文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫 ダ 1-1)

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  • / ISBN・EAN: 9784794218780

感想・レビュー・書評

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  • 20130321読了。
    なぜこの民族は滅ぼされたのか、なぜこの動物は家畜になってあの動物はならなかったのか、致死率の高い病原菌とそうでない病原菌の違いなど、なんとなくわかっているような気がしていたことを、クリアにしてくれる。
    目からウロコとまでは行かないかもしれないが、でもかなり興味深い。

  • この本は「人類社会の歴史は、それぞれの大陸によってかくも異なる経路をたどって発展したのだろうか?」という筆者の疑問について論じたものである。1万3000年前(最後の氷河期の終わり)から現在までの人類史を辿りながら、分子生物学、進化生物学、生物地理学等々・・・といった多様な学問分野の知見を援用し、各時点で生じた歴史的事象について論証していく様は、スリリングで、楽しく読み進めることができる。

    上巻で触れられる主だった問いは、各大陸間で狩猟採集民族から農耕民族への移行時期が大幅に異なったのはなぜか?というものである。この問いに対し、著者は、環境的要因(気候、野生植物、動物の分布、大陸もしくは島々の連なる方向)に主たる理由があると主張する。

    代表的な論拠を挙げると、古代メソポタミアの肥沃三日月地帯では、小麦、大麦、エンドウなどの野生種があり、栽培への移行が可能な状態にあった(実際に約1万年前から栽培が開始されたとみられている)のに対し、同じ温帯に属する北アメリカでは、野生種のあったトウモロコシの栽培に相当の時間を要することとなった。
    この違いは、古代メソポタミア人と北アメリカ先住民の知識差異によるものではなく、単に小麦、大麦、エンドウは表皮が薄く栽培化が容易であったのに対し、トウモロコシの野生種のひとつと推定されているテオシントという植物が、表皮が食べられないほど堅く実が小さかったためである。トウモロコシの食用には、徹底的な品種改良が必要とされ、何世紀もの時間が必要とされたのではないかと、現在も考古学者の間で議論されているという。

    こうした土地による初期条件の差異に加えて、狩猟採集を行うことと農耕を行うことのトレードオフを考慮すると(当然両方を一度に行えないので、より便益の高い一方を優先することとなる)、大陸・地域毎に農耕民族への移行の時期が大きく異なることとなったのは十分に説得力がある。なお、農耕民族への移行の時間的ラグが、文明の発展に以後どのように対応し、現代世界の勢力図に影響を及ぼしたか、については下巻で語られる。

  • 我々が歴史を振り返るとき、現代は進歩していて過去は未開である、と無意識に判断しがちである。ニューギニアの人食い民族は未開な野蛮人で、それらを早く西欧社会の先進国の方向に導かなければならない。そう考えて覇権主義を唱えてきた正義の国だって存在している。

    一方で、素朴な疑問も湧いてくる。圧倒的な栄華を誇ったインカ帝国はどうして少数のスペイン人に滅ぼされたのか。逆に南米からヨーロッパに侵攻する可能性はなかったのか。あるいは、近代まで狩猟採集生活を続けてきた原住民と、産業革命を起こした欧米人を分けた要素は何だったのか。

    『銃・病原菌・鉄』というタイトルのとおり、狩猟採集から農耕へと食糧生産のスタイルが変化するにしたがって、余剰生産物が生まれ富の偏在が発生する。それが階級制度をつくり、やがて武力によって他の民族を侵略する“銃”の要素が生まれる。同様に、農耕によってある程度の人口密度が達成されると、そこに疫病が発生する。早期に免疫を得た民族に比べて、疫病に耐性のない民族は脆い。あるいは、鉄鉱石などの鉱物資源の偏在によっても国力の強さが規定されていく。

    このような環境条件にしたがって、現代社会の構造が成り立っている。世界の多くの地で先住民を追いやったヨーロッパ系民族は、もともとは辺境の異端民族でしかなく、数々の偶然的要素によっていまの覇権構造がつくられていることが理解できる。

    そこには西洋文明が正しいとか狩猟採集生活が間違っているといった判断基準ではなく、環境条件が変化するにしたがって支配的になるライフスタイルも替わるという当たり前の事実が示唆される。謙虚に歴史から学びながら、持続不可能な現代社会をどのように変えていくのか。我々に突き付けられた課題は重い。

  • 高校では歴史を選択できなかったせいもあってか、中学ぐらいの知識しかなかったのですが、この本の視点は非常におもしろかったです。
    そして日常当たり前のようにある食物や家畜などについても整理されていて、気付かされることも多かったです。

    アメリカ大陸やアフリカ大陸が南北に長い陸地であるのに対し、ユーラシア大陸が東西に長い大地であることの反映ともいえる。そして人類の歴史の運命は、このちがいを軸に展開していったのである。

    この一文で表されるところが紐解かれていきます。

  • ニューギニア人の「なぜ欧米の人々は繁栄し、様々な物を生み出しているが、ニューギニアの人々は何も持たないのか?その差はどこにあるのか?」という質問に対して、博士が25年の研究成果をまとめ答えたものがこの一冊である。スペイン人がインカ帝国を滅ぼしたのはよく知られているが、その差が生まれたのは何故か?という疑問に明確に答えてくれるのが本書だと思う。文系的な考察によりがちな歴史学を分子生物学、考古学、言語学の「証拠」を元に論理的に説明してくれる本書は、理系の人にも本当に読みやすくて知的好奇心を満足させてくれること間違いなし!お勧めの一冊である!

  • 歴史は「善悪」で論じるものが多くて辟易している方にお勧めです。,

    日本の本屋に並んでいる歴史に関する本は「侵略戦争は悪いだとか」「自虐史観はけしからん」だとか、純粋に知的好奇心を満たしたい人たちにとって「無価値」な議論をする本が多すぎます。

    一方、学校では、この本で論じているような「なぜヨーロッパ文明が他の文明を凌駕したのか?」「隆盛する文明と消滅する文明の違いは何か?」といった歴史の本質的疑問に答えることなく、「時系列で起きた事象を淡々と述べる」、いかに自国が輝かしい歴史をたどってきたか(特に外国の教科書はそうらしい)」という視点で学ぶことがほとんど。

    翻ってこの本は、「文明度の強い弱い(=進歩の度合い)」はなぜ起きたのか?を地理学的視点・生物学的視点・考古学的視点などを駆使して、素晴らしい説得力で論を展開していきます。

    特に興味深いのは「農業(栽培作物)」「家畜」の問題。例えばアフリカの「しまうま」や「バッファロー」はなぜ家畜化しないのか?家畜化しようとしたのか?そうだとしたらなぜ家畜に出来なかったのかが、述べられています。

    私は、人類の歴史をあえてシンプルに捉えるとすれば「勝つか負けるか」だと思っています。そしてなぜ「その文明・民族あるいは国家が勝ったのか?負けたのか?」に1つの答えを用意してくれたのが、この本でした。

    アメリカの金融危機が全世界を同時に大不況に陥れた現代がたどってきた歴史は、「ヨーロッパ、特にアングロサクソン系の文明が他の文明を駆逐してきたことで起きた事象だと思いますが、これも、その根本的要因が、人種や民族などの人間という種の生物学的要因ではなく、地理的要因にあるということは、非常に興味深い。

    それを象徴するかのように黒人のオバマ大統領が生まれたことも、非常に興味深く思いました。

  • 問題提起の質に感動。なぜ、アメリカ大陸はヨーロッパに征服され、その逆が起こらなかったのか。新たな視点で物事を考えるきっかけをもらえる一冊でした。

  •  これを読んで感銘を受けずには居られなかった。
    まずは、簡単に要約してみた(上下巻込み)。

     初め、人類はみな狩猟採集民族だったが、一部の民族は、栽培種、家畜を入手することで、農耕民族となり、食糧生産能力、人口密度、疫病(病原菌)とその耐性、分業体制から技術の発達が、その集団の大きさに比例して、飛躍的に成長した。
     これら農耕民族が勢力を拡大するとき、人口密度、疫病への体制(病原菌)、軍事力によって狩猟採集民族は簡単に蹴散らしてしまった。そして、南北アメリカvsヨーロッパの戦いでは、その圧倒的な程度の差によって、ヨーロッパに軍配が上がった。
     一方で、その差は何に起因するか?について考察が進められる。技術(作物など含め)の拡散速度から、南北方向の拡散は、東西方向への拡散より遅いこと、その原因として、気象条件の違いがあること、そして、東西方向に長いユーラシア大陸は技術の拡散が早く、最新の技術を素早く入手できる環境にあったことが、その後の社会の発達の差を生んだとまとめている。
     また、栄養価の高い植物を栽培種として得られる環境にあったかどうか、家畜にしやすい動物に恵まれていたかどうか、についても、地理的な要因が大きいとしている。
     つまるところ、民族の優位性という、比較しようのない基準ではなく、環境要因によって、現在のヨーロッパ諸国が世界を支配する現在の社会が生まれたことが説明できるというのだ。
     まず私が思うのが、著者も含め、世界の人々が、なかなか否定できなかったヨーロッパ優位主義から解放されることは、革命的なことである。人類に差はなかったのだ、ただ、環境の違いが、その差を生んだといえるのだから。これで人類は優劣ないのだ、と強くいうことができる。もし差があるとすれば、多くは環境の違いだと。
     一方で、我々は、強い者が勝つ、という、厳しい戦いを、有史以前から行ってきたことを、改めて認知させられた。争うのは、人間の性分かもしれぬ、それを直視しなくては、今後、生き抜いていくことはできないのではと、強く思った。
     栽培種のことも、私が全く知らなかったことだ。自然のものは食べれないのが原則。食べやすい、育てやすい植物に品種改良することで、人類は、食糧生産能力を高め、人口密度を高めていった。今も昔も品種改良とは、選別の繰り返しである。突然変異種なのか劣等遺伝子なのかわからないが、毒がないもの(アーモンドなど)、実が大きいもの(イチゴなど)を選別することで、「人類の都合のよいように」進化させていった。これらも進化論的に語ってよいのだろう。ただ、先日、観賞用に品種改良された「異常な見かけの」鶏のYou Tube動画が公開されていたが、逆に言うと、進化を人間が捻じ曲げてしまった、ともいえるだろう。その動画の気味の悪さは、気づきの観点を変えれば、我々が普段口にしている、お米、小麦、リンゴなどにも向けることができる。私は、動物を屠殺(とさつ)した経験はないが、豚、牛その他の家畜は、徹底的に殺され、人類に食されている。しかしながら、人類に有益であるがゆえに、また家畜であるがゆえに、世界に多くの頭数を数え、人類が絶滅しない限り、絶滅することはないだろう。私が気付いたことは、人口密度を高めていく過程で、人類はすでに多くの自然環境を変えてしまった、ということだった。
     なぜ中国は、ヨーロッパに勝てなかったのか?ということにもエピローグで簡単に触れていた。これも恐ろしい事実を突きつけていた。それは、中国が統一国家で、冗長性がなかったことだ。中央政府が気まぐれに、技術を禁止するということが多々発生していたというのだ。例を挙げれば、航海を政府が中止してしまった一方で、一方のヨーロッパは国家が乱立していたがゆえに、コロンブスを支援してくれる国家が現れ、新大陸発見を先行かれた、とそういうわけだ。ヨーロッパの強さが、個を大切にすることからきているということは強く感じる。中国に文化的に近い、そして、官僚による規制、政府によるお墨付きが大好きな今の日本は大丈夫だろうか?
     でも一方で、環境が変われば、その強さも変わるかもしれない。個を大切にするあまり、民主主義的思想から行き詰まりが生じ、中国のような中央集権的な社会が、圧倒的な人口を持って世界を支配するかもしれない。環境の変化には常に最新の意識を向けておくべきであろう。
     そして、想像は、自分の仕事環境へ。南北アメリカのような技術の拡散が遅い環境では、生き残れない。ユーラシア大陸のように技術拡散が早い環境を構築する必要がある。これはどう読み変えたらよいのか。グローバル化?IT化?。常に最新技術を取り入れ、いろんな人と議論しながら仕事をしなければ、淘汰される、ということを感じずにはいられなかった。
     とにかくいろいろ考えさせられすぎて、寝不足の毎日だった。とにかく、多くの人に読んでいただきたい名著であるといいたい。

  • ボリュームにめげそうになりながらも面白く読了。
    なぜヨーロッパが南北アメリカを支配することになりその逆でなかったのか。
    ある時点で社会的技術的戦力的に差があったからということは認めるとして、その差はいつからどのようにできたのだろうか。それはなぜだろうか。
    フムフム。
    これこそが教養であり歴史を学ぶ意味。高校の世界史、高校が無理なら大学の教養課程で、教科書として取りあげて欲しい本。
    目に見える事象のもう一つ外側を考える訓練になるし、前提を前提としてではなく別の因果関係の結果として読み直す態度が身に付くし、個人と社会の関わりを見直す契機になるし、食べ応えのある本だった。
    長い間読みたいと思っていた本なので、文庫化してくれた草思社に感謝。

  • ヨーロッパによる南北アメリカがピサロやコルテスによる武器のみではなく、持ち込まれた天然痘によってももたらされたことは知っている人も多いはず、本書はそこから出発しながら、ではなぜ大群相手に圧勝できる地域とそうでない地域があるのかと問を転換し、人口密度、気温などから分析していく。基本的に人口が周密でなければ定住農耕に向かないし、集団感染が起きず、したがって集団抵抗を持たない。また、南北と東西の伝播のスピードに差がある点、栽培に向く野生種の植物、家畜化に向く動物の話など、どれも面白い。

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著者プロフィール

1937年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校。専門は進化生物学、生理学、生物地理学。1961年にケンブリッジ大学でPh.D.取得。著書に『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』でピュリッツァー賞。『文明崩壊:滅亡と存続の命運をわけるもの』(以上、草思社)など著書多数。

「2018年 『歴史は実験できるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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