ヘンな日本美術史

著者 :
  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396614379

感想・レビュー・書評

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  • 日本の美術史について、あまりに何も知らなくて、何か一冊読みたいなとずっと思っていた。
    本屋で見つけ、文章にひかれて、入門編にするつもりで手に取った。
    だが、これは私見の入った偏りまくりの美術史だからまじめにとらないようにとの注意書きが最初になされている。
    教科書のような、中立な表現が並んだ書き方でなおかつ面白いというのは至難の業だと思う。書いた人の感情や、思い入れが見えるから興味をそそられるのだ。ただでさえ知らない知識ばかりが並んだものを読もうというのだから。

    その意味で、一番最初の状態で読むものとして私には大正解の一冊だった。
    著者が実際に絵を描く人ということも、大きな長所。描きながらでしかわからない、その人の体感で得た基準による「絵の良し悪し」は、説得力がある。なるほど、これはおもしろい絵だ、とこちらもなんとなく実感できたような気になる。その分野の人にしかわからない世界を素人読者にも感覚として見せてくれる、これは著者の文章力のおかげも多分にある。

    私が大好きなのは、「一人オールジャパンの巨人」河鍋暁斎について書いたところ。

    「私の趣味で言えば、書画会図のちょっとトボけた線や絵日記の気取らぬ線に『好いなぁ、好いなぁ』となりますし、暁斎得意の蛙たちを描いたものには、形象と線の妙味に『美味しい!可愛い!格好いい!』と何に対しての感想だか解らないような感懐を抱きます。」

    ああもう、この人は本当に心底絵が好きなんだ、と思えるのだ。蛙たちは見えないのだが、こっちまで楽しくなってくる。
    「美味しい」という感想、私は「この人の書く文章がたまらなく好き」という作家を読む時によく思う。まさに文章を味わって、楽しんで、ああ美味しい、と満足する。そういう感懐を絵に対しても感じられるようになったら、本当に絵を楽しめているということだろうし、「これが自分の好きな絵」というのもわかるようになるのだろう。
    いろんな絵を見て、「この人の絵はなんでか好き」というものを見つけるところからやってみたい。

    視点が偏っていたっていいと思う。
    これから他の本も読んで平らかにしていければいい。
    少なくとも、「もっと他の本も読んでみたい」という最初の取っ掛かりを確実に作ってもらったと思う。

  • うーん、これは面白い! 山口氏は謙遜して「ヘンな」とつけているけれど、私はまじめな日本美術史として読んだ。こういう「絵の見方」を今まで誰も教えてくれなかったと思う。

    「わざとふにゃっと描くと云うか、ちょろまかすと云うか、仕上げすぎないのは日本の絵の特徴です」「別に技能を軽んじているわけではないのですけれども、むしろそれに宿るものみたいなほうに重きを置いていると言えましょうか」

    こんな感じで、鳥獣戯画に始まり、白描画、源頼朝像、洛中洛外図屏風などなどについて、新鮮な視点から語ってくれる。絵の具の質感や重なり具合についてしばしば言及されていて、画家ならではだなあと思う。西洋の絵と日本画の違いがちょっとわかったような気がした。

    美術史にとどまらず、日本文化についての鋭い考察も随所にある。むしろ、それこそが読みどころかもしれない。日本文化は模倣の文化だと言うけれど、源流を探ることにそれほど意味はなく(そもそもすべての文化は模倣の産物なわけで)「育てていったことの方が大事と申しますか、その育む行為自体が文化と云うものの実体であるような気がします」というくだりには納得。

    「最初は他所から持ってきた物であっても、こねくり回している内に何か違う物を生み出す力であり、その『こねくりポイント』を見つけ出す力こそが評価されるべき点だと思うのです」

    全体に柔らかい語り口で、こけおどし感が全くないところが好感度大。いいなあ、山口晃。

  • ちょっと難解。日本画ってあまりなじみがないし
    江戸時代以前の日本画は見ていて面白い部分はありますが
    近代の日本画ってどこか陰鬱で、違和感のある絵が多い
    感じがしています。
    その辺を解説しているところもあるので、そこは
    興味を引いて読めました。

  • 絵描きの視点で読む・見る・感じるが出来そうですね。

    祥伝社のPR
    「山口晃、初の書き下ろし「画論」!
    自分が描いたということにこだわらなかった「鳥獣戯画」の作者たち。絹本に白色を差すまでの絵師の心細さ。「伝源頼朝像」を見たときのがっかり感の理由。終生「こけつまろびつ」の破綻ぶりで疾走した雪舟のすごさ。グーグルマップに負けない「洛中洛外図」の空間性。「彦根屏風」など、デッサンなんかクソくらえと云わんばかりのヘンな絵の数々。そして月岡芳年や川村清雄ら、西洋的写実を知ってしまった
    時代の日本人絵師たちの苦悩と試行錯誤……。
    絵描きの視点だからこそ見えてきた、まったく新しい日本美術史!
    カラー図版多数掲載 」

    • kuroayameさん
      鳥獣戯画ファンとして、レビューを拝見させていただきわくわくしましたd(^_^o)。
      鳥獣戯画ファンとして、レビューを拝見させていただきわくわくしましたd(^_^o)。
      2012/11/02
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      美術館「えき」KYOTOで、「平等院養林庵書院 襖絵奉納記念 山口 晃展~山口晃と申します 老若男女ご覧あれ~」開催中なので、覗きに行きたい...
      美術館「えき」KYOTOで、「平等院養林庵書院 襖絵奉納記念 山口 晃展~山口晃と申します 老若男女ご覧あれ~」開催中なので、覗きに行きたいと思っています。
      「鳥獣戯画」は私も好き、マンガの元祖としての貫禄大ですよね!
      2012/11/06
  • だいぶ以前に読んだ、日本画家山口晃の美術論。
    小林秀雄賞受賞作と言うことで、昨年末の小林秀雄記念講演に際して読み返した。

    改めて読んでみると、その受賞理由がわかる気がする。
    「日本画は立体感がないのではなく、むしろ文化的に奥行に敏感だった」と言う辺り批評家好みというか、なるほどと思わせる。
    映画監督のアンドレイ・タルコフスキーが、逆遠近法に興味を示しているのと、近く感じるものがある。

    美術論に絡めて所々に自身の思想上の主張を散りばめている点が、ただならぬ画家と思うと同時に、散文に傾倒しすぎることなく、芸術に浸った画家のままであってほしいと願う。
    昨年の個展も素晴らしかった。

  • ホックニーの本を読んだときも思ったが、画家の書いた美術史は「なにを描いたか」「どうしてそれを描いたか」よりも「どうやって描いたか」に主眼があっておもしろい。

    自転車に乗れるようになると「自転車に乗れない」ということができなくなる。乗れないように振舞っても不自然である。ということが遠近法の取得にも言える、という話がおもしろかった。

    紹介される作品は「画面が崩壊してしまう」「変にうまく描いてかえってつまらない」という失敗を巧みに避けている、と解説される。失敗例もあればもっとこの感覚に迫れたと思うが、それは画家のポリシーがゆるさないのだろう。

  • 2023/1/5

  • ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB10709139

  • ◎信州大学附属図書館OPACのリンクはこちら:
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB10709139

  • ヘンなと言いつつ、そこまでいわゆる正統かれ離れた感じはせず、軽妙な語り口で、絵描きとしての視点も踏まえての解説で面白い。正確な描写に進んでいった西洋絵画との見方の違いみたいなものがなんとなくわかった。
    鳥獣戯画が4巻あって甲乙丙丁それぞれの個性があること、白描画絵巻が画面の外の視点を獲得していること、一遍聖絵と絹本、伝源頼朝像と見ることとイメージすることや絵を見る場や照明について、日本文化の模倣とオリジナリティのバランス、この時代で当たり前だった展開図にならなかった雪舟の天橋立、3種類の洛中洛外図屏風、切り貼りの六道絵、西洋のモノマネと新たに整理された日本美術という概念。

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著者プロフィール

1969年東京都生まれ。群馬県桐生市育ち。東京藝術大学大学院修士課程修了。大和絵や浮世絵の様式を織り交ぜながら、現代の景観や人物を緻密に描きこむ画風で知られる。平等院養林庵書院に襖絵を奉納。新聞小説の挿絵やパブリックアートなど、幅広く活躍している。著書に『すずしろ日記』『山口晃 大画面作品集』『ヘンな日本美術史』など。

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