コーヒーと恋愛 (ちくま文庫 し 39-1)

著者 :
  • 筑摩書房
3.48
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本棚登録 : 2098
感想 : 210
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480430496

感想・レビュー・書評

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  • 昭和の作品でその時代を色濃く感じる作品なのだけど、男女のあれこれというのはいつの時代もそんなに変わらないのだなぁと思わされる内容のユーモア小説だった。

    美人ではないけれど大衆の人気を得ている女優の坂井モエ子。43歳の彼女は、8歳下の演劇作家のベンちゃんと事実婚をしていて一緒に暮らしている。
    2人の暮らしは稼ぎが多いモエ子が支えていたのだが、ある日ベンちゃんは「生活革命」と称して彼より16歳下の新進女優のアンナの元へと出奔してしまう。

    物語の真ん中に「珈琲」がある。モエ子は珈琲を淹れる才能にものすごく長けていて、夫のベンちゃんだけではなく、「可否会」という珈琲好きの集まりの会長である菅氏もモエ子の淹れる珈琲に心酔しきっている。
    だけどモエ子にとっては朝飯前のことなのでとくに強いこだわりがあるわけではなく、だけど周りの男たちにとっては強く惹かれる才能なのだ。

    モエ子とベンちゃん、モエ子と菅氏、ベンちゃんとアンナ、そしてモエ子とアンナ。
    色んな組み合わせのあれこれで構成されていて、それぞれの想いが少しずつすれ違っているところに可笑みを感じる。
    ベンちゃんずるいなぁ!でもこういうダメ男ってどんな時代にもいてそれなりにモテるのよね…(思想だけは一人前だから…)などと思ったりした。

    モエ子はいわゆる大衆女優で、正統派美人ではないけれどその親しみやすさからCMにも抜擢されるほどの人気がある。
    女性は結婚したら家庭に入るものとされていた時代において、バリバリ働く女性のさきがけ的なものを描いた物語のように思えた。
    愛する男から1人の女性として見て欲しい気持ちはあっても、きっとモエ子は男なんて蹴散らして強く生きていける女性なのだ。あっぱれでとても格好良い。

    新聞小説だったらしい作品。獅子文六のことは今まで知らなかったけれど、とても面白い作品だった。
    曽我部恵一の解説もとても良かった。この本を読んで「珈琲と恋愛」という曲を作ってしまったとか。

  • ‪去年の4月から読み始めてようやくです読了。

    ‪勉君、菅さんが愛したのはモエ子さんの技量で彼女自身でないのがチョッピリ寂しい。

    勉君が生活革命と称してアンナと家を出てしまい、帰宅してそれを知ったモエ子さんのつく悪態。それまで読んで作り上げたイメージがいっぺんに壊された。人の内面を露発させたという意味でとてもいいシーンだった。

    ‪勉君、菅さんを袖にして強く生きることを決意し洋行へいくモエ子さん。‬ハッピーエンドとは思えなかったが、高度経済成長の時代を彷彿させる明るいエンディングがよかった。

    ‪途中日数が空いたがストーリーも忘れず途中再開後も楽しめました。‬

  • 昔の日本の文化の香りを嗅ぎながらストーリーをよんでいる気分になれた。
    何度かモヤモヤした気分にさせられるが、最後はスカッとするのでオススメ。

  •  いきいきとした人物描写がとても魅力的で、物語世界が立体で立ち上がってくるようだ。読む前は「コーヒーと恋愛」の二単語が並列関係にあるのかと思っていたけど、読後は勉君や菅さんが「(モエ子本人と、というよりは寧ろ彼女の先にある)コーヒーと恋愛」している話のように一見感じられた。が、勉君たちは多分モエ子のこともちゃんと好きではあると思う、でもその気持ちがモエ子に伝わらないのではダメだよ!と勉君たちにダメ出ししたい気分。でもそんな勉君たちの至らなさも愛しいと感じてしまうお話。

  • 面白かった。曽我部さんがあとがきで「この小説の持つ独特のヒップさ」「どのページからも、昭和のある時期の風景からのみ立ちのぼる洗練が顔をのぞかせています。進歩的でどこか柔和な、協調性をもったクールなライフスタイルというようなものです。」って書いているのに、何とも共感。

    コーヒーを核としたおしゃれな恋愛ドラマを想像していたのだけど、そういう感じではなかった。

    たかがコーヒーごときに恋愛そして結婚そして人生が振り回される人々。振り回されてたまるかというヒロインモエ子43歳。
    芸術的でもおしゃれでもなくて、庶民的で人間味あふれる、滑稽かつ軽妙なユーモア小説です。

  • 良き日本のインテリジェンス、知性、含羞、軽妙、洒脱、そして大人のかわいさ、意地っ張り、解放。みんな詰まったコーヒーブレイク。

  • 本日読了。気づけば4年半がたっていた。本を開き「さぁ続きだ」と文章に目を落とすたびに数行で眠気に襲われる。睡眠薬よりよく眠れる本。序盤は句読点の多さに慣れなかったが、中盤からはリズムもつかめてきて、立て続けに事件も起こり読み進めていった。4年半諦めなかったのは、60年の時を超えて当時の雰囲気に触れたりモエちゃんに会える楽しみがあったからかも。歳も近いし友達のような感じだったなぁ。読み終えてさみしいけど読後の余韻も良いお話でした。

  • 2023.7.9 読了。
    まだテレビが新しかった頃、お茶の間の人気女優として43歳の坂井モエ子は活躍し、私生活では劇団装置家で8歳年下の塔ノ本勉と暮らしたり珈琲愛好家との会合を楽しんだりしていたが、ある日劇団にいた若い研究生の元に勉くんが去っていってしまう。珈琲と恋愛と演劇を軸に人間模様が描かれた小説。

    う〜ん、、、背表紙のあらすじを読んで気になって読んでみたもののなんとなくダラダラとした文章で残念ながらあまり楽しめなかった。
    珈琲、恋愛、演劇についてもどことなく中途半端な感じがして「現代にはないこの時代のノスタルジックさが良い」と評価されている方も多いようだが、自分の好みの文章ではなかった。

  • 昭和のノスタルジーを感じさせる作品でした。
    私が生まれた頃、今は亡き両親の新婚だった時代の物語。当時の社会は今のSNS世代から見たらさぞノンビリして、自由で生きやすそうに思えるかもしれません。
    そういう意味では結末など気にせず、安心して読める内容でした。

  • 先の展開が気になって一気に読み進められた。
    文面が今どきではなかったので少しシリアスに読み進めてしまっが、振り返ればクスッと笑える話だった。

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著者プロフィール

1893─1969年。横浜生まれ。小説家・劇作家・演出家。本名・岩田豊雄。慶應義塾大学文科予科中退。フランスで演劇理論を学び日本の演劇振興に尽力、岸田國士、久保田万太郎らと文学座を結成した。一方、庶民生活の日常をとらえウィットとユーモアに富んだ小説は人気を博し、昭和を代表する作家となる。『コーヒーと恋愛』『てんやわんや』『娘と私』『七時間半』『悦ちゃん』『自由学校』(以上、ちくま文庫)。『娘と私』はNHK連続テレビ小説の1作目となった。『ちんちん電車』『食味歳時記』などエッセイも多く残した。日本芸術院賞受賞、文化勲章受章。


「2017年 『バナナ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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