曾根崎心中

  • リトル・モア
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784898153260

感想・レビュー・書評

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  • 角田光代さんにかかると近松門左衛門が、女性でないことがはっきりとわかるなあ。今なら角田光代バージョンの方が良いのかな。

  • 57:原本を知らないまま、角田さんがリライトされたとのことで読んでみたのですが、ラストがすごく意味深で、慌ててウィキペディアを調べに行ってしまいました(笑)
    江戸時代の作品で、しかも小説じゃないし作者は男性なのに、角田さんが書かれるとこんなにも艶っぽく、(現代的な)女性らしさにあふれたものになるんだなー、とウィキペと見比べながら感激。

  •  客と恋に落ちた新地で働くお初の物語。純粋な青年徳兵衛。そんな徳兵衛といつか一緒になりたいと切に願うお初。
     ある日、徳兵衛が親友の九平次に騙され、二貫の金を失うことになる。そんな徳兵衛を見ていると、心中するしかないとお初は徳兵衛と新地を逃げ出す。逃げ出している最中、お初はもしやと思う。騙しているのが九平次ではなく徳兵衛なのではと。それでもお初は徳兵衛と心中するだろうと、したいと自分で納得する。
     最後のお初の心の中を見たとき、ハッとした。騙しているのが徳兵衛なのか、九平次なのか。そこは読者に与えられた特権として大いに想像して楽しめる。

  • 時代背景が異なる現代に、まさか角田さんが近松の意図をそのまま復活させよう、なんて単純な話じゃないはず。そういう視点で読むと、角田版では、お初にまつわる次の挿話が印象に残った。

    徳兵衛がお初に二度目に会いに来たとき、お初は太腿に広がる爛(ただ)れた火傷の跡を、自分から徳兵衛に見せている。その火傷の跡は、お初が客はおろか、おかみ以外の店の女性すらにも決して見せようとしなかったもの。だからお初は客と事に及ぶとき必ず行灯の灯を消すか、襦袢を脱がず着けたままにする。お初が徳兵衛に火傷の跡を見せようと意を決した心情を考えたとき、愛する男に自分の表裏一切をさらけ出そうとする「女の誠意」を究極の形で表現したものと思え、興味を引かれた。

    ところが二人で心中を決意し、新地を出て森へひた走る道行の途中、お初はふと考える。
    「初はめまぐるしく考える。…くるおしく恋しいこの男のことを、じつは、何ひとつ知らないのではないかと初はふいに思う。…背中のどこにほくろがあるか、どんな寝息をたてるか…知っている。…でも、本当には、何ひとつしらないのではないか。九平次が嘘をついていて、徳兵衛が本当のことを言っていると、どうして言いきれるだろう。もしかしたら徳兵衛は、平気でそういうことのできる男かもしれない…」

    自分は徳兵衛に惚れ抜いて、自分のすべてをさらけ出し、二人は固く誓い合ったはずなのに、なぜ男の心のうちに、女から見えないものがあるのか?
    なぜ女にだけこんな葛藤が生じるのか?
    角田さんを代表とする女たちの、男の隠された(ようにしか思えない)本心に対する不明、不信、不満が、お初の言葉を借りて紡ぎ出される。

    二人の心中を単なる悲劇の完結という叙事詩に終わらせず、女から見た男への疑念やすれ違いを“物語”として結晶化して描く -角田さんの本当の意図は、ここにあるのかな、って思う。

    さすが角田さん、お初の情念を自分に憑依させ、全女性の情念として増幅させたかのような物語づくりには、近松も天国で膝を打ってるに違いない。
    (2013/2/4)

  • 世話物の傑作「曽根崎心中」の角田版翻案です。文楽の曽根崎心中は二度ほど観ていますが、浄瑠璃のリズム感を再現された文体により、人形遣いが目に浮かびます。近松も目を細める出来栄えですね。心理小説のように初の内面に入り込み、見るもの聞くものは初の心象風景ですし、思いは"意識の流れ"のように表現されています。疑念の場面が映えますね。短い作品ですが、完成度は高く、恐るべし角田!という印象です。

  • 「知らなければよかったことだった。けれど知らないまま年老いて死んでいたらと思うと、ぞっとすることでもあった。恋とは。」(152頁)

    以前お初天神を訪れた時、真剣にお願いをした。しかし、観音さまめぐりを成し遂げた初の想いの強さに果たして及んだか・・・今一度、初に会いに行きたくなった。

    命懸けの恋を全うした初の強さと美しさ。「未来成仏疑ひなき恋の。手本となりにけり。」まさに!

  • 江戸時代の遊郭も、現代のキャバクラも、ビジネスは同じ。いかに客に「恋」をさせるか。だからそこで働く女性は恋をしてはいけない。するなら命がけ。

    ある意味常に危険と隣り合わせの遊郭の中も、同じ境遇の人々が肩を寄せ合い、日々のおしゃべりや娯楽を楽しみながら暮らしているという意味では非常に居心地のよいところである。
    金持ちの商人や町人に身請けされて一日でも早くここを出ることを目標として生きている。店の経営側も本人のためにも経営のためにもそれが最善とそれを勧める。
    しかし、仕組まれたその幸せは本当に自分たちが求めるものなのだろうか。この場所に留まろうにも、若さは有限。見えない未来、
    行き場のない恋、ゆえに来世の希望を願って死を選ぶものが少なからずいた。

    遊郭に入ったのだって貧しさから親が止むなく身売りをした結果であるし、本人が望んでいたわけではない。

    考えれば考えるほど、不条理で、そして切ない。

  • 全身からほのおが揺らめく。我が身だけでない、相手もやきつくすような
    はげしい 恋。
    曽根崎心中の内容自体は、中学生か高校くらいに知っていた気がする。

    だけど、今。人生も上り坂ではなく下り坂を緩やかに下っている今読むと心の中で、思わぬ反響を持って響く。

    愛ではなく、恋。若さは、本当に圧倒的に美しい。という事実。

    角田光代のフィルターでみると、遊女の世界もより身近に、自分の感覚と近く感じる。

    若い時に読む、時間を経て読む。響く場所が違うことに気がつく。その変化を楽しむことができるなら、歳をとるのもわるくない。

  • 近松門左衛門の『曽根崎心中』をお初の目線で描く。

    いやー、素晴らしかった。
    文楽や歌舞伎では描ききれないお初の心情が丁寧に描かれていて、何故彼女はあんなにすっと心中に向かったのか、理解しきれないところもあった。
    でもこの小説で初めて腑に落ちた。
    遊女になって人を信じず、すべてに諦めていた女が、恋に堕ち、そこから女の哀しみと切なさを、まるで別の目から見ているかのような、ちょっと冷めた、でもなまめかしさを感じさせる。
    徳兵衛が有罪であるかも?と匂わせる展開にもハッとさせられた。

    お初の心情を描くとき、わざとなのかな? 漢字ではなくひらがなで描いているの。それがまた17というお初の幼さを表しているようで。

    • aida0723さん
      SOHOさんのレビューファンです。SOHOさんと同じ本を読んでからSOHOさんのレビューを読むのを楽しみにしています。
      SOHOさんのレビューファンです。SOHOさんと同じ本を読んでからSOHOさんのレビューを読むのを楽しみにしています。
      2015/01/03
  • 江戸時代、元禄期の大坂で実際に起きた、醤油屋の手代・徳兵衛と堂島新地の遊女・初の心中事件をもとに書かれた、人形浄瑠璃の古典演目『曾根崎心中』の小説化に、角田光代が挑みました。

    原作を知らないけど、こういうことがあったんだ、と角田さんの言葉を通じて知ることができた。というか角田さんの本じゃなきゃ読まなかったかも。12歳で遊女になった初や、姐さん他の恋が、現代小説のように書かれているのも読みやすかった。

    江戸時代の話は「みをつくし料理帖シリーズ」でだいぶ慣れていたのですんなり入ってきた。大坂の言葉も良かったなぁ。

    心中というぐらいだから最後にはそうなるのだけど、想像するに結構むごいシーンを恋・純愛調に描いているのはさすがだと思う。こんな風にしか想いを遂げられないってせつなすぎる。

    • HIROKOさん
      >nyancomaruさん

      おー、、、実際に観るとなると、それはかなり壮絶なシーンというか。。。
      私は逆に文字から絵を想像したって感...
      >nyancomaruさん

      おー、、、実際に観るとなると、それはかなり壮絶なシーンというか。。。
      私は逆に文字から絵を想像したって感じなので、実際には恐くて観られなそうです(苦笑)
      2012/07/26
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「実際には恐くて観られなそうです(苦笑) 」
      HIROKOさんが文章から受ける印象の方が強いかも知れません。想像力豊かな方は、映像を見るより...
      「実際には恐くて観られなそうです(苦笑) 」
      HIROKOさんが文章から受ける印象の方が強いかも知れません。想像力豊かな方は、映像を見るより感じることが多いみたいだから、、、
      2012/07/30
    • HIROKOさん
      >nyancomaruさん

      確かにそうですね~。想像ならどんなに残酷でもいいし(爆)
      >nyancomaruさん

      確かにそうですね~。想像ならどんなに残酷でもいいし(爆)
      2012/07/31
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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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