街場のメディア論 (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334035778

感想・レビュー・書評

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  • キャリア教育について
    現在の支配的な教育観は、「自分ひとりのため」に努力する人間のほうが、競争的環境では勝ち抜くチャンスが高い。しかし人間が才能を開花させるのは「他人のため」に働くとき。自分のしたいことや適性はどうでもよくて、任された仕事に対して「私がやるしかない」という状況が人間の覚醒を導く。自分が果たすべき仕事を見出すのは、本質的に受動的に経験によるものだ。

    メディアについて
    昨今のメディアの劣化について様々な角度から論じている。メディア独自の個性的でかつ射程のひろい見識に触れて、一気に世界の見通しが良くなった、というようなことを筆者は久しく経験していない。それが無理ならせめて、複雑な事象を複雑なまま提示するというくらいの気概はしめしてもよいのではないか。

    メディアの危機に際会して
    資本主義社会の商品とサービスが行き交う市場経済の中で、「なんだかわからないもの」の価値と有用性を先駆的に感知する感受性はすり減っていく。どのような「わけのわからない状況」も、そこから最大限の価値を引き出そうとする人間的努力が必要であり、今遭遇している事態を「自分宛ての贈り物」として好奇心を持って迎入れる人間だけが危機を生き延びることができる。

  • 読むに足る信頼をおける作家のおひとり。目から鱗、耳が痛い話が多い。、

  • ・信仰の基礎は、「世界を創造してくれて、ありがとう」という言葉に尽きるからです。自分が現にここにあること、自分の前に他者たちがいて、世界が拡がっていることを、「当然の事」ではなく「絶対的他者からの贈り物」だと考えて、それに対する感謝の言葉から今日一日の営みを始めること、それが信仰ということの実質だと僕は思います。

    ・人間を人間たらしめる根本的な能力、それは「贈与を受けたと思いなす」能力です。…「これは私宛ての贈り物だろうか?」と自問し、反対給付義務を覚えるような人間を作り出すこと、それはほとんど「類的な義務」だろうと思います。

    ・書棚は僕たちの「あらまほしき知的・美的生活」を図象的に表象するものたりうるわけです。書棚は僕たちの「理想我」である、というのはそういう意味です。

  • 内田樹の考え方すごいなぁって感じ
    武道やってるから思いつくのかな

    根本に相手との対話でしかなりたたん、相手がいるから成り立つみたいな話。

    他人をみーんな先生にして、自分より偉いから、なんでも吸収したろ!的な

    俺宛ではなくても俺宛なんだと勘違いする能力。
    責任はぜーんぶ自分が持ってて、色んな人が俺にプレゼントくれてる。

    みんなもらって大事にしてこう
    人によくわからんものを、自分にしか言えないであろうことをプレゼントして行こう

  • 【気になった場所】

    メディアの不調=視聴者の知性の不調

    仕事と適性の順番
    ◯仕事を通して自分の適性を見つける
    ×自分の適性に合った仕事を探す
    →能力は開発するもの

    人間の才能を開花させるのは、他人のために働くとき

    情報を評価する最優先の基準
    →その情報を得ることで世界の成り立ちについて理解が深まるかどうか

    各メディアの不調の原因
    ・テレビ→ジャーナリストの知的な劣化
    ・新聞→テレビの不調を指摘できない点

    ジャーナリストの知的な劣化の背景
    →なぜ弱者の味方をするかを自問してない
    →その思考停止が知的な劣化を招く

    テレビのシステムにも欠陥がある
    →ミスをしないことを優先し、何を放送するかは二の次になる結果、番組のクオリティが下がる

    ラジオは番組の制作コストが低い
    →挑戦的な番組を作っていける

    新聞は今のテレビメディアを批判すべき?
    ・言論の自由と営業妨害の観点でしていない
    ・強い影響力を持つテレビに対し、その構造の利点と欠点について言及すべき

    出版業界も思考停止している
    →出版業界の伸び悩みを、本を読みたい人が減っている、という外的要因だと思っている

    例)
    入学試験の現代文に採用されやすい要素
    →切り貼りしても著作権者から文句が出ないこと

    著作物は商品ではない
    →書き手から読み手への贈り物
    →贈与に対する感謝の気持ちが印税であり、貨幣を用いているだけ

  • 前半の「自分の特性から適職を探すのではなく、仕事が必要な能力を求めてくる」という趣旨の職業論に関しては蒙を啓かれる思いがしました。それでも、やりたい仕事と今の仕事の乖離で悩んでいる一新人社員としては、納得はしたくはないというのが正直な心境です。中盤以降の大衆論・メディア論については大体首肯できます。そして、紙媒体の書籍と本棚について述べられた章は本書の白眉。本棚は持ち主の理想我であり思想であるという論は、同じことを考えて学生時分に「友達の本棚めぐり」をやっていたために読むのが面白くて仕方なかった(笑)。

  • メディアが直面している問題と、今後のメディアのあり方について論じた本です。

    著者は、メディアが「無垢」を標榜することと、単純な善悪二元論に陥っていることを、メディアの危機の兆しと見ています。その上で、メディアを通じて自分の無垢や未熟を言い立てることで責任を回避しようとする戦略が広く世間に広まっていることに危機感を募らせます。

    さらに著者は、こうした観点から、クレーマー問題や著作権問題などに切り込んでいきます。とくに著作権問題については、書籍は商品ではなく、出版は商取引ではないという考え方を、単なる理想論ではなく原理的な次元に立ち返って解き明かしており、目から鱗が落ちるような思いをしました。

    本棚はその人が「どんな人間であると思われたがっているか」を示すものだという指摘も、非常におもしろいと感じました。もっとも、ブクログ上の私の本棚について言えば、とても人に見てもらいたいようななものにはなっていないのですが。

  • 神戸女学院大学での講義に基づいたものだが、ここでも、筆者は学生たちに鮮やかな知のパラダイムシフトを示して見せる。タイトルはメディア論だが、内容的には教育論から社会のしくみにまで及ぶ。これを読んでいると、筆者の内田樹はあたかも屈原の「衆人皆酔我独醒」のごとくだ。例えば、冒頭のキャリア教育論にしても、世を挙げて「キャリアだ。適性だ」と騒いでいる中で、そんなものは結婚みたいなもので、後から要請されて身に付くものだから必要ないのだと喝破する。たしかに彼の言うように、子どももいないのに父性に燃える男は不気味だ。

  • 時代が変わりメディアの存在意義が変わりつつある。
    へぇ〜という部分が多かった1冊だ。

  •  前半のマスコミ論が非常に参考になった。今までよくわからなかった、あるいは考えようとしもしていなかったことに、一定の解を与えてもらったような気分。ミドルウェアという思想、後半の贈り物の記事など、なるほどなぁとしみじみ感じ入った次第。己が思考力のなさを徹底的にフォローしてくれる著者に「ありがとうございます」と述べるところ。書物は商品ではない、というあたりはまさに内田氏ならではの発想で、すかっとしたり、うん?と悩んでみたり、と楽しめる内容でもあった。
    2回目:
     復習しました。他者のために働くとき、才能は開花する、に絶句。1回目でスルーしていたことにも驚く。これが自分にとって至言。うーむ。

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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