蘇我の娘の古事記 (ハルキ文庫 す 6-1 時代小説文庫)

著者 :
  • 角川春樹事務所
3.79
  • (15)
  • (25)
  • (15)
  • (5)
  • (1)
本棚登録 : 238
感想 : 22
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (437ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758442329

作品紹介・あらすじ

栄華絶頂の蘇我氏が討たれた乙巳の変から数年。緑あふれる野中の里で国史編纂に力を注ぐ父のもと、ヤマドリとコダマの兄妹はすくすくと育っていた。盲目の妹コダマは一度聞いたことはけっして忘れない聡耳の持ち主で、物語を愛する美しい少女へと成長する。だが日本の黎明に揺れる政争が、彼女を数奇な運命へと導いて──。時を越えて愛される日本神話の数々と、激動の世を生きたひとりの女性を鮮やかに描く長篇小説。続々重版した話題作が、待望の文庫化。(解説・三浦佑之)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • いわゆる大化の改新から壬申の乱までを舞台に、権力者に翻弄されながら、朝廷に仕える渡来系の家族の数奇な運命を描いている。古事記が誰によって、どのように編まれ、世の中に出てきたかも大きなテーマになっている。

    タイトルにもある「蘇我の娘」の出自や成長、愛の物語を縦軸に、古事記にも登場する古の伝承を差し込みながら物語は展開する。

    重版を重ねているヒット作ということだが、私にはあまり刺さらなかった。主人公とその兄(血のつながりはない)の恋愛要素が、十分にロマンチックなんだろうけど、私にはそれでも薄味に思えたからだと思う。おそらく、作者は物語を通して、日本書記などの歴史書の不確かさを伝えたかったのだと思う。だけど、私にはそちらの意図が悪目立ちしすぎていて、物語に浸りきれなかったというか。関裕二さんの新書を読んでいる気分になってしまった。★3.5という感じです。

  • 乙巳の変から壬申の乱を舞台に百済系渡来人の一家を描く歴史小説。蘇我入鹿と言えば山背大兄王一族を虐殺し、専横を極めた悪逆非道の人物とのステレオタイプがあった。それは中大兄皇子や藤原鎌足が自己を正当化するために作った歴史である。

    蘇我入鹿は自邸を宮門、息子を王子と呼ばせ、大王に取って代わろうと非難されたとされる。これは根拠のない冤罪とする説が有力である。一方で『蘇我の娘の古事記』の入鹿は、そのようにして当然という論理があった。

    乙巳の変の中大兄皇子も壬申の乱の大海人皇子も相手をだまして権力を奪う存在である。中臣鎌足も下劣な存在に描かれる。関裕二『藤原氏の正体』(新潮文庫、2008年)の鎌足に重なる。

    中大兄皇子は百済復興という無謀な戦いを進め、白村江で大敗した。これは近江朝の汚点になった。敗戦後は唐の圧迫を受け、植民地化の危険があった。再び外国に出兵するのではないかという不安から近江朝の離反者が出た。

    古事記は稗田阿礼が誦習したものを太安万侶が編纂したとされる。『蘇我の娘の古事記』は、そのように伝わった理由も述べながらもそれとは異なる事実を描く。『古事記』『日本書紀』は中国の史書に比べて権力者を正当化する要素が強く、史料価値が乏しいとされる。司馬遷のような歴史を伝えようという歴史家の反骨精神や良心が乏しい。これに対して『蘇我の娘の古事記』では歴史家の反骨精神や良心が少しは感じられる。

  • 古代日本を舞台に、一度聞いたことは忘れない聡耳の持ち主である盲目の娘・コダマの数奇な運命が描かれた時代小説。

    各章の合間に日本神話をはさみつつ、コダマと義兄ヤマドリの純愛、家族との別れ、コダマの「国史」への思いが描かれています。

    古代史好きもそうでない方も一度読んでほしい一冊。

  • 最初、題名だけ見ると、取っ付きにくい(古事記というあたり)感じですけど、読んでみると面白い。

  • ゆきれぽ » 蘇我の娘の古事記 - FMとやま
    http://www.fmtoyama.co.jp/blog/tajima/?p=6863

    古事記のドキドキとワクワク 周防柳『蘇我の娘の古事記』刊行記念エッセイ | エッセイ | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/527282

    蘇我の娘の古事記|書籍情報|株式会社 角川春樹事務所 - Kadokawa Haruki Corporation
    http://www.kadokawaharuki.co.jp/book/detail/detail.php?no=5984

  • 中大兄皇子による蘇我入鹿の暗殺から大海人皇子の壬申の乱を扱い、物語のスケールは大きい。そういった史実に伝奇的要素を加え、さらに男女主人公のラヴロマンスもたっぷりで、歴史物語としての要素は揃っています。
    でも、なんか軽いのです。
    巻末には沢山の参考文献が挙げられているのですが、どこか劇画的な軽さが有ります。主要な脇役として登場する中大兄皇子、大海人皇子、蘇我入鹿、中臣鎌足ら人物像の薄さから来るものでしょうか。重厚な歴史小説を期待してしまった私にはやや肩透かしでしたが、良く言えば軽快でそれを好む人も多いと思います。
    周防柳さん、初読み。読み終わった後で女性だと知りました。なるほど我が家から見ればお隣の大竹市(安芸)→岩国市出身で周防さんですか。そういえば、同じく女性作家の澤田瞳子さんも、よくこの時代を描かれますね。

  • 今いる私と、遠い昔に生きていたかもしれない人。ただ遠い存在のはずなのに、古事記という今に残る触媒を経て、実感を持って近くに感じた。そんな感覚を覚えさせてくれた本。
    (創作とは承知しつつ)
    時々覚えるその感覚を味わうことが、私が物語を読むモチベーションのひとつ。
    以前、奈良へ旅したとき、このまま何回も季節を遡ったら彼らもここにいて同じ景色をみたのだろうかと強く思った。時間も場所も越えられないことが不思議に感じるくらい。我ながらロマンチストだなと思いつつ…説明しづらいこの感覚がやっぱり好き。

  • 大化の改新から壬申の乱そして時がたち古事記が世に出る。
    古事記製作異聞のようなお話。

  • 飛鳥時代、渡来人の家族が主人公。神々の物語を聞いて、感じて、最後はその語り部になる子どもたち。情景が美しくてよかった。1,400年前の大和に咲いてる花は令和でもう見られないものがたくさんあるんだろうな。

  • 大化の改新、白村江の戦い、壬申の乱。そして、天武・天智両天皇が崩御し、持統帝が歴史書をまとめ上げるように命ずるまでの長い物語です。



     日本で最初に編纂された歴史書は聖徳太子が編纂した「天皇記」「国記」と言われていますが、実物が残っていません。彼は歴史上敗者であるからです。そして、残っていないものは歴史では存在したことにはなりません。



     歴史とは常に勝者のものです。上代と言いながらも、それなりに長い時間にかかれたものが、古事記や日本書紀だけということもないとは思います。(万葉集もですが)

     この物語の主人公であるコダマの出生に大きな秘密があり、それが後々大きな苦難として降りかかってくるのですが……。

     冒頭ではお話をねだるあどけない幼子。その子がたくさんの物語を、その身に蓄えていく姿が面白かったです。

     そうして、彼女がその心打ちにためていったものが古事記になる。おもしろい



     実際のところ、古事記の作者である稗田阿礼についての記録はありません。誰かもわからない。

     

     この作品は各章の合間に古事記にある恋物語が様々な人物に語られるという形で挟まれています。

     こーいうのは憎いなぁと思いながら、この話は子供の時からすきだったなぁとか、(さすがに子供向けの古事記はかなり小さいころに読んでます、いくつくらいだったろう? おぼえていない)イナバの白兎にこんなに意地悪しなくてもいいじゃないかとか(笑)



     その辺りも面白かったです。あー、やはりこの時代は楽しい。



     梅原猛さんなどは古事記は持統帝のためにかかれたものではないかということを言われていたようですが、確かに、この物語は女性が読んだ方が楽しいんですよ。日本書紀もすきですが、どちらかを選べと言われれば古事記を取ると思います(苦笑)



     それがこうした形で小説になると、私にはとても楽しく、時間を忘れて読みふけってしまいました。

     

     そう、歴史よりもお話のほうが子供のころから好きでしたから♪

全22件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1964年生まれ。作家。早稲田大学第一文学部卒業。編集者・ライターを経て、『八月の青い蝶』で第26回小説すばる新人賞、第5回広島本大賞を受賞。『身もこがれつつ』で第28回中山義秀文学賞を受賞。日本史を扱った他の小説に『高天原』『蘇我の娘の古事記』『逢坂の六人』『うきよの恋花』などがある。

「2023年 『小説で読みとく古代史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

周防柳の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
上橋 菜穂子
三浦 しをん
辻村 深月
宮部みゆき
ピエール ルメー...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×