巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)
- 河出書房新社 (2008年4月11日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (607ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309709451
感想・レビュー・書評
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ある春の日の夕暮れ、悪魔とその一行がモスクワに降り立った。はたしてその予言の通り、作家協会議長の首は飛び、街は奇々怪々の事件に巻き込まれていく。しかしてその混沌は、悪魔にもたらされたというよりも、すでにあった混乱を鏡に映しているかのようである。やがて、すべての痕跡が炎に包まれるとき、灰の中から巨匠の未完の大作が蘇る。大いなる救済が、神でも天使でもなく、悪魔とその傀儡たちによって紡がれる。往年、ついに報われることなかった著者の<私怨>にじむ渾身の一作。
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1973年にこんなに面白い小説がソ連で書かれていたとは!
炎暑の空気中から忽然とあらわれた奇妙な外国人は、キリストを処刑したポンペイウス・ピラトゥスの様子を、まるでその場にいたかのように語ってきかせ、神の不在を証明しようとする編集者が「女に首を切断されて殺される」ことを予言してみせる・・・
この奇怪な事件を皮切りに、モスクワに出現した悪魔たちの一味が繰り広げる滑稽でグロテスクで恐怖に満ちたいくつもの騒動は、まだ序幕にすぎない。ポンペイウス・ピラトゥスの物語を出版しようとしてモスクワの文学界に叩きのめされた「巨匠」を救うため、すすんで悪魔に魂をささげるマリガリータの冒険が、この物語のクライマックスだ。魔女に変身したマルガリータが、悪魔ヴォランドに心をひらき、男を誘惑し、欲望のままに暴力をふるう存在でありながら、なお同時に誇り高く思慮深く、愛のために危険をおかす勇敢な女性として描かれていることは非常に興味深い。より凶暴で欲望に忠実なベアトリーチェのよう。
この本筋だけでもページを繰る手が止まらないほど面白いのに、並行して語られるピラトゥスの物語は、さらにすばらしい。自分が手を下したキリスト(ヨシュア)との魂の交流を追い求める孤独な提督の物語を読み進めるうちに、冒頭で悪魔の全能を証明するために語られた古代のエピソードが、実は「巨匠」の小説であったことが明らかになる。だとすれば、全能の権力をふるっているのは、悪魔なのか、小説家なのか?
悪夢のようなスラップスティックの中から、物語のもつ力に対する著者のゆるぎない信頼がたちあがってくる、驚くべき小説。ブルガーコフは「巨匠」と同様、不遇のまま世を去ったという。 -
220830*読了
文学としての面白さを思う存分味わえる一冊。
「巨匠とマルガリータ」というタイトルだけれど、物語を通して暴れまわるのは悪魔たち。
それなのに「悪魔」を絡めたタイトルにしないところがまた秀逸。
悪魔が平然と登場し、悪魔に翻弄されるたくさんの人々が滑稽。悪魔とは一体何なのか?
そして、間に挟まれるポンティウス・ピラトゥスの物語。よく分からない。でも、それがたまらなくおもしろいし、私を夢中にさせる。
理解しがたい、でもおもしろい、それが文学の魅力だと思います。 -
ザ・ローリング・ストーンズの悪魔を憐れむ歌の元ネタだと知り読みました。長かったですが面白かったです。悪魔がモスクワを蹂躙してます。いろんな事件が起こるので、途中何の話だろうと不思議に思うこともありましたが、終わりは感動的でした。モスクワの街と巨匠の原稿の噛み合わせがとても良かったです。悪魔は憎いですが、可愛いと思っちゃいました。巨匠の原稿大事ですね。
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巨匠とマルガリータ (世界文学全集 1-5) (世界文学全集 1-5) (世界文学全集 1-5)
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あれー、期待外れ・・・。細切れで読まざるを得なかったせいか。最初のつかみが残酷系でニガテなんでひいたってのもあるが、次々に起こる不思議な出来事にいまいちのれず。悪魔チームは面白いんだけど。まあでも最後まで読み続けられたから、そこそこ面白かったのかもしれないが・・・
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別訳で既読であったが、つっかえつっかえ読んだ記憶が嘘のように水野訳はサクサク読めた。水野氏自身による解説や池澤氏の月報にある通り、スターリン政権下のソ連を慮り反体制小説として読むのも一興だが、そんな複雑に思考を絡ませなくとも上質のエンターテインメントとして存分に楽しめる。怪しく放縦な悪魔らの奇想天外さ、天衣無縫のマルガリータの真っ直ぐな振る舞いにずんずん引き込まれ、スカッと爽快感すら覚えた。これを元ネタに作られたストーンズの『悪魔を憐れむ歌』を口ずさみ最早自分も悪魔の仲間入り気分。とにかくチャーミング、面白かった!