「流域地図」の作り方: 川から地球を考える (ちくまプリマー新書 205)
- 筑摩書房 (2013年11月5日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (156ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480689078
感想・レビュー・書評
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去年の台風を筆頭に、最近豪雨が多い気がする。そんな自然災害に適応するためには、行政区分に基づいて作られた地図ではダメで、大地の凸凹が分かる自然の地図、つまり流域地図に基づいて対策する必要がある。
たしかに、水源地や上流の宅地開発が原因で下流域の洪水が起こるのに、下流域だけが行政的に区分されていたらできる対策は限られる。地図を変えることは世界の見方を変えることだ。今こそそんな転換が求められていると強く思った。
しかしそもそも、流域というのが、そこに降った雨水がその川に流れ込む窪地の範囲というのを理解していなかった。手の甲で考える流域の概念が分かりやすかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鶴見川の近くを散歩していると「鶴見川流域はバクの形」というキャッチコピーの啓蒙的な看板をよく見かける。「○○川流域」とは、なんとなく「その川のほとり」くらいのことかなあと思っていたので、「流域の形」とはどういうことなのか謎だった。本書を読み、流域とは「降水がその川に集まる領域」のことを指すのだと知った。つまり境界線は尾根ということになる。それがわかっただけでもひとつ賢くなった。
そのバク看板は、鶴見川流域センターというところが出しているもので、まさにこの本の著者の岸由二氏が中心?的な役割を果たして立ち上げたセンターだった。そうとは知らずに読み始めたのだが、鶴見川流域センターの存在は前から気になっていた。というのも、縁あって今は鶴見川流域住民なので、
"かつては「暴れ川」と呼ばれ豪雨の度に猛威を奮っていたという鶴見川だが、近年は治水施策がうまくいっていてここ数十年は大規模水害は起きていない"
という話は知っていたからだ。素直に、ありがたいことだと思っている。去年(2019年)の台風のときも、鶴見川の浸水被害はなかったとか(正確なところは私はわからない)。
鶴見川の治水のキモはとにかく「流域思考」ということ。洪水は、流域で起こる。行政区域の枠を越えて流域全体で対策を講じなければ意味がない。鶴見川はそれをいち早く実行できた河川であるということだが、全国的に見ると他にそういう例はほとんどないとかどうとか(正確なところは私はわからない)。
災害対策に限らず、環境保全の観点でも、ちょっと私たち、自分たちの立っている足元である地球のでこぼこのことを、無視していすぎやしませんかと。そういう本でした。 -
市区町村などの行政区分で分けず、「流域」で災害を考えることが大切と説かれています。現状では神奈川の鶴見川だけが、行政区を越えて治水できているそうです。遊水地と多くの調整池を使って氾濫に備えるとのこと。理論や構想だけに止まらず、利害の調整を行ない、お金と時間をかけて実現していくことの重要性を感じました。
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【由来】
・図書館の新書アラートとhonz
【期待したもの】
・漂着プロジェクト
【要約】
・流域地図というのは河川を中心に区分けをした地図のこと。産業革命以降、デカルト座標の地図で構成され、行政区画割の地図に慣れすぎてしまった我々の感覚は、そのまま「大地」「地球」に住んでいるという実感からの乖離につながっている。現行地図を否定はしないが、流域地図も併用し、そこを実際に歩いて自然を体験することによって、自然との関係を再構築できる。
【ノート】
・流域地図とは河川を中心に区分けをした地図のこと。水系が分かり、つまり土地や生物の生息状況と結びついた地図。Yahooでも背景図として水系図を選択できるようになっているが、まだまだ馴染みがない概念ではある。
・知り合いの研究者から、今、我々が馴染んで使っている地図は、たくさんある地図概念の一つでしかないということを教えられたことがあった。これは哲学的な意味からも歴史的な意味からもそうなので、例えば曼荼羅も地図の一つ。何をどう認識して表現、マッピングするかというのが地図の本質であり、今、我々が地図帳やGoogleマップなどで慣れている地図というのは、あくまでも特定の科学的コンセプトに基づいて構築された世界観に過ぎない。子どもが適当に書いて見せる居住区近辺の地図を、我々は縮尺も方角もでたらめだと言って笑うけど、書いた子の興味や行動規範を出発点にすれば、それは立派な地図なのである。 -
浅めの本だが、「流域思考」を一般向けにわかりやすく説いた本として貴重。
また、鶴見川での取り組みはやはり先進的であり、河川整備基本方針・整備計画より先んじて水マスタープランが作られていたこと、そしてそこにシンプルに5箇条がまとめられていたことの功績は大。
それゆえにまさに「流域思考」が鶴見川流域には根付いており、
だからこそ鶴見川の整備計画が各河川管理者"連名で"作られていたり、
件の5箇条が整備計画にもいきていたり、
あるいはその目標流量に流域貯留の概念が組み込まれていたりするのだろう! -
都市は流域に作られやすいというのは世界史は古代文明の時代に一度聞いたきりで、基本的に生活の中で意識されることはない。
流域は今でも防災や水の提供で生活の基盤になっているし、人間に及ばず地域の生態系全体を形作っている。都会に暮らしていると自然との接点がすくないし、意識もしなくなるよねと思ったら流域の把握から始めればいいのですよ!というのが本書の要旨。
代表的な流域として三崎の小網代が挙げられている。意外と身近にダイナミックなエコシステムは生きているのだ。
当たり前だが環境保全は自然を自然のまま放置することではない。結構な昔から世界のいたるところにホモサピエンスはいるので、人の手が入ることを含めて成立している自然環境はある。小網代の蛍の例などは興味深かった。 -
面白かった……!「流域的発想」て知らなかったけれど、そういえば子供の頃から、「津波」「洪水」といった災害の時どう逃げたらいいかな…みたいな、想像をいつもしてたっけ。思えばその時に脳裏に地形が浮かんでいた。地震の時は地盤を考え、土砂崩れの時は山の状態を考え…それらが一つにまとまったような気持ちになりました。
自分の住んでる流域もチェックしたくなっちゃったな~。
(多分、町内のつくりが、山が沿岸部のすぐそばまで迫ってる地形なので、「流域」的にはいくつか別れるとは思うんだよね。暗渠排水なんかにも最近なっちゃったけど、何本か河川があるから。…我が家はその中でもかなり大きな水系の傍なんだけど) -
流域地図で考えると水害の被害も少なくなる。内容が少し散漫かもしれない。