夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書) (創元推理文庫 M き 3-2)
- 東京創元社 (1996年2月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488413026
感想・レビュー・書評
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「円紫さんと私」シリーズの第2弾は、大学3年になった「私」の春から夏にかけての3編の物語。
今回も円紫さんの推理は冴えわたり、小さな事件は見事に解決される。この作品の魅力は、そんな日常を経て「私」が一歩一歩確実に成長していく過程をつぶさに見られることにあるのかもしれない。
「朧夜の底」では人の心の闇にゾッとし、「夜の蝉」では人の嫉妬や悪意に触れ心痛める「私」。
けれど、そんな昏い部分にもしっかりと向き合い、まっとうに生きていく「私」の姿に勇気づけられるのだ。
幼い頃からずっと感じていた姉との間の壁のようなものが、「私」が大人として姉のことを慮れるようになったことで氷解し、やっと素直に愛情を感じるラストの一言がなんとも嬉しい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
謎解きよりも心惹かれるのは、自分が興味を持つものに共感してくれて、なおかつ、確かな知識と教養をもつ人との会話。こういう幸せな時間こそが、自分を高めてくれるものなのだろうなあ。
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『空飛ぶ馬」に次ぐシリーズ二作目。
前作と同様に、日常の謎を題材にした連作短編集です。
収録作は三編と少ないですが、一つ一つの作品が長めになり、じっくりと読ませます。
全体的に穏やかで優しい雰囲気なので、嫉妬や悪意といった負の感情が露わになる瞬間が鮮烈でした。
その一方で、主人公の成長過程が描かれているので、シリーズものとして読む楽しさも味わえるのではないでしょうか。
情景描写の美しさに加えて、心の機微の表現が巧みで、作品ごとに違った余韻が残りました。 -
1巻は作り込まれた登場人物の青春ミステリという形式が面白味だった
今回も同様の高い水準を維持しているが
今度はその作っているところがはなについた
ミステリはつくるものだから良いが
それを青春ものにそのまま拡張すると無理がある
そこを強引にしかし絶妙技巧で接続するのが本作なので
これ以上どうしようもないか -
北村薫の『私と円紫さんシリーズ』一作目の『空飛ぶ馬』をこの1月に再読したのをきっかけに、同シリーズ二作目の『夜の蝉』も手に取ることとなった。所収作品では、それぞれ駿河台(朧夜の底)、軽井沢(六月の花嫁)、新潟県弥彦(夜の&蝉)が主な舞台となり、主人公《私》の大学2年生の3月から3年生の8月頃までが描かれる。とりわけ表題作『夜の蝉』は秀逸であり、旅先で5歳差の姉妹が心情を露わにし、それぞれ姉であり妹であることを自覚し、互いの関係の絶対性を受け入れてゆく過程は感動的ですらある。推理小説としてのトリックと落語の落ちを絶妙に融合させる北村氏の技法が本作で益々冴えわたる(1990年刊行)。
人間が生きて行くってことは、いろんな立場を生きて行くってことだろう。拘わりとか、そういったことを理屈でなく感じる瞬間て必ず来るものだと思うよ。 -
ほっこりしてはいるものの、今回は少しイヤミス。『夜の蝉』では、主人公のお姉さん自体、あまり好感度の高いキャラではないけれど、それを取り巻く職場の同僚達がそれぞれに人間の嫌な部分を少しずつちらつかせている。
『朧夜の底』では親友のしょうちゃん、『6月の花嫁』では同じく江美ちゃんがストーリーに深く関わっている。さばさばしたしょうちゃんもいいけれど、ぽっちゃり太めでおっとりしていて、お姫様のような江美ちゃんのキャラはなんともいいなぁと感じた。