おまじない (単行本)

著者 :
  • 筑摩書房
3.39
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本棚登録 : 2960
感想 : 296
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480804778

感想・レビュー・書評

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  • 西さんの作品は読んだことはなかったけど、西さん本人のことはテレビでよく拝見していた。美人でおもしろくて、何よりすごくいい人感が強かった。「圧倒的光」ってイメージがついてた。
    私はそういう「いい人」を見ると自分の汚ならしさと比較して落ち込むところがあるので、西さんのことはなんとなくずっと苦手だった。この人を見ると自分が惨めに思えるな、と感じていた。作品を読んだこともないのに勝手に「めちゃくちゃ爽やかな小説ばっかり書いてんだろうな」と決めつけ、勝手に距離を取っていた。
    クラスの陰キャが陽キャを見て「自分とは違う世界の住人ですわ、人生楽しそう~」と鼻で笑ってるクソだせぇ姿を想像してほしい。その陰キャが私で、陽キャが西さんだ。
    でも私はなんだかんだと西さんのことが気になっていた。いつも明るくて楽しそうで美しくて、私の憧れの又吉くんや文則くんとも仲が良い、羨ましいな、と思っていた。
    そんなときに私は見つけてしまった。暗そうな表紙の「おまじない」という小説を。
    よく知りもしないで勝手に「悩みとかなさそう~人からめちゃくちゃ愛されてそ~」と思っていた陽キャ西さんの意外な一面を見てしまった感覚に近い。
    そこに惹かれてこの本を読んだ。こういうのって陰キャにありがちな展開すぎて相変わらずクソだせぇ、が、結果的に。

    なぜ私は今まで西加奈子を読まないで生きてこれたのか?

    というくらい、めちゃくちゃ良かった。
    短編集だったのだけど、全部が全部めちゃくちゃ良かった。読みやすいし分かりやすいしめちゃくちゃおもしろい。
    「孫係」では「その人の望む自分でいる努力をする」ことを肯定してくれたことが嬉しかった。
    「あなたがいい子でいようとすることは、とてもえらいことなんです。それは涙ぐましい努力だし、いい子のふりではなく、本当にいい子だから出来ることなんです」という言葉に救われた。
    「あねご」と「ドブロブニク」では号泣してしまった。
    選ばれないとか、馬鹿にされるとか、気を遣われるとか。そういうことは日々たくさんあって、でも私は日々生きていかなくてはならなくて、誰かに優しくされると泣きたくなったりする。苦しい。

    めちゃくちゃ良かった。
    いやぁほんと、なんで出会わずに生きてこれたんだろうなぁ。本屋さんではあんなに西さんの作品が並んでたのにな。
    でも今がその時だったんだろうなぁ。本と出会うタイミングは全部運命だもんなたぶんな。

    これをキッカケに、西さんの他の作品にも触れてみたいと思う。読むのが楽しみ。

  • 現代を生きる子供たちは、私が子供の頃より生きづらくなっているのだろうか?うちの子供たちも、健やかに成長していって欲しいと願うしかない。

  • 短編集。表題になっている作品は収録されていない。強いていうなら最後に収録されている書き下ろしの「ドラゴン・スープレックス」には、はっきりと「おまじない」という言葉が使われ、おまじないの効果について言及されている。それ以外の作品にあるのは、おまじないとして作用する、誰かの「言葉」だ。

    最初の「燃やす」が一番わかりやすい。主人公はボーイッシュな女の子だったが、思春期になり可愛いと言われるようになった頃、変質者の被害に合う。彼女に母親は言う「ほらね」。

    おまじない、は漢字で書くと「お呪い(おまじない)」で、当たり前だが「呪い(のろい)」とほぼ同義だ。呪文は、使い方次第で、のろいにもおまじないにもなる。この母親の吐いた言葉は、おまじないではなく「のろい」だ。

    痴漢に合うのは短いスカートを履いていたから、夜道で襲われたのは、そんな時間に一人で歩いていたから、女の子たちはあらゆる場面で「ほらね」という呪いをかけられる。「ほらね、言わんこっちゃない」「ほらね、だから言ったじゃないの」母親は自分の正しき助言を娘が聞き入れなかったから、この災いは当然の罰であるかのように無意識に娘を否定してしまっていることに気づかない。

    この娘にかけられた「のろい」を解く「おまじない」の言葉を言ってくれるのは、学校の裏でいろんなものを「燃やす」仕事をしているおじさんだ。とてもシンプルなカタルシスなのだけどちょっと泣いてしまった。

    「あねご」の主人公にも、飲んだくれる父親に対して母親が言った「本当に、見てられない。」という言葉の呪いがかけられている。長じて同じようにお酒を飲んでは陽気にふるまい、自分がブスであることを自虐ギャグにして、笑わせるのではなく笑われていることに気づかないふりをして、あねごは生きてきた。いつしか彼女自身が陰で「本当に、見てられない。」と言われるような人生を送ってしまっている。そんな彼女にも、ある人物が、自己肯定するためのある言葉をかけてくれる。

    その他好きだったのは「孫係」のおじいちゃんの言葉の数々。本当に含蓄が深い。「根はいい子なんていうのも納得出来ない。みんな根はいい子なんだ。それをどれだけ態度に表せられるかですよ。」「正直なことと優しいことは別なんだ。」「素敵ではないです。素敵ではない。でも私は大好きでした。」などなど。現実的なアドバイスとしてとても役立ちそうなことが沢山あった。

    「ドブロブニク」も良かった。子供の頃、脳内フレンドたちにいつも「おめでとう」と祝福されていた主人公は、映画、演劇に夢中になり気づくと四十半ば。もはや誰からも心からの「おめでとう」を貰えなくなった彼女は、フィンランドで自分を見つめ直す。タイトルはアキ・カウリスマキの映画「浮き雲」の主人公が働いていたレストランの名前。

    けして押しつけがましくなく、人間の駄目なところも狡いところも全部いったん受け入れた後で、さりげなく肯定してくれる西加奈子の真骨頂が詰まった1冊でした。

    ※収録
    燃やす/いちご/孫係/あねご/オーロラ/マタニティ/ドブロブニク/ドラゴン・スープレックス

  • 今のお前を変えろ、と言われたら悲しくなるけど、西加奈子はたぶん、私が私のままでいることを肯定してくれる。変わらないまま、幸せになることを許してくれる。
    この本に関して言えば、全ての女がどこかで抱えているであろう傷に触れてくるのだろうし、それに気づかされもする。けれど、決してそれを責めたりしない。
    どうぞ安心して読んでください。

  • 「いちご」 と「孫係」が好き。

    他の人からしたら何でもない一言でも、ある人にはピタッとはまっちゃう、そんな言葉があるんだろうな。

    浮ちゃんのキャラが強烈だけど、癖になる。

  • 楽しめて且つ面白い西加奈子ワールドな8編の短編集です♪ いずれも個性的な人物が活躍していますけど、なかでも気に入った話は「いちご」と「ドラゴン スープレックス」の章でした。おまけに筆者自筆の8ケのイラストが目次と表紙と裏表紙を成していて巻末には白紙ページが8頁あるというサービス付き。ご自由に読者あなたがお描きなさい!ということ?(笑)
    図書館借り出しの本でしたので描くことなく返却したのが残念だけど、読んで面白く見て楽しい一冊でした。

  • 『孫係』の台詞一つひとつに救われた。あらゆる人の弱い部分に寄り添ってくれる物語が見つけられる短編集だと思う。文庫版で読んだので長濱ねるちゃんとの巻末対談も面白かった。

    「私たちの体のすべてが私たちの意志で動くわけではないんですよ。何か大きなものに動かされているんだ。それを社会と言うのかもしれませんがね。とにかく、ゆだねられるところはゆだねましょう。私たちは、この世界で役割を与えられた係なんだ。」ー『孫係』より

  • 短編集なので、さくさく読み進めることができた。

    ぼくらが求めてる世の中ってこんな風なんよなぁっていうのをさりげない語り口で代弁してくれてるかのよう。

    「孫係」が今の自分の状況にすっごくフィットしているなぁとしみじみ。

  • 西加奈子さんの感性は独特で、彼女が描く主人公の女の子たちは獣臭さがあって強くて弱い。
    変な話が多いのに惹き付けられる。
    他の誰にもない不思議な魅力がある著者さん。
    『孫孫』とっても好きだった。
    『いちご』と『あねご』も好きだな。

  • 久々に再読。

    やはり西加奈子、大好きだ。いつも救済されている。

    特に響いたのは孫係、あねご、マタニティ。

    孫係
    役割に沿った係をやっているって思えばいい。って考え方、スッと楽になった。特に仕事では、自分を全投影して頑張ろうとすると本当に消耗するし、理不尽だし、保身してしまうしそんな自分に嫌気が差すし… でも望まれる係をやってるって割り切れば、何とかやっていけるかも。って思った。

    あねご
    これは…コンディション次第では泣いてしまうぞ。
    痛々しいお笑いキャラのあねごのふるまいが、その裏にある切なさやそうせざるを得ない心理が、すごくわかってしまって。可愛さとか滲む魅力とか、存在するだけで人を喜ばせられない私のような存在は、なんとかして笑ってもらわなきゃ、って使命みたいに思ってしまうの、すごいよくわかった。
    そんな人のちょっとした救済を描いてくれることで、私も一緒に救ってもらえた。だし、別に美しさで人を魅了出来なくたって、自分のままでいていいんだよって、客観的に見ることで、思えた。

    マタニティ
    子どもが生まれるのに、そんな神聖なことを前にしてもどう見られるかを気にしてしまう、ってわかるわーわたしもそういう部分ありそうだ。
    弱いことがそんなにいけないんですか?って、結構刺さった。
    なにより、こんなしょうもない感情、しょぼい自分を、あんなに素敵に見える西加奈子も知ってるんだ、ってことが本当心強い。

    自分自身を生きていいし、それがうまく出来なくて見栄張ったりかっこつけたりしても、自分自身の明確な輪郭なんてわかんなくても、それさえも自分って苦笑しながらやってこう。
    何度も思ってることだけど、西加奈子がいる世界に生まれられて良かった。

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著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

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