A3

著者 :
  • 集英社インターナショナル
4.13
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感想 : 69
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  • Amazon.co.jp ・本 (536ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797671650

感想・レビュー・書評

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  • 自分が理解できないことは早く世の中から抹殺してしまいたいという世論が先立ち、なぜこんなことが起こったのかという検証がなされないまま事件の幕がおりるのだ、と今さら気付かされた。しかし、なぜという部分を聞くことができなければ、事件の背景をおもんぱかることができない。だから、また同じような事件が起こってもおかしくない。理解できないし理解したくもないことだから、と終わらせる事件など、歴史上の出来事でもありえていないと、確かに思う。

  • 誰もが、オウムは特別だからといいながら、様々な例外が作り上げられてきた。
    あれだけの大事件だったのに、教祖の裁判はあっけなく終わってしまって、そのことに強い関心は向けられない。

    そういうおかしな状況を冷静におかしいと言って見せる著者はすごい。

    自分も、麻原の裁判がどのように終わったのかということはこれを読んでみるまでよくわかっていなかった。無関心だった。

    例外を例外として許してしまうと、いずれそれが前例として援用されてしまう。

    そういう危機意識を、裁判所を含む法律家がなぜ持てなかったのか。
    法律家の使命とはいったいなんなのか。
    法律家以上に、法律家らしいこの発想を説得力をもって提示せしめた著者はすごい。

    この作品の原点『A』はもともとテレビ放送用の作品としての作成が予定されていた。
    しかし、制作会社から中止の指示が出る。
    この事実が、森さんをここまで長期間オウムにこだわらせ続けた原動力になっているようにも思える。
    もし、すんなりテレビ番組として制作を終わらせてたら、そのあとの展開もなかったのではないかと思う。

    マスコミの過剰な反応をみると、つい日本のマスコミは・・・
    と嘆きたくなるけれど、
    マスコミ、特に巨大なマスメディアは市民の鏡でしかない。
    その意味では、市民が変わっていかなければ、マスコミも変わらない。

  • ★謎解きでは、ない★「A」で荒木・広報副部長を通してオウムの個人を描き、「A2」ではオウムと社会の関係に焦点を当てた、と感じていた。「A3」で著者が明言するように、初めて麻原が対象となった。麻原を軸に、なぜあんな事件が起きたのかを探る。

     確かにオウムの事件は肝心なことが何一つ分からない。麻原が公判の途中でおかしくなっているのなら、「吊るせ」という結論にすっとぶのではなく、いったん落ち着いてから少しでも真相に迫れと主張する。その通りだと思うが、最後の公判だけを見た著者と違い、ずっと裁判を見てきた人は麻原がいずれにせよきちんとした答えを述べることはないと感じているのではないだろうか。もちろん、だからといって刑事訴訟法のルールを曲げてよいわけではない。

     麻原はブラックホールのようなレセプターで、それが好む情報を弟子が無自覚に捏造して伝え、麻原の危機意識が肥大していった。そういう「弟子の暴走」が事件の背景だと著者はまとめる。間違いではないだろうが、「空虚な中心」のような分析は美しすぎる。そう書いた途端に肝心な何かが抜け落ちる。主治医だった中川が言うように、麻原は毎日2時間は修法するように自分の精神世界を信じていた化け物だった。もはや誰にも分からないが、ブラックホール以上のものがあったはずだ。もうひとつ、著者の水俣病へのこだわりは、その有無の検証が困難なことも含め、推測が勝ち過ぎているように思える。現場に行くと確かに圧倒されるが。

    【追記】小菅の拘置所の近くに行った。未決拘留者と、刑の執行前という理由で死刑囚が共存するのを外から見るのは、ある種の矛盾に直面し胸のムカツキを覚えた。それ以上に、隣接する立派な公務員住宅は実質的に拘置所と同じだろう。あれはつらい、暮らす人にとっても。

  • オウム真理教が何を目指していたのか、どうして地下鉄サリン事件が起きたのか、私は知りたい。
    裁判というのは罪を犯した人に罰を与えるためにだけあるのではなく、なぜ罪を犯すに至ったのかを解明することが重要なのではないのか。たとえ何年かかろうとも。

  • 事件の全貌どころか、いまだその動機さえわからないまま、事件はすでに風化し始めている。
    忘れてはいけない。眼をそらしてはいけない。
    なぜなら、この事件を通じて僕たちの社会が見えてくるのだから。

  • この本を読み終えると一種の虚脱感に襲われます。内容の濃さと量の多さもさることながら、日本の社会に彼らの痕跡が今、ものすごい勢いでかき消されているということがよくわかりました。

    昨日、この本をやっとこさ読み終えたばっかりなんですけれど、あまりに濃い内容でしばらく頭がほうけました。これを連載していたのは今はもうなくなってしまった『月刊プレイボーイ』の日本語版で、僕も断片的には連載時に読んでいたんですけれど、いつの間にか廃刊になってからは、僕もこの存在をしばらくの間忘れていて、これがこうして単行本化されたことには、本当にうれしく思います。

    「A」と「A2」が映像化されているのに対して、今回この「A3」が活字のみというのは、前二作が興行的には赤字だったそうで、それが作者の森達也氏には相当ショックだったそうです。で、今回の「A」は麻原彰晃のAだと書いてあるとおり、拘置所内の麻原彰晃と死刑を宣告されたもと信者たちと作者の交流が中心になって、話は進んでいきます。

    そして、この本を読み終えた僕の感想は
    「麻原彰晃は一体何者だったんだ?」
    という問いでした。もちろん。本人の意識がもうこの世には存在しないようなので、その答えは決して返ってきません。そして、拘置所内にいる麻原彰晃の様子がちょっとここには書くことを躊躇するほど悲惨を極めた様子になっていて、もしも元信者で、この本を読んだ人は、自分がかつて「師」として尊敬していた人間が現在こういう風になっていると書かれたのをどういう気持ちで読むのかな、というのが目下、僕がいちばん知りたいことです。一人いるんですけどね。その疑問を個人的にいちばん聞いて見たい人が。誰とは言いませんけれど。

    いま、どんどんオウム真理教が起こした事件は風化の一途をたどっています。そして、麻原彰晃や数々の事件の実行犯も刑場の露と消える日もそう遠い未来ではではありません。この本ではありませんが、それによって僕らが知るべきだったものが永遠に闇に葬られてしまうような気がしてならないのです。

    オウム事件以降にこの国を蔽う言葉にできない「違和感」。僕がここで支離滅裂な事を書いているのは承知の上ですが、この「カオス」をみなさまとぜひ共有したい一心でこの駄文をつづります。もう一度ここで僕と一緒によく立ち止まって考えて見ませんか?あの事件はなんだったのか?麻原彰晃とは一体何者だったのか?オウムとは一体私たちに何を突きつけたのか? と。

  • どちらかというと、オウムに寄り添ってオウムは何だったのかと見つめている。オウムをてこに、とりまいていた社会と松本智津夫に迫っている。そして、書かれたことと書かれなかったことの、マスコミあるいは国家権力側への疑問も。

  • (要チラ見!)

  • 人は多くの場合、「みたい」ものをみるし、「みたい」けど「みえない」ものに焦がれる。
    だけど森は「みたくない」し、「みえない」ものを凝視する。
    それを見続けることで、予定調和でない、いまの延長でないものが浮かび上がることを知っているから。

    視点やアングルを変えるのではなく、みたくないと思う、その本質を問うところに、ルポライター森の真骨頂があります。

    映画「A」「A2」は映像でしか表現できないものだったけど、「A3」は絶対に文字でしか表現できない。
    大したもんです。

  • オウム騒動が一体なんだったのか、オウム自体への考察の不徹底さを含めていろいろ考えさせられる良い本だと思う。その感情過多、あまりにも感傷的な文面などちょっと首をかしげる部分も多いが、いわんとすることに一理ある。これだけオウム信者に肉薄したジャーナリストはいないのではないか。

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著者プロフィール

森 達也(もり・たつや)
1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。テレビ番組制作会社を経て独立。98年、オウム真理教を描いたドキュメンタリー映画『A』を公開。2001年、続編『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。佐村河内守のゴーストライター問題を追った16年の映画『FAKE』、東京新聞の記者・望月衣塑子を密着取材した19年の映画『i-新聞記者ドキュメント-』が話題に。10年に刊行した『A3』で講談社ノンフィクション賞。著書に、『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『ご臨終メディア』(集英社)、『死刑』(朝日出版社)、『東京スタンピード』(毎日新聞社)、『マジョガリガリ』(エフエム東京)、『神さまってなに?』(河出書房新社)、『虐殺のスイッチ』(出版芸術社)、『フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ』(ミツイパブリッシング)、『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面』(講談社現代新書)、『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)、『増補版 悪役レスラーは笑う』(岩波現代文庫)など多数。

「2023年 『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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