トマシーナ (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488560010

感想・レビュー・書評

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  • 現在創元推理文庫から新訳で出ているらしいが、私が読んだのは旧版。あらすじを読んでてっきり重い話かと身構えていたが、矢川さんの訳文の優しさもあり、あまり息苦しさを感じなかった。
    主人公は動物嫌いの獣医、マクデューイ。は運ばれてきた動物に手の施しようがないと見て取ると、飼い主の気持ち等まるで斟酌することなく安楽死を提案するような人間。まあ彼が動物嫌いになったのにはそれなりに理由はあるし、腕はいいようなのだが、動物への愛情はまるでない。
    そんな彼にも溺愛する娘がいる。彼女が飼っている猫の名が「トマシーナ」。そのトマシーナが体調を崩したとき、彼と娘の間に決定的な亀裂が入ってしまう。

    意外に哲学的な内容が多くて、なかなか考えさせられた。生と死とか、神の存在とか。とにかく丁寧な心理描写がとてもよかった。特に子供たちの心の動きがとてもリアルだった。また登場人物も皆それぞれに魅力的で、冷酷な心を持ったマクデューイですら憎めない。
    個人的にはアンガス牧師がよかったな。メアリ・ルーダと言葉を交わすときも一人の人間として真摯に向き合っている姿がよかった。子供からしてもこういう大人は信頼できるだろうな。
    あとは猫の語り口調が面白く、重いテーマの中で息抜きできる部分だった。

    同著者の「ジェニィ」も猫を扱ったものだとか。また読んでみようかな。

  • 前に同著者のジェニィを読んで、ずっと気になっていた本。
    トマシーナという猫の物語。
    いや、偏屈な獣医の物語なのかも。

    猫の賢さ愛らしさが溢れ出る感じでした。猫かわいい。

    それから、たくさんの愛情を感じられるのがステキでした。
    トマシーナとメアリ・ルーの愛情、ローリの動物に対する愛情、アンドリューのメアリ・ルーに対する愛情。牧師さんの優しさ慈悲深さも印象的。
    宗教のない偏屈な獣医の心の変化が出来すぎてるように感じられもしたけど、ファンタジィだしいいかな。

    しかし猫かわいい。
    基本上から目線なところがかわいい。
    心を入れ換えたんだから獣医にも優しくしてやってほしい。

  • 図書館でなにかを借りようと思い立って30分。作者の手がかりもつけずにぐるぐる回って、手にとって、なんとなく借りた一冊でした。
    前作、と言うか関連した本があるようですが、ジェニィはあいにく読んだことがありません。
    題名にもなっている猫のトマシーナはいろいろ言い訳を並べながらメアリ・ルーが好きなことを七割くらいしか認めない感じ。認めないだけで、好きなんだろうなあ、ってむずかゆく思っていると、殺されてしまった。
    結果的にいうと、そうなんじゃないかなあ?って思っていました。推理小説でもなんでもないから、展開はなんとなく読めるものでした。
    それでも訳者による言葉の表現はツボ。細々したものがとてもきれいで、意地悪く読まないでいい、いい訳だと思う。なんとなく。
    自分は無宗教だけど、当然のようにすがって、これが貴方のご判断ですかと諦めさえし、喜びには盛大に感謝するという、宗教とか、いわゆる自分だけの陶酔するくらいに神を持つ人って強いよなあとしみじみと感じたわけです。
    こういうのって俺だけでしょうか。でもたのしかった。そして先生の恋の俺様っぷりは笑った。あの人自分勝手。でも嫌いじゃないんだよな、とクロロホルム嗅がない立場だからこその牧師目線。
    好きな話でした。

  • ニュースでやっていた、遺産を贈られたネコの名前が似ていて(「トマシーノ」)、思い出しました。同じ作者の「ジェニイ」と並んで、猫好きな人なら楽しめること間違いなしの一冊。僕はさほど猫好きじゃないけど、語り部ポール・ギャリコのすごさに舌を巻き、楽しく読みました。

  • 死と生の物語

  •  ポール・ギャリコの作品を紹介するのは、2回目です。
    実は、この2作品を読む前に、ジェニィという作品を読みました。
     ジェニィは、少年ピーターが、交通事故にあったことが切欠で、何故か白い猫になってしまうことから始まります。その後は、白い猫になってしまったピーターを主人公に話が展開するのです。とは言っても、決して子供向けのファンタジー小説ではなく、そのスピーディーな展開は、読む人の気持ちを掴んで離さず、先に先にと読み進みたくなってしまうほどの内容です。特に猫好きの皆さんの中では評価の高い作品ですが、このBlogで紹介するのは躊躇していました。
     このトマシ―ナも、猫であるトマシ―ナが主人公の内容だと思って読みはじめましたが、実は、妻を亡くし、スコットランドの片田舎に移り住んだ獣医師マクデューイ氏が主人公です。獣医師であるにも関わらず、動物に愛情も関心も抱かない彼は、ひとり娘メアリ・ルーが可愛がっていたトマシ―ナの病気に手を打とうともせず、安楽死を選びます。それを機に心を閉ざすメアリ・ルー・・・

     しかし、町はずれに動物たちと暮らし、魔女と呼ばれるローリとの出会いが、頑なな父を変えていきます。父と娘に愛が戻るのはいつ?

     トマシーナは、流山おおたかの森の紀伊国屋に売っていなかったので、
    東京の丸善にまで買いに行きました(アマゾンで買えって言わないで!
    紀伊国屋さん暖簾に恥じない品揃えをお願いします)。
    ジェニィに比べるとスピード感というか、スリリングさでは劣りますが、
    人の心の問題に深く入り込んだ重厚な内容に心を打たれます。
    この物語ほど複雑ではないかもしれませんが、私たちの人生にも
    複雑な問題が絡まっており、私たちは問題の原因が相手にあると
    思いがちです。しかし実は多くの場合、問題の原因は自分自身にあり、
    無意識の拘りを解いてくれる人とさえ出会うことができれば、簡単に
    解消することも少なくありません。あなたの魂を救うために・・・

  • この間ねこだましいを読んでこの作品が紹介されていたので読んでみました。面白かったです。
    最初主人公はメリールウかトマシーナだと思ってたんですけれども実は主役はお父さんでしたね。まあそりゃあその人物が一番作者に近い人物だと思うし書き易いかな。

    子供と大人の感覚の差、と言うか受けるショックの度合いは違うんだって言うことをまざまざと見せつけられるお話でもあります。でも…まあ仕方ないですね。
    オチはこう来るかな、と言う風にわかりやすいですがそれはそれ。面白かったです。今度ジェニイも読んでみよう。

  • 猫は人に懐くのではなく
    人のために精神的なノブレス・オブリージュで
    人に寄り添い甘えているのかも、と思わされる物語。
    ジェニィの親戚というだけでノックアウト。

    結局「神」や「神仏への帰依」から生まれる「奇跡」が全てか?
    といっているように見えなくもないが
    神や信仰の万能を単純に説いているのではなく
    少しずつつながって、少しずつ重なりあう
    人間の不完全さがこの世界に善や、救いという
    「大団円」を生み出す力なのだと行っているような気がする。

    赤ひげでドクター・キリコな獣医の
    傲慢で不遜な態度と、あまりにも自己正当化が過ぎる考え方
    に誰しも反感を覚える一方で
    世間から自らに注がれる視線や評価に
    我知らず目を背ける弱さに同情を禁じえない。
    一神教のキリスト教の世界と多神教の古代エジプトの思考を挟み
    ある意味滑稽に映る、神である猫の万能感と獣ならではの反応を
    正当化をする心の揺らぎを描き
    種明かしまであっさりしてしまうあたりに
    神の世界に生きていても、人類だけではなく生きとし生けるもの
    に対する作者の「愛」を感じた。

    口調で雰囲気や印象がガラリとかわるので、物語内容ではなく
    原語ではどういう違いがあるのだろうと
    英語で読みたくなる一冊

  • 途中まではすごく面白かったんですが、ラストがいまいち。大団円といえばそうなんですけどね、猫が帰ってきたぐらいで、心の中で殺すほど憎んでいた相手へのわだかまりがあっさり解けるものでしょうか? いくら子供とはいえ、いや子供だからこそ、そんなことはありえないと思うのです。せいぜい、関係を築きなおす糸口程度じゃないかな。
    なにより、神を信じない獣医が、ラストで信心を取り戻す、という部分が興ざめです。キリスト教圏の作品って、どうしてそうなんだろう。

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著者プロフィール

1897年、ニューヨーク生まれ。コロンビア大学卒。デイリー・ニューズ社でスポーツ編集者、コラムニスト、編集長補佐として活躍。退社後、英デボンシャーのサルコムの丘で家を買い、グレートデーン犬と23匹の猫と暮らす。1941年に第二次世界大戦を題材とした『スノーグース』が世界的なベストセラーとなる。1944年にアメリカ軍の従軍記者に。その後モナコで暮らし、海釣りを愛した。生涯40冊以上の本を書いたが、そのうち4冊がミセス・ハリスの物語だった。1976年没。

「2023年 『ミセス・ハリス、ニューヨークへ行く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ポール・ギャリコの作品

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