロレーヌにここまで惹かれるのかはちょっと首を傾げてしまうところもあるのだが、男女の関係というものは意外とそんなものなのかもれない。
ロレーナはそばかすが散る赤毛で細身の女で、いうなればアイルランド的な容姿なのだろうが、その描写がなんとも絵画的だ。
小説にはヴァロットンの『暖炉の前の女』がストーリーの中心として登場するが、その容姿はなぜだかロレーナを想像させる。絵の女はかなりたっぷりとした下半身の女なのだが。
作品紹介にはサイコスリラーとあるが、ミステリーというよりは個人的にはちょっと風変わりで洒落た恋愛小説という感じ。
サイコスリラーというフレーズは完全に忘れたほうがよいと思う。
物語前半はとくに、アドリアンのような人々のライフタイルがどのようなものなのかを描いた、そこだけに集中している。
超リッチなアドリアンのような特権階級の人々の生活に興味がある人にはたまらない小説だと思う。 -
絵画と贋作と中年の恋──この三点だけしか出てこない。よってミステリ要素はゼロ。あらすじには“心理スリラー”と表現されているが、それにしたってかなり苦しい解釈だと思う。
浮世離れした資産家の主人公、お金に執着する奔放な女性、名画の贋作、こういう舞台が整っているにも関わらず、平坦な展開で済ませているのがある意味スゴイかも。なにも起こらないから終盤に向けて期待感は高まっていく。しかもストレスを含んでいるので、そのボルテージたるや結構なもの。決着のつけ方も手緩いため、部分部分で評価しない方がいいのかな。でもトータルで見ても面白い小説とは言い難い。