「流域地図」の作り方: 川から地球を考える (ちくまプリマー新書 205)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (156ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480689078

感想・レビュー・書評

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  • 浅めの本だが、「流域思考」を一般向けにわかりやすく説いた本として貴重。

    また、鶴見川での取り組みはやはり先進的であり、河川整備基本方針・整備計画より先んじて水マスタープランが作られていたこと、そしてそこにシンプルに5箇条がまとめられていたことの功績は大。
    それゆえにまさに「流域思考」が鶴見川流域には根付いており、
    だからこそ鶴見川の整備計画が各河川管理者"連名で"作られていたり、
    件の5箇条が整備計画にもいきていたり、
    あるいはその目標流量に流域貯留の概念が組み込まれていたりするのだろう!

  • 都市は流域に作られやすいというのは世界史は古代文明の時代に一度聞いたきりで、基本的に生活の中で意識されることはない。
    流域は今でも防災や水の提供で生活の基盤になっているし、人間に及ばず地域の生態系全体を形作っている。都会に暮らしていると自然との接点がすくないし、意識もしなくなるよねと思ったら流域の把握から始めればいいのですよ!というのが本書の要旨。
    代表的な流域として三崎の小網代が挙げられている。意外と身近にダイナミックなエコシステムは生きているのだ。
    当たり前だが環境保全は自然を自然のまま放置することではない。結構な昔から世界のいたるところにホモサピエンスはいるので、人の手が入ることを含めて成立している自然環境はある。小網代の蛍の例などは興味深かった。

  • 面白かった……!「流域的発想」て知らなかったけれど、そういえば子供の頃から、「津波」「洪水」といった災害の時どう逃げたらいいかな…みたいな、想像をいつもしてたっけ。思えばその時に脳裏に地形が浮かんでいた。地震の時は地盤を考え、土砂崩れの時は山の状態を考え…それらが一つにまとまったような気持ちになりました。

    自分の住んでる流域もチェックしたくなっちゃったな~。

    (多分、町内のつくりが、山が沿岸部のすぐそばまで迫ってる地形なので、「流域」的にはいくつか別れるとは思うんだよね。暗渠排水なんかにも最近なっちゃったけど、何本か河川があるから。…我が家はその中でもかなり大きな水系の傍なんだけど)

  • 流域地図で考えると水害の被害も少なくなる。内容が少し散漫かもしれない。

  • 別の本とかぶる内容が多いけど、本作は入門書として、まとめられており、非常にわかりやすい。流域単位で皆で考えていこう、というのは、同意するが、なかなか上手くいかないことも多い。

  • 流域地図で考えよう。で、流域を自然の住所と位置付ける前半の紹介は大変わかりやすくてよかった。後半の活動事例については、どこか別の場所でどうやって動き出すかの参考というより本当に事例紹介だった。

  • なかなか読めずにいたけれど、今週の栃木・茨木での洪水被害を案じながら手にとった。読み始めてみたら、わかりやすくおもしろい。「流域地図」を知り、自分の「自然の住所」を知るとたしかに周りを見る目がちょっと変わる。そして見慣れた行政区分による地図ではなく、これからは「流域地図」でものごとをとらえ、治水事業などを考えるようにしなければ、これからの環境危機などに対応しきれない、という主張は説得力があり、今後の気候変化も見越して「50年に一度」レベルの災害への対策を考えなおさなければならないのでは?というかねての疑問にも応えるものだった。
    著者が流域保全に関わった具体例としてくわしく紹介されている鶴見川流域、三浦半島小網代が地元に近い身近な地だったのもよかった。流域の考えをベースにした自然保全活動は細心の神経を使う複雑な事業だと思うがその価値のある魅力的な事業でもあると感じた。
    地元はめずらしくコンパクトな水系流域なので、せっかくだから小中学校の総合学習などでこうした流域地図を元にした地域研究活動をするといいのにと思う。

  • 行政区分での災害対策が現状であるが、より効果的なのが流域ベースでの対策だ。災害は行政区分ではなく流域単位で起こるからだ。
    まずは自然と触れ合う機会を増やして大地のデコボコを肌で感じることが大切だ。
    そうすることで生態系の一員として、また限られた資源の中で生きているということに気づくことができるようになる。
    そうした人間を増やすことが環境問題を解決する力となる。

  • 日本には81の1級水系があり、流域面積の大きな順に利根川、石狩川、信濃川、北上川、木曽川、十勝川、淀川などがありそれぞれ多くの支流が流れ込み流域を形作っている。流域面積とは川面の面積ではなくその川に雨水が流れ込む範囲なので尾根と分水嶺で隣の流域と分けられるため日本中必ずどこかの流域に属することになる。つまり住所を流域で表すことも可能で、多摩三浦丘陵群、鶴見側流域・矢上川支流域・松の川小流域・まむし谷流域・一の谷北の肩、調べてみてもたどりつかないが慶応の日吉キャンパスだ。武蔵小杉のあたりに降った雨の一部は多摩川に流れ込み、また一部は支流を通じて鶴見側に流れ込むのだが、水はけのいい昔からの住宅地は少し高い場所に建っていて場所によっては水が二方向に別れて流れる。まあなかなか気がつかないのだが。

    開発が進み土地がコンクリートで覆われると、保水力がなくなり雨は一気に川に流れ込む。水田も保水機能を持っていたのでこれがなくなったのも大きい。東京都などは地下に大規模な貯水池を作っているし鶴見側の場合は大規模な遊水池を作っている。それが新横浜公園で日産スタジアムは高床式になっていて洪水時にはスタジアムの下を水が流れる。この本の舞台は鶴見側流域という大きな水系と、三浦半島の先油壺の小網代湾に流れ込む浦の川水系。鶴見側で取り上げるのは治水や洪水対策には上流から下流までを一体の視点で見る必要が有るという話であり、浦の川では里山思想に対して流域での自然保護の取り組みが取り上げられている。

    浦の川には森で住み、干潟で幼生を生むアカテガニが住んでいて、自由に行き来できることが生態系を守っている。アカテガニはこの流域の生態系を守る指標のアンブレラ・スピーシーズになっていて、アカテガニを守ることがその傘の下で多くの生き物が住める環境を作ることになる。荒れ放題になっていた森では川が暗くなり藻が繁殖せずカワニナも住まなかった。ヤブを切り開くと3年目にカワニナが激増しホタルの幼虫も急増中だ。人の手の入った自然というと里山思想だが、里山では住み場所(ビオトーブ)の多様性が足りない。山から湿地や干潟を組み合わせた、つながりを持つ流域でなくてはいずれ限界にぶち当たると批判している。まあ里山の場合は田んぼがセットになっているのだろうが。

    例えば最近あまり話題に上がらない八ッ場ダムは利根川支流の吾妻川流域で支流域と行っても利根川流域の8%にあたり浅間山の北面から嬬恋、白根山にかけてと広い面積の雨がここに流れ込む。個人的には本当にいるのか疑問に思うが利水権の問題で取水制限を受ける人からすれば必要だとなるのだろう。私をスキーに連れてってで言えば万座スキー場は吾妻川水系だが志賀高原は信濃川水系で渋峠から万座に降りてこなければ須坂から菅平を回り嬬恋周りで万座に入るしかない。古〜っ。

    東京では昔の川は暗渠や緑道になっていて流域はわかりにくい。渋谷の再開発では春の小川を復活させるらしいので少し楽しみだ。著者も都市文明を拒否したり否定したりするというのではなく、自然環境の再生と都市文明にどう折り合いを付けるかを模索している。そのツールとして「流域で考える」というのがその主張だ。ホタルが舞う川だとか、鮎が泳ぐ川だとか、そう言うところからなんだろう。スーパー堤防じゃないだろうとは思う。

  • 行政区分でなく、流域という切り口でみるのは確かに有効だろう。
    ただ、実際になにかのアクションを起こすとなると、行政区分が前面に出てくるのも現実だ。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜市立大学生物科卒業。東京都立大学理学部博士課程修了。慶應大学名誉教授。進化生態学。流域アプローチによる都市再生に注力し、鶴見川流域、多摩三浦丘陵などで実践活動を推進中。NPO法人鶴見川流域ネットワーキング、NPO法人小網代野外活動調整会議、NPO法人鶴見川源流ネットワークで代表理事。著書に『自然へのまなざし』(紀伊國屋書店)『流域地図の作り方』(ちくまプリマー新書)。訳書にウィルソン『人間の本性について』(ちくま学芸文庫)、共訳にドーキンス『利己的遺伝子』(紀伊國屋書店)など。

「2021年 『生きのびるための流域思考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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