- Amazon.co.jp ・本 (431ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591124192
感想・レビュー・書評
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だいすきな作品で、またきっと読み返すだろう作品。
歪な恋愛模様をかいているので、その辺りが少し苦しくなる場面もあったが、
日々の暮らしの小さな幸せの数々や、人と関わることの温かさを感じられる。
読みながら、わたしの中で温かい価値観が胸の中で膨らんでいった感覚があり、この価値観を忘れずにいたいと思った。
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読み始めの印象は、なんて光景が美しいのだろう、でした。
水鉢の薄氷、三和土、引き戸、古い木造の日本家屋。火鉢に鉄瓶。ぴりっとした冬の空気まで体感した気持ちになりました。
半ばまで読んだあたりで、私にはちょっとファンタジーが強いかなと思いました。誰もが出会う大切な人とのすれ違いや老いや人の心のどうしようもなさも描かれていて、現実から目を逸らした物語ではないのだけど、描かれる食べ物や出かける先々の風景があまりに美しすぎて。一人暮らしで、こんな食べ物を作ろうと思ったら、とてつもなく手間か、お金がかかるだろうし、期待したほどじゃなかったなんてことも結構起きて、でも、それでもいいか・・・ってやってるのが普通だから。
それでも、現実とされる物に埋もれるのではなくて、美しい物、楽しいことをしっかり感じて、すっと背筋を伸ばすのが粋ってもんだからと、さらにページを繰ってみました。粋と言えば、イッセイさんですね。終盤のイッセイさんとのデートは心に残りました。住み慣れた土地を離れることになるイッセイさんのこれからを思うと、言葉ひとつひとつがとても深く重かったです。
谷中の風景やおいしい物とその季節の移ろいが、人の営みを温かく見守ってくれている、そんなお話でした。 -
谷中でアンティークきもの店を営む栞。日々の生活を丁寧に暮らし、まどかさんやイッセイさんみたいな素敵な方にも恵まれている。客として訪れた春一郎さんとも、次第に惹かれあい、つよく心が結ばれる。本当なら理想的な関係なんだけど、春一郎さんの後ろにいつも感じる妻と子の存在。春一郎さんが心優しく真面目な性格に描かれれば描かれるほど、複雑な気持ちになりました。
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帯には大人の恋の物語と書いてあるけれど、読んでみてとても閉鎖的な二人だけの世界に生きる人達の物語だと感じた。
小川糸さんは食にまつわるお話を多く書かれているのは存じ上げていて今回がはじめて読んだ作品だったけれど、食を愉しみ慈しむ姿勢が文章からとても伝わってきた。 -
着物に昭和に、道ならぬ恋。ちょっと憧れる。春一郎さんは、鈴木亮平のイメージでした。
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久しぶりの読書。
読む時は邪魔されずに一気に読みたいんだよな。
小川糸さんの作品は、ツバキ文具店もそうだったけど、日本の古い文化を使ってくれていて、すごく勉強になるし、ほんわかする。季節の移ろいとそれに伴った行事や縁起物の小物たち。些細なことだけど、昔の人たちはそれを季節の変わり目とともに楽しんでたんだろうな。一つ一つに意味があって、私も日々の生活で昔の人たちが大切にしてた文化を取り入れたいなって思った。最近は色々めんどくさがってしまうけど。
内容は大人のちょっと切ない恋物語だけど、私は文化の面と主人公の住んでる街が谷中なのも惹かれたポイント。昔祖父が住んでた千駄木付近は、よくお散歩にも連れて行ってもらってて、日暮里とか根津、上野近辺の描写はあー!ここわかる!あーそんなのもあったのか。また行ってみたいな。と思わせた。懐かしいから、うちの家族にも読んでもらいたいなぁ。あの谷中の独特な街の人たちや、街の様子が目に浮かぶから。
#読了記録
#小川糸
#喋々喃々 -
この話を読んでいると「孤独」「不倫」「別れ」がちょいちょい前面に出てきますが、不思議にドロドロとした感じがなかったです。それに相反する「純愛」「家族」「出会い」がバランス良く話の中に散りばめてあるからなのか、逆に何故か落ち着いた雰囲気を感じました。結構なことが起こっているけれど、読み進めるにつれ気持ちが落ち着いていくっていう不思議〜。
お散歩するシーンが良く出てきて、読んでいて楽しかった。結末はやっぱりこの展開かー!でしたが、基本ハッピーエンド好きなので良しとします!(目線よ) -
文庫にて再読。
大人になると、いろんな「さよなら」のかたちがあることを知る。たった一言に、祈りを託す。
またね、だったり、二度と会わない、だったり。愛し合ったはずのひとが、知人に戻ったり。
知らなかった頃には、戻れないのにね。
行き止まりの恋、気持ちが離れてゆく瞬間、半身をもがれるような痛み、それでもあすも生きていかねばならないこと。
いろんなことを考えて、嵐のようにぐちゃぐちゃの感情が渦巻いて、そんなこと全然したくないのに、でもそうしなくちゃって、手を振り払おうとする気持ちが痛いほどわかって、声を上げて泣いた。
10年前にはわからなかったこと。
それを知ることができたわたしの人生を愛してあげたい。
10年前、ハードカバーを読んだ時には、不遜にも二度目のイッセイさんとのデートの必要性に疑義を呈していたけれど、今回はその場面のじんわりとした温もりにも触れられ、読書というのはほんとに素敵な行為だ。人生を通じて気づきを与えてくれる。 -
谷中でアンティーク着物店を営む栞を巡る四季折々の移ろいと感情の動き。
ていねいに暮らすこと、日々の己れの感情の動きを受け止めること、
周囲の人をいつくしむこと。自分の気持ちに素直であること。
栞のゆるやかな日々は春一郎さんとであったことで大きな変化を迎える。
いつくるかわからない春一郎さんからの連絡を待ち、不在が少しずつ
栞の中いっぱいに侵食していく。
春一郎さんとの道ならぬ恋愛よりも、まどかさんやいっせいさん、
魅力的なご近所さんとの日々がもう少し読みたかった。