金環日蝕

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488028787

感想・レビュー・書評

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  • ひとつのひったくりの事件から思わぬ展開に。
    見えない犯人を追い詰める展開は面白かったし
    錬のどこか危なかしく不可解な行動も伏線があり
    読む手が止まらなかった。
    心理戦が絶妙に織り込まれ面白かった。

  • 前半のほのぼの加減、といってもきっかけはひったくり犯を追いかけるところではあるが、春風と練の人間関係が出来上がっていくのと、後半一気に人の本性みたいなのが暴かれていく対比に驚いた。

    詐欺とかプレーヤーとか受け子とか、非常に身近なところから始まっているんだと恐ろしくなる。
    最近電車内の広告などで闇バイトへの注意喚起をよく見るけど、時給が良いとか、先輩に紹介されたとかで簡単に足を踏み入れることができる世界なんだね。
    そういう犯罪のターゲットになるのも怖いけど、子供たちのすぐ近くに闇があるというのを想像しただけでゾッとした。

  • ひったくり犯を追いかける事から始まる大学生の春風と高校生の錬。そこから意外な展開に。犯罪は身近なところにあるものだと思わされる。そしてその背景や心情にもスポットを当てていて同情する点も見えた。そうするとなかなか憎めないもんだ。

  • 近所に住む老女がひったくりに会う現場を目撃した女子大生の森川春風(はるか)は、偶然居合わせた高校生の北原錬と共に犯人を追いかけるも取り逃がしてしまう。犯人が落とした物を手掛かりに犯人探しをする二人。やがて犯人と思しき人物に迫るが…
    一方、苦学生の理緒はバイト先で知り合ったカガヤという年上の男に惹かれ、言われるがままに闇の世界に足を踏み入れて行く…

    主人公の春風の正義感溢れる“人となり”がまずもって魅力的。脇を固めるバイプレイヤー達もいい味出してて、人物描写が上手い。春風と錬のかけ合いも微笑ましい。物語は春風視点と理緒視点が交互に進む構成。ミッシングリンクというべきか、両者の共通点が時にじわじわ、時に急転直下に交わる展開がとにかく読ませるのだ。

    親子の絆、兄弟姉妹の絆、○○(とある犯罪)、等色々と考えさせられる要素もあり、勉強になった。
    《以下引用》P253
    心理学では、親は子供の精神的根幹を形成するもっとも重要な存在として扱われる。大きな安定した存在に保護され、慈しまれる経験を重ねることで、人は自分の存在を肯定する感覚と世界そのものへの信頼を獲得する。

    このミステリーがすごい! 18位

  • 『金環日蝕』というタイトルには文豪を思わせ重厚な響きで煙たく感じていた。読み初めて女子大生の春風と高校生の錬が織りなすひったくり犯人捜しの爽やか系青春物かと拍子抜け、更に引ったくりに遭ったのが70歳の老婦人とあり、アラコキの私はカチンと来て読む気が失せかけた。しかし、次の章で理緒らが出てきて異なる展開に気分を持ち直して読み終える。
    本作中の『”金環日蝕”とは中心は暗闇に沈んで何も見えないのにその輪郭だけが強烈な輝きを放つ。今自分たちが相手にしようとしているのはそういう存在だ』に、主人公のふたりはそういうことだったのか得心できた。
    納得がいかなかった錬の父親。するりと人の懐に入り込んで詐欺という犯罪を犯す憎めない人物だ。彼は本作の最後まではっきり本書に登場しなかった。犯罪者はみな複雑な事情を抱えていて同情できるし、犯罪に手を染める染めないは紙一重というのも解る一方で、簡単に頷けない。
    調査対象の老夫人が「いくらお金があってもさびしい」と言うのに対し、理緒は「お金がないことのみじめさを知らないから、そんな生ぬるいことを平気で言えるのだ」と考えるシーンがあった。うら若い理緒を老いの孤独を知らないだろうと責められない。詐欺を許せないのは、私が運よく平凡な環境に生まれ育ったからかもしれないが、経済的に満たされている人にも不遇は数えきれないほど存在している。1章で溌溂と振舞っていた春風が、思いがけない過去の闇を背負っていたように。
    誰か教えて欲しい。ラストに大学で撮られた写真は錬でなかったような箇所があったけれど、あの写真はいったい誰なのでしょうか?

    ♬~冒頭で引ったくりに遭った老女さんが単なる被害者ではなく、後半部で昔の詐欺事件の関係者であったことが分かった。彼女が一方的に年寄り呼ばわりされなかったことに胸がすく思いでした(笑)

  • 阿部暁子さんの作品は『どこよりも遠い場所にいる君へ 』に続き2作目
    しかし!今回はあまりにも印象が異なり衝撃を受けた。

    読み進めるにつれ、冒頭に漠然と抱いていたイメージがどんどん趣を変えていき、作中の表現を拝借すると「白と信じていたものが、次々とひっくり返り、見る間に黒に染まっていく」驚きと戸惑いを感じた。

    場面展開もスピード感があるので、二転三転する展開に心地よく転がされたが、数日間を行ったり来たりする箇所が何度もあり、そこは些かスムーズでなく緩慢な印象を受けた。

    本作のメインテーマは「詐欺」だが、決して私たちの普段の生活と遠い所で起きている訳では無く、どちらかと言えば気付かないだけで、すごく身近に潜んでいるかもしれないという感覚を覚えた。きっと人物の描き方がとても魅力的で親近感を抱いた影響だろう・・・
    またその一方で、情報飽和社会の中、意識するしないはさておき、詐欺の片棒を担いでしまうケースも少なからず存在する時代になっているという危うさも感じた。

    詐欺で騙される側ではなく、騙す側にフォーカスした内容なので、好き嫌いも分かれるところだと思う。

    これからの時代は特に、被害者、加害者いずれであっても犯罪に巻き込まれるかもしれないリスクを考えて行動することの重要性を考えさせられた。
    詐欺はますます多様化し巧妙化する。
    平和大国日本、アジアでは平和国トップと言われる日本だからこそ、幼い頃から教育の一環として防犯や護身の術を身に付ける必要性があると感じた。

    余談だが、タイトルは『金環日食』ではなく『金環日蝕』
    敢えて「蝕む」という字を使われた意図を考えてゾワゾワしてしまった。

  • ひったくり犯を大学生の春風(はるか)と高校生の錬が突きとめていくお話かと思ったら、それだけでは終わらない社会派小説だった。
    詐欺という犯罪は何故これほどまでに人の善意や弱みにつけ込んでくるのか。本当に残酷な犯罪だなと思いました。
    伏線が回収されていくのが面白かったし、春風と錬のテンポの良いかけ合いも面白かった。まぁ、実際にはそんなかけ合いのできる若者は滅多にいないだろう。
    ラストは少し明るい風が吹いたかとは思うけれど、話が話だけにすっきりはしないかなぁ〜。

  • お。……面白かったー。駆け抜けた。

    冒頭、
    「何の変哲もない木曜日の帰り道に、引ったくりを目撃するとは思わなかった。しかも昔からよく知る人が標的にされる瞬間を。」

    で、ほおおぉ、と唸る。

    さて。
    あらすじに触れると、大体ネタバレになりそうなので、ざっくり考えたことを残してみる。

    読んでいて、悪意って何だろう、と考えていた。
    自覚された悪意、触発された悪意、無意識的な悪意、集団性を持った悪意……。
    およそ幾重にも取り囲まれた悪意の中で、私は生きている。

    傷付き、恐怖し、絶望にも近い気持ちを覚えるからこそ、私は「同じことを人にはしたくない」のかもしれない。まぁそれは、意識的には、だけど。
    その、もう片側の面では、そんな目に遭わせた相手を、断罪したいという気持ちも強くあったりする。

    春風という人物に賛否があるとしたら、きっとこの小説の構造にも、その賛否は当てはまる。
    ただ。「きれいであろうとする」片側は、人の、とてもシンプルな一面なんじゃないかと思う。
    美しいという形象が人それぞれ違っても、そこに憧れを抱く気持ちは普遍だと言えないだろうか。

  • まずわたくしごとですが、この一週間で
    『月の立つ林で』『自転しながら公転する』とこの本
    天体系を三冊続けて読みました。
    子供向けの天体の本を読んでみようかしらと思いました。

    さて、後半過ぎたところで「えーっ!」と驚き
    そこからの展開がめまぐるしく。

    私のまわりの人たちはのんびり生きているなあと
    つくづく思います。

  • ページターナー本。一気読み必須。
    ひったくりにあったおばあさんを助けたことが、思いもよらない展開に発展していく、その裏切られ感がなかなかよい。次々と展開する第二の顔、第三の顔に翻弄させられるのもまた楽しい。
    それぞれに深い傷を負った若者たちが、トラブルを解決する中で自分を成長させていく。でもそんなに簡単に傷は癒えないわけで、続編がありそうな予感。

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著者プロフィール

岩手県生まれ。『陸の魚』で雑誌Cobalt短編小説新人賞に入選。『いつまでも』で2008年度ロマン大賞受賞。集英社オレンジ文庫に『鎌倉香房メモリーズ』シリーズ(全5冊)、『どこよりも遠い場所にいる君へ』コバルト文庫に『屋上ボーイズ』、ノベライズ『ストロボ・エッジ』『アオハライド』シリーズ、他の著書に『パラ・スター 〈Side 宝良〉』などがある。

「2022年 『読んで旅する鎌倉時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

阿部暁子の作品

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