殺人者の顔 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M マ 13-1)

  • 東京創元社
3.55
  • (24)
  • (104)
  • (83)
  • (18)
  • (3)
本棚登録 : 618
感想 : 102
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488209025

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • スウェーデンの警察小説である『クルト・ヴァランダー』シリーズの第1作。
    凄惨な殺人事件の謎を追う警官クルト・ヴァランダーが主人公なのだけれど、起こること起こること(事件関係でもプライベートでも)泣きっ面に蜂が続き、同情を禁じ得ない。次々に事件は起こるし、上司は不在だし、操作情報を外部に漏らす部下もいるし、家では離婚、娘との不和、老父の精神不安定、中年太り、アルコール依存、古い友だちには邪険にされ、新しく出会った人妻にも相手にされない…。お世辞にもスマートとは言えないクルトだけど、事件に関しては(何度も失敗しながらも)「しぶと」く「絶対に放り出さな」い姿に、よれよれながらも応援したくなる。
    胸のすく謎解きのカタルシスはないけれど、事件が終わった後の警官たちの語りに、静かな感動を覚える読後感だった。

  • あーいやだ、いやだ……。

    いやになるほどの孤独な中年男性の生活。
    出て行った妻へたたみかけるように詰問する姿、前頭葉の老化による感情コントロールの低下に刑事という職業の癖が加わり相手を不快にする……そりゃ逃げるわ〜。
    そのくせ、「褐色の女性」との妄想や、女性検察官へのちょっかい……。
    妻や娘のことも、父親のことも、逃げるようにしてお酒に埋没したり、お腹ができたことを気にしながら、サラダをいやいや食べる姿など、ゾッとする。
    数十年会ってない友人に突然しつこく電話したり、慌てて隠れた時にぶつかった怪我も「殴られた」とうそぶく……。
    いったいこの人のどこが良いのか?

    ところが、読み進めていくうちに不思議なリズムが出てきて、次第にこの主人公と「共に居る」ような感覚に陥ちてゆく。

    その結果、「シリアスなドタバタ感」という奇妙な面白さが生まれ、なんだか愛おしくなってくる。

    私は、結構好きだと思う。

  • 一冊も読んだことが無いのに本屋さんでずらっと並んでいる背表紙を何度も見ていたせいか作家のフルネームと『白い雌ライオン』というタイトルが記憶に残っていたシリーズ、知人の読書家に「すごーく面白い」と聞いたのと、最近北欧の作品を固めて読んでいることもあり遂に読み始めました。日本語版発売から20年経過していますが、自分が主人公ヴァランダーの境遇や感情を理解しやすい年齢になっているので今のタイミングで読んで正解でした。移民の問題や制度が目指したものと実際の運営状態の解離、都市部と農村部の違いなどが、衝撃的な事件とその捜査の合間に丁寧に語られます。中年刑事の常?としてヴァランダーは妻に捨てられて惨めで荒んで、食生活は乱れ不健康に太っているものの、刑事としての矜持と勘をもって諦めずに捜査にあたります。記者会見用の原稿を書いたり捜査のシフトを組んだり引継ぎ報告書を書いたりという他の作品ではあまり見られない刑事の地味な仕事ぶりも出て来たのが新鮮でした。内容が濃い割には短く、スッと読めました。完結しているシリーズなので一気読みが出来るのが嬉しいです。

  • 人間味のある主人公です

  • クルト・ヴァランダー刑事シリーズの第一作。もうこのシリーズは完結している。順番に読まなかったのはよくないかな、と思っていたが、ヴぁランダーを取り巻く人たちとは、初めて遭うのではなく既におなじみになっているのもちょっと嬉しかった。

    スウェーデンのイースタでは滅多に起きないような、残虐な殺人事件の通報があった。
    人里はなれた老人家族が住む二軒の家、そのうち一軒で老夫婦が襲われ夫は死に妻は重症だった。妻も助からない状況で「外国の…」と言い残す。

    隣人からみても、日ごろから地味て堅実そうに見えたというが、亡くなった夫には秘密があった。「外国の…」を手がかりにヴァランダーと長年の友人リードベリは捜査を開始する。

    「外国の…」を裏付けるように現場の綱の結び方にも特徴があった。そして事件はスコーネの、バルト海に面した湾岸にある難民の居留地につながる。政府は海外から来た人たちを受け入れられたものの、人々は職場にも恵まれず極貧生活を強いられていた。
    殺された夫婦も、外国から来て住み着いたらしい。そういった背景と、殺人事件を結ぶ糸から、犯人を割り出していく。

    車の音から車種を言い当てる特殊な能力を持った人を見つけだす。ヴァランダーが自分のプジョーも走らして当てさせてみる所など稚気があっていい。
    彼はごく普通の冴えない男である。別れた妻にいつまでも未練があり、それなのに気に入った女性を見かけるとついお茶にでも誘いたくなり、あれこれと想像する。娘にも会いたい、その上事件が起きてもうまく解決できるかというようなことでいつもうじうじと悩んでいる。
    だが彼のやる気は天啓のように謎を解く鍵に気づくことがある。そう言った直感とは別に変わったことではない、常に思いつめ、捜査に悩んでいることから我知らず導き出されたものなのだろう。
    その熱心さが、危険も顧みず犯人を追い詰め、半死半生の目にもあう、過激なアクションシーンを演じることもある。

    彼を取り巻く環境や人々も細かく描写され、今風でないタイプの警官だけれど、何か親しみがわく、警察内でも東洋的な人情など人との結びつきが優しく感じられるのも親しめる要因かもしれない。

    作者のヘニング・マンケルさんは昨年なくなったそうだ。感謝とお別れを

  • 北欧のミステリー、クルト・ヴァランダーシリーズの第1作目。紹介されたので今後このシリーズは読むつもりです。

    さて、事件そのものは割とすんなりちょっとあれ?っと思ってしまうほど。
    クルト・ヴァランダーの情けない日常と対比するほどに鋭く冴えた刑事魂、そこら辺がこのシリーズの着眼点かな?それともこれからだんだん魅力を増してくるのかな。

  • 妻に出て行かれ、娘とは連絡が付かず、一人暮らしの父には老いの陰がみえ、自分は一人になってすっかり太ってしまった中年刑事と残忍な農家の老夫婦殺人事件。事件の方は奇天烈ではないオーソドックスな感じ。事件を追いながら、食事をし、家に帰り、自分の不運に涙ぐむ…という刑事の毎日のシーンのほうが面白かったです。

  • 星3,7です。スウェーデンの片田舎で起こった老夫婦の殺人事件を追う推理小説。中だるみがなくすごいスピードで読めた。訳者も上手なのだろう。
     けど、事情があって途中、読書を中断したら登場人物が錯綜してしまって、少し困惑した。外国の本を読むといつもそうではある。けど、ストーリーはしっかりと頭の中に残った。意外な展開というわけでもなく、作中に頻繁に登場する人物が犯人という設定でもなかった。人間臭さのある刑事も良かった。んでも、旦那がいる女の人に「分かれて俺と一緒になってくれ」なんて…いけませんよ。ねぇ

  • オリジナルのタイトル”Mördare Utan Ansikte”、どういう意味なんだろうと思って辞書を引いたところ、顔のない殺人者、という意味だった。
    犯人はいて勿論『顔』がある。けれど、犯人をそうするように駆り立てたものーー国の制度、仕組み、移民問題ーーもある意味では『犯人(原因)』で、それには『顔』がない。……よな、とか考えたりした。

    国が抱えている問題を軸にして展開される重厚な物語。読み終えた時の(いい意味での)疲労感。
    ヴァランダーのシリーズをもっと読みたくなった。

    しかし、クルト・ヴァランダー、プライベートがとことん行き詰まっているし、ひどい怪我をするし、急いでご飯食べたりして結構お腹こわしてるし……大丈夫か!?と心配になった。これで職場の人間関係がギスギスしてたら(辛すぎてとても読み進められなかった)……そうじゃなくてよかった。

    父親の問題のくだり、それについて姉と話している場面はとても苦しくなってしまった。

  • 何年ぶりかの再読。スウェーデンといえば独自のコロナ対策であるが、私はそれは「老いたら死を受け入れる」というポジティブな死生観に裏打ちされたものだと思っていたけれど、本作での若い記者の発言「今日のスウェーデンで老人のことをかまう人間などいないということですよ」を読み、若干印象が変わった。移民問題がクローズアップされている本作であるが、サブテーマは「老い」と言っても良いだろう。〈死ぬのも生きることのうち〉。

    人口890万人の国で(東京都は約1400万人)200万部を売れたのは、やはり移民問題への関心の高さの現れなのだろうな。我々日本人は遠い国のエンタメとして消費しているけれど、本国ではもっと重くデリケートな読まれ方をしていた(いる)作品なのではないかと思った。

全102件中 11 - 20件を表示

ヘニング・マンケルの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×