- Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
- / ISBN・EAN: 9784877286200
感想・レビュー・書評
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『ホテルローヤル』(桜木紫乃)はラブホテルで交わされる生と死の物語だった。
『ホテル・アイリス』は海のそばの少し寂れた、それでもハイシーズンにはそれなりに客が来る「普通の」ホテルだ。
そしてここでは生と死ではなく、生、性または聖が描かれる。
少女は椿油で固められた髪を振り乱す。
それはロシア語の翻訳をしている老人によるものだ。
「服の脱ぎ方を教えてあげよう」
男は少女を縛り上げる。
少女は震え、許しを請いながら、言われるがままに、欲望のままに淫らなポーズをする。
男はそれを写真に収める。
男は優しい愛の手紙を少女によこす。
君なしではいられない、と。
暗がりでの命令口調はそこにはない。
ただ愛を求め、愛を乞う、滑稽ささえ漂う寂しい老人の姿のみ。
少女は男を愛していたのか?
私にはそうは思えなかった。
純愛だとある人は言うだろう。
確かにそう思える描き方だし「愛し合った」とはっきりある。
だが、私にとっては、少女が抑圧された自分を男の手を借りて「見てみたかっただけ」に思える。
解放ではなく、好奇心。
被虐の立場を突き詰めたらどうなるのだろう、ただそれだけに思えるのだ。
秘密を共有しあったからといって「愛」にはならない。
一貫して私には、男の少女に対する一方的な思いにしか思えなかった。
少女は確かに愛していた、しかしそれは男に対するものではなく、自分自身に対する愛だったのだと。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読中〜読了直後は★2.5
読了後〜の余韻としては★3.5
大好きな小川洋子さんですが、高校生に近い未成年女性と初老男性の性描写が本能的に拒否感が出てしまい、正直苦手な作品でした。
主人公「私」は、1人親の母親の経営する「ホテルアイリス」だけが生きる世界となっている。子供の頃から働き、学校に通っていないため同世代の友人もいない。母親や周りの大人も自堕落的で、今風?に表現すると「親ガチャ外れ」の典型例と言える。このような環境から「この世界を抜け出したい」「母親が自慢する自分を壊したい」という10代らしい暴走しがちな気持ちの吐け口を、初老の男性との営みに求めてしまったのではないかと思う。
「私」にとっては初恋ではあったが、「相手を思いやる」ような純愛であったのかは微妙だと思う。同世代の男の子にはない年上男性の安定感に惹かれやすいのもこの年代らしいと思うし、自分を罰することに快感を得ているのは、性的な欲求以上に自分の内なる気持ちの吐け口だったのでは…と感じてしまう。
母親の数少ない愛情表現である「椿油で髪を結う」姿の少女と、初老男性との禁断の営みをする少女の姿があまりにも両極で、それが退廃的な街の舞台と相まって、この作品の不条理さを際立たせている。
苦手な内容ではあったにも関わらず、不思議と頭の片隅から離れなかった本作。退廃的で閉鎖的な街や人の描写が切なくて、その場面場面が今も心に留まっています。現実世界では、「私」と初老男性の関係は「ありえない」と切り捨てられるもの。ですがこれは小説。小説は現実と違って自由でいい。決して下品で世俗的な内容にならず、この2人の世界を考えさせてくれる本作は、これからも私にとって忘れられない作品となりそうです。 -
SMのシーンだけが浮いていて、違和感があった
自分が孤独でないことを確かめるために女の人を抱くのは理解できるけどそれがなぜSMなのか
主人公のマリもなぜSMに溺れるのか
男よりも、男の甥に魅力を感じてしまって、後半の男はさらに醜く思えた
色んなことが納得できないまま終わった
これは恋愛小説ではないなという思いだけは確かだ
でも情景描写はとても緻密で好き
マリがホテルで働く描写は無駄がない
夏のリゾート地が舞台なのに、とても退廃的な雰囲気が漂っている
魚の臭気が本当に臭ってきそうだった
においの分かる小説
魚だけじゃなく
小川洋子の小説はほとんどの料理がまずそう 実際にまずいのかもしれないけど -
病的。
文学的には非常に美しいのだろうけど、私はちょっと困った。
小川洋子の作品は、無国籍のようなどこにもない場所の物語ような感じがする。
そして、いつも、何かが欠けている、欠落感、喪失感に包まれている。 -
小川洋子さんの文庫はほとんど読んでいるつもりでたまに読み漏らしがあるので、読みたい新刊がないときに補完しているのだけれど、これなんで今までスルーしてたのかなあと思いつつ読み進めたら、あ、そっかこれ小川洋子さんにしては珍しい官能系(しかもSM)だったからあえて読まなかったんだ!(思い出すの遅い)。といっても別にSMが苦手とかエロが苦手とかは一切ないので(澁澤訳のサドはたぶん全部読んだ)、単に小川洋子の小説にそういうの求めてないし・・・という感じだったんですが。うーん、結果やっぱりしっくり来ませんでした。
学校にも行かせてもらえず母の経営する海辺の小さなホテルで働かされている17歳の美少女マリと、ホテルの客だった初老の翻訳家。翻訳家がホテルに連れ込んだ売春婦を罵る口調で、ドMに目覚めてしまった少女はやがて翻訳家と様々なプレイ(笑)に耽るようになり・・・
彼らの性的嗜好については何とも思わないです。双方の合意があれば、どんな行為でも好きにすればいいと思う。それなのにどうしても、彼らのしていることに不愉快な感覚が常にあって、なぜだろうと考えたときに、翻訳家のほうの暴力が、性的嗜好ではなくただの鬱憤ばらし、ストレス解消のような傾向があるからだと気づきました。たとえば売春婦に変態と罵られ、レストランで入店を拒否されたり、という、日常生活での怒り、不満、ストレスが彼には潜在的にあり、そういうことがあったあとで少女に対して行われる行為が、単に自分が虐げられ自尊心を傷つけられた腹いせに、自分より弱いものをいたぶって良い気分になっているだけのようにしか思えない。真のドSには、そういう俗っぽい感情があったらダメなんだよ!と勝手に思います。ゆえにこの翻訳家をどうしても好きになれませんでした。ただ少女のほうは真性ドMで、自分をいたぶる相手が醜悪であればあるほど嬉しいみたいなので、そういう意味では相性良かったのかもしれませんね。
後半に登場する、喋れなくて筆談しかできない翻訳家の甥のキャラクターとかは、小川洋子さんぽくて好きでした。 -
小川洋子さんの作品はどれも変態ちっくで、けれどそれがちっとも汚らわしくなくて優しくて綺麗で。だのにほんのりさみしい。
わたしは小川洋子さんの作品も、官能的な小説も、どちらかと言えば読み慣れている方だと思うけれど、この作品だけはどうしてもダメだった。
登場人物の特殊な性癖だとか、或いはその描写についてはどうでもいい。そんなものは現実世界では特殊であるけれど、小説の中では至極ありふれたものだから。
この作品は小川洋子さんらしさがすごくよく現れているように見えて、その実なにも現れていないのではないか、とわたしは思う。小川洋子さんの紡ぐ物語はただの変態の話ではダメなのだ。もっと淑やかで慎ましい変態でなければ。そうでなくては、これはただの官能小説になってしまう。
そしてそれは、とてももったいないことであるとわたしは思う。 -
なんて残酷で美しいのだろう…と初めて感じた作品です。
小川さんの作品はどれも傑作ぞろいですが、ホテルアイリス特にオススメの作品。
夏の暑い日に一人でひっそりと読みたい桜庭。-
「なんて残酷で美しいのだろう」
美しさ故の、残酷さと醜さと切なさ。。。時間が引き延ばされたようになって、読み終えると長い夢を見ていたような気...「なんて残酷で美しいのだろう」
美しさ故の、残酷さと醜さと切なさ。。。時間が引き延ばされたようになって、読み終えると長い夢を見ていたような気分になります。。。2013/08/02
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文章の綺麗さと、内容のギャップがすごい。
あまり受け入れられなかった… -
隠れサドの老人と真性マゾの少女の一夏の恋。って軽い言葉で断じてしまうには、格調高い純文学な香りを纏う今作。
読み応えはあった作品に二つ星を付けるのは非常に心苦しいのですが、「小川作品の中ではいまいち」なレベルであって、他の二つ星とは次元が違うのです。ごめんなさい。あと、やっぱり小川洋子というネームバリューが、否が応にも読む前の期待値を上げてしまうせいでもあるんですよね…(汗)。
ベッドシーンが美しかったり、少女の視点から見た老人の色気がやたらエロティックなのに不思議と清潔感があって、そこはやっぱり流石だなと感動しました。不快ないやらしさがないというか、小川さんは言葉の選び方?使い方?が本当に綺麗だなと改めて思いました。こういう美しい文章を書かれる方って、やっぱり話し方も美しいのかなあ。…こんなこと書いてて二つ星って、どんだけ意固地なん、私(´Д` )
彼が娼婦に放った命令を聞いたその瞬間から、私は彼に囚われていた…。母親の目を忍んでの老人との奇妙な交歓は、日毎に濃密さを増して暴力的な支配で少女を魅了した。ところが、老人の甥がやってきたことで、何かが変わり始める。