夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書) (創元推理文庫 M き 3-2)

著者 :
  • 東京創元社
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感想 : 300
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488413026

感想・レビュー・書評

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  • どんなミステリーなのか?と思いながら読み始めたけど、死体も殺人もないのになんと面白い。こんなほのぼのしたミステリーもありだなぁと目から鱗の少説です。このシリーズ是非とも読みたくなってしまいました。

  • 「空飛ぶ馬」の続編。
    人死にが出ない日常派ミステリの代表格のように思われる本作ですが、初めて読んだ時は「なんだかぼんやりとしたミステリだなあ」と失礼な感想を抱いてしまいました。

    今回は「朝霧」まで読み通しての再読なのですが、ああ、なるほどこれは「私」が、彼女を取り巻く人々とのかかわりの中で成長していく話なんだと。本来主役級であるはずの円紫師匠は、正子や姉と同じ、彼女に影響を及ぼすキャラクタの1人なんだと。そういう物語である事をようやく理解し始めています。

    時を経て知っていくもの、知ってしまうもの。大人になっていく事の難しさ…と書いてしまうとなんだか中学生日記みたいですね(笑)。読み進むにつれじわじわと何かが染みてくる1冊です。

  • 何故、書店に陳列されている本の数冊が逆さになっているのか?
    何故、チェスのクィーンの駒が冷蔵庫に入っていたのか?

    ミステリの一ジャンルとしての存在感を不動のものにした、死体の出てこないミステリー(言い方…)・「日常の謎モノ」です。

    そっち系は敬遠しがちな私でも、一冊くらいは代表作読んどきたいなァと思いつつ早幾年(どんだけ避けてたん…)。

    ようやく読むことができました。
    ベテラン・北村薫先生の代表作、円紫シリーズです。

    北村作品とのファースト・コンタクトを何故かクィーンのパスティーシュで果たしてしまうという残念な出会い方をし、あまつさえそのパスティーシュものへの評価だけで、

    「うーんイマイチ!この作家は当分保留!」

    と、代表作を読まずに判断するという暴挙に出たのが数年前。あの時は私も若かった…←

    会話の端々に昭和を感じたし、文章全体から感じる雰囲気は、何だかテキストみたいな生真面目さを終始まとっているように感じました。端的に言うと大時代な文章に感じた←

    なんかね、固かったんだよな…嫌いじゃないと思うんだけど…読むタイミング悪かったのかなあ(悩

    一番引っかかったのは、

    テーマ(謎)はライトなのに、
    主人公の趣味や口調はいぶし銀。

    っていう違和感でしょうか。

    著者の最新文庫(月の砂漠をさばさばと)は良かっただけに、ミステリでハマれなかったのはちょっと残念。
    うーん、他の作品でリベンジかなァ。

  • 『空飛ぶ馬』に続く「円紫さんと私」シリーズ第2弾となる連作短編。

     日常の謎としてももちろん良い作品ばかりなのですが、今回の短編集の裏テーマは恋愛と”私”の姉妹関係だと思います。

     一話目「朧夜の底」でそのお姉さんが初登場。かなりの美人さんみたいなのですが、一方で”私”はどこかお姉さんに気後れみたいなものを感じているのかな、などとも思わされます。
     そして、”私”のちょっとした恋心もなんだかくすぐったいです。この辺の心理描写の細やかさは北村さんならでは!

     そして、日常の謎としては「本屋さんでなぜか逆向けに並べられた本の謎」がテーマ。情景を想像するとなんだかかわいらしくて、子どもがやっていたら、迷惑だけどほほえましいなあ、なんて思っていたのですが、円紫さんの推理が導き出した犯人像は、何とも狡猾なものでした。

     そして、円紫さんの推理を聞いて、”私”が顔もわからない犯人について思いを巡らすのですが、これが非常に的を得ているように思います。犯罪を犯さない程度に倫理を踏み越える冷徹なその表情……。表面に現れない人の裏の顔を想像させられました。

     二話目「六月の花嫁」は”私”が友人の別荘にいったときの不思議な事件の真相を、円紫さんが推理するもの。

     本格ミステリらしいロジックもあり、聞いてる方が照れくさいような、真相があったりと、とても爽やかな短編です。

     そして表題作の「夜の蝉」”私”の姉の三角関係をめぐってのドラマとなります。

     こちらも一話と同じく人の悪意を感じる作品でもあります。言葉にできない、ふと魔が差したとしか言いようのない悪意も、そしてためらいもなく嘘をつく、明確な悪意も、一つの謎から浮かび上がってきます。事件の構図と悪意の絡ませ方が秀逸です。そして、円紫さんの落語のエピソードも、こうした悪意の理解の一助になっているのもまた巧い。

     そして、姉と”私”の姉妹関係にも注目。私は子供の頃よくお姉さんにいじめられていたらしいのですが、あるときを境にお姉さんはいじめるのをやめたそうです。

     それがラスト、タイトルの意味と共に明らかになります。その瞬間、本を読んでいく中でどこかぎこちなく感じていた、”私”の姉に対する心理描写が、雪解けを迎えたように溶けてなくなってしまうのです。この瞬間が、読んでいてたまらなく愛おしく、そして優しく感じました。

     自分にも妹がいます。男と女の兄妹なので、一様に比べられませんが、自分たち兄妹の子ども時代や現在の関係性にも少し思いをめぐらせてしまいました。

     日常の謎としてももちろん良い出来ですが、”私”をめぐる人間関係に、より面白味と深みが出てきた作品だったと思います。

    第44回日本推理作家協会賞
    1991年版このミステリーがすごい!2位

  • 「太宰治の辞書」から一気に思い立って遡る旅をしている。
    遡っているのであるから『私』は当然、どんどん若返ってゆく。そして何たることか、こんなにもリンクしあっていたのだ。「秋の花」では悲しくも登場人物となってしまった少女や気の置けない友人たち。その後をたどる旅ではないそれ以前をたどる旅なのだ、初めから。
    今回は噂の姉上もスッキリとそのたたずまいを表してくれた。

  • 『円紫さん』シリーズ第2弾。女子大生の〈私〉と噺家の春桜亭円紫師匠が活躍する。鮮やかに紡ぎ出された人間模様に綾なす巧妙な伏線と、主人公の魅力あふれる語りが読後の爽快感を誘う。俳句の季語で、「七夕」秋!だとは!!真夏真っ盛りかと?。旧暦・・・時代劇はよく読むけど意識してないなぁ。落語を知っていると面白いですね。次巻『秋の花』(東京創元社、1991年) - 初の長編作品。

  • 本を呼吸するように読み、落語などを愛する
    国文科の学生である「私」。
    その「私」を取り巻く、二人の友人や、美人の姉。
    彼女たちがふと出会ったささやかな不思議を
    落語家・春桜亭円紫は鮮やかに解き明かす。
    魅力的な登場人物たちの人間模様と、
    その中で少しずつ変化していく「私」の内面が
    やわらかな文体によって巧みに描かれる。
    北村薫の第二作品集。

    処女短編集「空飛ぶ馬」はずいぶん前に読んで、
    つまらなくはなかったのだがあまり印象に残っておらず、
    北村薫の作品は今まで手にとってこなかったのだが、
    「空飛ぶ馬」を読んだときより自分が成長したのか、
    今回この「夜の蝉」を読んで、
    独特の文体がかもし出す雰囲気の虜となってしまった。

    これといって派手ではないシーンが
    実にやわらかな文体によって描かれ、
    ゆるやかに進んでいく優しい物語。

    その中で描かれるのは、友人の結婚や、
    どことなく心理的な隔たりを感じていた姉との和解、
    そしてそういった出来事を通して
    かすかに、だが確実に変化していく「私」の内面である。

    決して派手ではない。
    派手ではないが、優しく心が包み込まれるような、
    そんな静かな感動が味わえる。

    また、やわらかな文体によって包まれているが、
    隠れているものは硬質なものであって、
    文体をなぞっていてたまに直に伝わってくる
    それらの硬い感触がスリリングでもある。

    ミステリとしての構成が一番綺麗なのは
    真ん中に収録されている「六月の花嫁」だろうが、
    「朧夜の底」「夜の蝉」も決して外せない。

    自分では決して書けないであろう文章が
    新鮮な驚きをもたらしてくれる、
    個人的にはとても大事にしたい作品。

  • 穏やかな作風の中にほろ苦さがある。
    2人の友人と姉。
    女性陣を取り巻く不可思議な出来事を、円紫さんが鮮やかに解き明かす。
    美しい文章で綴られる心の機微に時折胸が苦しくなった。
    特に表題作が印象的で、姉の苦い恋と「私」との関係性に涙が出そうだった。
    意外な思惑が潜む他2篇も好きだったな。

  • 円紫さんシリーズ#2。表紙の髪が伸びている。
    1作目につづき、こちらもおもしろかった。謎解きでもあり、成長物語でもある。
    女子大生の私と同じように、喫茶店でケーキセットを食べながら味わいたい。

  • “私と円紫さん”シリーズ第二弾。
    前作「空飛ぶ馬」からさらに良くなってる!


    『夜の蝉』 北村薫 (創元推理文庫)


    本の扉には「時の流れに」と書かれている。
    北村さんの作品には「時の三部作」もあるし、“時”について何か強い思いが感じられる。

    大きな時間の流れの中で私たちは生きているけれど、惰性というか、ついつい流されっぱなしになってしまう。
    そんな時ちょっと立ち止まって時をひと掬いしてくれる、北村さんの小説はそんな感じがする。

    さて、「朧夜の底」は怖い話である。
    本屋で“本の内容を盗む”という目に見えない犯罪。
    考えたこともなかったなそんなこと。
    自分が悪いことをしているとは思っていないかもしれない顔の見えない犯人。
    じわじわ怖さがやってくる。
    あのいつもニコニコしている円紫さんが、「何だか疲れたような表情」をしているのが、この事件のやりきれなさを物語っている。
    目に見えない犯罪だから誰にも裁くことはできないけれど、またもしかして同じことが繰り返されるかもしれず…。
    怖いです。

    さて、次の「六月の花嫁」は、打って変わってほのぼのテイストの謎解きから江美ちゃんの結婚へとつながるハッピーなお話。
    あんまり詳しく書かれていないにもかかわらず、なぜか存在感のある吉村さん。
    気になります。
    きっといい人なんでしょうね。

    そして最後は「夜の蝉」。
    これはねーすごかったー。
    私にとっては、ですが。
    本来の謎解きよりも姉妹のことに目がいってしまってさ。
    私も二人姉妹なので。

    主人公の「私」には姉がいるのだが、二人は子供のころ仲が悪かった。
    姉は妹をいじめ、妹は姉に怯えて暮らしてきた。
    その姉が、ある事件をきっかけに妹に優しくなる。
    それが“夜の蝉”。
    夜に部屋に飛び込んできた蝉を怖がる妹が、姉にしがみついて助けを求めた時、姉は姉としての運命を受け入れることができたのだ。

    妹が生まれたとたん、“姉”というわけのわからないものにされてしまい、自分に素直になることがどうしても出来なくて、羨ましいと思う気持ちや憎しみや愛おしさや、いろんなものがないまぜになった感情は、すれ違ってばかりでかみ合わなくて…。
    どちらも悪くないのにね。

    「人間が生きていくということはいろんな立場を生きて行くこと。拘(かか)わりや役割というものを理屈でなく感じる瞬間が必ず来る」

    と、この姉は言う。

    本の扉の「時の流れに」は、そういう意味もあるのだろう。
    時が解決してくれるというのはよく言われることだけど、時でなければ解決できないことが確かにあるな、としみじみ思った。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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