満鉄調査部: 「元祖シンクタンク」の誕生と崩壊 (平凡社新書 289)

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582852899

作品紹介・あらすじ

満鉄調査部は、ロシア革命から戦争期を通して、それぞれの時代に対応して調査活動の最前線に立ち、日本の国策決定に重要な役割を演じた。満鉄の一機関に収まらなかった調査部とは一体いかなる組織だったのか?調査部の面々は、戦後日本の中でどのように生きたのか?「元祖シンクタンク」の四十年の軌跡を辿り、新史料を基に、「満鉄調査部事件」の真相を炙り出す。

感想・レビュー・書評

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  • 2005年刊行。著者は早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授。満州国(あるいは満州地域)にて国策立案、そのための調査を担当した南満州鉄道調査部の史的な展開と実務内容を解読する。量的にも多くないのでさらっと読める。

  • 新書文庫

  • 歴史的な知識が薄いと理解が進まない。全体像がつかみにくく途中と閉じた。

  • 満鉄調査部が設立されたのは1907年。
    満鉄の機関でありながら、軍の依頼を受けて調査立案活動をしていた。
    日本政府はロシア、ソ連に強い関心を持っていた。

  •  「満州国」と言う言葉は、日本では「残留日本人孤児」等を思い起こす暗いイメージの響きを持つし、中国ではいまだに「偽満州国」という完全否定の評価しか帰ってこないが、昭和戦前期に日本の隣に「国家」として厳然として存在したものである。
     しかし、失敗した歴史を語る人々は少ないのか、「満州国」についての本は少ないように思える。本書はその満州国の「満鉄調査部」を取り上げた本である。
     満州国において国策会社として「満鉄」という巨大コンツェルンが存在し、その一機関として「調査部」というシンクタンクがあり、多くの優れた頭脳が様々な施策を研究・提案していた事実は興味深い。そもそも日本においては「シンクタンク」という頭脳集団は当時ほかにはなかったらしい。
     常々、日本はなぜ中国という大陸にのめり込んでいったのかとの疑問を持っていたが、本書で明らかになっているのは、「満鉄調査部」の活動の対象は、「満州進出の是非」ではなく、「いかにして効率的な国家体制をつくるか」だったようだ。しかし、これだけの知性の集合において、日本の中国進出にブレーキをかける思考は出なかったのだろうか。
     本書では、どのようにすれば効率的に国家体制が整備されるかの分析と計画立案が、詳細に明らかにされている。しかしこれを読むと「計画経済」の社会主義体制とどう違うのかとの思いを持った。
     そうか、これが「近衛文麿」が戦争末期に昭和天皇に「軍内に社会主義者がいる」と主張した背景なのかもしれないと思えた。
     現在から歴史を振り返ってみると、中国において今でも何かあれば吹き上がる「反日の嵐」を見てもわかるように、過去の日本の大陸政策が誤りであったことは間違いがない。では、どこでどのようにして誤ったのかについては、いまだに統一した知見は確立されていないように思えるが、本書は、当時の日本がどのようにして満州国で活動したのかがよくわかる本であると思う。
     本書は、「満鉄調査部」の実態をよく知ることができる良書であると思うが、満州全史を扱っているわけではないので、全体像がよく見えないという点でちょっと不満を持った。

  • 満鉄調査部では当時にしては珍しく,様々な思想の人材が働いていた.それゆえに,軍部には殆ど見られない世界からの視点というものを持っており,レポートなどは後世から見るとかなり妥当性の高い現実的なものであった.

  • 元祖シンクタンクとしての満鉄調査部の誕生から終焉までを解説した本である。満州ではシンクタンクが国策と密接に関わっていた事がわかる。

  • [ 内容 ]
    満鉄調査部は、ロシア革命から戦争期を通して、それぞれの時代に対応して調査活動の最前線に立ち、日本の国策決定に重要な役割を演じた。
    満鉄の一機関に収まらなかった調査部とは一体いかなる組織だったのか?
    調査部の面々は、戦後日本の中でどのように生きたのか?
    「元祖シンクタンク」の四十年の軌跡を辿り、新史料を基に、「満鉄調査部事件」の真相を炙り出す。

    [ 目次 ]
    はじめに―「元祖シンクタンク」としての満鉄調査部
    序章 満鉄調査部の誕生
    第1章 調査機関とロシア革命
    第2章 国益と社益の間で
    第3章 満鉄調査部と日中戦争
    第4章 満鉄調査部事件の真相
    第5章 それぞれの戦後

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  • 2009年103冊目

  • 現在では「情報戦に弱い」といわれる日本。それだけに、かつて保持していた「満鉄調査部」という情報機関がなぜ存在し得、どのような役割を果たしていたのかについての巨視的な分析を期待していたのだが、少々期待はずれだった。調査部の通史の記述が大半を占めていて、「調査部史」という感じ。つまり、人物や事実(職制、組織の変化)の羅列が主であまりおもしろくはない(笑)。なぜこのような情報機関が存在し、かつすさまじい情報収集力を持ち、優秀な人材を集めるに至ったのかという背景についての情報はあまり得られなかった。

    大きな流れとしては満鉄設立直後の調査部誕生→ロシア革命後のロシア研究→満州事変&満州国建国による統治政策立案への貢献→日中戦争勃発にともなう中国情報の収集→調査部であるがゆえの崩壊(規模拡大と自由な発想での研究を進めていたため憲兵隊ににらまれるところとなる)→終戦という感じだろうか。
     基本的には時局に応じて変化する対象を、英知を結集して地道に調査していくという作業の繰り返しだったようだ。当初は満鉄自身の利益追求という視点だったが、日本の中国進出&日中開戦にともなって国益を追求するために調査するという視点が主流を占めるようになっていく。

    すごいな〜と思ったのは、満州国建国後の施政と密接に関係していた点。つまりアメリカに良くある共和党系シンクタンクとか民主党系シンクタンクとかのように、その提言がダイレクトに政策に反映される存在だったということだ。このような政策立案型で、しかもそれを実行に移せる立場にいたという点で、今の日本に欠けている国家直属型?シンクタンクの存在の重要性を示していると思った。満鉄調査部という組織の存在を振り返り、今の日本に公的な情報収集&政策立案機関は必要なのかどうかという議論があってもいいと思う。

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著者プロフィール

1943年東京生まれ。東京都立大学法経学部卒。同大学大学院社会科学研究科博士課程修了。駒澤大学経済学部教授を経て、現在早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授。
著書に『「大東亜共栄圏」の形成と崩壊』(御茶の水書房)、『昭和ファシストの群像』(校倉書房)、『大東亜共栄圏』『日本軍政下のアジア』(以上、岩波書店)、『満州と自民党』(新潮新書)、『満鉄調査部―「元祖シンクタンク」の誕生と崩壊』『ノモンハン事件』(以上、平凡社新書)、『日本近代史を読み直す』(新人物往来社)、『日本の迷走はいつから始まったのか』(小学館)、共著に『満鉄調査部事件の真相』(小学館)、『一九三〇年代のアジア社会論』(社会評論社)など多数。

「2011年 『論戦「満洲国」・満鉄調査部事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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