夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書) (創元推理文庫 M き 3-2)

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  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488413026

感想・レビュー・書評

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  • 「円紫さんと私」シリーズの第2弾は、大学3年になった「私」の春から夏にかけての3編の物語。

    今回も円紫さんの推理は冴えわたり、小さな事件は見事に解決される。この作品の魅力は、そんな日常を経て「私」が一歩一歩確実に成長していく過程をつぶさに見られることにあるのかもしれない。

    「朧夜の底」では人の心の闇にゾッとし、「夜の蝉」では人の嫉妬や悪意に触れ心痛める「私」。
    けれど、そんな昏い部分にもしっかりと向き合い、まっとうに生きていく「私」の姿に勇気づけられるのだ。

    幼い頃からずっと感じていた姉との間の壁のようなものが、「私」が大人として姉のことを慮れるようになったことで氷解し、やっと素直に愛情を感じるラストの一言がなんとも嬉しい。

  • 謎解きよりも心惹かれるのは、自分が興味を持つものに共感してくれて、なおかつ、確かな知識と教養をもつ人との会話。こういう幸せな時間こそが、自分を高めてくれるものなのだろうなあ。

  • 『空飛ぶ馬」に次ぐシリーズ二作目。
    前作と同様に、日常の謎を題材にした連作短編集です。

    収録作は三編と少ないですが、一つ一つの作品が長めになり、じっくりと読ませます。

    全体的に穏やかで優しい雰囲気なので、嫉妬や悪意といった負の感情が露わになる瞬間が鮮烈でした。

    その一方で、主人公の成長過程が描かれているので、シリーズものとして読む楽しさも味わえるのではないでしょうか。

    情景描写の美しさに加えて、心の機微の表現が巧みで、作品ごとに違った余韻が残りました。

  • 1巻は作り込まれた登場人物の青春ミステリという形式が面白味だった
    今回も同様の高い水準を維持しているが
    今度はその作っているところがはなについた
    ミステリはつくるものだから良いが
    それを青春ものにそのまま拡張すると無理がある
    そこを強引にしかし絶妙技巧で接続するのが本作なので
    これ以上どうしようもないか

  • シリーズ2作目も面白かったです。
    人間の複雑さを感じました。
    主人公が小さく、恋愛についても考え始めるのが、時間の流れを感じさせます。
    お姉さんも華やかな人、と思っていましたが複雑な人でした。
    正ちゃんお幸せに。続きも楽しみです。

  • 北村薫の『私と円紫さんシリーズ』一作目の『空飛ぶ馬』をこの1月に再読したのをきっかけに、同シリーズ二作目の『夜の蝉』も手に取ることとなった。所収作品では、それぞれ駿河台(朧夜の底)、軽井沢(六月の花嫁)、新潟県弥彦(夜の&蝉)が主な舞台となり、主人公《私》の大学2年生の3月から3年生の8月頃までが描かれる。とりわけ表題作『夜の蝉』は秀逸であり、旅先で5歳差の姉妹が心情を露わにし、それぞれ姉であり妹であることを自覚し、互いの関係の絶対性を受け入れてゆく過程は感動的ですらある。推理小説としてのトリックと落語の落ちを絶妙に融合させる北村氏の技法が本作で益々冴えわたる(1990年刊行)。

    人間が生きて行くってことは、いろんな立場を生きて行くってことだろう。拘わりとか、そういったことを理屈でなく感じる瞬間て必ず来るものだと思うよ。

  • 前作よりもミステリ、主人公の成長物語としての側面が深まり、面白く読むことができた。とりわけ表題作の姉と妹との関係や官能的表現は蠱惑的でさえあった。

  • 大学生の「私」にとってクラスメイトであり、親友でもある「正子」と「江美ちゃん」、そして美人で器用な「姉」の3人の人柄がさまざまな出来事とともに語られる。
    正子がアルバイトをする本屋で、本の上下が逆になっていることを見つけた「私」は、落語家円紫さんに相談する。その際円紫さんから、正子が誕生日や星座を教えない理由を知らされる。
    江美ちゃんに誘われてお嬢様の別荘の冬支度に出かけた「私」は、チェスのクイーンが消えた理由を探る。円紫さんから、江美ちゃんとクイーンの関係を教えてもらう。
    姉と妹の関係は複雑である。あるとき姉は妹の存在をライバルから守護し愛する者へと認めた。妹はそんな姉の微妙な変化に気づかなかった。なぜなら姉はいつでも敬い慕う相手だったから。

  • ほっこりしてはいるものの、今回は少しイヤミス。『夜の蝉』では、主人公のお姉さん自体、あまり好感度の高いキャラではないけれど、それを取り巻く職場の同僚達がそれぞれに人間の嫌な部分を少しずつちらつかせている。

    『朧夜の底』では親友のしょうちゃん、『6月の花嫁』では同じく江美ちゃんがストーリーに深く関わっている。さばさばしたしょうちゃんもいいけれど、ぽっちゃり太めでおっとりしていて、お姫様のような江美ちゃんのキャラはなんともいいなぁと感じた。

  • 再読。3編の短編集。江美ちゃんの結婚には当時もとても驚いた気がする。うっすらと覚えていた。でも早い結婚も江美ちゃんらしい。今回のは円紫さんの推理というよりも、それ以外の話の方が重要というか。もはや推理小説と呼んでいいのか、という感じ。もう20年以上も前なので、時代は感じるけど、早々みんな恋愛が近くにあるわけじゃないよな。表題作のお姉さんの話も面白かった。姉妹というのはまた男兄弟と違うのかも。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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