- Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
- / ISBN・EAN: 9784862381323
感想・レビュー・書評
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本書の面白いところは、あるものに対してトレードオフ的な視点で考えるときに、軽妙な語り口を交えたうえで「これはこうだよ」までで費用や便益についての見極めを止めている点で、決して○○はこういう点で良くないから別の選択肢を選ぶべきだ、と押し付けをしていないところ。
要はあくまでもトレードオフ的な思考のための入門書なのであって、そのための人でなしな思考を身に着けるための訓練をさせてるのが目的なところかなと。
それは結局、人でなしになれ、ではなくて、あくまで公正な判断を下すためには人でなしな視点からも物事を見る必要があるということ。
本書を読んでいると、随所に散りばめられたトリックや自分の楽観性も相まって、いかに主観的な判断ばかりで理論的なトレードオフ思考が身についていないかを思い知らされる。
道徳心をもって市場に臨むための価値基準を設けるためにも、本書により学べることはたくさんありそう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
(1)「シートベルトの持つ技術的な安全は、ドライバーたちの運転が荒くなるという行動反応によって相殺(オフセット)されるということ」(p147)というオフセット理論がわかりやすく紹介されていて、おもしろかった。どこかで説明するときに使えるかもしれない。
(2)アメリカで大規模停電が起こったときに、その解決策としてメディアで語られたのは(a)電力業界を規制緩和して技術開発への投資を増やす、(b)逆に規制をもっと強めて停電を防止する、の2つだった。
しかし著者は「ぼくが提起する問題はたった一つしかなかったはずだ。―最適な停電の頻度ってどのくらいだろう?」(p190)と問題提起する。そして「何十億ドルもかけて停電の頻度がごくわずかしか下がらないなら、停電頻度低下による期待便益は、設備投資よりもはるかに小さいかもしれない」(p191)として、「何もしないこと」を解決策として提示するのである。この発想は面白かった。何か問題が起きると「解決」したくなるのが人情なんだけど、経済学の知見は「何もしないことが最大の便益である」ということを教えてくれる。言われてみればあたりまえなのだけど、こうやってバチっと例示してくれると、感心する。
そのほか、人命の価値、喫煙の擁護(ただし個人的感情ではなく経済学的に)、など、卑近な話題が多くて、面白く読めた。 -
ト、2009.9.4-9.5
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トレードオフ。著者や訳者が言うほど人でなしの話ではないのでは?
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トレードオフって結局、経済合理性の話だし。個人もしくは集団が行う意志決定を数字に落とし込んでいこうと思えば、非合理な部分なんかなくなる。もちろん、その際、一定の前提が必要なのだが。本文中に示されている具体例はたしかに理解の助けになるのだろう。
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ものごとには一方的によい面ばかりではなく、費用と便益が常に対立している。人の命に値段は付けられないというが、車でどこかに行くということ一つとっても、そこへ行くことによって得られる便益が、交通事故で命を落とす確率X自分の命の値段という費用を上回っているからだという。臓器移植や喫煙問題など、一方的な意見ばかりになりがちだが、本当は世間一般に考えられている以上に費用と便益の差は小さかったり、あるいは逆転している問題も多い。・日焼け止めクリームを塗るようになって、屋外により出るようになったため皮膚がんが増えるとか、シートベルトを着用したため運転が荒く、事故が増えるとか、オフセット(相殺)行動という現象がある■経済学というのは希少な資源の分配についての学問だ■解決策などない、あるのはトレードオフだけだ