- Amazon.co.jp ・本 (156ページ)
- / ISBN・EAN: 9784879842572
感想・レビュー・書評
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いい。とてもいい。35年間、古紙に埋もれ押し潰す仕事を続けた男にとって世界はまるでひび割れた耳鳴りの様だ。ここには世界に繋がろうとする読書の喜びがあり、また世界に押し潰されようとする圧政下チェコの悲しみがある。巧みな抽象的メタファーは無数のイメージを喚起させ、具体的史実の提示は時に痛みと切実さを突き付ける。不条理な日々を生きる庶民の目線はシニカルさとユーモアが同居しており、無数の解釈に開かれていながら流れる様に読み進められてしまう。そう、物語はこんなにも矛盾を飲み込みながら、時代も孤独も越えて届いてくる。
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辛い。読書とは読み終わった後に爽快感やエネルギーが生まれるものであって、悲しさが残ったらいけない。皮肉という言葉を知らない人が多すぎる。これは楽しいで片付けてはいけない問題。
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35年間、僕は古紙に埋もれて働いている。
これはそんな僕のラブ・ストーリーだ。
と始まるお話。
ラブ・ストーリーなのに。って雰囲気の
陰鬱とした、じっとりとした
陽気になれないかんじのストーリーなのだけれど
この世界観は嫌いじゃない。
華やかで、明るくて、きらびやかじゃなくてもいいじゃない?
素敵でしょ??って感じる。
前向きな思想や、健全で清潔な物事が
すべて美しいことではないとおもう。
きれいなものは汚くて、汚いものはきれい。
好き嫌いがはっきり分かれそうな
酷い 暗い 物語
永遠に独り言の
主人公のおしゃべりな頭の中
それがあまりにも騒がしい孤独。
わたしは、ハニチャの終始、曇り空みたいな
ちょっと霧がかってる世界が心地いいなぁ -
この日の午前中にアストゥリアスの「グァテマラ伝説集」から「春嵐の妖術師たち」と、ボフミル・フラバルの「あまりにも騒がしい孤独」を読みました。前者は現在のメキシコ湾に巨大隕石が落下してから?の天地創造の物語がマヤ的シュルレアリスムの文体で語られます。
んで、後者、「あまりにも騒がしい孤独」。最近、あんまり本読んでなくて、それも社会学関連か短篇集ばかりだったので、たまには長編(といっても130ページほどですが)を、それも一気に読み通してしまおう、と。ある文量以上を読む、今までのペース2、30ページを遥かに越えて読み通してみる。そういったことも必要ではないか、と。
内容は、本を始めあらゆる紙、もしくは紙以外のごみなども含めてプレス機に投入する古紙回収業の「僕」が、そんな古紙の中から自分の気に入った哲学書やその他もろもろを救い出して、仕事をしながら、あるいはビールを飲みながら、読みふける。そんな物語です。徹底的に下からの視線、クマネズミの争いに象徴的に描き出されているような、そんな視線。「僕」もそんな下層の庶民ですが、「教養」もあり、プレス機の地下室で仕事をしてはカントの思想を胸に星空を見に行く、という本人的には満足の人生を送っています。が、そこに、古紙回収業も機械化・大型化が進み、それについていけない「僕」は遂に解雇される。うーむ、なんだか今の自分の状況にこれほど合致した話はないなあ(笑)。
訳者、石川達夫氏はフラバル文学の三要素として、カフカの影響・(フス戦争でチェコの貴族層が壊滅的になったことを受けての)庶民的要素・チェコアヴァンギャルドの三つを挙げています。うむ、確かに。その中で自分の読後感として今回は庶民的要素を多く感じました。この間読んだクンデラの「生は彼方に」にも似た印象を持ちました。下からの視線・政治に振り回される人間・チェコにまるでいるかのような世俗描写・・・などなど。
この作品は最初は詩の形式で書かれたそうですが、この人の作品には大長編とかなくてこのくらいの分量の詩的な中編が多いのかも、そう感じました(実際はわかりませんが)。 -
やっぱりフラバルは幸せと不幸など二義的なテーマを盛り込み人生を語るのが好きなんだろうなと思うし、それが面白いって思える要素になってる。終盤まで正直退屈な印象だったけど、最後の展開でグッときた。この最後に展開を書きたいが為に、この作品を書いたんじゃないだろうかと勝手に妄想する。文章が滑らかに進まないなので、読みがたいけど良い作品です。
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寂しい時に読むと、みすぼらしい程孤独な主人公に引きずられて悲惨な気分に。主人公ハニチャの生きる時代や労働環境は酷い有様だけれども、彼にとって何より残酷なのは孤独でもなく新しい世代との軋轢による水圧プレスに淡々とかけられてしまう事だったんだなあ。これはどこの国でも、世代交代の際、あるものだと思う。「熊手が空中できらりと光ると同時に、一冊の本が圧縮室に飛び込んでゆくのが目に入ったので、僕は起き上がってその本を取り出し、それをシャツ拭って、暫く胸に抱いた。本は冷たかったけれど、僕を暖めてくれ、僕はその本を胸に押し付けたー母が子を抱きしめるように、コリーンの広場でヤン・フス師の像が、聖書を自分の体に半ば食い込むほど押し付けるように……。」彼はこれほどまでに本を愛していながら、三十五年間それらをジャンジャンプレスで処分する仕事に従事してきた。浴びるほど飲むビールで朦朧としながら、ネズミや肉蝿と美しい絵を古紙と一緒に潰し、そこに美を見出す彼のシュールで哀しい本への愛が、この本の中で一つの見所だ。ラストがあっけないけど、短い中でチェコの奇妙な暗い空気を味わえる、不思議な本だった。
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終始、物語は物寂しく退廃的だけど、淡々とした語り口のせいか妙に喜劇的にも見えて、そのあべこべ具合に不思議な印象を受けた。
時代と国が創り出した作品は濃いけどとっても味わい深い。
正直全体の半分も味わいきれた気はしないけれども。 -
地下室で35年間、本やあらゆる故紙をつぶし続けて年金生活も視野に入った初老の故紙処理係の独白。圧縮された本の塊と主人公の意識の表面には、古き良き教養へのナイーブな信仰を物語る古典や偉人・哲学者の名があとからあとから出現し、一方、主人公の個人的な体験の記憶を語る言葉はあまりも弱く、何かを語る前に、廃棄された固有名詞の奔流に押し流されてしまう。とはいえ、旧式の故紙処理過程のゴミや蠅やネズミや汚れはグロテスクであるゆえに何がしかの美しさを持ち、一つの世界をかたちづくるが、それらをも存在させない新式の工場が主人公を混乱の極みに陥れる。
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78
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35年間、古紙処理場で働いてきた男の、頭の中をのぞいたような本。
収集されてくる古紙の中から美しい装丁の本を救うのが趣味の彼の、思想・回想・将来の夢などが語られる。
この作品は非常に多くの要素を含んでいる。幻想的であったりユーモアがあったり不条理な場面があったりチェコが抱える社会問題が根底に流れていたり、短いながらも多様なエッセンスが含まれていて何とも濃密。
とにかく雰囲気を味わう作品。
話の筋としては悲劇なのだが、まったく悲壮な感じを与えないのが不思議。
それにしても、こういう作家の本が広く読まれているなんて、チェコっていい国だなあ・・・。